ここにいるよ
「まあ、そんなことはどうでもよいではないか。とにかく薔薇姫様を皆に紹介しなくてはな!」
こらあ、シルヴァ!どうでもよくないよ!私は憤るが、子供達のリアクションも特になかった。
「皆も広場に集まっているはずだ。急がねば!」
「わあい!」
子供達は、何か特別な事が始まると逆に喜んでいるくらいだ。
え?私だけなの?
戸惑いながら周囲を見渡すと、カナフさんと目が合う。彼もまた、軽く肩を竦めるにとどめた。
納得出来ない私の腕をヴァンがつかみ、
「その話は改めていたしましょう。今はセイラのことが優先でしょう」
あ、そうだった。谷の人々を集めているんだけっけ。
こっちはこっちで気が重いなー。
えーっと、今日はお祭りか何かかな?
連れてこられた広場の周囲では屋台が並び、人々が楽しそうにそれらを頬張っている。肉もあるが野菜や果物の類のほうが圧倒的に多い。菜食なのか?
翼人の方々は派手なことが好きなのか、大道芸人?らしき人がアクロバット飛行をしたり、上空から花びらを降らせたりと自由に飛び回っている。
《お祭り!》
放っておいたら飛び出していきそうなセイラを両手のひらで包みこんで死守する。
「ちょっと、シルヴァ!これはどういうことなの」
こちらも異常な盛り上がりを見せるシルヴァの服を引っ張って、注意を引く。
「んあ?」
心ここにあらずか、変な声を出した。
何それ?かわいくないんですけど。
「ああ、広場へに招集をかければ、いつもこんなものだぞ?」
なるほど。翼人の谷は奥深く、誰でも気軽に立ち寄れるような場所ではない。ともすれば閉鎖的なこの場所で娯楽に飢えているのかも知れない。
持っていたお菓子も特に珍しくないものばかりだったが、凄い取り合いになっていたし。
ここは一つ、私も余興に参加しちゃおっかな。かく言う、私もお祭り好きなのだ。
レーヴェンハルトは魔法の国、なんでもありだ。
私の持つ光魔法は、魔を祓うだけじゃないってところを見せてあげよう。
「セイラも協力してくれる?」
手のひらの中でもがくセイラが顔を輝かせる。
《やるー!》
セイラは私と一緒に何かをするのが大好きなのだ。初やつ。
「それじゃあね…」
コショコショと内緒話をしてから、実行にうつす。
<水 凍 風 >
私が呪文を唱えると、セイラがそれに魔法を重ねがけする。
「え?なに?」
「冷たい!」
大空からハラリ、ハラリと粉雪が舞い落ちる。
南領でも高山のてっぺんに積雪があるのが見えるが、ここの谷に雪は降らないだろうと思って、雪を作ってみた。
翼人が降らせる花びらと雪。凄く綺麗だ。
そう思ったのは私だけではない。
「キレイ…」
見たこともない雪にいち早く順応したのは、やはり純粋な子供達である。
手で掴もうと雪を追う子、掴んだのに消えたことを不思議がる子、様々だ。
「すごーい、何だこれ!」
キャッキャッと喜んで走り回る姿は子犬のようだ。
翼人なんだけどね。
その中に先程の孤児達もいた。やはり大きな子供達が小さな子供の面倒を自然とみている。とても仲がいい。
どの子も変わらない。親がいようといまいと、子供達は子供達だ。私はその事に改めて気付かされた。
「孤児だからと、ことさらに哀れむ必要はないのだ」
いつの間にか、私の隣にカナフさんが立っていた。
「大人の事情で争い、命を落とす者があっても子供達には関係がない。むろん、親のない子を生み出さない世の中が好ましいのだが、積年の恨みつらみは容易には晴れん。
出来ることは子供達にまで恨む気持ちを植え付けないことだ」
透き通るような、綺麗な眼差しで子供達を見つめるカナフさん自身がそういう気持ちでいるからこそ、言える言葉なのだろう。
どんな子細があったのか分からないが、翼人の象徴でもある翼を片方失っても、彼の心は折れなかった。
尊敬に値する人と言うのは、こういう人だ。
領主館で初めてリヒトに会った時も、怖さと同時に目を離せなかった。その時、感じた気持ちと同じようでいて、全く違う。
よく分からないと言うのが、正直な今の気持ちだ。
しかし、アレだね。何事もやり過ぎはよくないね。
暑い場所しか知らない翼人に冷たい雪は、ほどほどにしとかないと。寒さで震えた体を数人ずつ、固まって暖をとっている。
翼が純正羽毛だから暖かいのだ。
相変わらず、子供達は喜んでいたが。
「さあ!舞台は整った!共に参ろう!」
シルヴァ、無駄にテンションたっか!
一緒に歩きたくないんですけど。
でも、行かない訳にはいくまい。翼人の谷に同行することを了承したのは私自身だ。
覚悟を決めるしかない。よし!
「行くよ、セイラ!」
《にゅ。行こー、行こー!》
私の肩に両手をついて、ピョンピョンと跳び跳ねる。
今は、この呑気さに癒されるわー。
谷のど真ん中、ぽっかりと空間が広がっていて、翼人の皆さんがひしめき合っているなかを私はシルヴァを先頭に進む。
雪(寒さ)の影響も大分薄れたようで、見知らぬ一行に興味津々の様子だ。
みんな結構、野次馬なんだね。
深呼吸を一つして、私は急ごしらえの壇上へと上がった。
おお。ここから見ると色彩の渦だ。南国の鳥達の群れのように、色とりどりの翼がまるで絵画のようだ。
これは名画に糸目をつけず欲しがる好事家のように、過去、翼人の翼欲しさに罪を犯した人間がいたのも納得出来る美しさだ。
絶対!駄目だけどね!
私達が壇上へとのぼるのを認めた人達の間で、静かなざわめきが起こり始める。
翼人である彼らは目がいい。私の肩にとまるセイラに気付いたのだろう。
「え?薔薇姫様?」
「まさか!でも…」
「あのお姿を見ろ!伝承通りじゃないか」
ウソ、ホントに?と、そこかしこで囁き合い、やがて大きなざわめきへと変わる。
そこで、満を持してという感じでシルヴァが声をあげた。
「今日は皆に重大な報告がある!」
ピタリとざわめきがおさまった。
さすが、次期族長(未定)だけなことはある。貫禄十分だ。
翼人の祖と同じ、より濃く鳥の姿形を持って生まれた者は、それだけで他者から敬われる対象となるらしいが、本人もまた努力を怠らないと言う。翼人は誇り高い一族なのだ。
「我々が長い間待ち望んでいた薔薇姫様の復活を、目にする栄誉を与えられたのだ」
おおおっ!と、歓声が谷に響き渡る。
「ともに分かち合おうではないか!この奇跡の瞬間を!
そして、祈りを捧げるのだ。我ら、翼人の庇護者にして神である、いと尊きお方である薔薇姫様に!」
シルヴァが両手を左右に広げるとともに、背中の羽を広げた。
大鷲の翼人にふさわしい、大きくて、そして、重厚な翼が壇上を包み込む。
広場に集まった翼人達は、老いも若きも皆がその場に額付いて祈りを捧げた。
感極まったのか、シルヴァの瞳からぼうだと涙が流れおちる。
凄く、感動的な場面だけれども…。
え?ちょっと、私、いや、主役の薔薇姫がシルヴァの翼で全く見えてないんですけど?
待ち望んだ神様ですよ?
「薔薇姫様!万歳!」
いや、感激しているのは伝わるよ?声しか聞こえないけど。
《やー、見えなーい!邪魔!》
セイラがむずかり始めた。
「ううっ!薔薇姫さまあ!」
シルヴァ同様、号泣する者あり。
「くうっ!」
いや、あんた。くうって、セイラが隠れてるって!
その後も延々と翼人達の賛歌は続いた。泣く者あり、歌う者あり、喜び合う者あり。
けど、ね。見えない。
私は、見えない壁(シルヴァの翼)を前に苦笑いを浮かべた。
ちなみにセイラは、つまらなくなったのか寝こけていた。
あなた達、それでいいの?
いいんなら、いいけどさ。
私の覚悟は何だったんだろか…。
少しだけ解せない気持ちで、翼人の人々の盛り上がりを隅っこで共に享受する。
良かったね!みんなの薔薇姫だよ!
ここにいるよ!
見えないからこそ、神様なんですね。




