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その境界の先  作者: nao 11
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~剣と盾~ 4

 「はっ…… ここは、牢屋か?」

 目が覚めたのは牢屋、荒削りの石で敷き詰められ鉄格子で閉じ込められた小さな部屋だった。湿度の高い嫌な空気と必要最低限の明かりは、世界が違えど罪人の隔離場所だと分かる。意識が飛ぶ前の最後の記憶は、地面に伏せて見上げた盾を構えるあの女。

 (捕まったのか…… てっきり殺されたかと思ったが)

 どうやらぶち込まれただけらしい。折れた剣はもちろん荷物も持っていないが、あの戦いでの傷以外は怪我もない。そして俺の腕は意識が途切れたせいか元の腕に戻っていた。牢屋を見渡したが掘られた小さな穴のトイレぐらいで他には何もない。できることもないのでじっとしているが、違和感がする。物音がしないのだ。看守の足音も他の囚人の呻き声も、不自然な程の静けさが、この牢獄を包んでいる。これからどうするか、まずは外部との接触機会を探らなければ。そんなことを考えながら何時間経っただろうか。疲労のせいか少し眠気も出始めた頃、この牢獄に音が響いた。誰かの足音だ、コツコツと歩くような早さでこちらに近づいて来る。鉄格子に寄り添う様に座っていた俺は、近づいて来るのが誰かがこちらに着く前に分かった。あの盾女だ。

 「捕まったとは思わなかった。死んだと思ったね」

 「出ろ」

 軽い口調で反応を見てみたが、特に返されることもなかった。命令されて不本意ながら捕まえたってことでもないらしい。益々分からないことだらけだが、とりあえずは指示に従うことにした。手錠に首輪、その先の鎖を持たれ、まさか自分が囚人になるとはな。引かれるがままに付いて行くが、あの場所は地下の牢獄らしい。しかも今は真夜中らしく誰の姿もない。通路を抜けた先は城内と思われる大きな通路だった。このまま城のどこかに行くかと思ったが、向かったのは予想に反して正門の方だった。通常開門されるのとは違う兵士用と思われる入り口を通り、外に出てしまった。

 「おい、出ちまったけどいいのか」

 「黙って歩け」

 聞いてもそっけない反応で取り付く島もない。ここは諦めて付いて行くか。そう思い歩き続けると、どんどん小さな路地に入っていく。その先で辿り着いたのは、行き止まりの小屋。その小屋の中は乱雑な倉庫だったが、更にその先に階段がある。

 (まるでスパイ映画のアジトだな……)

 階段を下りた先の扉を開くと、突拍子もない光景に俺は目を丸くした。


 「やぁ来たねシリウスちゃんに竜一君。ようこそ我らが秘密基地へ」

 「子供の遊びではないのだぞ」

 「なんだこりゃ!?」

 そこは文字通り秘密基地だった。大きなデスクに地図が広げられ、部屋を囲む様に書類棚が並ぶ。そのデスクの向かい側には両手を広げニーナが立っていた。

 「まぁまずは説明しよう。手錠と首輪も外してあげるからゆっくりして」

 「妙なことは考えるなよ、今の貴様は丸腰だ」

 「何も分からずに暴れる程バカじゃねぇよ」

 窮屈だった拘束を解かれ、席に座る様に促される。先に二人が座るのを見て話す気があるのを確認してから、俺は席に腰を落とした。

 「で? こりゃどういうことだ?」

 「そうだね、簡単に言ってしまえば、ボク達はクーデターを考えているんだ」

 あまりの内容に口が塞がらない。簡単にって、そんな簡単に話せる問題なのか!? そしてそれを聞かされた俺はどうなるんだ。そんな俺の戸惑いなど、ニーナはお構いなしだ。

 「陛下に不満を持ってる人間がある程度いることは多分知ってるよね? 陛下の方針は優れた人間を生き残らせ魔族を滅ぼし、この世界を人間の世界として続けることなんだ。それは逆に言えば、役に立たない人間はどうでもいいってことなんだよね。ボク達の行動原理はそこさ。魔族を滅ぼすのはともかく、同じ人間で切り捨てるっていうのは看過できない。だからその考えをボク達がひっくり返すのさ」

 「まぁそりゃ、言ってることは分からんでもないが、クーデターって大丈夫なのか?」

 確かに犠牲を許せないのは理解できる。だが成功する望みがあるのか、そしてその後はよりよく民を導いていけるのか、俺の頭にはそんな疑問が付き纏う。

 「もちろんいきなり最善の方法を見付けることは難しいだろう。でも今のままでは必ず犠牲が出る。その分かりやすい例は、君が蘇ったあの村だ」

 急に出てきた話に再び面食らう。あの小さな村がなんだというのか、護衛の騎士も入り安全なはず、そんな思考を見透かす様にニーナは冷たく続けた。

 「ボク達が通り道で見た城の上部に伸びる塔、あれは超巨大マギナイト兵装『アヴァロン』、起動できる人間は現状陛下だけ。起動すると目標に向けて頂上が向けられ、巨大な砲の様に動くんだ。そして一度放たれれば凄まじい威力で通り道の全てを消し飛ばす、計算上はね。あの村はあれの射程に入ってるんだ、魔族の領域との境目だからね。そしていざとなればあの村だけではなく境目の集落は全て『アヴァロン』の餌食になる」

 「そんなの、もう見境なしじゃねぇか!!」

 「だから私達はそれを止めるのだ。そして、貴様を連れてきたのはこちらに引き入れる為だ」

 「そ! それで竜一君にはボク達の仲間になって欲しいんだ。君の力は言わば隠し玉、ボク達が敵になったと知られたらあっという間に対策されちゃうからね。だから全くマークされていない君が必要なのさ」

 話が本当なら見過ごせない、だが俺には目的がある。それを放置していられる程のんびりしたくもない。選択に悩み言葉に詰まる。そんな俺の背を押したのは、意外にも気に入らないあの女だった。

 「……貴様が手を貸すなら、探している『銀髪の魔女』について話してやろう」

 「……やっぱり知ってたんだな。協力するなら、本当に話すんだろうな」

 単純だとは思ったが、俺はその情報に食いつきこいつらの陣営につくことを決めた。瓜二つの容姿、よく知っている様な口振り、絶対にこいつは持っている。核心に近い情報を。

 「そういえば君達自己紹介してないじゃない。ここで済ませておきなよ」

 「……俺は竜一だ。よろしくな盾女」

 「精々役に立て。そして私はシリウス・ベオウルフだ。第七部隊の隊長を務めている」

 ボルトに言われていた問いかけるべき相手、俺は気付かぬ内に引き当てていたようだ。


 「ところで具体的にはどうするんだ? ドンパチするなら剣が折れちまったんだが」

 「それについては大丈夫、君の為にとっておきを用意したよ」

 ジャーンという掛け声でニーナが奥から台車を運んでくる。布を被せられたそれは1m半くらいの長さはある結構な大きさの物だった。そしてその布が剥がされた下には、片刃の剣が一振り置いてあった。刃の根本には小さな青白い結晶が埋め込まれており、まるで装飾品の様だ。だが素人の俺が見てもそれは相当な業物であると分かる。

 「これは君の剣だ。サービスでマギナイト結晶も埋め込んだ豪華な一品だよ!」

 「なんでこんなもんを…… いつの間に用意した?」

 剣を作り上げるなんて昨日今日で出来る仕事じゃない。俺がニーナと会ったのはここ数日の話だ。どうやって準備したのか理解できずにいると、

 「実は城に残されて眠っていた一本を拝借したんだよね。まぁ活用する方が剣も嬉しいでしょ」

 つまり盗んできたとあっさり吐いたニーナに、俺はまた空いた口が塞がらなかった。

 「ニーナに使い方を習い馴染ませておけ。戦いが始まれば誰も助けない」

 シリウスはそれだけ言って部屋を出ていった。悔しいが、戦い方が未熟なのは否定できない。その時が来たら目に物見せてやると、俺は剣を握りながら改めて心に留めるのだった。




 「陛下、黒騎士があちら側についたようです」

 「そうでなくてはならん。不運、理不尽に泣き寝入りする様では我が求める強き民には不足だ。そうでなくては、この世界を生きることはできん。我が為した様に、力で勝ち取らねばならんのだ」

 皇帝はその重い腰を玉座から上げる。そして跪く配下の部隊長を前に宣言した。

 「準備を始めろ。ただし事が起きる前に先に潰すことは許さん。真っ向勝負で叩き潰してこそ力を証明する。世界を導く担い手となる。……これが人類の未来の分岐点だ」


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