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【5】幼女な魔王をハーレムに加えます

 資金が底をつきたので、今度こそ化け物退治をしようと思った。

 けどよく考えたらこの世界で醜悪な存在、イコール俺基準では美女だったりすることに気づいてしまった。

 ハーレム要因が増えるのは好ましいけれど、養えないのに増やすべきじゃない。


 慎重に依頼を選んで、ドラゴン退治をすることにした。

 懸賞金が半端ないし、これならドラゴンが美女でハーレムにということもないだろう。

 そう思ってドラゴンの巣に行けば、地響きの音がして。

 急いでそちらに向かえば、もうドラゴンは倒された後だった。


 砂煙を上げる中から現れたのは、前に会った時よりも一際強者のオーラを放つフローラ姫だった。

 その佇まいは威風堂々としていて、存在感が圧倒的だ。

 まとう空気に恐れをなして、感のいい動物なら彼女をさけるだろうと思えた。


 また戦う気か。

 そう思って身構えれば。

「お前へ……贈り物だ」

 家一軒分くらいの大きさがあるドラゴンを指さして、フローラ姫はそんな事を言った。


「えっ、いやでも」

「つべこべいうな。いいから受け取れ」

 突然のことに戸惑う俺に、尻尾を両手で掴むと引きずって、フローラ姫はドラゴンを俺に渡してきた。


「確かに私は少し自分に驕っているところがあった。お前に好かれるよう、中身も改めるつもりだ」

 すれ違い様にそう言って、フローラ姫は去っていく。


「恋する乙女だねぇ」

 そう言って、リックくんが俺の頭の上で笑っていたけれど。

 乙女ってやつは素手でドラゴンを倒したりしないし、ドラゴンの死骸を贈り物にしたりしない。

 それに乙女っていうより、あの台詞は男らしかった。


 けどまあ、ドラゴンはありがたかったので、それで懸賞金をゲットさせてもらった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 懸賞金はたんまりあったので、家でも買って住もうかと思った。

 けどルカの追っ手がしつこかったし、未だにイヴを倒そうというやつもいたので諦めて、旅をさらに続けたら、魔王城に辿りついた。


 魔王というくらいだ。

 この世界では相当恐れられた化け物なんだろう。

 大抵このパターンで行くと、魔王は美人だ。

 ハーレム要因決定。

 そんなわけでうきうきと出かけて行ったら、王座には可愛い幼女が座っていた。


 歳は七歳くらいだろうか。

 くりくりとした無垢な瞳が愛らしい。

 真っ赤でつややかなな髪をツインテールにしていて、八重歯がチャームポイントだ。


「もしかして、遊びにきてくれたの?」

「いや、魔王に会いにきたんだけど」

 きゅるんとした声に答えれば、女の子が嬉しそうにぴょんと椅子から飛び降りた。


「わたしまおーのプリムだよっ! おにーちゃん遊んでくれるの嬉しい!」

 そう言って、プリムはいきなり攻撃を仕掛けてきた。

 上から氷の氷柱が落ちてきて、脳天から串刺しになりそうになる。

「いやちょっと待って! 落ち着こう話し合おう!」

 逃げながら魔法で対処するものの、プリムの攻撃が早すぎて追いつかない。上から横から下から、巨大な氷柱が襲ってくる。


 リックくんに体を操作してもらったけれど、それでも駄目でやられると思った。

 真っ直ぐにこちらに向かってくる氷柱を、誰かが止めてくれた。

「……フローラ姫!?」

「くっ、コウタは私が倒す男だ。お前なんかにやらせはしない」

 身を挺して庇ってくれた。

 腹に氷柱が刺さって、血が滲んでいた。


 フローラ姫は雑な動作で、ひとかかえの柱ほどある氷柱を、自らの腹からとりさって投げる。

「コウタ。お前は私の認めた男だ。こんなところでやられる男ではないだろう」

 手を差し出してくるフローラ。

 そういわれると、後には引けない気がして立ち上がる。


「私が氷柱を止めよう。その間に、魔王を止めろ」

「わかった」

 頷いて応じれば、フローラ姫が走り出す。

 その後ろについて、プリムの攻撃を受けないようにしながら、隙をついてプリムめがけて火球を放つ。


 プリムはその火球を手のひらでしゅんと消してしまった。

 ……うそだろ。

 かなりの力を加えたはずだった。それこそ山一つ消し飛ぶくらいじゃなくて、国一つ消し去るくらいの、容赦ないやつだ。

 

 続けざまに電撃を放つ。

 しかしそれもプリムの小さな手にふれると消える。

「んっ、おにいちゃんの、すごぉい! 濃くて、くらくらするぅ」

 うっとりとしたようすでプリムが呟く。

 そのお腹が少し膨れていた。


 自分としては最大級の力を込めたつもりだったので、防がれたことに絶望する。

 圧倒的な力の前に、殺されてしまうかもと本気で思って。

 この世界に来て、最強になって忘れかけていた死の恐怖を思い出した。


「コウタ、魔法は無意味だ!」

 フローラ姫が叫ぶ。

 なら身体能力を強化して、打撃を叩き込む方向へ持っていけばいい。

 そう気持ちをきりかえたのだけれど、魔王に攻撃が全然あたらない。

 すばしっこくて、フローラと俺は翻弄されっぱなしだった。


 しかもこっちの攻撃はあたらないのに、あっちの攻撃は容赦なく襲って、俺の体に傷をつけていく。

「コウタ危ない!」

 フローラにドンと突き飛ばされ、転がる。

 俺がさっきいた場所で、フローラが火柱につつまれていた。


「かはっ……」

「フローラ!」

 煤けたフローラが、息をはいて床に倒れる。

 なんで俺なんかのためにここまで。

 酷い事しかお前にはしてないのに。

 しかも俺は自分の力を過信して、のこのここんなところまで来ただけなのに。

 こんなやつを庇う必要なんて、なかったんじゃないのかと思う。


「もう、こわれちゃた?」

 つまんないというように、プリムは言って俺に氷柱を放ってくる。

「コウタ!」

 それを防いでくれたのは、イヴだった。

 さすがに魔王城は危険だからと置いてきたのに、ついてきてくれていたらしい。


「コウタさん、フローラさんはボクが引き受けます」

 一緒に来ていたらしいルカが、かけよってきて治癒魔法をかけ始める。

 ルカの唯一使えるその魔法は、かなりの腕前だった。

 フローラを預けてイヴとふたり、プリムと対峙する。


「悪い、イヴ。あいつの攻撃を少し防いでいてくれるか」

「わかったわぁ」

 戦意満タンといったようすで、イヴが尻尾を床に打ち付けた。


 俺はイヴにこの場を頼んで、リックくんを体から追い出す。

「リックくんはイヴのサポートを頼む。俺は魔法を最大限練る」

「はいはーい、了解したよ!」

 人間型になったリックくんが、手に鎌を出現させて、イヴと一緒に俺の盾になるよう立ってくれた。


「わわっ、魔力もーっと食べさせてくれるの? 楽しみっ!」

 そういいながら、プリムは二人に攻撃をしかけてくる。

 集中して俺は手の平で魔法を練り上げる。


「二人ともどいてくれ!」

 俺の合図で、二人が左右にどく。

 そのままプリムめがけて、最大級の魔力をぶつけてやった。

 何も工夫しない、魔力の固まり。

 けどそれをなんなく、プリムは消した。


「んむ、も……おにいちゃんので、プリムのお腹いっぱいだよぉ」

 プリムのお腹がはちきれそうで、着ていた上着のブラウスのボタンの隙間から、まぁるくなった腹の肌が見える。

 もしかしてと思っていたけれど、あれは魔力を消しているのではなくて、体に蓄積しているようだった。


 動きが鈍くなったプリムに向けて、再度魔法を放つ。

 今まで魔法をよけることなんてしなかったくせに、プリムは魔法を自ら放って相殺した。

 

 避けられないように大きな魔力の塊をつくり、プリムめがけて連続で撃つ。

 俺の魔力はかなり底なしだった。

「ん、やぁ……っもう、無理だよぉっ!」

 手で俺の魔力をうけとめながら、プリムが悲鳴をあげる。

 苦しいのか、半開きにした口からは涎がたれていた。

 受け入れきらなかった魔力の固まりに体を焼かれ、プリムはとうとうその場に崩れ落ちた。

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「さぁ、俺というナスを召し上がれ!」
という短編コメディもどうぞ。この話が好きならいけるはず。健全にナスを食べる話です。
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