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エピローグ

 ヴァルトルーデとアルマが襲撃者を撃退して数日が経過した。


 あの後、ヴァルトルーデはアルマを医務室へと連れて行き、続いて学長室へ駆け込んでクラーラ院長と学長に助けを求めた。話を聞いた二人は驚愕しつつも急いで事後の対応を行っていく。


 アルベルト以下三人はあっさりと見つかった。というよりも、堂々と自室に戻っていた。アルマを狙った犯行であってヴァルトルーデを狙ったわけではない、という言い訳が通用すると考えていたらしい。しかし、もちろんただで済むわけはなく、放校の上に牢獄へ入れられることになった。


 襲撃者撃退直後は医務室に運ばれて治療を受けたアルマは、現在クラーラ院長が確保している裕福者向けの宿のベッドで横になっている。木剣で打ち込まれた部分が腫れており、仰向けで寝ると患部熱を帯びて眠れない。そのため、大きな枕を抱えるようにしてうつ伏せになっている。毎回寝る度によだれを垂らしてしまうのが今の悩みだ。


「あーもー、ひどい目に遭ったなぁ」


『下手に手加減しようとしたからだ。最初から儂を鞘から抜いていたら、最初の切り込みでケリがついていたぞ』


「はいはい、そーですねー。誰かさんがいつも隙あらば人を斬ろうとしなきゃ、すぐに抜いていたんですけどねー」


 いつもならオゥタドンナーに容赦なく切り返すアルマだったが、ポカをやらかした自覚があるので言葉が冴えない。


『主も、初陣で怖じ気づくのは仕方ないにしても、今度からは早く我を抜くのだ。今回は木剣でしたから大事に至らなかったものの、普通なら死んでいてもおかしくないぞ』


「はぁい。でも、私は騎士様じゃないわ」


「確かにその通り。しかし、もし我等と契約していなければ、アルマは木剣で滅多打ちにされていただろう」


「うう、確かにそうなんですけどぉ」


 ヴァルトルーデの方も言葉に勢いがない。そもそも剣を振るう気がないのは今も変わりないが、もし聖剣と魔剣と契約していなければ下手をすれば死んでいたかもしれないのだ。それが理解できるだけに、トゥーゼンダーヴィントの説教を大人しく聞くしかなかった。


『あ、そうだ! あるじー、今度は儂を使ってくれよ!』


「え? ええ」


 アルマと話をしていたオゥタドンナーが話しかけてきて、ヴァルトルーデはきょとんとする。


『主、気をつけよ。あやつなら、手が滑ったなどと言って相手の手首を切り落とすかもしれん』


『なんてこと言いやがる! そもそも俺に滑る手なんてねぇだろ!』


「トゥーゼント、あの線画に細工をするということですか?」


『そうだ』


『あるじー、そいつの言うことは信じちゃダメだぞ。どうせ次も自分を使ってもらおうとでたらめを言っているからな!』


「お嬢様もてもてですね~。あたしなんてさっぱり」


「うう、剣にもてても仕方ないです。それに、私にはテ、テオフィル様がいっらちゃいますから」


 途中で自分の言っていることに気が付いて、ヴァルトルーデが噛む。顔が真っ赤だ。


「いやぁ、真冬なのにあっついですね~。お嬢様が部屋を暖める魔法を使えるなんて知りませんでしたぁ」


「うふふ、それじゃ掛け布団は不要ね。全部剥ぎ取っちゃいましょう」


「あ、ごめんなさい。調子に乗っていました! うわ、寒いぃ!」


「何をしているのですか、あなた達は」


 王宮から戻ってきたクラーラ院長が二人を見て呆れた。


「ヴァルテ、アルマはけが人なのですからもっと丁重に接しなさい。傷の治りが遅いと、その分だけ帰るのが遅れるのですよ」


「申し訳ありません」


 アルマがにやにやとしているのを見てヴァルトルーデは口を尖らせる。患部を叩いてやりたい気分だ。


「アルマ、あなたはけが人なのですから、もっと大人しくしていなさい」


「う、はい」


 ヴァルトルーデに向けられていた矛先を突き付けられたアルマは、顔を枕にうずめる。


「わかればよろしい。それよりも、クリスティアーネからお茶の葉をいただきました。今からこれでお茶を淹れるましょう。アルマはそのままで、今日はわたくしがやりましょう」


 機嫌が良いのか、クラーラ院長はヴァルトルーデの注意をさらりと終わらせると、お茶っ葉の入った袋を持ってティーセットのあるテーブルに向かう。


「クラーラ院長、私も手伝います」


『貴様は少しくらい遠慮しろよ!』


『配慮という概念がないそなたに言われたくないわ!』


 ヴァルトルーデとクラーラ院長がお茶を淹れる支度をする中、立てかけてある聖剣と魔剣が毎度のごとく諍いをしている。もうすっかりお馴染みになってしまったこの風景をアルマは呆れながら眺めていた。


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