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悪役令嬢は侍女にぎゃふんと言わせたい  作者: こたちょ
二章 シルヴェニスタ編
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12. 異名の多い女

「得意ということはありません。人探しでしたら素人ではなく専門家に依頼するべきでは?」

「ロラが専門だろう」

「失礼ですが、誘拐という線はありませんか? 警察は動いていますか?」

「秘密裏に。我が国としては誘拐であっては困る。仮にも国賓だからな。しかし誘拐の可能性は低いだろう。宿泊施設は外部からの侵入が難しく、警備も整っている」

「迷子ということにしたいのですね」

「うむ」


 アルマは微妙な顔をして斜め上を見上げた。コーネリアは「?」と頭に疑問を散らしている。コーネリアは知らないが私には有難くない二つ名がある。ルーベンが代弁した。


「ロラが歩けば迷子に当たる、という諺がある」

「え」

「迷子ホイホイというあだ名もある」

「確かにロ、……ドローレス様って迷子に限らず通行人にめっちゃ道聞かれますよね」

「嫌なあだ名ですね(っていうか、それナンパじゃないのか?)」


「道に迷うことこそ、道を知ることだから。迷い人って案外多いものよ……」


 フッと、憂いを含めて格言っぽく言ってみたが、各々真顔で私を見たので無かったことにしたい。タイムホールよ、来い!


 気を取り直して私は続ける。


「事情はわかりました。私に出来ることであれば尽力いたしましょう。でもあまり無闇矢鱈に期待しないで下さいね。迷子探しは人海戦術が基本です。別働隊のご用意もお願いします」


 まあ言わずとも動いているだろうが。

 王都に着くまでの数時間を、皆々自由に過ごした。隣からの視線が非常に気になったが、とりあえず無視をした。





「あ、いたわ」

「マジですか」


 王都の正門を潜って馬車を降りたその瞬間、私の目に挙動不審な子供の姿が目に入った。

 うろうろキョロキョロと道のど真ん中を右往左往している姿は嫌が応にも目につく。周囲の通行人は全く気に留めず道を行き交っており、そっちの方が不自然だ。

 いや、気にしながらも声をかけられないでいる。何故だろう?

 そう思いながら子供の方に近づくと、子供もこちらの存在に気がついてパッと顔を輝かせた。


「あ! おっぱいのお姉ちゃん!!」


 …………んん?


 笑みを浮かべながらも、内心今の呼び名に唇を引き攣らせた。何だ、今の。

 子供は私の方に駆けて来て、ぎゅっと腰に抱きつく。子供の頭を撫でながら、背後にいるルーベンへと振り返る。


「この子ですか? 顔立ちから大陸西部のアルバニア系の国民に見えますが」

「うむ。見事な解決であった」

「え、本気ですか? 仕込みじゃありません?」

「本気だ。紛うことない、ロラの能力である」

「……え、えぇ〜」


 一人置いてけぼりを食らっているコーネリアは、解せない顔をしながら私と子供の顔を見比べた。

 アルマは酷く眉間のシワを深くし、私から子供を引っ剥がす。


「ちょっとくっ付きすぎ。どこ触ってんだよ」

「アルマ、相手は子供なのだから乱暴はダメよ」


 子供はアルマに悪態を付いて、私の腕を握る。そういえばこの子、舞踏会の会場にいた気がする。挨拶回りの最中に紹介されたような。名前は、確か、


「エミル、だったわね。私のこと、覚えてたの?」

「うん。キレイな人だってみんな言ってたし。ふわふわして柔らかいし」

「……女性にそういう(デ略)ことは言わないのがマナーよ。うふふ」

「ほめことばなのに?」


 不思議そうにエミルは首を傾げる。

 子供は無邪気である。悪意がない分正直な発言が胸に刺さる。若干傷ついた顔をグッと奥へと引っ込めると、ふとルーベンが「ロラ」と私を呼んだ。


「通訳を頼む。彼は何と言っているんだ?」

「あら?」

「何となく感覚でわかるけどさ。早口で聞き取れない、……です」


 外語だったか。

 何となく無意識に口についていた。母国語とかけ離れた発音にルーベンもアルマも内容がわからず目を細めている。ということはデ(略)と呼ばれたことは伝わってないわけか。コーネリアも聞こえない振りをしてくれてるし。良かった良かった。


「大したことは話してませんわ」と、彼らに伝えて、私はエミルへと目線を合わせてしゃがんだ。

 今朝方からエミルがいなくなって両親が心配していること、国中で大騒ぎになって探していたこと、私たちが迎えに来たことを伝えるも、子供は悲しそうに首を振った。


「まだかえれない」

「どうして?」

「ペットが逃げちゃったんだ。夜いっしょにねようと思って、カゴから出したんだけど。気づいたらいなくなってて」

「まあ」

「パパとママがくれただいじなペットだから。見つかるまでかえれない」

「…………」


 しょんぼりと項垂れるエミルの頭を撫でて「大丈夫よ」と声をかける。ずっとキョロキョロしていたのはペットを探していたからだったのか。確かにずっと目線が下を向いていた。

 加えて都民たちがエミルを気にしながらも声をかけられなかったのは、彼が外国人であるからだ。言葉の壁を気にして接触できなかったのだろう。


 事情をルーベンに伝えると、徐に彼は頷いた。エミルの意図を汲み、無理やり連れて帰ろうとしない、そこに大人の余裕を感じる。

 ルーベンはコーネリアを指で呼んで指示を出した。


「そういう訳だから俺たちはペット探しをすることにする」

「え。殿下自らがですか? その程度のことでしたら私が」

「お前は一旦王宮に戻って、エミルが見つかったことを報告しろ。別働隊の撤収も頼む」

「あ、そういうことですね。かしこまりました。アルマさんも行きましょう」


 急に矛先が自分に向かいアルマが怪訝そうな顔をした。彼女は多分今まで話を聞いていない。何故かずっとエミルを威嚇していたのだから。ドジというより天然の称号がよく似合う。


「何で私が? ドローレス様と一緒にいたいのですが」

「殿下はペット探しを口実に、ドローレス様とのデートをご所望です。我々はお邪魔虫ですので空気を読みましょう」

「はあッ?!」


 らしくなく噛み付くアルマを制し、ルーベンは無表情にため息をつく。


「そうではない。仮にデートならば正面から誘う。……仕事中だ。さっさと行け」

「要らぬ世話でした。行ってまいります」


 頭を下げるコーネリアを、私たちは黙って見送った。

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