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伏魔団地  作者: 真暗森
【第2号棟  亡骸纏う墓穴の風琴】

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第073号室 サマービーチ 超次元バレー



 小夜達のカチコミからジャックとサモニャンのロリコン疑惑は長い議論の末、帰りが遅いと様子を見に来たエイプリルの参戦により、有耶無耶に誤魔化され日も傾き出したころには陣営の垣根も取り払われ、初めから(いさか)いなど無かったかのように語らう友好関係が成り立っていた。


 小夜がふと、足元に転がって来たスイカ柄のビーチボールを蹴り上げると芯を外し、蹴った脚から直角に曲がって傍に座り黄昏ていた鬼人ティヲの後頭部を打つ。


 鬼面の面持ちでティヲが振り返るよりも早く小夜が頭を押さえてしゃがみ込み、ボールを指差して自分も当てられた被害者なのだと(のたま)って、ボールを拾いに来たエイプリルに怒りの矛先が向く。


貴様(おまん)手毬(てまり)かえ??」

「………ち、がいます?」


「お返しだっちゃ!」


 無拍子から筋力に物を言わせた速球がティヲから放たれ、エイプリルが悲鳴を上げつつもコンパクトにレシーブして、異様な滞空時間で滑り込んできたジャックが奇声を上げてジャンピングトス、思わずスパイクを合わせたエイプリルがしまったと口元を押さえボールの行方を眼で追うと、人外の表情筋を浮き上がらせ鬼気迫るティヲの前にシスターが割って入った。


「ティヲさん、レシーブはこう!!」

「「「!!!???」」」


 シスターは巡回で立ち寄った町村レクリエーションのバレーボール大会で、万年最下位だった教会チームを、その反則じみた身長とフィジカルで優勝へと導いたこともあったので、余りにも(たい)をなさないティヲの構えに思わず体が動いていた。


 膝を曲げて腰を落とし前傾姿勢でレシーブを上げると、柔らかく屈伸、トスはこう!と指先で軽く弾き直上トス。


「そして、スパイクはこう!!!」


 投石機のように腕がしなり、遊びの無い本気のスパイクがビニール製のやわなビーチボールを凶器に変えてエイプリルの足元に突き刺さった。


「待った、ちゃんとやろう」


 エイプリルは破裂して空気の抜けたビーチボールを摘まみ上げると再戦を要求した。



―――



 遊びなのだからとネットも無く砂浜に足で線を引いた歪なコートに人数もこの際適当と、エイプリル、ジャック、サモニャンの犯罪者予備軍(チーム)に対し、シスターにティヲ、そして身長を見て駆り出されたダークエルフのマイマズマの高身長チームが向かい合う。


「ドレスの(くだん)はお世話になりました。しかしそれはそれ、これはこれ、正々堂々、互いの持てる力を出し切りましょう」

「ちょっと、力、入り過ぎじゃない?まあ、遊びとはいえ簡単には負けて上げないけどね?」


 キャプテン同士が啖呵(あいさつ)を交わし、コートに戻ると小夜の吹いたリコーダーの音色と共に戦いが始まる。


「そ~~れッ!」


 道に入った助走からラインギリギリに踏み切ったシスターがジャンピングサーブ、弓形にしなった身体が全ての力を革張りの本格的なバレーボールに集約させ、人間理論値一杯の豪速球を撃ち放つ。しかし、これがこの試合、最初で最後の人間業となった。


 打ち出された角度、力、速度、周りの気象情報に至るまで電脳によって計算し尽くしたエイプリルが着弾地点へ先回り、外も無くレシーブする。


「痛ってぇな!お前ら!!本気で行くぞっ!!!」

「………OK」


 機械(サイボーグ)の腕でありながら痛みを訴えるエイプリルが怒号を上げれば、印を結び呪詛を唱えたジャックがエンチャントトス、ボールの一面に呪いを刻む。


「任せろにゃ!!」


 サモニャンの肉体は瞬間的な変容を遂げて筋肉を増強し、エイプリルの頭上を飛び越える大跳躍から爆発音を響かせて、音速越えのマーダースパイクを敵陣へお見舞いする。


「任せてくださっ!?(そんな多重結界が??)んっほぉおおお!!!」


 腕を上げているだけでいいと身長のみを基準に選出されたマイマズマの運動センスは壊滅的であり、何とか補う為に唱えた呪術はジャックの呪いに相殺されて、申し訳程度の跳躍は裏目に回り全員ドン引きの顔面ブロックを披露する。


「これは、選手交代ですわ!」


 試合開始早々の事故に肩を竦ませたエルフのエクセレラがラインを飛び越えて乱入する。沈没したマイマズマを場外へ運ぶシスターと入れ替わり、指を鳴らして風精霊の使役を行うとエアロエレメンタルトス、ボールが真空に包まれ膨張する。


(かたき)は取りますえ?」


 ティヲの助走は瞬間移動と見紛う忍びの歩法で相手の目算(もくさん)を狂わせ、万華鏡のように重なる影分身と居合抜かれたスパイクは、真空から弾き出されると共に強烈な気圧の変化でボールを縮小させ、真空刃の後塵を撒き散らす。


「うぅにゃああああ!!?」


 風精霊の付与と鬼人忍法の合わせ技は鎌鼬(かまいたち)となって、レシーブするサモニャンの衣服を切り裂き真っ赤なビキニ姿を暴き出し、絡み合った胸毛を散らす。


「醜い!何てもん仕込んでんだサモニャン(てめえ)………カバーしろ、ジャ~~ック!!」

「OK」


 局所的な結界で腕を保護したジャックがフリーハンドトス、ボールに触れず直上へ上げる。


「ああ、精霊使いかぁ………すまん!相手の術が解除できてない!!」

「問題ないね!触ったら切れるだけだろ?」


 エイプリルが高度に機械化された腕を振り抜き、真空の刃に生体素材の皮膜を切られながらも、常時敵陣営のデータを更新し続け導き出した、物理的に返す事の出来ない地点へボールをフェイントで落とすと、待ち構えていたオークのグロウゼアを見て眉をひそめた。


「おっと?まさか??私の計算がぁ………???」

「痛いにゃ!痛いにゃ!!顔がねじれるにゃ~~!!!」


 突然悲鳴を上げたサモニャンに、計算ミスの見直しを切り上げたエイプリルが振り向き、本当にねじれているらしいその顔面に思わず吹き出す。


「すげえ、ホントにねじれてる」

「きっと魔女の顔に当てた報いだよ………」


 そう言うジャックが怯えながら見つめる視線の先には、砂浜に描かれた魔法陣の中心で突っ伏し呪いを込めるマイマズマの異様が映っていた。


 堅実に風精霊の加護を付与し、味方を援護するエレメンタルトスを上げたエクセレラを、獣人のラナカディアンが覗き込む。


「ラナもやってみていい!?」

「え!?ええ、自由にやって見なさいな」


 不意を突かれたエクセレラが、考える暇も無く応えるが早いか、ラナの骨格から変容する次元の降霊術が両足をカンガルーの逆関節に変えて跳ね上がり、細身に浮かぶ筋繊維を(いき)らせて振り被り、首を傾げて思案した後、適した生き物を知らないと人の腕のままスパイクを打った。


「次はちゃんとぶっ殺してやるにゃ………!!」

「おう、その意気だ!ほら、返って来るぞ」


 サモニャンの沸き立ち紅潮する肌が蒸気を上げて、今にも張り裂けんばかりの人体の骨格を越えて膨れ上がる筋肉を抑え込み、高密度に圧縮された破壊の権化そのものへと変容させれば、超人の牙がマイマズマの呪いを噛み殺し、怒りに任せてボールを受けるも精密性を欠き、あらぬ方向へと撥ね上げる。


「目隠しを使うぞ!イケるな!?」

「いつでも!」


 ジャックが走って飛び込みそれでも足らず、座禅を組んで空中浮揚し距離を稼ぐ。魔道具、身躱しの不倫の指輪(インビジブルリング)の力を転用したエンチャントトスは、音や紫外線、サーモグラフィーでさえも確認できない完全な不可視の配球をもたらし、未来の電脳による予測演算を駆使したエイプリルの()でのみ補足を可能とする反則技に繋がる。


 目線を切って弧を描いて助走を付けるエイプリルの脳内には、何者にも見えないはずのボールの軌跡が確かに浮かび上がり、相手チームの死角を突くべく演算を続け、収束していく結果にやはりなとまた眉をひそめる。


 何処に打てど、何処に打とうと、受けて返すグロウゼアの結果に演算を加速させ更なる選択肢を試して恐怖する。


(見えないボールの位置を予測するくらいは出来たとしても、こっちは殆ど未来予知の次元で打ち込むとこを選んでんだぞ??)


 見れば微動だにせず微笑(えみ)を溢すグロウゼアの余裕に、鋼鉄に護られたエイプリルの心が危険を悟り、人間への偽装を解除するよう頭脳に懇願する。


「………あ、あれ?」


 永遠のように引き伸ばされた一瞬の時を終え、砂浜に着地したエイプリルの両手には、不可視が解けて現れたボールが納まっていた。


「あ~あ、持っちゃった………こっちの負けだね」


 ボールを投げ出しコートを出ようとするエイプリルに、ジャックが声を掛け、神経を尖らせたサモニャンが立ち塞がる。


「どうした?何故打たなかった??」

「処理落ちしたんだ………」


「まだ一点にゃ!始まったばかりにゃ………!!」

「やめとけ!未来に触るタイプの世界系能力(ワールドホルダー)だ。奴はウルスラに任せる」


「このまま………引き下がるとそれはそれで怪しく無いか?能力を悟られたとバレたら何されるか分からんぞ?」

「ああ、マジか………接待プレイは苦手なんだよ………」


 エイプリルが作戦会議終了と機械的な笑顔を見せてボールを拾い上げ負け試合を再開する。エイプリル達がグロウゼアの視線に戦々恐々と点数を献上したのも始めの内だけで、ラナカディアンの自滅点が多く重なり、結局はそれなりに白熱する接戦となった。



―――



 一方そのころドワーフの錬金術師、ホーリエが磁石で波打ち際の砂鉄を集めていると、アルビノのゴブリン、パナキュルが浮き輪に乗って流れて来た。


「ねぇ~~君はみんなと一緒に玉遊びしないの~~?」

「あは、能天気な人達と一緒にしないでください。私は鉄を集めるのに忙しいんです。あなたこそ今頃泳ぎ出して何なんですか?」


「あたしぃ?あたしはイイのよ。ほら、これだけ肌が透けてるとね?昼の日に照らされると火傷しちゃうのよ~だから、日が暮れてからがあたしの時間なの」

「へえ、難儀な身体なのね。でも、夜があなただけの時間とは限らないんじゃないかしら?」


 砂鉄の詰まった土嚢袋の口を縛り磁石をくっ付けたホーリエの視線の先には、触手の雨傘に触手の雨合羽、タコ頭の子犬を連れたダゴン唯一の生き残り、最後の触手(ロンリーテイカー)が瓶詰めの触手を取り出し、触手絡まる異形の(シャチ)を海へと放流する姿が映っていた。




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