【5】幼女な魔王をハーレムに加えます
資金が底をつきたので、今度こそ化け物退治をしようと思った。
けどよく考えたらこの世界で醜悪な存在、イコール俺基準では美女だったりすることに気づいてしまった。
ハーレム要因が増えるのは好ましいけれど、養えないのに増やすべきじゃない。
慎重に依頼を選んで、ドラゴン退治をすることにした。
懸賞金が半端ないし、これならドラゴンが美女でハーレムにということもないだろう。
そう思ってドラゴンの巣に行けば、地響きの音がして。
急いでそちらに向かえば、もうドラゴンは倒された後だった。
砂煙を上げる中から現れたのは、前に会った時よりも一際強者のオーラを放つフローラ姫だった。
その佇まいは威風堂々としていて、存在感が圧倒的だ。
まとう空気に恐れをなして、感のいい動物なら彼女をさけるだろうと思えた。
また戦う気か。
そう思って身構えれば。
「お前へ……贈り物だ」
家一軒分くらいの大きさがあるドラゴンを指さして、フローラ姫はそんな事を言った。
「えっ、いやでも」
「つべこべいうな。いいから受け取れ」
突然のことに戸惑う俺に、尻尾を両手で掴むと引きずって、フローラ姫はドラゴンを俺に渡してきた。
「確かに私は少し自分に驕っているところがあった。お前に好かれるよう、中身も改めるつもりだ」
すれ違い様にそう言って、フローラ姫は去っていく。
「恋する乙女だねぇ」
そう言って、リックくんが俺の頭の上で笑っていたけれど。
乙女ってやつは素手でドラゴンを倒したりしないし、ドラゴンの死骸を贈り物にしたりしない。
それに乙女っていうより、あの台詞は男らしかった。
けどまあ、ドラゴンはありがたかったので、それで懸賞金をゲットさせてもらった。
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懸賞金はたんまりあったので、家でも買って住もうかと思った。
けどルカの追っ手がしつこかったし、未だにイヴを倒そうというやつもいたので諦めて、旅をさらに続けたら、魔王城に辿りついた。
魔王というくらいだ。
この世界では相当恐れられた化け物なんだろう。
大抵このパターンで行くと、魔王は美人だ。
ハーレム要因決定。
そんなわけでうきうきと出かけて行ったら、王座には可愛い幼女が座っていた。
歳は七歳くらいだろうか。
くりくりとした無垢な瞳が愛らしい。
真っ赤でつややかなな髪をツインテールにしていて、八重歯がチャームポイントだ。
「もしかして、遊びにきてくれたの?」
「いや、魔王に会いにきたんだけど」
きゅるんとした声に答えれば、女の子が嬉しそうにぴょんと椅子から飛び降りた。
「わたしまおーのプリムだよっ! おにーちゃん遊んでくれるの嬉しい!」
そう言って、プリムはいきなり攻撃を仕掛けてきた。
上から氷の氷柱が落ちてきて、脳天から串刺しになりそうになる。
「いやちょっと待って! 落ち着こう話し合おう!」
逃げながら魔法で対処するものの、プリムの攻撃が早すぎて追いつかない。上から横から下から、巨大な氷柱が襲ってくる。
リックくんに体を操作してもらったけれど、それでも駄目でやられると思った。
真っ直ぐにこちらに向かってくる氷柱を、誰かが止めてくれた。
「……フローラ姫!?」
「くっ、コウタは私が倒す男だ。お前なんかにやらせはしない」
身を挺して庇ってくれた。
腹に氷柱が刺さって、血が滲んでいた。
フローラ姫は雑な動作で、ひとかかえの柱ほどある氷柱を、自らの腹からとりさって投げる。
「コウタ。お前は私の認めた男だ。こんなところでやられる男ではないだろう」
手を差し出してくるフローラ。
そういわれると、後には引けない気がして立ち上がる。
「私が氷柱を止めよう。その間に、魔王を止めろ」
「わかった」
頷いて応じれば、フローラ姫が走り出す。
その後ろについて、プリムの攻撃を受けないようにしながら、隙をついてプリムめがけて火球を放つ。
プリムはその火球を手のひらでしゅんと消してしまった。
……うそだろ。
かなりの力を加えたはずだった。それこそ山一つ消し飛ぶくらいじゃなくて、国一つ消し去るくらいの、容赦ないやつだ。
続けざまに電撃を放つ。
しかしそれもプリムの小さな手にふれると消える。
「んっ、おにいちゃんの、すごぉい! 濃くて、くらくらするぅ」
うっとりとしたようすでプリムが呟く。
そのお腹が少し膨れていた。
自分としては最大級の力を込めたつもりだったので、防がれたことに絶望する。
圧倒的な力の前に、殺されてしまうかもと本気で思って。
この世界に来て、最強になって忘れかけていた死の恐怖を思い出した。
「コウタ、魔法は無意味だ!」
フローラ姫が叫ぶ。
なら身体能力を強化して、打撃を叩き込む方向へ持っていけばいい。
そう気持ちをきりかえたのだけれど、魔王に攻撃が全然あたらない。
すばしっこくて、フローラと俺は翻弄されっぱなしだった。
しかもこっちの攻撃はあたらないのに、あっちの攻撃は容赦なく襲って、俺の体に傷をつけていく。
「コウタ危ない!」
フローラにドンと突き飛ばされ、転がる。
俺がさっきいた場所で、フローラが火柱につつまれていた。
「かはっ……」
「フローラ!」
煤けたフローラが、息をはいて床に倒れる。
なんで俺なんかのためにここまで。
酷い事しかお前にはしてないのに。
しかも俺は自分の力を過信して、のこのここんなところまで来ただけなのに。
こんなやつを庇う必要なんて、なかったんじゃないのかと思う。
「もう、こわれちゃた?」
つまんないというように、プリムは言って俺に氷柱を放ってくる。
「コウタ!」
それを防いでくれたのは、イヴだった。
さすがに魔王城は危険だからと置いてきたのに、ついてきてくれていたらしい。
「コウタさん、フローラさんはボクが引き受けます」
一緒に来ていたらしいルカが、かけよってきて治癒魔法をかけ始める。
ルカの唯一使えるその魔法は、かなりの腕前だった。
フローラを預けてイヴとふたり、プリムと対峙する。
「悪い、イヴ。あいつの攻撃を少し防いでいてくれるか」
「わかったわぁ」
戦意満タンといったようすで、イヴが尻尾を床に打ち付けた。
俺はイヴにこの場を頼んで、リックくんを体から追い出す。
「リックくんはイヴのサポートを頼む。俺は魔法を最大限練る」
「はいはーい、了解したよ!」
人間型になったリックくんが、手に鎌を出現させて、イヴと一緒に俺の盾になるよう立ってくれた。
「わわっ、魔力もーっと食べさせてくれるの? 楽しみっ!」
そういいながら、プリムは二人に攻撃をしかけてくる。
集中して俺は手の平で魔法を練り上げる。
「二人ともどいてくれ!」
俺の合図で、二人が左右にどく。
そのままプリムめがけて、最大級の魔力をぶつけてやった。
何も工夫しない、魔力の固まり。
けどそれをなんなく、プリムは消した。
「んむ、も……おにいちゃんので、プリムのお腹いっぱいだよぉ」
プリムのお腹がはちきれそうで、着ていた上着のブラウスのボタンの隙間から、まぁるくなった腹の肌が見える。
もしかしてと思っていたけれど、あれは魔力を消しているのではなくて、体に蓄積しているようだった。
動きが鈍くなったプリムに向けて、再度魔法を放つ。
今まで魔法をよけることなんてしなかったくせに、プリムは魔法を自ら放って相殺した。
避けられないように大きな魔力の塊をつくり、プリムめがけて連続で撃つ。
俺の魔力はかなり底なしだった。
「ん、やぁ……っもう、無理だよぉっ!」
手で俺の魔力をうけとめながら、プリムが悲鳴をあげる。
苦しいのか、半開きにした口からは涎がたれていた。
受け入れきらなかった魔力の固まりに体を焼かれ、プリムはとうとうその場に崩れ落ちた。




