75 王都へ1
ランベルティーニ子爵は私達に王都へ向かうために必要事項が書かれた書類を渡すと直ぐに部屋を出て行った。するとみんなふっと張りつめた気を緩ませるのがわかる。
「余計なことを言うなよ」
直ぐに眉間に皺のカイから苦情が入った。私とカイは特級遺物保持者として並んで立っていたので私の独り言はカイにしか聞かれていなかったようで他の人達が怪訝そうな顔をしている。
「つい出ちゃったの。でも凄くない?あのお貴族様」
「凄いとか言うな」
「いや俺もハマった」
同志ピッポが話に加わった。
「だよね?あんなの初めて見た。もっと話がしたいよね」
「いやそこまでじゃない。俺は貴族とかって偉そうにしてるけどあんなちっさいオッサンも居るんだなって思っただけだ」
私がノリノリでピッポに乗っかったのにあっさり裏切られた。
「なんでよ!」
「いや大きさ的にはマルコと変わらんだろ?」
「変わるよ、マルコはもっとでっぷりして可愛げが無いじゃない」
「船乗りに可愛げは必要無いんだからアレで良いんだよ」
二人で言い合っている間に呆れてしまったのか、リュディガーとカイで宿を何処にしようかと相談し始めた。
「どこら辺にするかな。お貴族様はベッテルホテルだろうから出発当日はそこへ集合しなければいけないだろうし、かといって同じホテルはなぁ……」
リュディガーはこの港町で一番の高級ホテルの名を上げたようだ。
「いつもは何処に泊まってるの?」
何気なく私が問いかけるとリュディガーの頬がピクッとした。
「リュディガーはいつも私の屋敷に滞在しているのよ」
すかさずベルナデッタが彼に寄り添う。いつも、ね。やっぱりリュディガーが言ってたお嬢様ってベルナデッタの事なんだ。へ〜、ふ〜ん。
「それは仕事だからだ。今回は仕事じゃないから世話になるわけにはいかない」
「あら?いつでも泊まりに来てくれていいのよ。エメラルドさん達もご一緒にどうぞ。リュディガーはいつも決まった部屋があるのよ、私と同じ階の。でも部屋は他の階にいくらでもあるから」
ニッコリ微笑まれなんだかちょっとムカつく。
「ほぇ~、金持ちって凄いんですね。色々な意味で」
チラッとリュディガーを見れば目で何かを訴えてくるが気づかないふりだ。
「あぁ~悪いが宿は俺が手配しておいた」
カイはさっきクラリス商会で買い物をした荷物が既にそこへ運び込まれていると説明した。
「リュディガーの部屋も押さえたんだが……」
「じゃあ行こうか」
ベルナデッタに口を挟まれないように素早くドアへ向かうリュディガー。
「え、ちょっと待ってリュディガー」
追いかけるベルナデッタを仕方がないなぁという顔で見ているベニートがカイにホテルの名前を聞いている。
「コルデロホテルか、クラリス商会系列だな。君は商会の関係者か?」
「えぇ、まぁ」
カイは言葉少なめに返しそれ以上は話したくないという風にそそくさと部屋を出る。ベニートは一瞬眉を寄せたがすぐに私を笑顔で振り返った。
「エメラルドさん、名残惜しいですが一旦お別れですね。二日後に出発ということですが機会があればお食事にお誘いしてもよろしいですか?」
なんだか最初と随分態度と言葉遣いが違うのが気になる。
「失礼でなければご遠慮申し上げます」
「ほう、それは何故かお聞きしても?」
「食事は気楽にとりたいもので」
「私とでは無理だと?」
「そうですね」
「はは、こんなにハッキリ断られたの初めてです」
「そうですか。では失礼します。お世話になりました」
ピッポの腕を掴んで足早に部屋を出るとサイラとミラもついて来た。速度を緩めず店内を進む。
「エメラルド様、大丈夫でしょうか?オリエッタ商会の一族のお誘いをあんな風にお断りして」
サイラが心配そうに言うが大丈夫かどうかなんてわからない。ベニート程の容姿でお金持ちなら本人が言う通り本当に断る女はいないだろう。
「多分平気でしょう?そんなにやな奴じゃなさそうだったから」
もしかしたら今後メルチェーデ号との取り引きに影響するかも知れないけれどそうなっても事情を話せばモッテン船長はわかってくれるだろう。私が無理してベニートの言う事を聞いたと知られた時の方が怒られる気がする。きっとそうだ。
オリエッタ商会の店の前に出た時既にクラリス商会の馬車が迎えに来ていた。その前でリュディガーがベルナデッタに自分のお屋敷に来るように粘られていたが何とか振り切るとカイが手配してくれたコルデロホテルに一緒に向かった。
ホテルにつくなりドアマンが馬車のドアを開け流れるように部屋まで案内される。ホテルは三階建でクラリス商会の建物より小さいが静かで上品な佇まい。目に映る物はどれも高級そうだが落ち着く感じで、こういうのを品が良いというのだろう。
私達は最上階に連れて行かれ奥まった廊下の突き当りのドアが開かれると広々とした空間が広がっていた。
「こちらで宜しいでしょうか?」
案内してくれたホテルのスタッフ、ホテリエというらしいが、カイに確認をしている。
「あぁ、構わない、後は俺がやる。食事もここで頼む」
ホテリエは恭しく了承すると下がっていった。
「部屋の説明をするぞ。ここは貴族向け、または大人数向けの一角だ」
カイによると今いるリビングを中心にダイニングが一つ、マスターベッドルームが二つ、他に個室が二つに使用人用の二人部屋が二つある。勿論外部の目に触れない通路で繋がっていて人目につかない。この一角で事足りるように出来ていて汎ゆる物が備わっている。小さなキッチンも使用人用の部屋にあり軽食ぐらいなら直ぐに用意できるし、ホテルのキッチンから直通で凝った物も届けてもらえる装置もあるらしい。
「私達だけで泊まってるみたい」
「ま、そんな感じだ。お貴族様がやんごとない事情でお忍びで利用することもあるからな」
あてがわれたマスターベッドルームに行くと二日だけ滞在する予定の部屋なのにクラリス商会から運び込まれた日用品等が用意されていた。二日位なら別に着の身着のままで良かったんだけど、この先はそうはいかないようだ。他の物は馬車に積み込まれ当日持ってきてくれるらしい。
サイラとミラが部屋に備わっているバスルームやピカピカの高級そうなチェストの中を確認してる。私はその間にキングサイズだという広々としたベッドの大きさを堪能すべく手足を伸ばしてバタリと倒れ込んだ。
「ふぁ〜何このシーツの感触、しっとりスベスベ〜」
私の感想にサイラが微笑ましそうにしている。
「コルデロホテルはこの辺りで有名な高級ホテルですから。それとエメラルド様、少しお話を宜しいでしょうか?」
二人は急に神妙な顔をして私の傍に来る。なんだかこのままベッドで寝そべって聞く話じゃない雰囲気でサッと起き上がる。
「どうしたの?」
「これからの事でございます」
「これから?」
「はい。私達は今まで助けて頂いた御恩でお世話をさせて頂こうとついて参りました。けれどこの先もお仕えして良いものか迷っております」
私的にはそんな大層なつもりでお世話をしてもらっていたつもりはなくて。ただ二人が私がお金を負担したことに対して気兼ねなく過ごしてもらえればと思っての事だったが陸に到着したことで一段落した感じなんだろう。
「あ、そうか。二人共無事に街に帰ってきたって事よね。そもそも仕事で高速艇に乗ってたんだもんね」
「えぇ、まぁ」
言い難そうに曖昧な返事をしているが要するに家に帰りたいって事だろう。私は二人と一緒に再びリビングへ向かった。
皆一度荷物を置きに部屋へ行っていたがリビングに集まっていた。因みにマスターベッドルームは私が一部屋とカイがもう一つを使っている。特級遺物保持者だからね。
「ねぇねぇカイ。サイラ達家に帰るんだって」
リビングのソファにダラリと座っていたカイが、え?って感じで体を起こす。
「帰るって、どこに?」
「そりゃ家でしょ?陸ではそれぞれ家があるって聞いてるけど」
船ではどうにも部屋という感じで家という概念がよくわからない。
「あるのか?この街に?」
カイは二人に驚いたような顔で尋ねる。
ちょっとずつしか投稿出来ておりませんが宜しくお願いします。
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