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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case4 _ 腹が、減った
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第1話「ごめんなさい」





「ただいま」


「ニャア」




疲労と安堵。

1日の間に店と自宅を何度も往復して買い物を終えた。

通常の買い物に加えて、寒い季節に対応するために必要な家電、衣類なんかを揃えた。



…あの敗北から時間が過ぎて、12月になった。

1日の感覚なんて簡単に忘れて僕達は"平和"にしがみついて暮らしていた…。




「ソープ。こんなの買ってきたんだけど…」


「ニャ」


ソープを1人…いや、1匹家に残して外出することは少なくない。

万が一を考えてペットショップにも立ち寄った。


例えば、留守中に暖房器具をつけっぱなしにして火災が発生…なんてことは絶対にあってはならない。

とはいえソープが寒さに震える姿を想像したくもない。


まず猫用のモコモコした衣類を数着。

特に僕が気に入っているのは、可愛らしいサンタの服。


それから、猫用の寝床。ソープはいつも布団に入ってきて一緒に寝ているが、それはもしかしたら人懐っこいのではなくて自分専用の寝場所が無いから…だったのかもしれない。


開封して与えてみると、まずは近寄り、匂いを嗅ぎ、恐る恐る猫パンチを繰り出して安全か確かめた上で、


「…ニャア」


受け入れた。

寝床に関してはかなり気に入ってくれたようで、体を丸めてクッションの弾力に酔いしれている。


それを見て安心し、とびきりの物を箱から取り出した。


"自動餌やり機"だ。

時間を設定すると目覚まし時計と同じように機能し、機械の中にストックされた餌から決められた量を放出してくれる。

これがあれば長い時間の外出でも安心だ。


「これは2階に置く方がいいかな」


ついでに購入したおもちゃを床にばら撒くと、ソープが反応し遊び始めた。



……2階に上がろう。





階段を上がると、空気感が変わる。

重くなって、元気が無くなる。


僕が突然大量に買い物をしたのは、この重い空気を変えたかったから。

…どうにかして、彼女を元気にしてあげたい。



「ただいまです」


「……おかえり」



両手の大荷物を見て彼女は掃除機を片手に立ち止まった。


「それ、どうしたの?」


「あはは…つい、買いすぎちゃいました」


笑ってはくれない。

無駄遣いするなと怒ることもない。

…感情が無くなったわけではない。僕は知っている。夜になると1人で泣いているのを。


家族がいない、友達がいない、知り合いもいない。

そんな環境で、知らない人間のために戦っていたのだ。

以前まで彼女が見せていた自信や強さは、決して脆くはなかった…でも、あの日。双剣と共に砕けてしまった。


キャバクラ嬢であり神の代行でもあるマミさん。

あの人の創造した使者は、強かった。…強かった。


「これ、使ってみてください。モコモコなスリッパなんです。歩き心地がふわふわでしかも暖かいんですよ」


「…ありがとう」


「冬はモコモコ素材がよく売れるらしくて。気づいたらトイレのカバー類一式、キッチンマットなんかも揃えちゃいました」


「暖かそうだね」


「はい。これでバッチリです」


「…掃除機かけるね」


でもあの日、僕達は弱くなかった。

ゴージャス・アナには苦戦するどころか簡単に行動を制限して圧倒していた。実際、アナは倒すことができた。


……問題はあの大蛇だ。

僕と凪咲さんの協力による攻撃は、アナを簡単に葬ったが大蛇には一切効果が無かった。

それどころか凪咲さんの剣が砕け、彼女の左腕は肩の辺りまで…大きな怪我をした。

使者だからか、彼女の"元々の力"なのか、全治2ヵ月と言われたのに数日で完治したが。



「凪咲さん。今夜は鍋にしましょう。野菜が特売だったので…」


掃除機の音より大きい声で話しかけたが、聞いてくれない。


これで何度目だろう。元気づけようとして、逆に引きずり込まれるのは。



………自分勝手と言われても仕方ない。

戦いに巻き込んだのは僕だ。

…でも、負けを認めて逃げ出して、僕だって辛い。

悲しんで、苦しんで、ずっと辛い思いをしている彼女を見ているのも辛い。



買ってきた食材を冷蔵庫にしまうのを中断し、凪咲さんの手から掃除機を奪って電源を切った。



「っ…何?」


「ごめんなさい。何もかも、僕の責任です」


「……」


「凪咲さん、前は明るく接してくれましたよね。僕はそういう性格の人なんだ、前向きで強い人なんだって思ってました」


凪咲さんは無言で僕を見ている。


「…僕が弱々しいから、女々しいから、気を使ってくれたんですよね。本当はずっと寂しくて辛かったですよね」


「……」


「あれから毎晩泣いてるの、知ってます。…今も無理してますよね、なるべく普通を装って心配させないように」


彼女の目が潤んだ。

…僕が悪い。だから、謝罪だけで終わる訳にはいかない。

もう考えていたことを話そう…。


「……僕、何日か家を留守にします」


「…え」


「あの赤髪の女性を探そうと思ってます。あの人はいつも余裕があって、僕達を評価するような目をして…創造の書のこと絶対に詳しいはずです。だからなんとか探し出して、協力してもらうつもりです。……」


「協力?」


「…凪咲さんが…元の世界に帰るために」


「………」


「えっと、これ、生活費です。日用品とかは揃ってるので、食費だけ考えてくれたら大丈夫だと思います。この機械は、ソープの餌が自動で出てくるやつです。説明書はこっちに…それから…」


「…私は」


「もう少しだけ。耐えてください。きっと、なんとかします。そしたら家族と一緒にまた暮らせる…」


「……」


「本当に、ごめんなさい」


部屋着に着替えなくてよかった。

そのまま家を飛び出した。

…彼女が笑顔を取り戻して元気になるためには、もうこれしか考えられなかった。

凪咲さんのために、僕が出来ることを。




「…私はもう、要らない…ってこと…?」


一人残された凪咲はそのまま崩れて泣いた。





………………………………next…→……






心当たりもないまま出てきてしまった。

せめて、何度か遭遇した時に連絡先を交換していれば…せめて名前だけでも聞いていれば。


どの街を探せばいい。

どんな場所を探せばいい。


とりあえず駅前まで来て、待ち合わせ場所としてよく利用される掲示板の前で立ち止まった。

迷い犬の保護の貼り紙、地域のイベントのチラシなどが画鋲で留められている。


……赤髪の女性と会ったことのある場所の共通点。


「ずんぐりむっくり、ゴールド・キングレオ、ゴージャス・アナ…代行が絡んでる…」


ならば、赤髪の女性ではなく他の代行を探すか。

そしてその代行が何らかの"問題"を起こせば、あの人は姿を現すだろうか。


「そういえば…銭湯で会った時は警察官の格好を…あ!」


"赤髪の女性警察官"ならば、警察署などを聞いて回れば見つかるのでは?

もし理由を聞かれたら、助けてもらったお礼が言いたいと説明すればいい。事実なのだから。



スマホで検索して近くの警察署へ行くことにした。




………………………………next…→……





「いや…そういうのは…」


「そうですか。ありがとうございました」



あっちへこっちへ。

電車で移動を続けて聞いて回った。

建物が大きい警察署は全て回ったと思う。


でもどこで聞いても良い結果にはならなかった。

コスプレをした一般人ではないか、とも言われた。

そう言われるとそうかもしれない…。



「寒っ…」



あっという間に夜だ。

風が吹くと本当に寒い。

しばらく留守にすると宣言してしまったので自宅に帰ることも…出来ない。


僕の責任だ。何もかも。



適当に歩いていると公園を見つけた。

広くはないが狭くもない。

トンネルのある遊具を見て、あそこで風を凌いで寝ようと思った。


とりあえずベンチに座り、スマホの待ち受け画面を睨む。

特に操作するわけでもなく…時計を見ながら考える。



どうすれば代行に会えるのか。



募集をかけるか。

"神の代行、探してます"

"創造の書に詳しい人、探してます"

そんな直球な言葉をSNSで発信して、……。


馬鹿だ。



「なぁ、隣いいかい?」


「…?」


顔を上げると、臭い息が顔にかかった。

あまり清潔には思えない服をいくつも重ねて着て…ニッと見せた笑顔もあまり好印象ではない。

ホームレス…か。


彼は隣に座ると、僕の肩をつついて会話を試みた。


「寒いよな最近な」


「…そうですね」


「そんな目で見るなよ。怖くないぞ俺は。本当に怖いのは若いやつらだ。自分らは親の金で裕福で余裕があるからって本当な、やってらんないよな」


「…はぁ…」


「兄ちゃんいくつだ?」


「20歳です」


「若いなぁ。何してんだ?コレか?ん?」


小指を立ててニヤニヤしている。


「いいえ…」


「元気無えな。お前、俺なんか家も金もないし何かの才能があるでもない。病気しても病院にいけない。でもこうやって笑ってんだ」


「…辛くないんですか」


「辛い?そんなもん人間生きてりゃ誰だって辛いよぉ」


「……」


「考えてもみな。世界中に人間がいるんだ。毎日産まれてくるやつがいて、死んでくやつがいる。産まれたばかりの人間にだって色々いるだろ?体が弱いとか」


「そうですね…」


「俺達は当たり前に手があって足があって、見えるし聞こえるし物が食えて好き嫌いも出来る。その当たり前を知らない人間もいるだろ?」


人と話すのが久しぶり…なのだろうか。

彼は楽しそうに話を続ける。


「何もかも整っててもよ、学校でいじめられたとか、仕事見つからないとか、普通の人間でも簡単に人生ってのは台無しになっちまうんだ。誰だってそれぞれの辛い何かを抱えてんだ」


「……」


「兄ちゃんは?何が辛い?」


「何が…」


「どうせ俺に喋ってもなんにも悪いことなんて起きないだろ?言いふらす相手もいないんだ。話聞かせてくれよ、な」


「……ちょっと待っててください」


立ち上がり、近くの自動販売機で缶コーヒーを2本買う。

1本を彼に手渡すと、「悪いね!」と笑顔で受け取った。


「……人を探してるんです」


「人?どんな」


「赤い髪で、女の人で…」


「コレか?」


再び小指を立てている。


「いいえ。その人に助けてもらいたいんです。助けてほしい人がいるんです」


「じゃあ、それがコ…」


「違います」


今度は小指を立てる前に答えた。


「"家"に帰りたいのに帰る手段が分からないんです。その人なら、その手段を知ってるかも…って」


「家に帰る手段って、なんだよ。タクシーとか電車の乗り方が分かんねえのか?飛行機か?」


「いえ…説明が難しいんですけど」


「パスポートが無い外国人か?」


「……」


当たらずとも遠からず。

そんな気がした。

彼女は全く別の世界から来た外国人のようなものだ。


「んで、ずっと探してんのか」


「はい」


「そういや、待てよ…赤い髪の女…そいつって美人か?」


「え?」


「可愛らしい女なのか、それとも男らしい女なのか」


「…どうしてそんなことを…」


「男らしい女で、赤い髪のやつなら知ってんだよ」


「……!!」


「お、そんなびっくりか?」


「その人、警察官ですか?」


「けいさつぅ?いや…でも警察より良いやつだ。俺みたいな連中に飯食わしてくれて、たまに手伝うと小遣いもくれるんだ」


「手伝う?」


「面白いぞ?この前もな、南裏富で金ピカのヒーロー探してこいってな。見つけたら3万もくれるって言うからみんな血眼になって探したんだよ。で、仲間が見つけて」


「待ってください!それ本当ですか!」


「お、おう…どうした兄ちゃん…」


気づけば彼の両肩を掴んで揺さぶっていた。


「その人です!きっと!会わせてください!」


「なっ、そ、そうなのか?ちょっと落ち着いてくれ」


「どこに行けば会えますか!今すぐ行きますから!案内してくれますか!」


「こ、怖いぞ!落ち着け!」


「……すみません」


気づけば彼は飲みかけのコーヒーを全部こぼしてしまっていた。


「本当に探してるのと同じか?」


「そのはずです」


南裏富の金ピカのヒーローは、ゴールド・キングレオに違いない。

あの人は、ホームレスに代行を探させていたのか…?


「本当に困った時に1回だけ呼ぶ方法がある…でもよぉ」


「…お金ですか?」


「金もらってもなあ、金より信用してんだよ」


「分かりました。…先に謝っておきます。本当にごめんなさい」


「なんだよ急に」


「展開」


アイアン・カードを取り出す。

大きさとしては野球のバットをイメージした。

持ちやすく、振りやすい…盾ではなく武器として…


「お、おい…」


「殴ります。助けを求めてください。その人に」


「待て!待てって」


「…っ!!!」


振り上げた。

足…太ももの辺りを狙って、1度だけ。




「なーにやってんだ?」



背後から聞き覚えのある声がして、手が止まった。



「ホームレス殴って楽しいのか?俺も混ぜてくれよ。俺も殴るの好きなんだよなー。でも殴るのはホームレスじゃなくて、悪いやつをだけど」



振り返った瞬間、目の前に拳があった。


「ぶっ」



珍しく、星がよく見える夜空だ。

……そのまま吐き気を含みながら、力が…抜け……







………………………to be continued…→…


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