【3】清楚系エルフの恋人ができました
「本当にこの塔にあの可愛い子ががいるのか?」
「うん。本当だよ」
俺の言葉に、リックくんが答える。
朝になってリックくんが帰ってきて、俺はすぐに城を旅立った。
フローラ姫を助けてくれたお礼に、妻として貰って欲しいなんて王には言われたけど、当然断った。
そしたら、姫を傷物にしておいてそれはないんじゃないかと言われた。
いやいや、傷物にされそうだったのは俺ですよと言っても信じてはもらえない。
「……この私を拒んだのは、お前が始めてだコウタ。絶対その気にさせてみせる」
フローラ姫は今まで美姫として名を馳せてきたのに、袖にされたことで痛くプライドを傷つけられたようだった。
血交じりの唾をぺっと吐き出しながら、不敵に笑っていた。
急いで城を飛び出して、王宮からフローラを助けたお礼としてもらったお金で馬を買った。乗馬は出来なかったが、そこはリックくんにお任せして飛ばしてもらって、ようやくフローラ姫のいた国を抜けたところだ。
俺がやってきたのは、エルフの国。
ご主人の好きそうな見た目の子を集めてきたよと、リックくんがくれた資料は、俺好みの可愛い子ばかりだった。
その中でも一際目を引いたのが、ルカという女の子だ。
お人形のような整った顔立ちに、金髪。
少し尖った耳に、森を思わせる鮮やかな緑の瞳。
気弱そうな顔立ちが保護欲を誘う、守ってあげたくなるような美少女。
しかも聞けばこのルカちゃん、エルフの王族だという。
しかし、あまりにも不細工すぎるため、不吉だということで、塔に隔離されてしまっているのだという。
それは助け出すしかないだろうと、俺は考えていた。
塔を見上げる。
結構高い。最上階にルカちゃんがいるらしい。
正面突破してみた。
騎士達が塔の中にいたけれど、肉体強化した俺の敵ではなかった。
隣の国のフローラ姫たちと違って、エルフ族の肉体はそこまで鍛えられてない。
あれと比べるのがいけないのかもしれないけれど。
リックくんによると、エルフ族は弓と魔法を得意とする一族らしい。しかし、塔の中で魔法をぶっぱなすわけにもいかず、俺に手も足もでないようだった。
容易く最上階に登れば、牢屋の向こう側にルカちゃんがいた。
窓から差し込む光に照らされた彼女は、外から入ってきた小鳥と戯れていて。
それは一つの絵画のように美しかった。
資料でみた写真なんて、ルカちゃんの魅力を十分の一も表現できてないんじゃないかと思ってしまうほどだ。
金の髪は首の後ろでくくられていて、そのしなやかな体は白のブラウスと黒の仕立てのよいズボンにつつまれている。
シンプルな服装でも、その気品は失われていなくて。
緑の宝石のような瞳は、憧れを伴って小鳥へと向けられている。
白く細い指先で、小鳥と戯れるその姿に俺は見とれていた。
「あっ……」
俺に気づいたルカちゃんが、さっとベットの下に隠れようとする。
「いいからそのままで」
「は、はい。あなたは?」
おどおどとしながらルカちゃんが聞いてくる。
怯えたような表情だけれど、俺に興味があるのか視線には熱があった。
「君を助けにきたんだ」
「ボクを?」
「そう。ここから出たいだろ? 俺と一緒においで」
「……どうして、あなたみたいな素敵な人がボクを?」
信じられないというように、ルカちゃんは呟く。
「君を助けたいからだ。俺の恋人になってくれ!」
勢いで言えば、ルカちゃんはかぁっと頬をまっかにした。
「まずいよご主人、人が上ってくる。とりあえずルカちゃんを連れて出よう」
リックに頷き、肉体強化をして、ぐぐっと檻をねじまげて、人が通れるくらいの穴をつくった。
以前のフローラ姫とのバトルのお陰で、ある程度の肉体強化とスピード強化の術が、俺は使えるようになっていた。
「……すごい」
俺にルカちゃんが尊敬の眼差しを送ってくる。
「ほら、早く」
ルカちゃんは迷ったみたいだったが、俺の手をとった。
「お、おねがいします……」
照れ恥らった顔と、期待をこめた視線がなんとも奥ゆかしい。
そのまま抱き上げて、塔から連れ去った。
●●●●●●●●●●●●●●●●●●
ルカちゃんを連れ去ったまではよかったけれど、追っ手はなかなかしつこかった。
幽閉されるような王族でも、やっぱり重要だということなんだろうか。
あんなところに囲うなんて酷すぎると思う。
俺の魔法にかかればエルフ族の追っ手はどうにかなったけれど、さすがにうっとうしかったので隣の国に逃げ込んだ。
「すいません、ボクのせいで……」
「俺がしたくてしたことだし、気にすんなって!」
とは言ったものの、フローラ姫から貰った旅の資金がそろそろ尽きかけていた。
どうしようかなと悩む。
「せめて料理とか、ボクができればよかったのに。助けてもらったのに何の役にも立てなくて……」
「それはしかたないって。幽閉されてたんだし、そもそも王族なんだからさ」
もうしわけなさそうにするルカちゃんは、とてもしおらしい。
ルカちゃんは謙虚でとても控えめな子だった。
「でも、コウタさんのために何かしたいんです!」
自分が不細工という負い目があるからか、俺に何かと尽くそうとしてくれていて、ちょっとでも手伝えそうなことがあると、それをしようとする。
潤んだ瞳で訴えてくるルカちゃんは、とてもいい子だ。
見た目だけじゃなく性格もいいなんてすばらしい。
厚顔で不遜な上、ゴリラなどこぞのフローラ姫とは種族からして違う。
「その気持ちだけで嬉しいからさ」
「でもっ……」
俺の言葉にまだルカちゃんは不満そうだった。
そこから何か考えたように黙り込んで、距離を縮めてきて。
俺のシャツに手をのばしてきた。
「ええっ、ルカちゃん!?」
「ボクじゃ全然駄目だってことはわかってるんです。でも……せめてコウタさんを気持ちよくさせてください。目を瞑っていてくれてかまいませんから」
懇願するような瞳。
ごくりと唾を飲んで、それから。
ぐっとルカちゃんの肩を押しのけた。
「そういう自暴自棄なのはよくないと思う。ほら、お互いもまだ知らないわけだし。そういうのはもっと知り合ってからで」
美少女に迫られて、何をしてるんだ俺はと思う。
ここで行かなきゃ男じゃないと、脳内の悪魔は言ってる。
けど、今のこれはルカちゃんの気持ちに付け込むような感じだ。
いたいけな女の子に、そんな理由で無理やりってのは気が引ける。
やっぱり、さすがの俺でもそれはちょっとなぁと思うわけで。
「……ですよね。ボクこんなんだし」
「違う、違うから! ルカちゃんはとっても魅力的だ!」
自分が不細工だから拒まれたと思っているルカちゃんの肩をぐっと掴む。
「ルカちゃんは可愛い。俺が今まで見てきた子の中で、一番だ!」
「……コウタさん」
心からの言葉を伝えれば、ルカちゃんはぽろぽろと涙をこぼした。
「そんなこと……今まで誰も言ってくれませんでした。嘘でも、嬉しいです」
「だから嘘じゃないって。俺の住んでた異世界では、ルカちゃんみたいな子が美人なんだ。俺の好みのど真ん中なんだよ!」
必死に伝えるけれど、どうにも伝わりきれてない気がした。
ちょっと覚悟を決めて、ルカちゃんの唇にキスをする。
「……んっ!」
「俺はルカちゃんが好きだ。一目ぼれと言っていい。恋人になってほしい」
軽くキスをして後そういえば、唇を指でなぞりながらルカちゃんは瞳を潤ませて俺に抱きついてきた。
「はい。ボクでいいのなら……よろこんで」
こうして俺は、可愛いエルフの恋人を手に入れた。




