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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
聖夜の贈り物
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第2話「小さな泥棒」





風邪をひいたのは何年ぶりだっただろうか。

凪咲さんは約半日ほどで治り、僕は2日くらいで治った。

症状が比較的軽かったのもあるが、普通の人間にしては早く回復したと思う。


…こうして考えてみると、創造は奥深い。

凪咲さんのことを書き込む際に"怪我や病気の治りが速い"だとか、"運動能力が高い"だとか、そんな細かい設定は盛り込んでいない。

名前、誰の子か、大体の年齢、…それくらいしかハッキリと書いていない。


アイアン・カードもそうだ。

簡単に言えば、1枚の小さな鉄板を好きな"大きさ"に変えることが出来るというだけなのに…無理をすれば折り曲げたりして"形"まで変化させることが出来る。

さらに言えば。盾の性能については全くと言っていいほど触れていないのに、防御力の高さは凄まじいものだ。


書いていない部分にまで影響を及ぼしている。




「ニャア」


「もしかして…」



ソープにも、まだ明らかにされていない能力とかがあったり…?




「うーん…探したけどやっぱり無いみたい」


今日はもうそろそろクリスマスだからということで、部屋にツリーを飾ろう…としていたのだが。

家には50cmほどのツリーの形をした照明器具しかなかった。

子供の頃にはちゃんと大きなツリーがあったはずなのに。



「…買いに行きましょうか」


「いいの?」


「せっかくですから」





………………………………next…→……





大体は駅前に行けば相応のお店がある。

しかし残念ながらデパート…はない。

ただ、8店舗くらいが入る建物がある。

ここは中のお店がよく入れ替わる。

夏は水着関係、秋はハロウィン関係…のように季節物を扱う店が必ず1店舗はある。

他にもレンタルが終了した中古のCDやDVDを売ってる店とか、在庫処分?のタオルなんかを激安で売ってる店とか…。


地元民では"ミニデパ"と呼ばれている。

本物のデパートが建てば立場は危うくなるだろう。



ミニデパに入ると入り口すぐにクリスマス関係の物を扱う店があった。


「やっぱりありましたね」


「どれにする?」


緑のツリー、白のツリー…葉の色だけでも種類がある。

それがさらにS、M、Lサイズ。

さらには装飾も買う必要があるわけで。

売り場はキラキラして見ていて飽きない。


「やっぱりツリー本体はイメージそのままの緑のやつにしましょう」


「うん。飾りは?」


「…いっぱいあって決めるの大変そうですよね」


「巻き付けるライトはこの4色のでいい?」


凪咲さんが手に取ったのは下から数えた方が早い安価なもの。

多彩な点滅パターンやら光りながら色が変わるやら、少し欲張れば面白そうな機能が付加されるが…。


「いかにもって色合いが良いよね、これ」


「じゃあそれで」


シンプルなものが好きなのか。

枝に引っかけて飾るオーナメントはそれぞれがいくつか選ぶことにした。


サンタの帽子、トナカイの角、ソリ、プレゼント…デザインが可愛らしい。

ただ、艶があって丸っこいだけのシンプルなものも捨てがたい。


…おぉ、今どきはアニメのキャラクターまでオーナメントになっているのか。

"キャラクターツリー"を勧めるポップに興味がいく。


「真、選んだ?」


「…あ、はい。一応」


「よかった。私はこれにする」


男の子…、女の子…、黒猫…、あとはシンプルな丸っこいやつがいくつか。


「これが真で、こっちは私。ソープは…黒猫しかなくて」


「いつか黒猫に変身するかもしれませんよ?ソープも創造された存在ですし」


「ほんと…?」


「いえ。冗談です。ソープはどこまで行っても白猫のままですよ」


「そっか。今のソープって良い子だから、もし黒猫になったら悪い子になりそうだよね」


「イタズラ好きとかですか?」


「…黒豹、みたいな」


「大きさまで変わるんですか」


「ふふ。買って早く帰ろう。飾り付け楽しみ」


「はい」




ツリーは持ち帰りが可能かを考慮してMサイズにした。

それでも160cmはあるらしい。箱が大きくて…ちゃんと重い。




「ホーゥホーゥホーゥ…メリークリスマース…!…よろしくお願いしまーす」


帰り道、サンタの格好をしたティッシュ配りの人を数人見かけた。

一応白い髭まで付けた細身の男性、ミニスカートで寒そうな女性…

どの人を見ても、しっくりこない。

イメージ通りというのは大事なことなのかも。

ある程度太っていて、笑うと目尻の辺りにいっぱいシワがあって…愛嬌のある…そんなのがサンタであってほしい。


凪咲さんが1人のサンタ風のティッシュ配りからポケットティッシュを受け取った。


「パチスロ…私に配る?この広告内容で」


たしかに。凪咲さんは制服姿に…って


「今更ですけどやっぱり寒くないですか?」


「ん?…んー…」


「寒いのは寒いんですよね?」


「私あんまり服とか気にしないんだよね。だから、制服とかジャージとか見た目が固定されてる服が好き」


「…そうなんですか」


「意外?前にも言ったけど、この制服の方が力が出せる感じがするっていうのもあるよ。…おしゃれ好きなのはお母さんかな。変なとこお父さんに似ちゃった」


「……」


危ない。会いたいですか?…なんて当然なことを聞くところだった。


「いいの。今の私はひとりぼっちじゃないから」


「え」


「顔に出てる」


「ごめんなさい」


「…これはお母さんに似たんだけど、私すごい寂しがり屋なんだ」


「…それって」



登場する小説は一応読み終えているから分かる。

凪咲さんの母親、火狩 萌乃…通称"ヒカリ"は力を得るために家族を犠牲にしてしまった。

目先のことに集中しすぎて大事なことを考えていなかったのだ。

結果として彼女は作中最強の魔法使いになったようだが、家族を失い1人きりだった彼女は恋愛関係となった主人公に対して少し執着が強い印象があった。

言い方を変えれば、"メンヘラ"の気質があった。



「お母さんが言うにはね。自分は"火"そのものなんだって。近くに人…つまり酸素がないとすぐに弱って消えてしまいそうになるけど、もしそばに居てくれる誰かがいたなら…誰よりも強くなって皆を守れるんだって」


「……」


「私もひとりを感じるとすごく辛い。だからって誰にでも好意を寄せて頼ったりするわけじゃないんだけどね」


「今は…辛いですか?」


「全然。辛くないよ」


「ふぅ…」


「ごめんね。今後もこういう形で心配かけちゃうかも」


「大丈夫です」


「ずっとそばに居てくれるんだもんね」


「…ちょっと恥ずかしいのであまり掘り返さないでください」


「真ってサラッと嬉しいこと言ってくれるんだよね」


「は、早く帰りましょう!!」



慌てて早歩きに切り替えたせいで、なんでもない所に足を引っかけて転びそうになった。


………嘘を言っている可能性はある。

でも、笑っている彼女を見ていると以前と雰囲気が違うことが分かる。

僕と同じように彼女もどこかでスッキリしたのだろうか。



僕は酸素。彼女は火。

僕が彼女のそばにいることで彼女が安心し、強くなることが出来るなら。



「……?」



後ろから凪咲さんに呼び止められる。

振り向くと、僕に追いつこうと小走りになる彼女のその背後…遠くの方で、遠くの…あれは



「赤い…髪」


日本中を探せば髪を赤く染めている人はいくらでも見つかるだろう。

とはいえ日常で見かけるのは珍しい。間違いない。

美容院でおしゃれに染める赤とは違う、真っ赤な髪…。


「結子…さん?」


「ん?なに?」


「…いや、見間違えた…みたいです」


深く考えないことにした。

サンタ風の格好をした人と間違えただけかもしれないし。


ふとあの時の記憶が呼び起こされた。

でも、凪咲さんの笑顔でかき消された。





………………………………next…→……




帰宅。

持ち帰ったクリスマスツリーをさっそく飾ることにした。

…のだが。枝を広げてみると意外と必要なスペースが大きい。高さは問題ないが幅は問題ありだった。

飾るのは食卓のすぐそば。テーブルを少しズラして強引にツリーを立てた。




「ニャア…!」



ソープは興味津々で、一瞬立ち上がって近い枝に両足を引っかけて遊んでいる。



「ライト巻くからそっちお願い」


「はい」


2人で協力して巻き付けていく。

なるべく滑らかに見えるよう気をつけながら…


「大変。コンセント届かないかも」


「さすがに延長コードは家にありますよ」


「そう?」


家には地味に物が足りない。

それは節約生活のせいでもあるが、秀爺が生活を便利にしすぎたり豊かにしすぎるのを嫌っていた。

あれもこれもと物に頼っているとそれらが無くなった時に何も出来なくなるから…らしい。



それから2人で楽しくツリーを飾り、凪咲さんが椅子に乗ってツリーのてっぺんに星を飾った。



「完成です…!」


「出来たね…!」



ハイタッチ。

キラキラして、色鮮やかで。


「ちょっと電気消して点灯してみようよ」


「はい!」


コンセントはギリギリ届いた。とはいえ台所に行くたびにコードを跨がなければいけないため、この点灯式を終えたら改めて延長コードを探さねば。



カチ。


部屋が暗くなって。



カチ。


「わぁ…!!」


「あ、すごい…!」


スイッチを入れるとクリスマスツリーが点灯。


そこまで部屋が広いわけではないので、ツリーの明かりだけでも十分生活が出来そうだ。


ツリーの正面上段には、僕達がいる。

僕と凪咲さんとして飾った男女の子供のオーナメントが手を繋ぎ、その間にソープとして黒猫が飾られている。



「綺麗…」


「ですね…」


足下ではソープがスリスリと体を擦りつけている。

気づいてみれば僕達はオーナメントと全く同じ配置で立っていた。



「クリスマス当日はまだ何日も先だけど、こうやって飾ってあるのを見るとワクワクしない?」


「…僕はいつも当日に飾り付けて当日中に片付けてたので…」


「それすごい大変そう」


「はい。ひたすら面倒でした」


「ふふ。じゃあ今年は長めに飾ろうよ」


たまーに、正月でもクリスマスツリーをしまっていない家があったりする。

そこまでは求めてないが、このツリーは出来るだけ長く置いておきたいと思った。




「じゃあ、そろそろ私はご飯の準備しようかな」


「僕は延長コード探してきます」


「ないと思う」


「ありますって」




マミさんとの戦いの後からつい最近まで、こんなに明るい雰囲気とは無縁だった。

あれが無かったことのように今は2人で笑っている。


ちょっとしたことでも楽しい。



「えっと…たしか」


延長コードがありそうな場所は意外と多い。

……多い…はず。


「…僕の部屋に」


…ない。

結局家中を探してみても見つからなかった。

そういえば家電もそんなに多くないしコンセントで困ったことがない。



「凪咲さん」


「寒いし味噌汁は絶対だよね。今日は豆腐を多めに入れるから」


「延長コード買ってきます」


「ふふっ」


「…行ってきます」


「気をつけてね」





………………………………next…→……





なんという二度手間。


個人の電気屋が数年前に我が家の数軒隣にあったが、無くなってしまった。

たしか店主が海外に移住したとかだった気がする。

前向きな理由で喜ばしいが残されたご近所さんは電球1つ買うのも面倒になったわけで。


いつだったか隣の家のおばあちゃんにおつかいを頼まれたのを思い出した。

トイレの電球とだけ言われて店に行かされたが、どれが合うのか不明で店員と頭を悩ませた。



「何買うのも駅前に行かなきゃだから…そんなに遠くないけど」


ふと見れば、不動産屋と一緒に部屋探しをしている人だった。電話相手に報告中か。


「でも家賃3万だよ」


…安い。



僕もいつかは引っ越すのだろうか。

当たり前に暮らし続けてきたあの家を離れるなんて考えたこともない。



ドン。


「あ、すみません」


後ろからぶつかられた。

黄色いニット帽に青いジャンパーを着た小学生くらいの男の子が走っていく。


冬でも半ズボン。子供だから出来ることだ。

……あれ?



走っていく彼が右手に持っているものに見覚えがある。


「あ。うそ、うそっ!?」


僕の財布だ。

すでに20mは離れている。

急いで追いかけなければ…!!


「っ!」


さすがに子供相手だと距離はどんどん縮んでいく。

全力で走ればもうあと数秒で



キキィーーーーーッ!!



「危ないっ!」


追われていることに気づかないまま夢中で走っていた彼が道路に飛び出した。

車が何台も急ブレーキで停止し、その間を僕の財布を持ったまま抜けていく。



「待って!ど、泥棒!!」



車が動き出し、さらには信号で足止めされてしまう。

悪あがきで叫んでみるも、近くの人が振り返っただけで男の子は…遠くに…



「はぁ…」


被害額は言っても2000円と小銭くらいだ。

ポイントカードなどは持たないし、キャッシュカードは家で保管している。

ちょうどクリスマスツリーを買った後だから本当にお金は入っていない。


でも…やっぱり、落ち込む。



信号が青に変わってから走ったって、もうあの男の子は…

一応交番に寄ることを決心した。

お金は別にもういい。でも財布本体は秀爺にもらった物だから返ってきてほしい。


きっちりと横断歩道を渡り、男の子が走っていった方へ歩いていく。

遠くにまだ姿が見えれば…その時はまた走ろう。


「うーん…」


まっすぐ走っていったのか。

それともどこかで曲がったか。


ぼんやりした状態で雑に探す。

もう少しで駅前。交番もある。

届けを出して、家に帰ってからまた延長コードを買いに…あぁ、もう。

家を出るまでとても良い気分だったから落差が激しい。



「やーめーろ!はなせっ!」


声がした。

何事かと見回すと、駅前への道から外れて右に入った所に


「あ!」


あの男の子がいた。


駆け寄ると、男の子が服の首裏の辺りを掴まれて持ち上げられていることが分かった。

……男の子を捕まえたのは…!



「………」


「あの…」


「………」


「えっと、ジュリアさん…ですよね」


「………」


目の前にいるのに無視された。


「はなせっ!はなせっ!」


男の子が暴れる。それでもジュリアさんは離さない。



「よくやった。ジュリア、そのまま持っていろ」「はい、ご主人様」


後ろから声がして、彼は僕の隣に立ち止まった。


「やあ。元気にしているかい?」


「ダンさん」


「最近はこの辺りで子供による窃盗が増えているそうだ」


「え?」


「ジュリア、見つかったか」「いいえ、ご主人様」


「残念、この子も外れか」


「あの…何を探してるんですか?」


「私の傘だよ。お気に入りの1本だから取り返したい。予想では窃盗団のアジトがあるはず。坊や。私の傘はどこにある?あれは職人が丁寧に丁寧に作り上げた特別な傘で」


「うるさい!はなせっ!」


「……ダンさん、その子が持ってる財布なんですけど」


「ああ。もしかして、君のかい?」


「…はい」


「ジュリア」「はい、ご主人様。お受け取りください」


力ずくで男の子から奪い取ると、ダンさん経由で財布が返ってきた。


「ありがとうございます」


「不思議かい?ジュリアは私の声にしか反応しなくてね。もし不快な思いをさせてしまったなら謝るよ」


「いえ。不快だなんて」


「もし良ければ私達に付き合ってくれたまえ」


「はい?」


「子供窃盗団を壊滅させる」


「…は、はぁ」


不思議な縁でダンさんと共に行動することになった。





………………………to be continued…→…


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