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異世界から来たお姫様



「......夢だ。これは、

オーディションに落ち続けて

私疲れちゃってるんだ......

絶対に現実逃避の真っ最中に見ている悪夢だわ」


パジャマ姿の私......アカネは、自室の床から

天井までモコモコに生い茂った

「大量の桜の木と菜の花」の隙間に

埋もれながら、虚空を見つめていた。


昨日の夜まで家賃6万2千円の普通のワンルーム

だったはずの部屋は、現在、ここが

新宿とは思えないレベルのマイナスイオンを

大放出する謎の密林と化している。


おまけに部屋の隅では、私がバイト代を

3ヶ月貯めて買った冷蔵庫が、

まるで名刀で一刀両断されたかのように

綺麗に真っ二つに割れ、

哀れに火花を散らしていた。


「おはようございます、アカネ様!

裏山の野草(※近所の街路樹)の収穫を終えて

戻りました!本日の朝食は、

我が春の魔法で限界突破まで熟成させた、

もぎたてのニンジンにございます!」


頭からふさふさのうさ耳を生やした

フリルまみれのメイド【ハルカ】が、

泥のついたニンジンを両手に掲げて

ドヤ顔で白目を剥いている。


「......ハルカ。あんた、女神様から

日本の知識授かったって言ってたよね?

なんで部屋の中にサクラ咲かせてんの? 

あと私の冷蔵庫が死んでるんだけど」


「はいっ!日本の春は

【おはなみ】という儀式のために、

部屋の中に桜を再現するのが

一般的なマナーであると!

さらに、そこの魔道具の白い箱ですが......」


「箱じゃなくて冷蔵庫ね」


「アリエル様に向かって急に『ブーーン』と

不敬な音を立てて威嚇してきたのです!

ゆえに、万死に値すると判断いたしました!」


「電化製品のモーター音に

ブチ切れてんじゃねえええよ!!」


私の絶叫が響き渡る中、

部屋の真ん中で風の魔法でフワフワと浮かせた

クッションの上で、優雅に紅茶を嗜んでいる

金髪の絶世の美女が

面倒くさそうにこちらに視線を向けた。

背中に神々しい半透明の羽を生やした、

異世界の不老不死の精霊のお姫様、アリエル。


「騒々しいですわね、アカネ。

朝から虫ケラのようにワーワーと......。

アリーに向かって威嚇してくるような

不敬な魔道具に風の刃で軽く

躾をして差し上げただけですわ。

アリーはね、売られた喧嘩は買う主義でしてよ」


「躾って何だよ真っ二つじゃねえか!! 

弁償どうすんだよコンチクショーーー!!」


頭を抱えてのたうち回る私を見て、

アリエルはフッと、あまりにも美しく、

そしてあまりにも邪悪な笑みを浮かべた。

爪の先まで優雅に美しいその精霊姫は

人差し指をこちらに向けて、

クスクスと小馬鹿にするように喉を鳴らす。


「クスクス......これだから人間という

脆弱な雑草は困りますわ。

家電だか何だか知りませんが、

そんなゴミ一つで、命を削るような顔をして

泣き叫ぶなんて......。ざーこざーこ♡

命もお金も、なーんにも価値のない

ただすぐ死ぬだけのよわよわザコ雑草ですわ〜」


「誰がザコ雑草だお前ええええ!!」


「あら、違いますの?ハルカが部屋に咲かせた

この『サクラ』という春の木もそうですわ。

咲いてからたったの1、2週間で

ボロボロと自滅して散っていく

ただのザコの木ではありませんの。

こんな弱いものばかりに囲まれて生きている

なんて、本当にざーこざーこ♡ですわね!」


お嬢様言葉のイントネーションで放たれる

容赦のない「ざこ煽り」。

あまりの格の違いと煽りのウザさに

私のツッコミのボルテージは

朝から最高潮に達していた。



なぜこんなことになっているか......

時計の針を、昨日の夜に戻そう。






大学4年生の春。

役者の夢を諦めて普通の就活をしようか、

それともオーディションを受け続けるか、

私は人生最大の葛藤の中で

トボトボと夜道を帰っていた。


【演技も歌も上手いんだけどね〜、

どうも君のは魂がこもってないというか、

人の心に届いてないというか......】


「はぁ......またダメだった......

はっきり理由告げてくれないと、ていよく

不合格にされたようにしか思えないよ......」


夜の新宿。オーディションの原稿をカバンに

しまいながら、私はため息をついていた。

街はネオンできらびやかに輝いているのに、

私の未来だけが真っ暗闇に思える。

周りの友達はみんなリクルートスーツを着て

就職を決めていっているのに

私は何をやっているんだろう。


そんな感傷に浸りながら人の少ない

路地裏の公園を通りかかった、その時だった。


「ハルカ。アリーは非常に不愉快ですわ。

なぜこの至高の精霊姫であるアリーが、

このような空気の臭い世界の、

冷たいイスに座らされねばならないのですか?」


「も、申し訳ございませんアリエル様......!

女神様から我が脳内に伝えられた

『にほんのちしき』によると、金を払えば

『ほてる』という宮殿で優雅に眠れる

はずだったのですが......まさか、女神様が

お金を持たせるのを忘れるとは

私の予測を遥かに超えておりました!」


街灯の薄暗い光の中に、

あまりにも浮世離れした二人の美女がいた。

一人は、フリルまみれのメイド服を着て、

頭からうさ耳を生やした少女。

そしてもう一人はクソ高い

背もたれ付きの玉座にでも座っているかのような

威厳でベンチに腰掛ける、金髪の絶世の美女。

その背中には美しい羽が夜風に揺れていた。

コスプレイヤー?

にしては、オーラがガチすぎる。


「お金がないなら、ハルカの魔法でそこらの

建物を空気の良い森林に作り替えなさい。

菜の花の苗床にして更地にすれば

アリーの寝所くらい確保できるでしょう?」


「はっ! かしこまりましたアリエル様!

ではさっそく一帯の建築物をすべてお花畑に!」


「待て待て待てーーーい!!」

聞き捨てならない物騒な単語が聞こえて、

私は考えるより先に二人の前に飛び出していた。


「更地にするって何!?ここ新宿だよ!?

お花畑はあんたらの頭の中だけにしてよ!?」


私の突然の乱入に、うさ耳メイドのハルカが

素早くアリエルの前に立ち塞がる。

「これ、不敬ですよ無礼者!

アリエル様は偉大なる精霊の女王にして

不老不死の至高の存在!

女神様の指示で勉強のために

この世界へ来られたのです!」


「はぁ!? 精霊姫!? 不老不死!?」


呆然とする私を、ベンチに座った金髪の美女

【アリエル】が、冷徹な瞳で見下ろした。

まるで、道端を這いずるただの虫ケラを

見るような嫌悪の視線。


「うるさい虫ですわね。

生意気な口を利くなど

本来なら一族諸共、灰も残さず

消し去るところですわ」


「ひっ......!」


そのあまりの美しさと、

本物の『死の恐怖』を

本能で察知して、私はその場で

すくみ上がってしまう。

この人、コスプレなんかじゃない。

本物のヤバい奴だ。


しかし、ハルカが気まずそうに

金髪美女の耳元で囁いた。

「あ、あの、アリエル様。現在私たちは

一文無しの宿無しでございます。

ここで現地人を消し去っても、

今夜の宿は手に入りません......」

「チッ。なんでいきなりこんな目に......」

アリエルは美しく整った眉をひそめ、それから、

すくみ上がっている私を値踏みするように見た。


そして、フッと、小馬鹿にするような

邪悪な笑みを浮かべた。

また人差し指を私に突きつけ、

クスクスと喉を鳴らす。


「クスクス♡そこのよわよわな雑草さん。

アリーはね〜、とっても寛大なのですわ。

お金も宿もなくて困っているアリーたちに

あなたの家を差し出す権利をあげますわ。

......まさか、この至高の精霊姫アリーを

地べたで寝かせる気じゃありませんわよね?

そんな 宿の手配ひとつできない

ざこ雑草ではありませんよね?」


「誰が雑草だ!!っていうか

初対面で『ざこ』って言うお姫様があるか!!」


恐怖の後に、猛烈なウザさが込み上げてきて

私のツッコミが炸裂した。

一文無しのくせに態度がギガマックスでデカい。


「アリエル様はこう仰っていますが、

一宿一飯の恩は必ずこのハルカ、

うさぎの誇りにかけて全力でお返しします!

どうか、どうかこの通りです!」


うさ耳をペこりと下げて頭を下げるメイド獣人。

態度が最悪なとんでも姫様とお付きのメイド。

私は役者志望の貧乏女子大生だ。

他人の心配をしている余裕なんて一ミリもない。


家賃6万2千円のワンルームに

こんな不発弾みたいな二人を連れて帰ったら

めちゃくちゃにされることくらい猿でもわかる。

わかる、はずなのに。


「......はぁ。ワンルームで狭いし、

ちょっとは協力してもらうからね。

そんな困ってるなら......うち、来る?」

気がつけば、私の底辺お人好し精神が

勝ってしまっていた。


「いい心がけですわ。あなたの汚い巣を

内見して差し上げますわ。おーっほっほっほ!」


いちいちムカつく高笑いする姫様を引き連れて

私は自分のアパートへと歩き出した。






これが、私と、生意気な精霊姫の、

最悪で最高な1年の始まりになるとも知らずに·····






そして、翌朝。

部屋がサクラまみれの植物園になり、

冷蔵庫が真っ二つになる

大惨事へと繋がるのである。














読んでいただきありがとうございます!


もし少しでも面白いな、

続きが気になるなと

思っていただけましたら

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