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その境界の先  作者: nao 11
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~神と人と魔族と~ 終

 次に目を開けた時、そこは見慣れない空間だった。始めはまた死んだのか? なんて思ったが、どうやらここはバルカニアの城にある救護室らしい。周りは怪我人だらけだが、映画の野戦病院とかで感じる悲壮感は感じられない。むしろ程度が軽い奴は笑いながら話をしていて、和やかな雰囲気に包まれていた。いつもの様に起き上がって思い出す。体がある。鎧は消えているが五体満足でベッドに寝ていたところをみると、カロンの魔力で生き延びたのだろう。


 「……体は動くか。さて、どうしたもんかな」


 ベッドを降りて出口に向かう途中で声を掛けられる。そこには小さな体をベッドに横たえたニーナが本を読んでいる。


 「やあ、もう動けるのかい? 竜一君」

 「お前、俺が分かるのか」

 「分かるも何も、ここに運ばれた時にシリウスちゃんが連呼してたから簡単に分かるさ。何よりその目つきの悪さ! 大人になってもそのままじゃないか♪」

 「うるせえ、ってお前も怪我してたのか」

 「ボクは体力と魔力を使い過ぎてね。大分落ち着いたけどクリスちゃんが寝てろってうるさくて」


 お互いの無事を知り軽く笑いあう。こんな軽口を気軽に叩き合うのも随分と久しぶりだ。ひとしきり話して落ち着いた頃、ニーナが静かに口にする。


 「……行くのかい? 食堂では絶賛祝勝会の真っ最中だし、城下でもちょっとしたお祭り騒ぎだ。楽しいよ?」

 「悪いがそんな気分でもなくてな。縁があったら、また会おうぜ」

 「……そうかい、いつでも帰っておいで」

 「色々と、ありがとうな」


 救護室の扉を開けると、離れているはずの食堂から賑やかな声が響いてくる。それに城下町の方からも笑い声が絶えない。こうしていると、この空気、光景を守れて本当によかったと思う。だが同時に、これから何をすればいいのか分からない。城を降り、城下町を歩いて行く。どこも笑いあう人で溢れ、楽しさと安堵で満ちている。素晴らしい景色だが、その中にいる自分が想像できない。歩き続ける内に城門まで行き着き、通り過ぎる。ここは西門だったか、まあどこでもいい。今は何をすればいいか、何をしたいかを探したい。ゆっくりと歩いていると、後ろから走ってくる音がした。


 「竜一! 目が覚めたのか!?」

 「シリウスか。全部、終わったんだな?」

 「モルガン殿達は一度帰った。近い内に人間と魔族は終戦し、お互いの領土を定めて共存する。お互いの復興を助けあいながらな」

 「そうか、よかったじゃないか」

 「そこでだ、お前さえよければ騎士として迎えたいと話が出ている。これは隊長格全員の意見だ。バルカニアに、就いてくれないか?」

 「……ありがたい話なんだが、悪い、今はそんな気になれないんだ。どうすればいいか、分からない。だから俺は、この世界を見て回ろうと思う」

 「……分かった。お前がそう言うなら止めはしない。ただ私達は、いつでも待っているぞ」

 「ああ、ありがとうな。色々大変だろうが、お前は俺みたいにはならねえだろう。これからを、頑張れよ」






 「それが彼を見た最後ですか。西門から出発したということですが、そこからどこへ向かったかは聞いていませんか?」

 「いえ、ただ世界を見て回りたいとのことだったので」

 「あの大厄災から既に五年ですか。ところで大陸の西、ドルクで身元不明の異邦人が水死体で上がったとのことですが、彼とは無関係ですかね?」

 「はい、あいつが簡単に死ぬ筈がありません」

 「はっはっは。いやあ、実は話を聞いた関係者全員がそう仰ってるんですよ」


 目の前に座る恰幅のいい記者はそう言って笑う。あの戦いから五年。各地は少しずつ復興を始め、命は徐々に芽吹きつつあった。僅かに生き残った魔族と人間の衝突は散発的にあったものの、共存を良しとする国の方針でそれらを治めている。だがそれでも首都の影響力が薄い地域もあり、そんな場所では人と魔族の共存は未だ時間が掛かる様だ。


 「ではこちらでしょうか。より北部、ノールの辺りで人間と魔族の摩擦問題があった様ですが、名も名乗らぬ一人の男性がこれを仲介しています。大きな街ではこれが目立ちますが、よくよく調査すれば周辺の小さな集落でも人間と魔族の仲介をしている男性がいるらしい。こちらはどうです?」

 「恐らくはそちらでしょう。あいつはなんだかんだ、世話焼きですからね」

 「成程。彼の実力を以てすれば不可能ではないでしょうな……」


 そこまでの情報を手帳にまとめ、記者はお茶を飲む。自分が客に出せるものを淹れられるかは疑問だが、飲めるくらいのものではあったらしい。記者は軽く喉を潤し、更に続けた。


 「しかしあの隊長の一人、シリウスさんがこんな辺境での暮らしとは。何かあったのではと勘繰る人もいらっしゃる様ですが、そのあたりは如何です?」

 「このアミナに居を構えているのは偶然みたいなものですよ。強いて言えば姉に関わる地に近いし、各地の復興や開発には隊長が出向いていますから丁度都合が合ったってところです」

 「ふむ、確かに被害が大きかったり新しい開発が必要な地域には隊長が出向いていますね。そういった事情でしたか、無神経に踏み込んで申し訳ありません」

 「いえ、そこは関係者以外には話していませんし、構いません」


 記者は丁寧に頭を下げた。情報を命とする記者ではあるが、個人の事情に入り込んで暴露する程腐ってはいない、とは彼の談だ。しっかりと頭を下げた後、話のまとめとして記者は切り出した。


 「では最後に、各地の復興が進めば彼と再会する日もあるかもしれません。その時はどうしますか?」

 「私が改まって何をする、というのは特にありません。あいつが何かしたい事を見付けているなら、それが私に応援できるなら、出来る限りの応援をしたいと思う。それくらいです」





 集会所は重々しい空気に包まれている。村外れからほど近い場所に潜んでいた魔族が、村の子供を誘拐したのだ。要求は至極単純に食料。村の周辺で作物の採れる土地は限られており、奴らは飢えている。しかし村にそれほどの余裕は無い。村人だけならともかく、奴らの分まで賄うなど到底不可能だ。だが渡さなければ子供の身が危ない。集まった大人の討論は堂々巡りを繰り返す。だがそれを打ち破ったのは、一人の訪問者だった。


 「えーっと、何だか揉めてるらしいな? 魔族の関係で」

 「客人よ、今は相手をしている暇がない。悪いが早々に出て行ってくれ」

 「まあ待てよ。その一件、俺に仲介させてくれないか? 人質を取るってことは、この村を皆殺しにする程バカじゃないってことだ。なら話が出来る」

 「なんだあんた、奴らに味方するのか」

 「残念だが俺はどっちの側でもない。それでも人間と魔族の争いってのは止めて欲しくてね。色んな所で仲介してるのさ」

 「何? あんたまさか、最近噂で聞くあの……」

 「まあ一つ、任せてみろって」


 男は歯を見せて不敵に笑った。


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