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悪役令嬢は侍女にぎゃふんと言わせたい  作者: こたちょ
一章 令嬢と侍女編
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2. 侍女と私


 アルマが侍女として我が家に雇われたのは丁度一年前のことである。

 ある日突然手紙と共に彼女がやって来て、やって来たその日中にいきなり私付きの侍女となった。

 引き継ぎも何もあったものじゃない。

 突然慣れない仕事を全てを任せられたアルマは当然失敗の連続であった。


 朝起こしに来ない。それどころか、使用人用の別宅があるというのに何故か私のベッドに潜り込んでいる。

 二人っきりになると私をロラちゃんと愛称で呼ぶ。主従関係を分かってない。

 好き嫌いが多い。自分の食べられないものはいつの間にか私のお皿に乗せてくる。

 掃除が出来ない。下着の入れ方なんてもうめちゃくちゃ。

 料理も出来ない。危なっかしいから私が変わってあげたわ。

 湯浴みに来ない。何なの? 職務放棄かしら?


 良いところ皆無なくせに、やたら愛想がいいので一瞬にして我が家のアイドルとなった。

 娘の私を差し置いて、両親も祖父母も、昔ながらの使用人たちも「アルマちゃんアルマちゃん」って暇さえあればそればかり。

 お前らは壊れたレコードか。


 そもそもアルマは出来ないことが多いくせに、出来ることとのふり幅がおかしい。


 侍女のくせにあの美貌でパトロンでもこさえてしまったのか、当たり前のように私と同じ学園に通っている。しかも馬鹿みたいに突出して頭が良い。

 私自身は幼い頃からの英才教育の成果があり上位常連なのだが、あの女はあっさりと学力試験一位を奪っていった。一度なら偶然もあり得るけれど試験の度毎回毎回。


 しかも運動神経も抜群に良い。テニス部に所属している私に託けて一緒にテニスをすることになり、いとも簡単に負けた。

 私が弱いわけじゃない。普通に向こうがコーチ並みに上手いのだ。

 敗北に歯噛みしていたら風がアルマのスコートをちらちら揺らして、馬鹿な男どもが歓声を上げた。

 それもあって腹が立って腹が立って、今までしなかった朝練に参加した。

 勉強も朝夕四時間してる。なのに勝てない。


 正直言って教授の中にパトロンがいるのかと疑ってさえいる。私には無い特別授業で彼女ばかり贔屓して成績を伸ばしているに違いないのだ。

 対等の土俵で勝負しろ、と心の底から言いたい。


 そんな私も頭の中は「アルマアルマ」そればかりだ。

 あの可愛い笑顔でおねだりされたらもう全てがどうでも良くなってしまう。魔性の女である。忌々しい。



「……ロラちゃん、いる?」


 ずっと考えていたら、扉の向こうであの愛らしい声が聞こえた。シャワーの音にかき消されてノックに気づかなかった。


「いるわ。何かしら」


 シャワー室からそのままバーンと出ると、その向こうにいた天使が固まる。


「ロロロロロロラちゃん、ふふふふふくきて、ふく」


 よく舌が回るものだと思いながら私はその横を通過した。タオルも持たずにバスルームに入ったので床に水溜りが出来ていく。

 そのまま窓際の椅子に足を組んで腰掛けた。


「あら、あなた侍女でしょ。あなたが準備なさいな」

「う、……ロラちゃん」


 足を組みなおし、交差する一瞬をアルマが直視してしまい、ふらりと壁に頭を激突させた。

 本当にドジ。


「バスタオルも欲しいわ。早くして、風邪ひいちゃう」

「……ふええ」


 アルマは泣きそうな顔をして廊下に飛び出す。飛び出した先で「ドローレス様が苛めるー!」と叫んでいるのが聞こえた。


「…………」


 私の額に青筋が浮かぶ。

 今の一連の流れに私に非はあるか?いや、ない。

 侍女に仕事をするように言っただけである。それなのに何もせず飛び出して行ったので結局私自らが床の掃除をする羽目になった。


 そもそも今シャワーを浴びていたのも、ダンスホールでアルマがヘマをしたからだ。

「ドローレス様~、これおいしゅうございますよ~」と天使の笑顔を浮かべて、持っていたドリンクを私にぶちまけたのだ。ヨーグルトドリンク特有の、あのどろっとした液体は胸元からドレスの間に入り込み、その不快さから彼女を叱責したのだ。

 そこからはもう、後の祭り。


 何かを婚約者殿がおっしゃっていた気がするが、忘れた。そもそも彼に興味がない。


 そんなことよりアルマだ。あの女、まずシバきたい。一連のくだりを見ていたくせにどいつもこいつもアルマの味方をしやがって。

 私に味方はいないのか。神様は何と不平等なことか。

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