第101号室 墓穴団地 キスされるとアイドルになるウィルス
団地にポッカリと空いた墓穴団地は異様な盛り上がりを見せていた。
あらゆる生物の亡骸を押し固めて体を成した亡骸纏う墓穴の風琴は、大型野外フェスのライブステージのように横たわり、踊り狂うソヒィ達の背後に付き従っている。
『エレキギターあったよ!』『よしでかした!』『イェ〜イ!ぱ〜てぃタ〜イム!!』
掻き鳴らされる爆音に釣られてゾンビ達が押し寄せ、ステージに上がろうとしたものからソヒィに蹴り落とされる。
生存者達との戦闘の果てに幾らか可愛げのあったアイドル然とした風貌は血に塗れ、朽ちた肉体を酷使し血反吐を吐いて歌い上げる様はデスメタルに昇華され、ゾンビも揃って首を振る。
『ほら、見て!私たちの歌声に魅かれて墓穴団地に生者達が迷い込んできたわ!!』
ソヒィーリヤが投げキッスを飛ばした方を見れば、大雨の中強行された野外サマーフェスティバルの帰りに遭難して団地入りした若者達が群れを成して濃霧の中より現れてきた。
『カラフルなカッパ!アーティストのTシャツ!!泥だらけの山靴!!!はは〜ん、さてはみんなサマフェス帰りだな??』
「「「いぇ〜〜い!!」」」
まだ状況を理解しきれていない若者達は、せいぜい霧に飲まれたと思っていたら、偶然シークレットステージとアーティストにたどり着いた程度の認識なのでノリが良い!
「すげぇビジュアルだ!」「特殊メイク?」「ステージヤバない?」「金かけてんなぁ〜」「……こんなアーティスト居たっけな??」
『あのねぇ、今まであんた達が見てきたライブとか、ステージとか、と言うかもう人生自体、全部前座だから!』
「「「うぇ〜〜い!!!」」」
『辛い事ぜぇ〜んぶ忘れさせてあげる!これからは楽しいことだけしょ♡』
「「「うぇ〜〜い!!!」」」
サマフェス帰りの若者達が取り敢えずノリ合わせ、ソヒィ達から目線を離さないゾンビ達を見てその痛ましい風貌をまるで本当に死んでいるかのような血の気の無い肌メイクや血糊と誤解して、なんて解像度の高いファンなのだとテンションが上がる。
「すげぇなアンタ、それ特殊メイク?骨見えてんじゃん!」
ナンパ半分に声を掛けると噛みつかれそうになって夏男がひょいと飛び退く。
「ダメだ!世界観に浸かっちゃってる人だ、ナンパ失敗!」
『こらー!一般ゾンビに絡んでないで、私んとこおいでー♡』
「はーい♡」
宙に浮かぶソヒィーリヤに誘われて夏男がだらしなく近づく。
『君も私たちの眷族ぅ〜になるぅ〜?』
「え、なるなる〜♡てか浮いてる?ワイヤーアクションですか?野外フェスで!?」
『ん〜いや、これは本当に浮いてる』
「あ、そっか、世界観は大事ですよね。でも本当にどうやって浮いて『いいから眷族になれぇーーー!』!!!」
『んちゅううううう〜〜♡♡♡』
焦れたソヒィーリヤが話しを遮り相手の唇を奪う。一瞬驚いて膠着した様子を見せるもすぐに気を取り直し、腰に手を回し頭を抱いて激しく貪り合う。
ヴァンパイアの始祖たるソヒィーリヤから直接注ぎ込まれた唾液の効果は絶大で、そうとは知らずに幸せな犠牲者は、髪が伸びて髭が引っ込み、肌が綺麗になる。
『かわいい眷族になれぇーーー!!』
喉仏が首に埋もれて声が高くなり、胸とお尻が膨らみ腰が細くなる。
お目々パッチリ、眉も整い、骨格から美少女へ、耳まで裂けて顔面を二分する破顔のスマイルに、びっしりと並ぶ八重歯を唾液で濡らし、その姿は量産型アイドルに。
『ほーら、いつまでもダサいカッコしてないでチェンジ、チェンジ〜♡』
ソヒィーリヤが指を2度鳴らす内にビビットカラーのスクールブレザーに着替えが終わり、新たに生み出されたソヒィの眷族は、キスされるとアイドルになるウィルスをばら撒くために走り出した。
お久しぶりです。書く暇がないのです。。。




