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スッポンスッポン

「さっきからなんだあ、てめえは?! 相当に天才的な魔力を感じるぜえ? そんなに俺を瞬殺してえか!?」

「ナカナカよ、ちゃんと一万円を払いなさい! 子供にキャンディーを返しなさい!」

「へっ、なかなかいい女だなあ。なんなら、『スカートをめくる』みてえな遊びをしてやるぜえ!? おい、俺様に『スカートをめくる』ってことをされたくなきゃ、失せな。ワーッハハハハ! お前がスカートをめくられた時の恥ずかしそうな顔が楽しみだ!」

 群集は一気にザワつく。

「ま、まさかこんな場所でスカートをめくられれば、ククレアはもう生きていけねえ!」

「ククレア! 早くそいつを瞬殺しろ!」

「ククレアー、あんたのスカートがめくられるなんて・・・それじゃ十年前の惨劇『ケンタがエリーゼに振られた』事件並の惨劇じゃ!」

「そ、そうだ! あの時はケンタ君がなんと幼なじみのエリーゼに告白したのに・・・・撃沈! なんという惨劇だったのだ!!」

「ククレア! この町や国のメンツより、あんたのスカートの方が心配だ!」

 凡人は怒りに震えていた。

 まさかとは思うが、奴はククレアさんのスカートをめくろうとでもいうのか・・・?

 ククレアさんの肌は白く艶やかだ。

 そのパンツとなれば、とんでもなく神々しいものだろう。

 ククレアは、声を上げた。

「この町はみんなのものよ! 私はあなたを瞬殺できるけれど、けどなんとかして負けてみせるわ!」

 ククレアはそう言っていた。

(そこまで狂暴なモンスターに、『瞬殺できる』となんとか勇気を振り絞ろうとしているのか・・・)

 ボンはそう考えていた。

「見るからに、超強そうな神官だぜ! へへっ、あんな天才的な神官、俺を瞬殺するに決まってらあ!」

 ナカナカは余裕で歩いてくる。

「よすんだ、ククレアー! 天才のお前じゃ、そいつを倒すのに三秒もかからん・・・! そうなれば町は終わりだ!」

 鍛冶屋がそう怒鳴っている。

(鍛冶屋さんも、ククレアさんを励ますために、そんなことを・・・)

 ボンは思っていた。

(ここで逃げれば、現世と同じだ・・・)

 ククレアの肩に手を置く。

「ボンさん!? まだ、逃げていなかったんですか!?」

「ここは・・・僕が戦います・・・!」

 凡人はそう言っていた。


「まさか! あなたでさえ瞬殺できる弱さなのよ、ナカナカは! 私なら一秒、ボンさんでも十秒もかからない程に弱いのよ、ナカナカは! 意地を張ってなんになるの!?」

 ククレアはそう言う。

「意地のためなんかじゃない・・・!」

 凡人は毅然として言った。

「え・・・?」

「僕は・・・あなたのパンツを守ります・・・!」

 ククレアは気丈な表情を、一瞬だけぽかんと呆けさせて、そしてその台詞の意図に頬を桜色に赤らめていた。

「まあ・・・私のパンツのために・・・? クマさんのアップリケのついた、私のパンツ・・・それを守るために・・・?」

 まるで、初めて男子と会話する乙女のように恥じらうようにうつむいていた。

「く、クマさんのアップリケがついているんですか!?」

 ボンは勢い込んで彼女の肩を掴んだ。

「・・・はい。五歳の時に、少しすりむいて破れてしまって・・・クマさんのアップリケを・・・! はっ、私ったらなんて恥ずかしいことを! ボンさんの前だと・・・つい、全部をしゃべってしまう・・・?」

「な、なんて可愛いんですか! ククレアさん!」

 鍛冶屋は、うむうむと頷き、

「なんという下世話な男気だ! 最近ではあまり見ねえぜ、ここまでの下世話さの男は」と絶賛している。

 街の人々も、

「あのヨソ者・・・ククレアのパンツのために戦おうってのか!?」

「イマドキ、ここまでの見上げたパンツ男がいたとは・・・!」

と一気に色めきだっているようだ。

「ククレアさん・・・ここは下がってください」

凡人はそう言った。

「な・・・? 本当に分かっているんですか!? 相手は、最弱級のモンスター、ナカナカなんですよ!? ボンさんでも、普通に木の剣とかで戦えば勝てる相手・・・! というより中学生でも頑張ればどうにか倒せるくらいに弱いのがナカナカなんです! そんなモンスターを相手に、あなたが・・・?」

凡人はククレアの前に立った。

「モンスターよ、かかってこい」

もう、僕は逃げない・・・!

折角、生まれ変わったこの人生だ・・・!

ナカナカは哄笑し、

「ぶあっははは! このナカナカに、余程の嫌がらせをされたいらしいな。お前は魔王軍に逆らったバツだ・・・! 『靴の紐をほどいて川に捨てる』という罰を加えてやろう!」

群集から悲鳴が上がった。

「ば、バカな!? 靴の紐をほどくだけでなく、川に捨てる・・・?」

「なんという悪行!! そんな仕打ちをされれば、もはやあのボンは歩くたびに靴がスッポンスッポン抜けてどうにもならねえ!」

「ボン! 意地を張らずに、さっさと倒せ! お前の靴がスッポンスッポン抜けるとこなんぞ、見たくねえぜ!」

ワーワーと騒ぐ群集。

(何か・・・おかしな世界だな)

ボンは首を傾げながら、ともかくその辺に落ちている『聖剣ボルニア』を拾った。

「ボンさん、ナカナカはあなたでさえ瞬殺できるほどの弱さなんです! 意地を張らないで! あなたの靴がすっぽんすっぽん抜けてしまう様子なんて、誰も見たくない・・・! 靴がスッポンスッポン抜けては、永久に走ることもできません! このままでは・・・ボンさんの靴が!!」

 ククレアは涙をこぼしながら叫んでいた。

「俺の靴がスッポンスッポン抜けるなんて、どうでもいい!」

「え・・・? 靴がスッポンスッポン抜けることが・・・? まさか・・・歩くたびに靴がスッポン抜けてしまうんですよ!?」

「そんなことより、ククレアさんのクマさんのアップリケがついたパンツです!」

 ボンは断言していた。

「あ・・・なんと、ボンさん!?」

 ククレアは叫ぶ。


「・・・もし、本当にククレアさんのパンツにクマさんのアップリケがついているなら、そんなものは、可愛すぎる・・・!」

「そこまでして、私の・・・パンツを?」

「そんなものを他人に見せる訳にはいかない! それが答えです!」

「そ、そこまでして、私のパンツを・・・? クマさんのアップリケをつけたパンツを・・・?なんという崇高で下世話な人・・・! そのためなら、靴がスッポン抜けることも厭わないとは!」

 ククレアは感動し、瞳を潤ませていた。

「ボンさん・・・では、男児であるあなたがそこまでして、ナカナカに負けたいというのであれば・・・私も、その背中をいつでも攻撃して、倒されるサポートをします!」


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