76 王都へ2
失敗したー!と思ったらなんとかなりました。ほっとひと安心。皆様もケアレスミスにご注意下さい。
あぁ怖かった。
サイラとミラはお互いに顔を見合せながらもじもじとしハッキリ答えない。
「無いんだろう?」
「無いわけないでしょう、ねぇ?」
カイの言葉に今度は私が驚き二人を見たが無言のままだ。
「無いの?」
「無いさ、普通高速艇で働くような使用人は実家から出た行く宛が無い者がなる。まぁ高速艇だけじゃなく使用人として働く者は大概そうだ」
陸では屋敷等で働く人の殆どが住み込みで、衣食住が与えられる代わりに報酬は僅か。しかも船で働く事は陸ではかなり危険だと言われていて最低な職場の代表らしい。
そんなに船が嫌なのかねぇ?確かに今回は何度も死にかけたけど。
「じゃあサイラとミラは直ぐに他で働く当てがあるってこと?」
またもや無言だ。どうなってるんだ?
「俺達についてくるのが嫌なのか?」
「「違いますっ!!」」
即座に二人が答える。私は理由がわからないがカイは何かを察した様子だ。
「おおかたこれ以上なし崩し的にエメラルドの世話になるのが心苦しいとか思ってるんだろ」
どうやらその言葉は正しいようでサイラとミラは小さく頷いた。私は特級遺物を発掘しているとはいえただの平民でしかも命の恩人なのに負担を掛けているんじゃないかと思い悩んでいたらしい。確かに平民の私が使用人を二人も雇うとか費用的に有り得ないだろう。遺物が高価で取引されているとはいえ無限にお金が入って来るわけではない。
項垂れた二人は改めて暇を告げるように頭を下げると部屋を出て行こうとした。
「俺が雇うよ。正式にはクラリス商会で雇う」
サイラとミラの首がぐりんと凄い勢いで振り返る。
「ありがとうございます宜しくお願い致します!!」
即答!?
あまりの展開に驚いているとカイが引き気味ながらハハッと笑った。
「ここまで折り込み済みだったか」
そう言いながらホテリエを呼び出し雇用契約書を用意するように指示を出すとあれよという間に二人が正式にクラリス商会に雇われることとなった。サイラ達の笑顔がちょっと黒い気がするがまぁ良いだろう。彼女達は高速艇が沈没したことによって救助はされたものの無職になっていたのだ。たちの悪い奴等ならこちらが言い出すまで黙って私達についてきていたかも知れないがそれでは心苦しくて正直に話してくれたのだろう。だけどカイがクラリス商会の関係者だと知りもしかすると雇ってもらえるかもと思っていたようだ。これ位たくましくなければ生きてけないよね。
「サイラはエメラルドを、ミラはそれの補助と俺達の世話を頼む」
出された指示に二人は満足気に頭を下げると早速使用人用の部屋へ向かい準備を整えた。
なんだかバタバタしたけど元通りってことか。っていうか、カイって本当にクラリス商会の関係者でそこそこ権限を持ってるんだと実感した。ちょっと偉そうだもんね。
出発は二日後の朝ということで明日は丸一日時間がある。王都への旅支度は殆どクラリス商会に丸投げなので港街を見て回ろうということになり、みんなでどこへ行こうかとリビングで話していた。
リビングの奥に無駄に広い空間があり、大きなテーブルが中央に据えてあるダイニングで夕食の準備が進められていた。食べるだけの部屋とか私的には無駄だなと思うがお貴族様も泊まる時があるから必要なのだそう。
「お客様がおみえです」
お腹も良い具合に空いてそろそろ準備が整ったのかなとピッポと話していたらやって来たホテリエがそう告げる。客の予定なんて無かったのになと思っていると続けて名前が報告された。
「オリエッタ商会のベニート様とベルナデッタ様でございます」
「はぁ……」
リュディガーがわかりやすく項垂れた。だけどここで会わないとか選択肢には無いだろう。なにせ私の命の恩人でメルチェーデ号の大切な取引相手。リュディガーは嫌そうな顔を一瞬で整えるとカイに頷いた。
そこからは怒涛の展開で、何故か一緒に夕食をとることになり、いつの間にかリュディガーの隣にベルナデッタが座り私の隣にベニートが座り、何故か明日の観光にベルナデッタが同行する事になっていた。唯一助かったのはベニートが流石に仕事で明日は不参加の事だった。
騒がしかった夕食を終え、食後のお茶やお酒を楽しんだ後ようやくお開きとなり客人は帰っていった。
「はぁぁぁ……」と盛大にため息をついたのは私とリュディガーだ。
ベルナデッタがリュディガーにべったりなのはともかく。ベニートが私の隣でニコニコとして話しかけてくることに意味がわからず疲れてしまった。
「お疲れ様だな」
ようやく去った嵐に同情してくれているのかカイが半笑いで声をかけてくる。
「もう少し助けてくれても良くない?」
空気の読めないピッポでもベニートに船の構造について質問したりして多少助けてくれたのにカイはほぼ相槌だけだった。
「まぁまぁ機嫌直せよ。これさっき届いたぞ」
そう言って分厚い辞書のような物と少し高級そうな美しいペンを差し出してきた。
「なにコレ!?」
驚く私にカイがドヤ顔でテーブルの上にそれらを置いた。リュディガーとピッポも近寄って来て一緒にじっくりそれを見る。辞書の様な物は濃紺色の表紙で中央に金色で控え目に可愛らしい花模様が描かれていて、その下辺りに美しい装飾が施され金の台座に宝石と見紛うほどの輝きを放っている石が埋め込まれている。
「これって魔晶石?」
かがんでそれに顔を近づけ指で触れながら肩越しにカイを振り返るとコクっと頷く。
「そこへエメラルドの魔力を込めとけば他の誰にも開けない」
この辞書の様な物は魔導具の一種で使用人物を限定出来る物だ。開くと真っ白なページが何処迄も続く。
「ノート?」
「あぁ、そこに書き込んでいけばエメラルド以外開けないから、秘密が多い『ヴィーラント法』の解読用に丁度いいだろ?」
「確かに!これ私に?」
「遅ればせながら成人の祝いだとでも思ってくれ」
メルチェーデ号から高速艇に乗ってフィランダー国を目指していた海上の上で成人の日を迎えた。急遽の移動で祝いをくれたのはオジジだけだった。
「ありがとう。凄く嬉しい」
カイの心遣いに感動しじんわり胸に温かいものが込み上げる。すぐに開いた状態で魔晶石の部分に魔力を込めて私だけのノートにする。ノートにはペンを収納する所もあり防水防汚防炎でかなりの優れものだ。喜びいっぱいな気持ちで再びカイを見上げる。カイは顔をほころばせる私を見ていた。
「これでやっと解読が進められるな」
「イケるわ!」
目をギラッとさせ満足気に力強くカイと一緒に頷いた。それを見ていたリュディガーがピッポに「そこまで心配はなさそうだな」と言っていたとかいないとか。
「このお店はとても良い品が取り揃えられていますのよ」
朝イチから綺羅びやかに着飾ったベルナデッタが先頭を切って案内してくれたのはオリエッタ商会と提携している宝飾品店だった。捕えられたリュディガーがベルナデッタと並んで店内を見回っている。
「私はいつも屋敷に品物を持ってこさせて買い物をするのでこうやって店で見るのは稀ですの。こういうのも時々はいいですわね、リュディガー?」
「そうだな」
「まぁ見てこれ素敵ね。きっと一点物ね」
「そうだな」
「デザインも良いわ、あら、これ良さそうね、リュディガー?」
「そうだな」
はしゃぐベルナデッタに貼り付けたような笑顔のリュディガー。私とピッポは手持ち無沙汰でそれをボーっと見ている。
「エメラルド、欲しい物はないのか?」
気を遣ってかカイが幾つかネックレスを指さして勧めてくれたが全く興味がわかない。というより高級過ぎて逆に欲しくない。
「こんなのよりキューブの方がよっぽど欲しい」
メルチェーデ号を離れて十日以上が経つ。こんなに長い間発掘作業が出来なかったのはいつぶりだろう。昔、メルチェーデ号が凄い嵐に見舞われて船が破損し修理に手が掛かりきりになって以来だろう。
「陸って案外つまらないとこね」
もっと凄い所だと期待が高まっていたせいかガッカリ感がエグい。
「いやここだけで決めつけるなよ。陸も海に負けず劣らず広いんだぞ」
カイが慰めるような言葉をかけてくれた頃、やっと私達が退屈していることに気づいたベルナデッタが店を出てくれた。因みに自分で数点何かを購入していたようで、店の人に自分の屋敷に届けるように言いつけている。見ていただけのリュディガーはまだ朝の早い時間なのにもう夕暮れ時かというくらいグッタリしている。
「宝飾品に興味が無いなんて信じられないわ。まぁお育ちを考えれば仕方がないのかしら?それで、次はこの先の服飾店へ……」
「服はあるからもういいです。もっと他のものが見たいのでブラブラ歩いてもいいですか?」
なんだったら別行動でもと言いかけたがリュディガーが必死に目で訴えてきたので口をつぐんだ。
歩くと言われて渋顔のベルナデッタも連れて、宝飾品店があった通りから離れより港に近い方へ下っていった。上に行くほど高級な店が多く下に行けば庶民的な雰囲気に変わって行く。通り沿いに並ぶ店舗も段々と小さく庶民的なものに変わっていき、すれ違う人達もそれに合わせて気軽な服装の人がが増えて行った。
「あ、こっちにもお店があるのね」
ずっと大きな通りを下ってきたが人混みから逃れようと横道に入ると、そこの路上にずらっと簡易的な台を置き品物を並べているところに出た。
「あれもお店?」
カイに尋ねながらそこへ近づいて行く。
「露店だ。普通の平民が買い物するのは殆どこういう所だ。安いし通りを歩けばだいたいの物が揃う」
やっぱりさっきの店は普通の所じゃなかったのかと思いつつ、露店を見ていく。
「こんなところ見るものがあるのかしら?なんだか変な臭いがするしもう疲れましたわ。足も痛い」
横道に入って直ぐにベルナデッタが不満そうな声をあげる。さっきまでリュディガーの腕に掴まり機嫌良く歩いていたが高いヒールのせいか辛そうだ。
「先にお帰りになりますか?」
街ブラしたいのは私やピッポで、ここで生まれ育ったベルナデッタにしてみれば見慣れたものだろうから無理をする事は無いだろう。私は彼女を見た後リュディガーに視線を移すと彼もそうだなと言う感じで頷いた。
「ベルナデッタはそうしろよ。俺達はもう少し見てまわるから……」
リュディガーは腕に掴まっているベルナデッタの手を外して送り返そうとするとそうはさせまいと彼女は更にぎゅっとしがみつく。
「いぃぃえ!大丈夫よ、私も一緒に行くわ」
全力で拒否し何故か私を睨んだ。
ちょっとずつしか投稿出来ておりませんが宜しくお願いします。
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