会いに行ってみる
なんと言うか、私は、もっと周囲に気を配らなければならないといけないと思った。そもそも、西領に来た理由は、いつまでたっても帰ってこないヴァンを心配したからだ。
それなのに肝心の相手に会うまでに、あっちへフラフラ、こっちへとフラフラと脱線しまくってしまった。やっと、ヴァンと会えたと思ったら、婚約者の出現に慌てふためいて、現実逃避したくて行った温泉でヴァンのお父さんと出会うし。
いや、待って。これってまさに天啓なんじゃない?ヴァンが領主になる、ならないって話だけど、彼にはその気はなかったはずよ?それを今になって領主にって、勝手過ぎない?
領主の血筋が~云々に至る、過去のアレコレを私につまびらかにせよって、天啓だよ。よし!次にやるべきことが見つかった!
「ヴァンのお父さんに、会いに行こう!」
「はい?どうして、そのような結論に?あの方は、先代ご領主様の娘婿ではいらっしゃいますが、奥様とは死別なさって、今では傍流も傍流。領主一族と見なされることすらないと言うのに」
私の宣言を受け、アリーサが呆気にとられたように言った。
「ううん。私は、そうは思わない。今の領主家って、なんと言うか歪なような気がするの。私が会った人達は、皆、いい人ばかりだったけど、全員が領主家とは関り合いになりたくないような、そんな雰囲気だったじゃない?」
次代の領主争いに巻き込まれたくないって言うのもあるだろうけど、何となく疎遠なような、あえて触れたくないような、そんな印象を受けた。
「ヴァンのお父さんだって、今の立場がどうあれ、娘婿だったのに、雑な扱われ方だし。領主家はどこかおかしいよ。
思い返してみてよ。私達、ここに来てから何度となく、先代の領主様を讃える声を聞かされたり、お亡くなりになったことを悼んでいるんだって話を聞かされたりしたけど、じゃあ、今の西領の領主様が、どうなんだって話を聞いたかしら?
自分の後継者を探してるってことだけど、それって自分が領主を辞めたあとのことを心配してるってことじゃない?」
「あ…、そう言えば」
アリーサが、ハッとしたような顔をした。
「そうなんだよ。私達、現在のご領主様について何にも分かってないんだよ。それなら、知っていそうな人に聞いてみるのが一番じゃない?
何と言っても、亡くなった奥さんの、お兄さんな訳なんだし。全く交流がなかった、なんてことはないでしょう?」
「確かに…。私達が知らないでいる、何かが今の領主家にはありそうですね」
と言うわけで、私達はヴァンのお父さん、ジーグさんが滞在しているという西領の騎士団寮へとやって来た。
やはりと言うか、門構えからして、ものものしい雰囲気だ。でも、行くよ!私は!
そうして、おもむろに門を守る、屈強そうな騎士へと近づいて行った。
「すいませーん。騎士団所属のジーグさんに会いに来たんですけど」
「は?何だと?ジーグ?」
門の両脇を固める二人のうち、若い騎士さんが訝しげに問い返した。
あれ?知らない?領主家の一員だったのに?
「あぁ。お前は若いから知らんか…」
おじさん、と言っても(以前の)私と同世代くらいの騎士さんが、腰を屈めて、
「ジーグ様とはどういう関係なんだい?お嬢ちゃん」
と、優しげな笑みを浮かべて尋ねてくる。
あら?こっちの騎士さんが、応対してくれるのね。て言うか、ここでも私はお嬢ちゃん呼びなのか。まあ、いいけど。
「先日、温泉で知り合いました!遊びに来ていいって言われたので、来ちゃいました!」
てへって感じで、私は幼さを強調してみる。だって、お嬢ちゃんの方が警戒されないでしょ?我ながら、あざとい?
「そうか、そうか。それじゃ、おじさんが案内してやろう」
「ちょっ、そんな簡単に…」
若手の騎士が止めにはいるが、おじさん騎士さんにひと睨みされ、すごすごと引き下がった。
「じゃあ、こっちだよ」
おじさんの呼び掛けに、
「はーい!」
と、私は片手を振り上げて、答える。
こうして難なく?私達(入るのは私とアリーサの二人で、セーランとラベルは門外で待機だ)は、西領の騎士団内部へと潜入を果たした。
私が言うことじゃないけど、なんか簡単すぎない?聖領騎士団に入るには、こんな簡単じゃないよね?もちろん、私は年中フリーパスだけどね!
そんな考えが顔に出ていたのだろうか。おじさん騎士、名前はヨハンさんは笑いながら、話してくれた。
「俺が案内するのは、西領騎士団の宿舎だからな。ここへは騎士や騎士団で働いている事務方の家族なんかも出入りするから、それほど厳重に警戒することはないんだ」
「なるほど。そうなんですね」
森の小路となっているような場所をしばらく歩くと、やがて大きな建物が見えてきた。どうやら、ここが騎士団の宿舎らしい。
「さあ、着いたぞ。あの建物の一階中央に扉が見えるだろう?あちらを入ると、受付に人がいるだろうから、そこから先は、また案内してくれるはずだ」
「はい。わざわざ案内してくれて、ありがとうございました!」
ペコリとお辞儀をして、お礼を言った。若手の騎士を黙らす態度からして、この人は、それなりの地位にいる人だろう。そんな人が案内を勝手出てくれたのだ。きちんとした、お礼を言うべきだ。
「ありがとうございました」
アリーサも私に習う。
「いいよ、いいよ。じゃあな」
「はい!ありがとうございました」
ヨハンさんが立ち去るのを見送り、私達は宿舎へと歩き出す。そんな私達の後ろ姿を、ヨハンは立ち止まって見ていた。
「あの方が噂に聞く,巫女様か…。ジーグのやつ、一体どういうつもりだ」
ナツキは偽名を使って、西領内へと潜り込めたと思っているが、西領騎士団の上層部は、聖領の巫女姫であるナツキが領都に滞在していることをとっくに承知していた。どこに滞在しているのかも、そして、アリーサらが領内で情報収集していることも含めて全てだ。
ヨハンは、騎士団内の隊長格であって、そうした情報を共有していた。だが、ジーグには周知はされていないはずだった。彼の所属は、あくまでも辺境砦であり、今は客分として領都の騎士団に滞在しているに過ぎない。だが、彼はナツキの正体を知り、自分に会いに来るようにと仕向けた。それは何故だ?
「分からんー。分からんが、領主家が抱える、しがらみを、あの少女ならば、解放してくれるというのか…?」
そう言って、小さく頭を振った。
輝かしくも、懐かしい、あの日々。俺達には大勢の、気のおけない仲間があり、固い結束で結ばれた同士であった。
偉大な領主であった、先代様を中心に西領騎士団は団結し、領主一族もまた、固い絆で結ばれていた。それなのに、今はなんだ。
次期領主の座を巡って、水面下で争う領主一族と、彼らのうち、どの家につくかで己の保身を計ろうとする騎士達。
どいつもこいつも、情けないったらない。だが、一番、腹立たしいのは、その原因の一端となったジーグだ。あいつは、昔も今も、全く動こうとしない。実力で言えば、あいつが騎士団長となっても不足はないと言うのに。
「エウレカ様の呪縛は、いまだに解けずにいるのか?なあ、ジーグよ…」
憂い顔で呟くと、ヨハンは来た道を戻って行った。
すいません。またぞろ、更新が遅くなってしまいましたー。私のメンタル次第なので、色々あるのですよ…。次回は早めに!を目標にいたします。




