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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case7 _ ゴーストハンター
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第3話「真理子の怨念、再び」





「さっきの…あれ?真、私達どっちから来たっけ?」



犯人探しが始まった。

交番を出てとりあえず…というところで凪咲さんがどちらへ行くか迷っている。


「それなら……あ…」


「ん?」


逃げてた男の人、確かお化け屋敷の方向に走っていったような…。

そんなことを言ったら凪咲さんのことだからお化け屋敷の中に逃げたかもとか言い出して


「真?ぜーんぶ、筒抜けだよ?」


「………絶対行きません」


「潜伏してるかも」


「なら警察に」


「営業ストップさせたらバレる。調べる前に逃げられちゃうよ」


「じゃあ!凪咲さんは中を細かく調べて、僕は出口で待機!そしたら確実に」


「一緒に行くの」


「………」


無言の抗議は全く効かず、強引に引っ張られる形で再び通りへ。



「凪咲さん。どうしても嫌です」


「全部生きてる人間が演じてるんだよ?」


「無理です」


「オガルは?戦闘で傷ついた体は怖くないの?」


「それはそれ、これはこれです」


「意味わかんない」


「さ、叫びますよ!」


「ねえ真。真がお化け屋敷を怖がるのと、外国から1人で来たサラがパスポートとかお金とか全部失って不安なのとどっちが」


「僕です!」


「…え、そこはサラ」


「僕!です!」


「でも1回中見てるしネタバレしてるから怖くないで」


「僕!です!」


「でも」「僕!」


「ほら」「僕!」


「……絶対」「僕!」


「中に入るのは」「僕!……?」



「やる気になってくれてありがと!じゃあ行こっか」



「凪咲さん?今ハメましたか?」


「ハメる?何それ」


「ひ、ひどい…!」







………………………………next…→……






無言で並び、チケットをわざわざ購入し、受付を済ませ、説明を聞いた。


係の人が僕を見て苦い顔をしている。

そして念入りにリタイアをする時の説明をしてくれた。



「優しいスタッフさんで良かったね。特別に懐中電灯使っていいって」


「……」


「手繋ぐ?腕組む?」


「……両方で」


「ふふっ…甘えん坊だね」



地獄へのドアが再び開く。


僕は凪咲さんに抱きつくように腕を絡めて彼女の右手を握った。

もう恥とかどうでもいい。安心感が最優先なのだ。



「なんか右半身に真を装備してるみたい」


「凪咲さんって今なら力ありますよね?おんぶとかどうですか?」


「ちゃんと歩かないと置いてっちゃうかもよ?」


「話聞いてます!?」




そして、入場。




「ほら暗くない。足下も照らせるし…この懐中電灯、強くない?」


「足りないくらいです。もっと輝度高めのやつとか売ってますし」


「でも範囲広いよ?こんなの向けられたらお化け役の人の目が危ないかも」


「僕の安全に比べれば目のチカチカなんて安いもんです」


「……じゃあ、よく調べてね。隠れてるかもしれないし」


「………」


「外で逃げ回るよりこの中で時間稼いだ方が逃げれそうだもんね。もしかしたら衣装を奪って着替えてるかもしれないし」


「………」


「お化けのフリして出てくるかも。…真?」


凪咲さんの肩に左耳を押し付け、右耳には自分の指を突っ込む。

お化け屋敷というのは高確率で音による演出を採用しているからこれで半分近くの脅威に対策を…


「真ってばもう…」



街エリアだ。

懐中電灯で照らすと風景が木の板だったり絵だったりで出来ているというのが分かってくる。でも不思議と薄暗い中で見ると奥行きを感じられる…照明無しであれば外にいると錯覚してしまうかもしれない。


「ん………」


おや?凪咲さんが止まった。


「誰かいる気がするんだけど…」


なんで進まないんだろう。さっさと終わらせたいのに。


「"気のせい"で見逃したくないし」


なんでだ。僕に意地悪をしているのか。

わざと立ち止まったのはなぜなんだ。


「ビルの絵の後ろに」


「…意地悪はやめてください。先に行きましょう」


「………もう!集中出来ない!」


「わっ、押さないで!離れちゃいます!」


「真もちゃんと探して!怖がりに来たんじゃないんだから!」


「無理です!」


「なら私が連れ去られたと思って!どうする?私がお化け屋敷の中に連れて行かれたら。早く追いかけないと殺されちゃうよ?」


「………」


「なに?」


「どうしても怖いのでやっぱりくっつきたいです…」


「………はぁ…」




次は…室内…。



「ここは真理子の家だと思う。設定の話ね。真は覚えてないから先に話すけど、風呂場で真理子出てくるから」


「…生きてる心地がしないんですが」


「日本人形だってあれよく出来てるよ?職人さんが手作りしたんじゃない?」


「人形はもういいんです。時代はフィギュアなんです」


「芸術作品と思って」


「時と場所が問題です。特に場所が」


「お化け屋敷じゃなくて心霊スポットだったらどうするんだろ…」


「行かないだけです」



……問題の風呂場まで来てしまった。


凪咲さんが懐中電灯で浴槽を照らすと…



「な、なんでお風呂の水が黒いんですか…」


「習字で使う墨汁じゃない?」


「本当にま、ま、ま、」


「真理子なら出てくるよ。真が言ってた通りダイビングとかで使うマスク着けて」


「なんですかそれ」


「水中で待機するの苦しいって話」


「………」


「思ったより平気そうだね」


「何かあったら僕のこと守ってください」


「それは守るけど…」


「情けないとかカッコ悪いとかそんなのどうでもいいんです。女々しいとか言われても、苦手なものは苦手ですし嫌なものは嫌なんです」


「分かっ」



ザァァッ!!



「まこ…と?」


「……………」


「どうして私を見てるの?」


「だってあっち見たら…い、いる…」


「声裏返ってる」


「そりゃあ緊急事態ですから」



「どうしてぇエエエエエ!!!」



「展開!!」


「真!?」


よくよく考えてみればこれで防げる可能性がある。

水から上がってくるのであれば透過することはないはず!

僕に触れる前に壁を立ててしまえば!


「こっちです凪咲さん早く!!」


「……うん」


「圧縮!」



風呂場を抜けると林道が。そこそこ狭い。

1人…もしくは僕達みたいにくっついていれば通れる広さだ。


ガサガサ…後ろから音がする。

林道にしたのはそういう音で怖がらせようとしているからだ。



「次は…ちょっと縁起悪いね。地蔵の首が」


「………ひっ!」


「しゃっくり?今?」


「……ひっ!」


4体の地蔵が並んでいる。…でも全部首から上が破壊されている。



「行ぐなぁぁぁあああ!!」



「お風呂から出てきたのが追いかけて…」


「……ひっ!」


「もうお化けどうでもよさそう。しゃっくりのが気になるでしょ?」


「そんなことはひっ…」


「お化けはまだ諦めてないみたいだけど」


「ひっ……ひっ……」



「おいで…おいで…おいでええええええええ!!」



「………ひっ!」


「しゃっくりする度に動作が大きくなってるけど平気?」


「出たらっ、お水っ、ひっ!」


「そうだね。探しつつ急ごっか」



林道を抜けると今度は…病院?



「詰め込んでるね。廃病院かな」


「なんか街を脱出するとかどうとか言ってませんでしたっけ」


「多分…真理子に追われていつの間にかってことじゃない?たまにお化けの力で有り得ない場所にワープしちゃうみたいな展開あるよね。映画で」


「……ひっ!」


「真。ちょっと静かに。通路の奥に人がいる」


「………っ」


口を押さえられてしゃっくりの音が控えめになった。

凪咲さんは懐中電灯を消して足音を立てないように歩き始めた。


通路の奥……確かに誰かいるような。





「ぐっ、離せ…!くるし…」


「こうして恐怖を"味わう"のもしばらくお預けか…」



距離があるからハッキリ聞こえない。

でも脳内補完するとそんなことを話してるように思う。

…これも演出?



「俺がっ、なにした…!」


「何も。さて…そろそろ食べ頃か?」


「…何の話を」



((READ))




「っ!」


今確かに聞こえた。

そしてそれに伴う発光も。

凪咲さんが飛び出そうとするが僕がくっついているせいで行けない。


「真…!」


「分かりました…」


仕方なく離すと凪咲さんは猛スピードで走っていく。




「お前の恐怖を、見せろ!」


「うわ…うっ」



「させない!」



怖いので僕も駆け寄った。

凪咲さんは既に代行に刃を向けていた。



「ひっ…なんなんだお前ら!」


「真。逃がさないで」


「あ、はい!」


この男の人、襲われてたけど多分僕達が探していた犯人だ。

彼が立ち上がるのと同時に通路を塞ぐように


「展開!」


「なっ…なんだこれ!出られねえ!」



「次はあなた。こんなところで何してるの?」


「見て分からないか。食事だ」


「人間を食べるの?狂ってる」


「私が食すのは恐怖だ。血肉に興味はない」


「…お化け屋敷の行方不明者はあなたが…!」


「キシシ…」



薄暗い中、なんとなく凪咲さんの肩が気になって懐中電灯をONにした。



「うぐっ!?何を!」


「真!ナイス!」


代行らしき男は突然の光に怯んだ。

その隙に凪咲さんが攻撃を試みようとぅうわなんだあれ!


「凪咲さん!肩!」


「え?」


肩に…さつまいも?


「こ、これ…」


「君はヒルが怖いか。存分に恐怖するがいい」


「っ……!!取れない!?」


「永遠に一緒さ。死ぬまで」


「これでもくらえ!」


凪咲さんがもがいてる。

なので僕は精一杯懐中電灯の光をそいつの顔に向けてやった。


「あぁっ!くそ…!」


手で防ごうとするけど…ん?顔が…


「この借りは必ず返そう…」


「あ…」


「真…!取れないよ!…助けて…!」


「凪咲さん!……」


男はお化け屋敷側に走っていき、逃げられてしまった。

追うわけにもいかず、凪咲さんの方へ。


「ぁぁあっ!!なんで!動いてる!」


「凪咲さん!止まってください!僕が取りますから!」


「早く!早く!」



「…圧縮!!」


アイアン・カードを巨大ヒルと凪咲さんの間に滑り込ませれば剥がすことができるはず。


「今取りますから…えいっ!…え、重い」


「まだくっついてる!」


「もう1度…ふんっ……!取れた!取れました!」


重たいし、なんかブニブニしていて気持ちが悪いので持ってすぐ手放してしまった。


「の、のわああああ!」


それは運悪く僕の近くにいたもう1人の男性に着地した。





………………………………next…→……






お化け屋敷は廃病院エリアが最後だった。

僕達のいた場所からすぐ近くに出口があり、外に出ると例の巨大なヒルは消えてしまった。



「代行がお化け屋敷に…」


「真!私何か変わってない!?血抜かれてない!?」


「……大丈夫そうです。もしかして」


実物を伴った幻覚?なんか色々と言っていたけど、もしかして怖がらせるためにやったってことなのだろうか?



そこにサラさんを連れた警察官がやってきた。サラさんは僕達と一緒にいる男性を指さして叫んで…


…うわ、なんかすごいことになってきた。

右を見れば逮捕の瞬間。左を見ればサラさんが凪咲さんにめちゃくちゃ話しかけてる。握手もしてるから感謝してるのかな。

そして…



パシャパシャ。ピカピカ。


野次馬が集まっていてスマホで僕達ごと撮影している。



とりあえず一緒に来てほしいとのことで交番へ移動した。






………………………………next…→……






そわそわする。あんなに大人数のスマホに撮影されると、ものすごく不安で。


勝手に撮影されて困るという芸能人の気持ちが分かった気がした。

面白半分で撮られて、現代ならネットで拡散されるのだ……


「…まずいかもしれない」


嫌な予感がした。




「真。サラがありがとうって」


「あ…えっと、さ、さんきゅう?」


サラさんは笑顔だった。

貴重品は全て無事に取り戻せたらしい。


「人助けも出来たし…そろそろ帰る?」


「あの、凪咲さん。ヒルが苦手だったんですか?」


「もう帰ろっか」


「まずは答えてください」


「……帰ろっか?」


「あ、はい」


凪咲さんも笑顔だった。

でも笑顔の下に何か触れてはいけない圧を感じて従うことにした。


笑いながら怒るってやつだろうか。




交番を出て駅へ向かう。


「真」


「はい」


「お化け屋敷、もう行かないから」


「…停戦協定ですね」


「お母さんしか知らないのに…」


「2度とお化け屋敷に行かなくて済むならちゃんと黙ってます」


「そうしてね」


交番を出たらすぐに野次馬の何人かが寄ってくるかと思ったがそんなことはなかった。

よかった。



「ヘーイ!ウッ」



後ろから声がして振り返ると、ちょうど僕達の目の前で彼女が派手にずっこけた。


凪咲さんが声をかけて立たせた。

サラさん…あ、大丈夫そうだ。


バッグから中身が出てしまっている。僕はこっちを拾ってあげ……


バッグから見たことのある大きな本がチラリと見えている。


「ま、まさか。そんな偶然が」


「真?」


「あ、いえ。なんでもないです」


観光のパンフレット、扇子、飲みかけの濃いお茶、…地面に散らばるそれらよりやはり気になるのは


「駅まで一緒に行っても平気?」


「ああ、それは全然大丈夫です…」


凪咲さんが彼女と会話してる間に…いや、さすがに良くないか。


「はい。バッグどうぞ…」


「私達と方向逆みたいなんだけど駅まで一緒に行きたいって。優しい日本人だって喜んでる」


「そうなんですね…」


「っ…!真」


「はい?」


「サラが真のこと、カッコいいって」


「え、あ…」



焦げ茶の髪でツインテール…毛先は緑色だ。

凪咲さんにも負けない肌の白さで、そばかすが印象的。中でも外国の人なんだなぁと思わせるのは綺麗な青い瞳だ。


「見つめられると照れるって」


「え…す、すいません」


彼女は照れながら笑っている。

可愛らしい人だ。


「家に呼びたい?」


「え?い、いや!それは大丈夫です!行きましょう!」




駅の改札を過ぎたところで、サラさんは僕達に握手を求めた。

それに応えるとニコニコして去っていった。



「凪咲さん英語出来たんですね」


「一応ね。でも上手じゃないよ。大事な単語が伝わればいいと思ってるだけ」


「…サラさんの英語と差がないように思えたんですけど…カタコト感もなかったですし」


「覚えたい?そしたらサラとも話せるよ?」


「サラさんはいいんです。僕は凪咲さんが…あ」


「ふふっ。やきもち要らずだね」


「え?」


「ううん。私達も帰ろ?」


「…あ、そうですね」


「なんだかんだお腹空いてきたかも。今日作っちゃう?」


「はい…」



上機嫌な凪咲さん。

ということは僕だけ…か。

サラさんのバッグに、創造の書が入ってるように見えたのは。






………………………to be continued…→…


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