ラベルが若様?
東領の辺境にあるムスカの町はなんというか、かわいいところだった。城壁を抜けた先には花のアーチがあり、街路樹に沿って色とりどりの花で溢れていた。
それに何より、この町は草食獣人の比率が凄く高い。ウサギ、鹿、山羊等々。牧場や森で見かける動物そのものの人々がのんびりと歩いている。
ほああ〜。童話の世界にいるみたいだよ。聖領はどちらかと言うと、人族が多くて獣人も戦闘に長けた種が大半を占める。
子供達はどちらであってもかわいいんだけど、大人は筋骨隆々の戦士職やら傭兵やら、かわいいとは無縁の男達がのっしのっしと往来を闊歩している。
神殿の騎士は、人と獣人が半々ぐらいの割合なのだけど。
それはそうと、城壁の門番である兵士がラベルの知り合いだったらしく、彼から伝えられたらしい町長が慌てて出迎えてくれた。
ん?私達は一応、お忍びの旅で私の素性は明かしてないんだけどな。
「ようこそ、おいでくださいました」
大きなお腹をゆさゆさと揺らしながら、町長とおぼしき人がやって来た。
タレ耳ウサギ、いわゆるロップイヤー種のウサギ系獣人だ。
かわいいよ?かわいいけど、なんと言うか残念な感じだ。中身がおじさんだからだろうか。
「若様!ラベル様、お久しぶりでございます!立派におなりになって。老公がご覧になれば、さぞお喜びでございましょう!」
町長のお目当てはラベルだったようだ。
「よしてくれ。お祖父様に会う予定はないんだ」
「なんと!それをお知りになったら、さぞ、がっかりされることでしょう」
元々がタレ耳なのでがっかりしても、耳が下がることはなかったが、代わりに頬のピーンと横に張った白い髭がしおしおと下がった。
「それより宿をとりたいんだが、どこか良いところを紹介してくれないか?」
「宿をとるなど、とんでもない。是非、我が家にお泊まり下さい」
「しかし‥」
チラッと私を見る。
「私はどこでもいいけど?知り合いなんでしょう?大勢で構わないなら、お世話になってもいいんじゃない?」
「どうぞ、どうぞ。若様のお知り合いなら喜んで!歓迎いたします」
と言うわけで、私達は急遽、ムスカの町長宅にお邪魔することとなった。
神殿以外、あまり知らない私は普通のお宅がどんなものか興味があった。
案内されたお宅は、なんと言うか、でっかいお屋敷だった。
うん。普通のお宅じゃないね。そりゃそーだよね。町を一つ任されるような町長宅だもん。
「いらっしゃいませ」
エントランスにズラリと並んだ執事さんやメイドさん達、その数二十人ほど。あと下働きや雑用係、料理人などが別にいるらしい。
町長夫妻と一番上の息子さん夫婦しかいないのに…。
彼らの子供や孫達はそれぞれ独立して家を出ているそうだ。ひ孫を含めると、その数五十人以上に及ぶとのこと。さすが、多産のウサギさんだね!
「自分の家だと思って、おくつろぎ下さいね」
奥さんもこれまたウサギ系獣人。白い毛並みに赤い目は、小学校で飼っていたウサギを思い出す。
飼育係は人気があって、なれなかった苦い思い出も同時に思い出した。
部屋割りは私とアリーサ、その隣にヴァンとセーラン。ラベルは一人部屋が用意された。部屋も豪華で一人だけ待遇が違う。
「古くから祖父と交遊があって、私自身、小さい頃からの知り合いなのです」
困り顔でラベルがそう説明する。
「いいじゃないの。神殿に行って以来、会ってなかったんでしょ?ご厚意は有り難く受けておきなさいよ」
ラベルが東領を出て神殿の騎士となったのは、六年ほど前。長期休暇もあったはずだが、一度も帰らなかったそうだ。
「あ、そうだ。折角だから、お祖父様にも会いに行ったら?」
老公だっけ?なんだか、水◯のご老公みたいな尊称にお偉いさんのニオイがプンプンする。
まさか東領の領主様じゃないでしょうね?
「違います」
あっさりと否定された。
「元領主です」
いや、たいして違いはないよ?新旧の差だけだよ?
「現在の領主は祖父の三男で私の叔父にあたります」
「あれ?長男じゃないんだね?」
「ご嫡男は不慮の事故で奥様共々、若くしてお亡くなりになったのです。ご次男は生まれつき病弱であられて、ずっと療養生活をおくっておられます。
そこで三番目の息子であるレキ様が跡をお継ぎになったのです」
と、町長が教えてくれた。
それは気の毒なことで。
ん?じゃあ、ラベルは誰の子供になるの?
「‥亡くなった嫡男が私の父親です」
なんと!直系の王子様!だから、若様呼びなんだね。
「え?でも、亡くなったお父さんの跡を継がないの?」
「それはその‥」
ラベルが言葉を濁した。
なるほど。言えない訳があるってことね?まあ、なんとなく察せられるけど。
現領主である叔父さんに邪魔されてとか何とか。いわゆる、お家騒動だろうか。
けど、聖領の巫女は政治的に不干渉の立場から、各領のゴタゴタには基本関わらない。難しい問題だ。
「ナツキ様のご心配には及びません。私は家を出た人間ですから」
うん。でも、そんな悲しそうな顔で言われたら、やっぱり心配するよ?
すると、ラベルはもっと困った顔になった。
いつもの彼らしからぬ態度に、私は何かしてあげたいと思うのだった。




