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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case4 _ 腹が、減った
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第7話「いないとだめ」





「う、うぁぁ…うわああああああ!!」




殺される。




これは、死を目前にした人間の悪あがきだろうか。

可能な限り叫ぶ。騒ぐことでどうにかなる問題ではないが。


頭を抱え、その場でしゃがみ、目を閉じて、叫んだ。




「………ま」


「…き……」


「……く…」



肩を掴まれた。

こんなところで人生が終わるなんて…。




「お客様!お客様!どうされましたか!?」



「……え?」



顔を上げると目の前には女性店員が。

…すぐそこにいたはずの、あの男は…店内にいない…。

全ての客と店員の注目を集めただけだった。


もしかしたら、叫んだことで逃げてくれた…のか。



「いや、あの、…ごめんなさい」



とはいえこのまま店に居座ることは難しい。

ココアの会計を済ませて退店した。



凪咲さんが来るまで。

この店から近い場所で待たなくては。

でも、あの男に見つかってはいけない。


「そうだ…」


何かあれば人混みに身を隠せるし、凪咲さんが来たらすぐに合流出来る…駅前で待とう。


何かあればまた叫んだっていい。

最悪、警察の世話になっても保護してもらえると考えることができる。



すれ違う人全員の顔を確認しながら駅に向かって歩く。

こちらの視線に気づいて目が合うことも多々あるが、こればっかりは仕方ない。



改札横の切符売り場のさらに横。

邪魔にならなくて誰かを待つのにちょうどいい。

ここなら流れていく人々を観察することも出来る。





………………………………next…→……





悲しいことに、暇だ。

ひたすら立ち続けて時々警戒して。

どうしようもない時は充電切れのスマホを弄るフリをしてみたり。


…あの男はどこかで僕を待ち伏せしているのだろうか。

もし適当に隠れる場所を求めて路地裏なんかに入っていってたら。



「……あ…!」


歩きスマホをしている人を見ていて気がついた。

近くの店で携帯充電器を買えばスマホを充電出来る…!

その発想はなかった。


「コンビニ…」


ただ、動きたくない気持ちもあった。

意外にも今いる場所の安心感は計り知れない。

歩き出してしまえば、他の人がこの場所に立ってしまうかもしれない。

歩き出してしまえば、逆に見つかる危険性が…


歩き出してしまえば、

歩き出してしまえば、



追い詰められたせいか自分が面倒な人間に思える。

殺人鬼や化け物が出てくる映画などで、登場人物が無策のまま殺されて見ていてやきもきすることがあるが、今の僕はまさにそれだ。


だとしたら、きっとここから離れたら殺される。

いや、それより…



「真!」


声がした。


見れば、制服姿の彼女が改札から出てきた…!



「凪咲さん…!」



1日くらいしか空いてないのに、数年ぶりの再会に感じた。

歩いてくる彼女に駆け寄り思わず抱きしめてしまった。



「…まこ」


「来てくれてよかった!ありがとうございます…ありがとうございます…」


「大丈夫?…この臭いは?」


「僕には凪咲さんがいないとだめなんです…怖くて怖くて…」


「………」



お前は何を言っているんだ。

そう思っても出てくる言葉は恥ずかしいものばかり。

察してくれたのか凪咲さんも抱きしめ返してくれた。


少しだけ無言で抱き合って、落ち着いた。

ようやく離れると気づく周りの視線が痛い…。




「何があったの?」


「何から話せば…」


「順番に、重要なことから」


「重要なこと…」



【ニンゲンイソギンチャク】になる代行のことを最初に話した。

次に、その代行の男から離れるためにすぐに帰宅したいと。


それから家に帰るまでずっと。凪咲さんは落ち着いていた。





………………………………next…→……





「ニャ…ニャァ〜!」



愛しの我が家。

最寄り駅からの道中も凪咲さんは僕の代わりに警戒してくれた。


黒っぽい服装で金髪な人を見るだけで焦りだす僕を連れ帰るのは大変だったはずだ。



「何か温かいもの飲もう。落ち着くから」



家の中は綺麗に掃除されていた。

しかも僕が買い込んだモコモコ素材のマットやカバーに取り替えられてある。

冬支度が整った部屋。そしておもちゃに夢中なソープ。


無意識に頬を伝う涙に気づいて、ようやく本当の意味で安心したのだと思った。



テーブルで向かい合い、出されたコーンスープを啜る。熱い。



「…聞いてもいい?」


「はい…」


凪咲さんはまっすぐ僕を見つめて、


「真にとって、私はどんな存在?」


「どんなって…」


「昨日真が出ていった後ずっと考えてた。あの時言われた通り…"こっち"に来てから寂しくて辛いなって思うことは多かった。そんな私を可哀想に思って帰る方法を探しに行ってくれた…でも実はそれは表向きの理由で、もう要らないから新しい使者を創造するために」


「っ、そんなわけ!」


「……」


「……あの時は、ただ凪咲さんを楽にしてあげたいって思ってました。僕が創造してしまったからこんな辛い思いをさせているんだって責任を感じて。凪咲さんを要らないって思ったことなんか一度もないです」


「…うん」


「赤髪のあの人、結子さんって名前なんですけど。短い時間でも彼女と一緒に行動して色んなことを知りました。とにかくたくさんのことを考えてました。…どれも全部、凪咲さんに繋がって…」


「……」


「1度は答えが出たんです。僕が強くなることで凪咲さんの不安を取り除こうって。でも、そう思わせてくれた結子さんは…あの男に殺されました。それを見て決意が簡単に揺らいで、逃げて、また凪咲さんを頼って」


あの光景が焼き付いてしまっている。

話す度にフラッシュバックして、表情が歪むのが自分でも分かる。


「情けないですね…僕」


「…そうかもね」


「ごめんなさい」


「私はまだ、不安に思う。きっとこれからもたまにこっそり泣くと思う」


「……」


何も言えない。



「でも」



「…でも?」


「昨日よりずっと、気持ちが楽になった」


どうして?なぜ凪咲さんは笑顔なんだろう。

また、気を使わせて…


「気を使って言ってるんじゃないよ?」


「え」


「ふふ。当たった?」


「その、ちが」


「そうだ。お風呂入ってきなよ」


「え?あの」


「すごい臭うよ」


「これは…ホームレスの人達と」


「ほらほらほら!」


「わ、ちょっと!」



風呂場に押し込められた。

改めて脱いだ服を…あ、臭い。

嗅ぐ前から臭かった。

……さっきの凪咲さんの笑顔…あまり無理してるようには思えなかった。

それが少し嬉しくて、僕も笑った。




「おいで、ソープ」


「ニャァ」


「おもちゃはいいから。ね…抱っこさせて」


「……」


「ふふ。…私がいないとだめ…か」





………………………………next…→……







「そうだ!その調子で走りたまえ!」



「くっ…なんなんだあの男!」



「そこで止まりたまえ!…うむ、ちょうどこの場所だった。あなたはそこに立ちなさい」


「は、はぁ!?」


「従わせろ」「了解しました、ご主人様」


「いてっ!?何すんだっ」


「現在21時17分。私は今から数時間前、この貸倉庫であなたを目撃した」


「……っ、その本。やっぱりお前も代行か…!」


「あなたは数百もの腕を伸ばし、1人の女性を殺した」


「……」


「もっとキツく縛れ」「こうですか、ご主人様」


「やめっ…痛っ…」


「あなたがあんなおぞましい姿でなければ。女性が殺される前に、近くで隠れて待機していた恋人があなたを殴り飛ばしていたはずだ」


「恋人…!?他にもいたのかよ…くそ、離せ!」


「あなたの言葉は通じない。"ジュリア"は私以外の言葉を聞き取らない」


「ジュリア!?ただのメイド服着せたロボットだろ!」


「失礼な。見たまえ、美しく整った容姿を。触れれば分かる、人間と同様のなめらかな肌!美貌からは想像も出来ない怪力!」


ボキッ。


「あぁぁぁぁっ!!」


「彼はこれから先、毎日頭を抱えて苦しみ続けるだろう。何かあればすぐにあなたのおぞましい姿を思い出すのだから」


「手が、手がぁっ」


「ならばせめて。私が仇討ちを」


「…っ!腹が、減った…」


((READ))


「ジュリア。この悪夢を体現した男を殺せ」「はい、ご主人様」


「その気取った服ごと食ってやる!」





………………………………next…→……





翌日。


朝食後に、凪咲さんに結子さんとのことを全て話した。

僕があの時のことを思い出す度に手を握ってくれて、どうにか"あの部分"も省かずに話せた。



「ニンゲンイソギンチャクか…でも、その男の使者は結子と協力して倒せたんだよね?すごいよ」


「それは…、でも人殺しですよね…」


「ううん。使者殺し、じゃない?」


「……」


「アイアン・カードって、もしかして大きくしたり小さくしたりだけじゃなくて好きな形に出来るの?」


「あれ?そういえば」



創造の書を取り出し、書き込んだページを開く。


「盾…ですね、やっぱり」


「でもその使者を殺した時の形だと、盾っていうより武器だよね」


「あくまでも、盾…ですね」


「立体的じゃなくて1枚の金属板っていう条件さえ守れば何してもいいってこと?」


「……多分」


「そうだ。試しにこのマグカップと同じに出来るかやってみてよ」


「マグカップ…」


アイアン・カードをマグカップの隣に置き、集中する。

見たままをイメージすれば、きっと



「展開!」


ググっとカードが伸び、触れてもいないのに自立した。

高さと大体の幅がマグカップと揃ったところでカードが震える。


膨らんで立体的になってくれない。


「難しい?」


「もう少し…もう少し…!」


その時、カードの上辺が伸びてマグカップの飲み口を再現した。


「いい!いい感じ!」


「あ」


くしゃみに似たムズムズ感。直後に鼻の奥から痛みが…


「え?真?真!?」


テーブルにポタポタと血が垂れる。

鼻血だとわかった途端、勢いが増して途切れることなく血が流れ出てきた。


「ティッシュ!…じゃ足りない!タオル持ってくる!」


「あへ…」


アイアン・カードはあくまでも盾なのだ。

マグカップにはなれない。

盾としての許容範囲を超えればこうして体に負担がかかるわけだ。



「展開」


もちろん、盾であればその形は問わない。

全く防げる気はしないがV字や十字にも出来る。


「…展開」


1枚の板が基本となるが、その両端を内側にカーブさせることは出来るだろうか。


「あ、あ…」


ドッグイヤーだ。

本など、ページの角に折り目をつけて目印にするあれだ。

上手くコントロールが出来ずに完全に折り曲げてしまっ


「ぶっ」


さらに出血。


「だ、大丈夫!?」


「無理みたいです…」


「分かったから!もう分かったから!」




真っ白のバスタオルを赤く染めていく。

大人しくするよう言われ、とりあえずテレビをつけた。



「ん?凪咲さん…これ…!」


テーブルの血を拭き取りながら凪咲さんもテレビを見た。



「色河町で殺人か…」


見出しの字幕を見て完全に"あれ"だとわかった。


「音量大きくして」


「はい…」




「こちら、現場の島川です。見えます通り、警察官が大人数で…あ!今!今運ばれていくのは被害者の遺体でしょうか!」



アナウンサーの背後に映る貸倉庫。

立ち入り禁止のテープが張られよく見えないが、地面には血の痕跡がいくつもあるのがわかる。



「たった今届いた情報によりますと、被害者の体の他にも"別の腕"が見つかっており、警察は他にも被害者がいないか」



ピンポーン。



「え」


インターホンが鳴った。

この家に用がある人間はまずいないはずだが…。


「凪咲さん、何か頼みました?通販か出前か」


「ううん。真は?」


「いいえ…。とりあえず僕出てきます」


「鼻血出てるんだし私が出るよ」


「じゃあ一緒に」


「…うん」



1階に降りて、深く考えずにドアを開けた。



「はい…」



そこに立っていたのは、のは…



「かっこいい…」


「ありがとう。身だしなみに気を使うことは紳士にとって重要な要素の1つ…おや?」


思わず印象そのままを声に出してしまった。

スリーピース・スーツとかいうやつだ。

ブラックとグレーの中間の色合いでよく見るとチェック柄だとわかる。

足下には新品より綺麗なブラウンの革靴。

黒髪はきっちりとジェルで整えられて…見た目はザ・紳士だ。

高身長で、顔も…しかも若そうだ。

こんなのイケメンなどという言葉では片付かない。


「そちらの女性は?」


「私?それより自分のことを話すべきじゃない?あなた誰?何の用?」



「おっと。これは失礼。私はダン。日本での名乗り方をすれば、スメラギ・ダンだ。日本とアメリカのハーフで…長くなるのでこの続きはまた別の機会に。おいで」



呼ばれて姿を見せたのは…この男性と同じくらいに容姿が整った女性だ。メイド服を着ている。

コスプレかと思ったが、たぶん本当にメイドなのだろう。


「ジュリアだ。私だけに仕える特別なメイドで」


ほら、やっぱり。


「"使者"だ」


「………は?」





………………………to be continued…→…


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