200. 伯爵令嬢に転生して極悪最強の変態を目指しましたが、結局は普通のお色気作家になりました!?
「ほら、メイリーちゃん、お友達ですよ。お利口さんですね」
「あー、ぶー」
抱き上げた娘が手を伸ばした先にいるのは、10日ほど前に生まれた赤ちゃん。泣くでもなく、湖の色のお目めをパッチリと開け、じぃっとこちらを見ています。
「あああ…… とっても美しいですわ。さすが王女殿下と元・鉄壁貴公子様のお子さま!」
「大袈裟よ。名前はエデルフリート・フォルクマール…… エデルって呼んでね?」
「ふぉぉぉ…… エデルちゃん、可愛いでちゅねぇぇ」
「えー、うー」
「あら、メイリーちゃんもエデルって、呼んでくれてるのね」
笑うリーゼロッテ様、お元気そうでお幸せそうですねぇ……!
そう。本日、ルーナ王国の長い冬を通り越し、花の一斉に咲く6月は15日。ところは、王城は王女殿下のプライベート・ルーム。
私ことリジーちゃんことエリザベート・クローディス、愛しの旦那様ことシドさん、そして愛娘ことメイリーちゃんは、リーゼロッテ様とお子様にお目にかかりに参っているのです!
「この前、お腹にいるって教えていただいたばかりなのに、もう…… 時が経つのは早いものですわ」
メイリーがずぼん、と生まれてきてから早や9ヵ月。赤ちゃんとの生活って、時間が飛ぶように過ぎていくのですよね……。
「付きっきりで、メイリーちゃんのお世話をしてるそうね?」
「オムツ替えすら、させてくれないんです」
珍しく口を挟んだ不満顔のシドさんに、王女殿下は、さらに不思議そうなお顔をなさいました。
「というか、オムツ替えはメイドがしてくれるんじゃ?」
てへ、と照れ笑いするリジーちゃん。
「生まれてみたら、可愛くて可愛くて可愛くて…… もう独占欲が未経験領域を軽く突破中なので♡ まだ自我が発達していないうちに、わたくしのことをしっかりと刷り込んでおこうかと♡」
「俺は」
「シドさんはわたくしを可愛がってくださいな。メイリーちゃんは、わたくしが一番に可愛がりますから♡」
好きにヤンデレられるのも、赤ちゃんのうちだけですからね。
「そのうち、人間同士の付き合いが始まれば…… シドさん、お願いします♡」
「お嬢様は」
「その頃にはわたくしは、その辺になぜかいる人、程度のポジションで♡」
すなわち、美味しい部分だけ取って、面倒な、もとい苦手な人間関係構築は周囲の皆様に丸投げ…… ふっ。悪女ならではの、完璧育児プランですねぇ!
「そういうことなのね」
「そういうことですわ」
「でも、賞まで辞退するのはやり過ぎじゃない? せっかく栄えあるルーナ王国史上初の文学賞なのに」
ルーナ王国史上初の文学賞とは 今年から創設されることとなった 『バルシュミーデ文学賞』。バルシュミーデ兄弟社から出版された小説の中で、優れている物に贈られる賞でございます。
その第一回に、リジーちゃんことルーナ・シーの作品の中では、唯一の穴棒アーン小説 "アナスタシア・カレィニンの美しき日々" と、去年の夏にシコシコと書き上げた短編集 "そんなに見ちゃ、イヤッ!" の二作がノミネートされていたのですが……
実はリジーちゃん、サクッと辞退しちゃっております。
「もともと、売上プッシュの目的が強い賞ですもの。それに、辞退してユーベル先生に恩を売っておけば後程、何かの役に立つかもしれませんし……」
それに何より、受賞となるとまた、 (販促のための) 記念パーティーやら握手会やらで、あれこれバタバタしそうですからね。これが、一番困ります!
「受賞程度で、メイリーちゃんと離れ離れになる時間が増えちゃうなんて…… 耐えられませんっ」
「そういう重たい愛は俺に向けて欲しいんですが」
シドさんが、不機嫌顔でボソボソ呟いても、もう遅い! なのです。
産む前には、戻れませんからね♡
王女殿下が、困ったように、赤ちゃん…… エデル坊やの、柔らかそうな頬をつつきました。
「実は…… 社長からもリジーちゃんを説得するように頼まれたのよね、わたくし」
「おおっ……!?」
それは、聞き捨てなりませんねぇ!
「社長が? ジグムントさんでなく?」
「ジグムントさんからも」
「社長も?」
「ええ」
「ふっ…… ザマを見なさいませ」
勝った、と思わずメイリーちゃんを高い高いする、リジーちゃんです。
社長といえば、これまではユーベル先生贔屓だった方…… その社長さえが受賞を勧めてくれるのならば、リジーちゃんことルーナ・シー、ユーベル先生を打倒したも同然でしょう!
目標、意外にも早く叶っちゃいましたねぇ……!
「じゃあ、考え直してくれる?」
「申し訳ないのですが、それは、いいえ」
何度言われても、リジーちゃんの心はもう、決まっております。
「賞は今もらえなくても、書き続けている限りはまだチャンスがありますもの…… けど、この最高に可愛いというか、もう可愛さしかない赤ちゃん時代のメイリーちゃんと過ごす時間は、今以外に、ございませんから」
「なるほど…… そうなのね」
「ええ。もし、受賞式に行ってる間にメイリーちゃんが生まれて初めてのつかまり立ちでもしちゃったら…… 禁忌の時間魔法を何百年かけても習得して、時間を巻き戻すしかなくなってしまいますわ!」
「まぁぁぁ」
リーゼロッテ様、びっくりしていらっしゃいますねぇ……。
「わたくし、正直なところ、リジーちゃんはもっと、お仕事の方に重点を置くかと思ってたわ」
「ふふふふ。わたくしも実は、そう思っていました」
なにしろリジーちゃんは、運良くも子育てを周囲に任せきりにできる環境にいるんですからね。
若い両親! 子どもを猫可愛がりしそうな夫! 率先して世話してくれそうな侍女の皆さん! これで乳母を雇えば、もう最強ではないですか。
けれど。
賞をもらって有名になるよりも、大切な人たちと大切な娘を囲んで笑いあえるなら、そっちの方がよほど大切。
そう思っちゃったのですから、仕方ないのです。
「わたくし元々、世を震撼させる問題作を書いて、史上に、極悪最凶の変態作家として名を残す予定だったのですけど…… 意外と、普通のお色気作家だったみたいです」
「それも良いと思うわ?」
「ええ、本当に」
もう一度、娘を高い高いしてあやす私の声に、「では俺はお嬢様ごと」 と娘ごと私を持ち上げる旦那さまの声が重なり、そして……
キャッキャッと笑う愛しい幼い声が、イロイロと丸出しの天使たちが描かれた天井に、響いていきました。
(終)
ここまで読んでくださり、有り難うございます!
いきなりですが、めでたく完結、でございます!
…… 普通は、前回くらいには次話完結のお知らせ出すもんじゃない?
と、めっちゃ自分ツッコミ入れてたんですが…… 実は、あまりにも長く続けすぎて、本当に次クロージングできるのか、ってのが前回の段階では分からなかったんですよ……!(爆)
書き方を勉強させてもらいつつ書いたので、完成度はアレですが(笑) 『今しか書けないものを、精一杯書く』 ということを心掛けた作品です。
予想外に沢山の人に読んでいただけ、有難い限りです。
最後になりましたが
素晴らしいレビューを下さった 間咲正樹さま、カバ太さま、黒鯛の刺身♪さま、ホツマツタエさま、kisaragiさま、平坂睡蓮さま、円さま、マックロウXKさま、雨音AKIRAさま。
画面が光輝くような美しいFAやバナーを下さった 秋の桜子さま、砂臥環さま。
そして、ほのぼの日常と銘打ちつつ、しばしば入る軽エロ回や鬱回にもめげず、感想くださりブクマ継続してくださり応援★くださった皆様。
本当に本当に本当に本当に本当に本当に、ありがとうございます!!! m(_ _)m
2021/09月 りすこさまより、ユーベル先生のFAをいただきました!
りすこさま、どうありがとうございます!




