~剣と盾~
「いやー、見れば見る程不思議だねぇ。幼体のドラゴンなんて滅多にお目にかかれないから全く飽きないよ」
「ちょっと隊長さん、あんまりアジリオをいじめないでくれよ」
従者に馬車を引かせ、ニーナは暢気にアジリオに興味津々だ。そんなニーナにトニーが釘を刺す。言われた当人はやだなぁと随分軽い様子で流しているが。
「この子が孵化してからどれくらい経つんだい?」
「3か月くらいだよ。でも生まれた時からあんまり変わらないんだよね」
トニーはまじまじとアジリオを眺めながら答えた。普通の動物とは成長の度合いが少し違うらしい。目の前のドラゴンとトニーを見つめながら、ニーナは説明する様に続けた。
「ドラゴンは成長するのに養分だけでは足りないからね、恐らく与えていた食べ物では空腹を抑えられても成長は出来なかったんだろう。通常のドラゴンは獲物が持っていた魔力も一緒に取り込んで自身の成長に使うんだ」
「へぇ、そうやって大きくなっていくのか? 普通の食い物だけじゃ成長しないなんてなんつーか不思議だな」
思わず感想を漏らすと、ニーナは目を輝かせながら嬉々として説明を続けた。これは長くなるな。
「そう! これはドラゴンだけの特徴でね。獣であれば栄養を、妖精ならば自然に生み出される魔力を。そんな感じで、生きていくのに必要とするのは大体そのどちらかなんだ。しかもドラゴンは育った環境や晒された魔力によって姿や力が大きく変わる。熱に晒されていたり炎の魔力を与えられれば火炎を操る種族に、といった感じで成長していくのさ。だからこの子は生きてはいても成長が出来ていない。まぁ無理に魔力を与えてどうこうする気は無いから安心しておくれ」
余程話したかったのか、ニーナは随分と饒舌に喋る。しかし大きくなっていくというよりは進化していく様な印象だ。ドラゴンとは思ったよりもずっと複雑で不思議な生き物らしい。
「魔力を十分に蓄えるとドラゴンは自らの体を作りかえる。その前後では姿がまるで違うから“成長”と言うより“転生”って言った方が正しいかもしれないね。もしもこの子が成長するならどんな姿になるのか、興味は尽きないな」
「……やっぱり成長した方がこいつもいいのか? 隊長さん」
「うーん、聞いてる感じだと成長は自然なことみたいだしな、魔力の与え方なんてわからんが」
トニーはニーナの説明を聞いて少し不安そうに尋ねた。もちろん無理に魔力を与えて成長させるなんてことは思わないだろうが、成長することが自然ならその方が良いのではないかと考えたのだろう。そんなことはお見通しと言わんばかりに、ニーナは穏やかに答えた。
「大丈夫、魔力を欲する時が来ればこの子がちゃんと欲しがるからその時に与えてあげればいいさ。ちなみに魔力を与える方法は結構あって、新鮮な餌を与えるとか、餌に純度の高いマギナイト鉱石を粉末にして混ぜるとかこの子の負担にならない方法もあるから心配しなくていいよ」
「姿形が変わるって言われても想像できないな。俺の想像力が乏しいだけかもしれんが」
ニーナは俺の呟きを聞いて思い出した様にこちらを勢いよく振り向いた。
「姿形が変わると言えば、竜一君だっけ? 君の腕も面白いねぇ。ボルトさんから大体の事情は聞いたけど、クリスちゃんと戦ってた時は両腕が変わってた? ボルトさんの話が違ったのか、最初は本気を出してなかったのか、いずれにしても興味があるね。どうだい? ボクの研究室で調べさせてくれないかな?」
「あれは頻繁に使えなくてな。俺としても力を詳しく知りたいところだが、そんなにのんびりもしてられねぇんだ」
「そういえば兄ちゃんは旅の途中だっけ。バルカニアが目的地なの?」
「とりあえずのな、そこでちと調べることがある」
子供に血生臭い話をする必要もない。それとなく話を終わらせ、俺は以前から興味を持っていたある“物”について尋ねた。
「なぁニーナ、ボルト達が使ってたマギナイト兵装っていうのはなんだ? 兵装って言うくらいだから武器だろうと思うが、ボルトとクリスじゃ形に随分違いがあったな。騎士に配られる装備みたいなもんか?」
「あーあれかい? お教えしよう! マギナイト兵装とは騎士の中でも隊長にしか配られない一品物の専用兵装さ。鉱石から精製されたマギナイト結晶が埋め込まれてるけど、その形状や戦い方はそれぞれで大きく異なる。ボルトさんだと両手足のリングに結晶が内臓されてて、魔力を注ぐことでマギナイト流体を発生させる。その流体を噴出して推進力を得て、力と速度でぶん殴るって感じかな。クリスちゃんのは銃型で、内臓されてる結晶に魔力を注いで流体を出すとこまでは一緒だけど、その流体を弾丸状にして飛ばすことで攻撃するんだよね。流体は固形化することもできるから様々な使い方が可能なんだ。それで各隊長は使いやすい物にカスタムしてる訳だね」
俺がパラニラで掘っていた鉱石、名前からして使われているとは思っていたが、こんな用途で使われているとは思わなかった。しかし使い方がなんというか、随分自由が利くらしい。ジェット噴射みたいに吹かすことも、銃弾の代わりに撃ち出すこともできる。まぁ魔力を扱えるのが前提だろうが、世界が違えば武器も変わるものだな。
「さて、マギナイト兵装の説明は終わり! 代わりにその腕について、話だけでも聞かせてくれないかな? 何かしようって訳じゃないから安心してって」
「なんかそこまでしつこいと怪しさが滲み出てくるな…… まぁ話くらいならいいか」
時間を持て余すこともあり、話だけなら減るものでもないし俺はニーナに力を手に入れた経緯と使った感触を話した。最初は右腕だけだったこと、使うと良く動けること、カロンから言われた“浸食”のこと。ニーナは話をまめにメモして情報を整理しているようだったが、似たような例を知らないのか、幼いその顔に似合わず眉間にはずっと皺が寄っていた。
「ふーむ、集中するだけで起動できて、使うと段々鎧の部分が増えていって、自発的に他の魔術を使わなくても肉体的に補強がされている。呪文や魔法陣を使っている訳でもないし、君は魔族ってことも無い。ここでは推測もできないなぁ」
「ボルトも分からないって言ってたけど、そんなに珍しいもんか。魔術とやらと変わらん様に思えるが」
俺にはボルト達が使う魔術とこの力の違いが良く分かっていなかった。そういったものとなんら関わりの無い世界から来たこともあるが、目に入る未知の現象は皆自分の中で“不思議なもの”といった感じの括りになっている。だがその認識は正しくないらしい。
「魔術とは、ボク達人類が繰り返し研究し確立した魔導の技術。魔法とは魔族が先天的に理解している魔力を使った能力。魔術とは必ず理論があり、使い方や効力、その影響に至るまで明らかになっている。だが君の力はそれではない。しかし先天的に持っていた訳でもない。“死神に授けられた能力”。そういった意味で“呪い”という表現は正しいかもね」
「あんまりいい気分じゃないな……」




