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部員確保

「暇だ」

「暇すぎる」

「暇っすねぇ」

 初夏の日差しが室内に差し込む中、三人はそれぞれ思い思いの体勢をとっている。彼らの部室であろうその部屋は多分十畳ほどだろう。手狭だ。中には簡素な長机と三つのパイプ椅子、壁際には生徒皆が使うのと同じ机が一つその上にはノートパソコンが起動したまま置いてある。ここは私立水上高校探偵部部室である。正確にはまだ同好会だが、

「ぬわぁー!何でこんなに暇なんだ!あらたどうにかしろぃ!」

 新と呼ばれた少年は伏せていた顔を上げ、声の主を見る。

「いや、俺に当たられても困るんですが・・・。八潮さんどう思います?」

 今度は八潮と呼ばれた女性が本をから目をそらし二人を見やる。

「なぜ私に振るんだ。勘弁してくれ」

「「「はぁ・・・」」」

 三人のため息はとてつもなく重く、部室の中を漂った。

 私立水上みなかみ高校探偵同好会、本日の活動件数、0。


 

 四月私立水上高校に合格した藤堂新は部活勧誘の渦に取り込まれている。有名と聞いていたがここまでとは思ってもみなかった。

「おっ、新入生いい身体してんなぁ!水泳部どう?」

「いやいや、君のようなガタいの良い奴は是非アメフト部に!」

 これは新に向けてではなく、いかにもスポーツマンシップに乗っ取ってますよと言わんばかりの隣の一年生に対してだ。新は人垣を縫って進み、なんとか人の少ないところまで来れた。

「部活どうしようかなぁ・・・そもそも絶対参加ってなんなんだよ」

 水上高校は生徒全員が部活所属することを義務づけている。生徒の自主性を高めるとかなんとか・・・新には到底理解出来ることではない。中学三年間ずっと帰宅部だった新にとって苦痛以外の何者でもない。

「ん?新入生か?おまえ」

「え?あ、はい・・・」

 突然だった。偶然腰を掛けたベンチの裏から上級生と思われる生徒が新に話し掛けてきた。何故わざわざ上級生が一年生に話し掛けるのか。いや、理由は一つ。

「部活入らないか?」

 やはり。

「えっと、まだ決めかねているんで何とも。そもそも部活がわからなかったら入りようがないじゃないですか」

 新のもっともな理由に上級生は目を見開き意地悪げに言う。

「じゃあ、何部だと思う?」

「はぁ?」

 予想外だった。

「えっと、制服ってことは文化系の部活ですか?」

「体育会系とは思わないのか?」

「いや、部活紹介なら自分の部活のユニフォームなり道具なりもってるんじゃないですか?それにマネージャーって説も無しで」

「ほう、なぜ?」

「あなたがマネージャーするならその部はそっこーで廃部ですね。あなたは人を支えるような人間には見えない」

「ひどい言いようだな」

 少し照れ気味に答える。

「つまりあなたは文化系部活の部長。さしずめミステリー研究会とかじゃないですか?」

 今度は上級生は目を見開いた。

「いやぁ、おまえ凄いな!そこまで見抜くとは正直驚いた」

「そいつはどーも」

「俺は赤神仁あかがみじん。よろしく」

 仁は新に手を差しだし握手を促す。それに応えるように新は握手した。

「いやぁ、廃部になる前に部員が見つかってよかったわ」

「いや、まだ入るなんて一言も--」

「とりあえず部室まで来てみろよ。なっ?」

 新の意志を無視して仁は新を引っ張っていく。しょうがないので新も抵抗を止めた。

 向かったのは部活練と言われる校舎。建物全体が各部活の部室となっている。新たちは二階の一番奥の部屋へと向かう。

「ここが部室だ!まっ、とりあえず入れ」

 新は背中を仁に押され中に入れられる。すると中には女性が一人本を読んでいた。

「なんだ、また仁君の拉致被害者か気の毒に」

「ちげーよ。入部希望者だよ美緒ちゃん」

 美緒と呼ばれた女性は不機嫌そうに言い返す。

「いつになったら君は美緒ちゃんと呼ぶのをやめるのかな?いい加減に止めてくれないか」

 その言葉に仁は無邪気な笑みを浮かべ新を見る。

「いーじゃんか。なぁ、少年?」

「いや、まぁ、はぁ・・・」

「ところでそこの少年は本当に入部希望者なのか?そっちの方が気がかりなんだが」

 そこの少年と言えばもちろん新のこと。女性は本を長机の上に置き、立ち上がった。

「私は水上高校探偵同好会副部長、八潮美緒だ。よろしく」

「あ、よろしくお願いしま――」

 差し出された手。しかし、新は一つ奇妙なことに気付いた。

「たん・てい・・・?」

「そう、探偵」

 仁が念を押すように言う。

「聞いてませんよっ!?」

「なんだ、仁君また詳細を知らせずに拉致ってきたのか、呆れるな」

 美緒は額に手を置き、「やれやれ」と言って仁の方を見た。

「いやー、最初に言ったら来ないかと思って」

 にへらと仁は笑う。

「正直、僕は部活を決めかねていたのでここでもいいんですけど、何をする部活なんですか?」

 新の質問に仁と美緒は顔を見合わせ、美緒の方が答えた。

「我々、探偵同好会は“水上高校の教育理念の下に健やかな学園生活を送るため様々な資料、文献を読み、深める。”というのが学校に提出している活動目的だが──」

「その実態は、学校で起きるあらゆる事件を解決するエリート集団だ!」

 仁が得意げに語り、美緒が額に手を置く。どうやら二人はこのような毎日を送ってるようだ。

「どうだ少年、わかったか?」

「何となく」

「じゃあ、入部決定だ!なぁーはっは!」

 その後半ば無理やりに入部届けを書かせられ、現在に至る。


「なぁ、新」

「なんですか?」

「ちょっとでいいから血を噴いて倒れろよ」

 いきなりの突拍子のない要望に新は頭を机にぶつけた。

「何であなたは、そんな末恐ろしいこと言えるんですか!?ギャ○漫画日和のうさ○ちゃんですか!?」

「そう、かっかするな新。仁君もこれでも結構真面目に──」

「真面目のほうが余計にたちが悪いじゃないですか!」

 新がツッコミ終わるとまた静かさが戻った。聞こえるのは新の息切れのみ。

「今日は帰るか」

 仁の提案。美緒も読んでいた本を閉じ、新も帰り支度を始める。

 三人は校門を出てしばらく続く一本道を歩いていた。学園前の通りはあまり人は居ない。帰宅ラッシュ時じゃないということもあるだろう。時刻は午後六時を回り、辺りは薄暗い闇に包まれていた。

 そのとき、新の耳に女性の悲鳴が聞こえた。

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