4. 訳ありの侍女
朝目が覚めたら当然のように隣にアルマが寝ていた。
低血圧のアルマはとにかく朝に弱い。寝坊遅刻が日常茶飯事なので私が提言してやったのだ。
「使用人宅から通うから遅刻するのよ。本館使っていいから適当に寝床を見つけなさい」と。そしてその結果がこれだ。
って言うか主人と寝るとか発想がおかしい。そもそも誰が頓珍漢な発想を許可した。私の両親だ。もー、本当にみんなバカ。
青白い光が漏れるカーテンの隙間を見やりながら、隣のアルマを見る。
私に背中を向けて静かな寝息を立てている彼女は本当に天使のように愛らしい。ふとくるりと寝返りを打った彼女が私の体にぶつかった。ちょっとした衝撃では起きない。
「………」
アルマの下半身には本来女性にはない不自然な膨らみがある。肉の薄い胸板も女性らしさとは程遠い。
華奢な感じが少女のように思わせるが、実際の体構造は男なのである。アルマが男だと気付いたのは、侍女として仕えるようになった割と初期のころだ。
しかし何故男なのに、こうして女性のように振舞っているのか。
「難儀なことねぇ」
柔らかな髪に指を潜らせて優しく頭を撫でた。
アルマは性と心が一致していないのだ。それに気付いているのは私と私の家族くらいだろう。学園の関係者たちはアルマが女だと信じて求愛しまくっている。
とはいえアルマの愛らしさを前に体の性別など大した問題ではないだろう。勤勉な私は「男の娘」と言うジャンルがあることをきちんと知っているし一定の需要があることもリサーチ済みだ。
であるなら性別問題はクリアしたも同然。次なるミッションはアルマを完璧な淑女に育て上げることである。ミラモンテス家令嬢の侍女であるのにこのドジさは流石にない。
「頑張んなさいよ」
「……ロラちゃん?」
ふわりとベッドの中で愛らしい蕾が花開いた。頬を紅潮させたその顔は嬉しそうに笑みを浮かべている。アルマの手がきゅうっと私の手を握った。
「朝一でロラちゃんが見れて幸せ〜」
「はいはい、毎日それ言うわね。って言うか侍女の方が起きるのが遅いってどうなのよ」
「ごめんね」
「起きたんなら仕事して。洗面の準備と着替えの支度」
「……もうちょっとイチャイチャしたいー」
「シバくわよ」
「あーん、意地悪ばっか言うー」
戯れにぽかぽかと空中を叩くアルマがあざとい。あざとすぎる。可愛い。
子供のような遊びに付き合ってられず私はさっさと寝間着を脱いだ。ネグリジェの下はショーツしか履いていないのでちょっと寒い。
「ろ、ロラちゃん、ちょっと待って。僕」
「何よ。早く服用意して、のろまね」
「……服着てよ。目のやり場に、困るからー」
「はあ? 結構譲歩してんのにこれ以上譲らなきゃいけないって言うの?」
もともと私は部屋では裸族である。ショーツだけは付けるけれど他の衣服は疲れるし違和感があるし着衣したくないのだ。
世間体もあるので部屋の外ではきちんとした身なりを心がけているが。
私の部屋なんだから私の好きにさせろ、といったところだがアルマが部屋に来た当初要望を述べたのだ。だから仕方なく寝間着を着ているだけだ。
部下の要望を快く受け入れる器のでかいワタクシ。褒めてもらっても構わない。
それなのに。
オロオロと目を泳がすアルマはベッドの中から出てこない。
本当に使えない。ドジもあいまり侍女としての評価はゼロに近い。
「だって、その、やばいって……」
「何がよ」
「ロラちゃん、綺麗だし。……直視が」
「バカなの? 女同士なんだから遠慮なんていらないでしょ」
「…………」
アルマの瞳が固まる。
「あの、ロラちゃん」
「何」
「もし、僕が本当は男だって言ったらどう思う?」
期待を込めた声色に私はあからさまに嘆息を放った。今更すぎて呆れて声も出ない。しかし声を出さないとアルマがまた気持ちを沈めそうなので頑張って言葉を捻り出した。
「体が男ってだけでしょ。そんなの知ってるわよ」
「そうじゃなくて。……そうじゃなくて、じゃあ」
「なんなのよ。ウザいわね」
「ロラちゃんは男をどう思うの?」
「その質問に何の意味が?」
ダメだ。くだらなすぎて溜息が止まらない。
いい加減時間も押しているので、私は自分で着替えることにした。クローゼットとなっている部屋から制服を引っ張り出し、さっさと腕を通す。
ほら、行くわよ、とアルマを促すが律儀に返事を待っているので本当に呆れた。
私が男をどう思っているかって? そんなの考えたこともない。何故なら興味がないからだ。
「男は、そうねえ」
「……」
「生殖するにあたって必要な存在、かしらね」
「…………」
周囲の男たちは揃いも揃ってバカばかりで、興味を持てと言われても無理な話だ。
少し話せば、いつの間にか人気のない場所に誘われそっちの方向に展開をもっていきたがる。女であれば誰でもいいのだと知れる短絡的な行いに、知能の有無すら疑っている。
しかし彼らは本能に忠実な生命繁殖の先導者である。
私には理解できないが、彼らがいないと人類は繁栄しないので存在を認めざる得ない。
その程度の存在だ。
見解が偏っている自覚はあるが、だからといって嫌いと言っているわけではない。
気持ちを捧げることはできないが、必要とあれば結婚くらい訳はない。その辺は分別があるし割り切っている。
「ほら、答えたわよ。わかったらあなたも着替えなさい」
「…………」
急にダンマリを決め込むアルマに溜息をつく。
考えたいことがあるのなら勝手に考えれば良い。侍女の思考の邪魔をするつもりはない。
私はアルマを置いてさっさと部屋を出た。




