13. ペット探し
「ロラちゃんとデートはぼ、……私がするんで、殿下はお帰りください!」
「口調がガバガバなんだが。そんな穴だらけでロラは何も言わないのか」
「超絶天然なドジっ子という設定なので華麗にスルーされてます!」
「成る程。随分うまく懐に入ったな」
「兄上には到底真似出来ないでしょう! フフン!」
「したいとも思わんがな」
少し離れた位置でルーベンとアルマが親しげに何かを話している。チクリと僅かに心臓に痛みを感じたが受け流した。
あのまま二人がうまく行きますように。
エミルがグッと私の手を引く。
そうだ、ぼんやりしている場合ではなかった。エミルの大事なペットを探さないと。
「エミルのペットは夜逃げ出したのよね? 猫かしら、それとも犬?」
「うーん。ねこのような、犬のような。よくわかんない」
「短頭犬種なら猫に見えなくもない、のかしら? 色や模様の特徴を教えてくれる?」
「白い毛にきれいな金色のしましまがまじってるの」
「大きさは?」
「このくらい」
エミルがぎゅっと私の腰に手を回す。
「結構大きいのね?」
「抱っこすると腕いっぱいくらい。たいちょうはお姉ちゃんのお尻まであるよ。しっぽがフサフサでかっこいいんだ」
「その子の名前を教えてくれる?」
「名前はまだ決めてないんだ。昨日の夜もらったばっかだから」
「新しいお友達なのね」
昨日飼い始めたばかりとなると、まだ子供に懐くには日が浅い。名前が決まってないのなら呼んでも、ペットはこちらが期待するような反応を示さないだろう。
名を呼び続けて探す方法は不可である。
「エミルのご両親にどこで買ったのか聞いてみましょうか。迷子ペット登録もすれば直ぐに見つかるわ」
「パパとママには言わないで」
「どうして?」
「だいじにしろって言われたのに、にがしちゃったから。おこられちゃう」
「大丈夫よ」
力強く抱きしめられ、背中を叩いてなだめる。
その瞬間大きな影が死角から飛び込んできた。アルマだ。また足を躓かせたようで、私とエミルの間に「はわわ〜、御免くださーいッ」と言って突進してきた。エミルを庇いつつ、転ぶアルマを抱き止めると後にいるルーベンと目があった。
アルマのドジっぷりに盛大に呆れかえっている。
「ロラ、君の侍女はいつもこんな調子なのか?」
「こんな、とは?」
「………。あまり本気で相手にするな。甘やかすから付け上がるのだぞ」
「ああ、アルマのおっちょこちょいのことですね。もっとしっかりするよう指導致しますわ」
「そっちじゃない。アルマ(ンド)には私から指導しよう」
「僕はロラちゃんから叱られたいので、殿下は引っ込んでいてください!」
「………どうしてこうなったんだ」
無表情ながらにげんなりとルーベンが頭を抱えた。
何を言っているのかわからず、私は首を傾げたが「ペット探し」には全然関係のない話のようだ。アルマならまだしも、ルーベンまで雑談に興じていたのだから私の方が呆れた。
エミルは新しい家族がいなくなって落ち込んでいるというのに。
エミルから聞き出した情報を二人に伝え、では早速探そうということになった。王都への移動でだいぶ時間を取られたので日没まであまり時間もない。
二手に別れようと提案するとアルマがごねた。必然的に私とエミル、ルーベンとアルマの組み合わせになるためだ。
時間もないのでサクッと別れた。一人だけギャーギャー騒いでいたが。
「見つからないわね」
「うーん」
当てもなく探し続けて時間ばかりが過ぎる。エミルの泊まっていたホテルから数キロの範囲内で北西を私たち、南東をアルマたちに頼んだがこれと言った収穫はない。
駐在所や保健所に迷い犬(?)の依頼をしつつ、道ゆく人に「白い大きな動物を見ていないか」訪ねて回るが皆首を振るばかりだ。
夜になり、合流場所のカフェへと入ると、入った先から抱きしめられた。
案の定アルマである。すでに到着していた彼女はいつになく甘えん坊である。それともこれはルーベンに見せつけているのか。ヤキモチを焼かせる高等テクニックか?
彼女の腕を離すと、不満たらたらに手を繋いでお茶をしているテーブルに誘われる。
「すっごく疲れた。歩きすぎて足が棒なんだけど」
「お疲れ様。何か情報はあった?」
「全くない。ていうか何探しているかもわからないままって効率悪すぎでしょ」
「白地に金の縞模様を持つ大きな動物よ」
「そんなんいたら目立つわ! まさかホワイトウルフとかじゃないよね? あれも縞入ってるし!」
「そんな猛獣、ペットに与えるわけないでしょ」
「外人の考えてることなんてわかんないじゃん」
アルマはそう言ってスルリと私の首に鼻を押し当てる。「頑張ったから撫でて」と擦り付けてくるのでくすぐったい。
ルーベンもエミルも見ている最中に触れてくるので「人前よ」と押し返した。
二人の視線がなんとも痛い。完全に侍女の育成に失敗したダメダメ主人に見えている事だろう。
夜も遅くなったので子供をホテルへ送り、私たちは其々帰路に就いた。ルーベンは王宮に、私たちはルーベンが手配したホテルに向かうことになった。
身を清めてベッドに入ると、当たり前のようにアルマも入ってくる。セミダブルを二部屋用意してくれたのに、何故こっちに入ってくるのだ。
アルマの瞳が熱っぽく潤み、私の中でも心臓が跳ねる。やっぱり可愛い。
「ロラちゃん、ロラちゃん」
楽し気にアルマが呼ぶので、自然に私の口も孤を描く。きちんとしたいのにこの可愛さは犯罪級だ。ずるい。
「あのね、僕わかっちゃった」
「何かしら?」
「ペットの居場所」
「え?」
想定外の言葉に目を瞬かせると、瞼の上にキスが落ちてきた。
「え、見つけたの? なら何故さっき言わなかったの」
「だってロラちゃんからご褒美欲しかったんだもん。人前、嫌なんでしょ。二人きりなら沢山触れるし、存分にいちゃいちゃできるよね」
「……アルマ」
彼女は既に気持ちが高ぶっているらしい。
あまりにも可愛く甘えてくるので、叱責する気力も萎えてくる。私もアルマの虜へと成り下がるのか。
何度目かのキスを頬に受けて、つい私も彼女の頬にキスを送る。その瞬間、アルマの頬も真っ赤に染まり、私は一時正常な思考を放り投げた。




