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蛇のご馳走  作者: 綾野 悠
番外編
29/29

新しい日に

あけましておめでとうございます。ほんとは1日に上げるはずだったんですけど…すいません大遅刻しました…。キャラ崩壊注意っぽい頭わるい話になりましたが、よければどうぞ。

「ハルちゃーん!!!! おはようさんやんなぁぁぁ!!!!」

「ひやああ!?」

「うう?……なに……ごはっあいたっ!?」


 大きなベッドに二人で眠っていた陽花と灯は、突然の聞きなれた大声に揃って柔らかなそこから転げ落ちた。

 自分にぐるぐる巻きついた灯の尻尾を掻き分けて、痛む後頭部をさする陽花の前には、仁王立ちで百点満点の笑顔を振りまくルルクゥがいる。

 渾身の力で跳ね上げられた玄関の布に絡まって、その向こうでティーククとホゥトがじたばたしていた。


「おはようさーん! おはようさーん! ハルちゃんは今日もいいにおいがするやんなー? 香ばしいやんなー?」

「ちょ、おは、えっルルク、わぷっ」

「うふふふふーさーハルちゃんも行こうなぁ! お祭なんよーたのしいんよー! 旦那も来るやんなー!」

「るる、るるく、ぐるじい……!」

「うわああ酒くさい!!!! ちょっとルルクゥさん酔ってますね!? じゃないその足! 足緩めて!!! 灯さんの顔色が!!」


 真っ赤な髪に負けず劣らずの真っ赤な顔をにこにこさせて、ルルクゥは洞窟の住人二人をぐいぐい引っ張っていく。片方が落ちかけでもお構いなしだ。酔っている。そりゃあもうべろんべろんだ。

 吹っ飛ばされてぽっかり開いた入り口から外に出されると、空はまだ暗い。かろうじて遠くの空が朱に染まる程度の早朝も早朝だ。

 そんな薄暗い砂浜にでんと鎮座しているのは、いつも見慣れた籠とホゥトとティーククの二人だったが、いつもとは随分と様子が違う。


「あっはっはっは!!! ホゥト違う違う右だって右!」

「右ぃ? えー……と、こっち、ですっけー……?」

「あはははは! ヒィー! 逆逆! それ左足! ひだりあヒヒヒヒ!」

「ひだりあし……?」


 こちらもべろんべろんだった。

 ホゥトは眠そうに巻きついた布の中でもさもさと動き回り、傍らでは変な引き笑いのティーククがうねうねと悶えている。

 普段とはかけ離れた様子に、陽花は思わず灯の方を振り向くが、頼みの彼もルルクゥの華麗な足技で昇天寸前だ。


 一方的に明るい声が響く砂浜で、陽花は一人痛み出した頭を抱えて首を振る。





+++++++++++



「大丈夫か……?」

「なんとか……」


 なんとか灯をルルクゥから取り戻し、べろべろの三人には作っておいた料理や菓子の中から比較的崩れにくいものを選んで持たせて帰した後。

 なにやら怯え気味の灯の尻尾に乗って花束の街へ降りた陽花を待っていたのは、色彩と音の洪水だった。

 巻けるだけの色とりどりの布を巻きつけ、持てるだけの楽器を持って踊り狂い、歌い騒ぐ鳥族たち。

 あちこちで開けられた酒が、大輪の花が、色紙が、美しい宝石が、上り始めた朝日にきらきらと反射しながらぶちまけられ、そのたびにうねるように歓声が街をふるわせる。


 文字通り酒を浴びて、酒豪揃いの鳥族たちが揃いも揃ってべろべろだ。匂いだけで酔った子供達や、いつの間にか灯までそこら辺で知らない誰かと肩を組んで歌っている。


 そんな馬鹿騒ぎを前に、雄鶏亭の入り口に椅子を出してもらった陽花と、その隣に座り込んだアディはそろって遠い目をしていた。

 

「新年の祝いがなにより一番やべぇんだ……。今日明日はとりあえずずっとこの調子だぞ。酒浴びて踊って酒浴びて歌って酒浴びて飯食って酒浴びながら寝るんだ」

「肝臓大丈夫なんですかね」

「アタシの鼻はもう死んでるけど、アンタのは大丈夫かい?」

「いえ、ルルクゥさんに締め上げられた辺りでもう駄目でしたね」


 眼前では追加の樽酒をノリノリでぶちまける灯がいる。


 鳥族の新年の祝いは、その年の幸福と豊穣を祈る祭事だ。土地神や精霊、ご先祖に届けとここで騒げば騒ぐほど、その後の一年を豊かに幸せに暮らせるらしい。

 年末、誰もが普通に騒いで普通に解散したのを、随分とあっさりしているなと思ったら、こちらが本命だったようだ。

 完全におまつりだいすきの鳥族が公然と騒ぐ口実のような気がするが、本人たちが全力で楽しそうだからいいのだろう。

 

「まあなんだ、これこそ楽しんだモン勝ちだからなぁ。朝日が昇ればとりあえず酒は降って来なくなるから、それから出て行きゃいいさ」

「地面から気化して酒の陽炎が立ち上りそうですけどね」

「あっはっは!! 違いねぇや!」


 言っているアディ本人もそれなりに酔っているのか、ぞろりと牙の生えそろった口を大きく開けて笑う目元がとろりととけている。

 ふすふすと鼻を鳴らして楽しそうなその様子に、陽花もため息ひとつ、気を取り直して祭の方に意識を向けた。


「日が昇るぞー!!!!」

「鐘を鳴らせー!!!!」

「新しい日の鐘を鳴らせー!!!」


 酒浸しになって騒いでいた鳥族たちが、一斉に叫びだす。見れば、ちょうど朝日が完全に昇りきり、街を明るい光で包み込むところだ。

 さあっと光が街全体を包み、向こうに見える海が煌きだす。

 美しい光景を祝うように、街の中心に聳えた鐘楼か複雑な鐘の音が響き始めた。

 

「新しい日に!」

「新しい年に!」

『カンパーーーイ!!!!』

「結局飲むんですか!?」


 うおおおおお! と熱気を取り戻した鳥族は、また新しく酒や料理を持ち出して騒ぎ出す。

 そして、思わず椅子から立ち上がって叫んだ陽花が座るより早く、その両脇ががっしりと掴まれた。  

 

「さーハルちゃん行くやんなー!!! 行くやんなー!!!」

「あはははは! ハルさんですよー! ほらホゥトハルさん!」

「うぇあええええ!?」

「いってらー」

「ちょっと!? アディさん!?」


 べろべろのルルクゥとティーククに抱えられ、菩薩のような眼差しのアディに見送られて、陽花は興奮の坩堝に引きずり込まれる。

 美しい布がひるがえる踊りの輪だ。

 楽器の弦が切れるのもお構いなしでかき鳴らされる情熱的な曲に合わせて、男も女もなく踊る。

 

「ほらハルちゃん! これつけて!」

「これもこれもー! えへへへひらひら似合うー!」

「ハルカちゃんほらこっち! こっちよ!」

「うええええ?」

「山守様ー! ほら奥さんよ!」

「わーん陽花ー!!」

「むぎゅうぅ」


 ぐるぐる人の間を回される間に、布を巻かれ、宝石をつけられ、花を飾られた陽花は、泣きながらどこからかすっ飛んできた灯の腕の中に押し込めれて、更にくるくると回され始めた。

 景色が回り、色が回り、光と音が回る。

 誰もが笑顔で歓声をあげながらひたすら踊る。男も女も老いも若きも関係なく、場所を換え、人を換えて笑い踊っていた。

 

「よ、酔いそう……」

「わーん陽花は俺のー!!」

「ふわあ、灯さん」


 ぐるぐる回されて、なんとか着いてきたらしい灯に抱きとめられて輪から外れる。

 長い蛇体で器用に踊る灯は、ふにゃりと顔を緩めて唐突な接近におたついている陽花を覗き込んだ。

 愛おしそうに微笑む番の顔に、陽花もほんのりと頬を染めてはにかむ。

 視線の端には、なぜかブレイクダンスもどきてダンスバトルするホゥトとルルクゥや、二人でぎくしゃく踊るアディと若長も見えた。


 またどこからか酒や花が追加されたのか、わあっとあたり一面が笑い声と喜びに溢れ、花束の街は今日も今日とて騒がしい。

 いつも通りの、いつもより幸福な人々を見て、陽花と灯はこつりと額をあわせて偲び笑う。


「今年も楽しくなりそうだね、陽花」

「今年も忙しくなりそうです。灯さん」

「新しい日に、陽花」

「新しい年に、灯さん」


 飛び交う花と、美しい布の狭間で重なった二人の姿は、喧騒に掻き消えて誰にも気付かれなかった。



「今年も一年よろしくお願いします」




相変わらずちょいちょいしか浮上できませんで、本当に申し訳ありませんが、どうぞ今年もよろしくお願い致します。

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