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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case5 _ 嘘つき
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第1話「トシちゃん」




隣を見ると凪咲さんと目が合った。

僕達は互いに聞き間違いではないかと確認をしたわけだ。結果はもちろん聞き間違いではない。



「正しい反応だ。でも安心したまえ。私は現状に満足しているし、どうしても戦うとなっても…それは自分勝手に命を弄ぶ代行や私を狙う代行を相手にする場合くらいだ。君を襲うつもりはない」



「油断させてどうこうって代行かも。使者と代行がどちらも戦闘に不向きならありえる」


「な、凪咲さん」



「残念だ。そんな低俗な人間に見られるなんて」「ご主人様、」


「ジュリア。下がれ」


メイドの…ジュリアさんが一歩前へ出ようとするが、冷たい声で止められた。


「そちらの彼女の言う通り、私達が来た理由を話そう。ジュリア、本を」「はい、ご主人様」



ジュリアさんの手にはいつの間にか創造の書が。

…2人とも手ぶらだったはずだけど、どこから…?


「これを見てほしい」


「見る?」



その場でジュリアさんが創造の書を開く。

白紙のページをまとめて捲ると、…出た。卍の親戚のような文字群だ。



「"神の文字"は読めるだろうか?」



「か、神の文字?これ、え?」


「真。私は何も見えないよ」


「普通の人間、使者にはこの文字が見えない。代行にのみ見ることが許され、さらに一部の代行のみが読むことを許される」


まさか。これは先代の代行達が扱った古代文字か何かだと思っていた。

まさか。まさかまさか。

神の文字?これが?


「世界中に遺跡のようなものがあるだろう?洞窟でもいい。どんな姿でも。神の文字は様々な場所に刻まれているんだ。たとえば」「ご主人様。こちらに伺った目的を」


「…そうだったな。私は"創造の書の歴史"に興味があって調べている。その歴史を知るには、この神の文字を読める代行が必要不可欠というわけだ。それで君のような代行に協力をお願いして回っている」


「僕みたいな?」


「少なくとも現段階で戦闘はあまり好きではない。違うかな?」


「……」


「私は嫌いじゃない。真、気をつけて」


「何度でも言おうじゃないか。敵ではない。協力関係を希望している、と」


「…その神の文字?…を解読するのに協力してほしいってことですよね」


「ああ。もちろん、こちらも可能な限り協力させてもらう。経済的援助でも、このジュリアを使っての戦闘面での援助でも」


「は、はぁ…」


「断った方がいいよ」


「ならば。ジュリア」「はい、ご主人様。お受け取りください」



ダンさんは創造の書を受け取ると、僕達に差し出した。


「こうして共にいて話をしている間は本を預けてもいい。私からの信頼の証だ」


「そ、そんな…」


「じゃあ気に入らなかったらあなた達の目の前で燃やしたりしてもいいの?」


「凪咲さん!」


「構わないとも」


「は…?」


意地悪を言った凪咲さんがダンさんの"緩さ"に負けた。

そう多くは見てないけど自ら創造の書を差し出す代行は初めてだ。多分、いや、確実に。珍しい。



そこまで本気…で、騙そうとしているのかもしれない。



これが偽物である可能性を考えなくては。

…結子さんは、複製はいかなる方法でも無理だと言っていた。

創造の書の本物は無理でも、偽物ならきっと出来るはずだ。

見た目だけそっくりにして中のページには普通の紙を…そして僕達に見せた部分だけは本物からページを持ってきた。


そして偽物を差し出し、たとえば、"君のも見せてほしい"とか言って持ち出したところを。



「ごめんなさい…」



断った。

…ダンさんは特に表情を変えることはなかった。断るのを分かっていたというより、断られるのに慣れている様子。



「なに、気にすることはない。話を聞いて考えてくれただけでも十分感謝に値するとも」


「あの。ちなみになんですけど、今まで協力してくれた代行の人って」


「いたと言えばいた。経済的援助を求めて嘘の情報を提供される…というのはよくあるかな」


「……」


「だからといって怒ったりはしないよ。生きていればどんな生き物でも欲は生まれるものだ」


「そうですか…」


「面白いことに、この東京には代行がよく集まっているようだから他をあたってみるとしよう」


「代行が集まってる?どういうこと?」


「私にも分からない。ただ、代行同士は比較的引かれ合うような傾向があるのは確かだ」


「引かれ合う…」


「また会うこともあるだろう。気が変わったら遠慮なく言ってくれたまえ。あ、そうだ…別れの挨拶だけでも」


ダンさんは僕に握手を求めてきた。

なんとなく握手をした。

すると、ぐっと顔をこちらに寄せてきて「よろしく」と言った後に小声で


(貸倉庫で君の恋人を殺した使者のことだが、こちらで代わりに仇討ちをしてしまった。もし復讐をする計画を立てていたなら申し訳ない)


「え?」


「行こう。ジュリア」「はい、ご主人様」



2人はそのまま歩いていってしまった。




………………………………next…→……





中に戻るとすぐに凪咲さんと共有した。



「代わりに仇討ちって、殺したってことでしょ?」


「もしかしてさっきテレビでやってたやつは…!」


テレビのチャンネルを変えて探すも、どれもニュースから昼のバラエティー番組に切り替わっていた。


なのでスマホで検索。


「出てきた…。被害者の遺体とは別に"いくつか"腕が見つかってるみたいです。現場を調べたら後からいくつも出てきた…と」


「ならニンゲンイソギンチャクはさっきのダンって人に殺されたんだね。戦ったのはメイドの使者だろうけど」


「……」


「真。変なこと聞いてもいい?」


「なんですか?」


「結子…赤髪のあの人…恋…人?」


「まさか!全然!ダンさんが誤解してるんですよ!」


「その反応だと余計怪しまれるよ?」


「違いますって!」


「恋人ではないけど実は好き?」


「なんでそうなるんですか!」


「ふふっ」


「面白くないですってばー!」




ピンポーン。




「また?」


「忘れ物とかでしょうか」


「何も忘れてないでしょ。手ぶらで来てたんだから」


「…じゃあ、襲いに?」


「気をつけて出よう」



1階に降りる。

不意打ちに気をつけながら、ドアを開けてすぐ距離を離すため後ろに下がっ…


ダンさんじゃなかった。

…小太りのおじさんだ。



「あの…どちら様で」


「秀爺は!秀爺はいるか!」


「は?」


「秀爺だよ!」


「いや、あの…どちら様ですか」


「…お前さん、真か!」


「え、だから」


「あなた。誰?名乗って」


「あぁ、分からないか?あの時はまだまだ小さかったもんなぁ。こんなだよこんな」


手で大きさを表現しているが、僕は5cm程度だったことは1度もない。



「俺は駅の反対側の"ラッキーストリート"で宝石店をやってる、古島 俊朗ってもんだ。トシちゃんって呼ばれてる」



……思い出した。

トシちゃんで思い出した。子供の頃は時々秀爺に連れられて駅を挟んだ反対側に遊びに行ってた。

ラッキーストリート…というのは屋根付きの商店街のことで、特に大人がそう呼ぶ。

年中常に薄暗い商店街でいくつかまともな店はあるが、ほとんどは大人向けの風俗店が並ぶ。

商店街の外からでもよく聞こえる怒鳴り声はそういう店と客のトラブルによるものだ。


このトシちゃんは、僕が子供の頃に先代から店を引き継いだ。

秀爺とトシちゃんが話をしている間ずっと綺麗な宝石を眺めて、その後は商店街にある洋食屋でナポリタンを食べて帰る…そんな流れが僕の定番だった。



「覚えてないか…」


「いえ。お久しぶりです…確かお店の看板に店名じゃなくて、大人の輝きって書いてありますよね」


「おお!思い出してくれたのか!」


「真。大丈夫?」


「はい。本当に知ってる人です。安全です」


「なんだ、彼女か?」


「あ、いや、…トシちゃん。秀爺のことなんですが」


「そう!そうなんだよ!」


「秀爺は…その…」


「まさか死んじまったか…」


「はい」


「そうか…悪いこと聞いたな」


「すごい慌ててたけど、何か用があったの?」


「まあな。昔っからどうしようもない問題が起きたら秀爺に頼ってた。ラッキーストリートの皆が秀爺を頼りにしてたんだよ」


「そうだったんですか」


「お前さんは子供だったから分からないだろうが、酔っ払いの喧嘩とか、特にウチは宝石店だから盗みがよくあってなぁ。秀爺に頼むとあっという間に解決してくれたもんだよ」


「なら、今回もどうしようもない問題っていうのが起きたから来たの?」


「そうなんだが…秀爺はもう…」


「問題って何?」


「いや、そう簡単に話すわけには」


「トシちゃん。もしかしたら僕達でも力になれるかもしれないです」


代行の力があれば、喧嘩の仲裁でも泥棒探しでも特に問題はない。


「……ウチの近くに洋食屋があるんだ。キッチンあたたかって店だ」


「覚えてます。ナポリタンをよく食べてました」


「そう。そうだったな。そこのオヤジさん、最近病気で逝っちまってなぁ」


「……」


「飯食う場所ってあの店くらいだから皆世話になってたんだ。だから葬式とか墓とか皆で金だしてやろうって話になってなぁ」


「お金が目的?」


「違う。金絡みなのはあってる。出しあった金をウチで預かることになったんだ。宝石店だし金庫も良いもん使ってるってことで…1000万」


「もしかして、その1000万円を盗まれた…ってことですか?」


「鍵の場所は俺しか知らない。金を預かってから金庫には触ってない。明後日に金の一部を使うから金庫を確認したら」


「1000万円ってそんな簡単に持ち出せる?」


「何もかも分からん。監視カメラにも何にも映ってなかったしなぁ」


「それなら個人に頼るより警察の方がいいんじゃない?」


「警察?ラッキーストリートじゃ警察は味方じゃなくて敵だよ。ちゃんとしてる店でも気に入らなきゃ嘘の証拠で簡単に潰したりするんだ」


「普通そんなことする?」


「…ラッキーストリートって、普通の商店街じゃないんです。その…」


「大人の店が多いんだ」


「大人の店?キャバクラとか?」


「もっと過激な…性的なやつです」


トシちゃんがうんうん頷く。


「そう…」


「まあでも、さすがに頼るにはお前さんは若すぎるよな。ごめんなぁ久しぶりに来たと思ったらこんなで」


「いえ…」


「ねぇ。もし、犯人を捕まえたら?」


「凪咲さん?」


「捕まえたらって」


「お礼次第では協力してもいいよ」


「え?」


「え?」



そういえば…以前マミさんに対しても同じように問題を解決する代わりにと報酬を要求していたような。



「よ、よし。人は多い方がいい。頼むよ!お前さん達が犯人を捕まえたらウチの商品をやるよ」


「決まり」


「え?」




こうして、僕達は犯人探しを手伝うことになった。

……こんな感じで様々な事件を解決する探偵ものの小説を読んだ気がする。






………………………to be continued…→…


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