紫陽花と天使のはしご
しとしとと降りしきる雨の中。
小学校低学年くらいの幼い少年と少女が並んでしゃがみ、鉢植えに咲いている紫陽花を眺めていた。
「いつか紫陽花の花がいっぱいの庭にしたいんだ」
少女は、その小さな胸に抱いている夢を初めて口にした。
「そうなんだ。この花がいっぱいの庭かあ。僕も見てみたいな」
少年は素直に自分の想いを口にする。
それが少女の背中を優しく押しているとは気付かずに。
「じゃあ、いつかまた見においでよ」
少女は、もう一つ夢ができた。
少年は、いつやってくるか分からない未来の約束をした。
二人の笑顔の色が濃くなり、視線はまた紫陽花に向けられる。
しかし、視線は時折お互いに向けられ、重なるたびに少しだけぎこちない空気に包まれた。
いつの間にか傘に当たる雨の音は弱くなっていて、空も明るさを取り戻し始めていた。
そして、雲間から太陽の光が筋となって降りてきた。
「天使のはしごだ」
少年がそう口にすると、今度は二人で空を見上げた。
その短い時間だけ降りてきた光のはしごに、二人は目を奪われ、言葉を失っていた。
雲間が広がるにつれて、はしごは形を保てなくなっていった。その代わりに、今が梅雨だということを忘れてしまうほどの澄んだ青空が姿を現した。
その青空を見て、少年はとあることを思いついた。
少年は紫陽花の鉢を持ち上げ、少女の不安そうな視線を受けながら、背伸びをしながら門柱の上に鉢を乗せた。
それから門柱のすぐそばにしゃがんで空を見上げ、納得したように頷いた。
「見て! この花、空と同じ色してる」
少女は少年のすぐ横から同じように見上げる。
風に揺れる青い紫陽花の花が、まるで気球のように雲間からのぞく青空の中を飛んでいるように見えた。
少女はいっそう目を輝かせて、少年の作った景色に見入っていた。
「あっ、そろそろ帰らなくちゃ」
少年は視界の端に、自分を探しにきたであろう父の姿に気付いて立ち上がり、歩き出した。
その少年の背中に向けて、少女は呼びかけた。
「ねえ! また会えるよね? わたしは“ ”っていうの。キミは?」
少年は立ち止まり、少女に手を振りながら答えた。
「きっとまた会えるよ。僕は――――」




