ながーーい戦略解説
呉にはもう二組の一族が、在野武将として存在する。
「シュカン殿待った! やっぱり今のなしで!」
「待ちません。はい……王手。次はゼンソウ殿の番です」
「うっ……ぬぅ、くぅ、これなら……」
「ここも王手。次、ゼンソウ殿です」
「…………参りました。儂の敗けです」
飯店の一角にて碁を打っているシュカンとゼンソウを当主とした、シュ家とゼン家だ。
何だか一方的にゼンソウがやられている様に見えるが、確かに知力に於いてはシュカンが圧倒的に上であり、数値にして16もの開きがあった。
ただし、ゼンソウの知力が低い訳ではない。寧ろ平均より上の65という数値であり、少し鍛えれば軍師(知力70以上必要)の職に就くことも可能。
敢えて言うならば、シュカンが文武両道すぎるという事か。
彼に至っては82の武力も然る事ながら、知力が81もある。それは並の文官を越えていた。
「あの二人はまともそうね。と言っても子武将と一緒じゃないから、今だけそう見えるのかもしれないけど」
一方の怜華は、まるで親子揃って登場している武将が狂人みたいな言い方をする。
彼女はここに至るまで、いったい何を見てきたのか。餅を書いた壁に半裸で猛タックルする親子や、今の世の中を憂慮して拳で語り合う親子ぐらいしか居なかったろう。
(行動力も残り少ないし、このターンで話し掛けるのはあの二人で終いにしよう)
「もし、少しだけ時間をいただけないだろうか?」
碁が終わって二人が談笑に入った隙を見て、俺は二人に話し掛けた。
「むっ……何用か?」
答えた者は、若々しい顔立ちと鋭い眼光が特徴的なシュカンだった。
僅かに睨む様に目を吊り上げ、低い声音もあって不機嫌な様を思わせる第一印象だ。
「お初にお目に掛かる。俺は殿路秋渓と申す。二人はシュカン殿とゼンソウ殿ですな!」
「ええ、儂がゼンソウ。此方がシュカン殿です。殿路秋渓殿ですね、お見知りおきを」
「……シュカンと申す」
次に答えた者は、白髭を交えた素敵な笑顔が特徴的なゼンソウ。
痩けている頬が彼の苦労性を物語っていると思え、初老の男性と言える外見をしていた。
それでも彼の笑顔は、泥沼な家庭環境を思わせない健気さを放つ輝きに満ちている。
(笑えるのがこの二人……実はシュカンの方が年上なんだよな)
一瞥で返すシュカンは二十代後半といっても頷ける若々しさを持つが、彼はゼンソウよりも21年早く産まれている。どうなってんだお前ら。
因みにシュカンの方が我が儘な性格をしている。ほんとどうなってんだお前ら。
「……それで、我等両人に何用か」
「呉の都市には賢人が多いという噂を聞いて参った。実はつい先月、俺は放浪軍を結成したんだが、先行く不安がまだあってな。二人の知恵を貸してはいただけないだろうか」
「……ふむ、放浪軍か。ならば早い事、空白地にて旗揚げを果たすべきだろう」
シュカンの視野は広域に及び、その助言は大分鋭いものだった。
「旗揚げ候補地として有力な場所は寿春だ。西にエンジュツ(蜂蜜皇帝)、南にソンケン、東にリュウヨウと、三方を敵に囲まれてはいるが、北の広陵(諸葛誕が居た都市)は空白地であり、容易く奪い取れる。そして先ずはソンケンと同盟を組む事が重要であり、これも比較的容易な事。なぜなら寿春は商業都市にして人口も中規模(人口20万人以上)となる一歩手前ほどに多く、何より商人が常駐している。故に都市から得られる資金や商人との取引で上げられる利益が単純に多く、それを元手に外交交渉を行えば、同盟締結までは極めて円滑に進む筈だ」
後で確認したら、ソンケン領の盧江は人口が20万1千人の中規模都市で、商人は非常駐、且つ物資生産に向かない技術都市だった。
反してシュカンが勧めた寿春は人口が19万4千人で、商人常駐の商業都市。生産国力の面で考えるならば、寿春を治めて一年も経てばソンケン軍に追い付ける。
「ソンケン軍と同盟できれば、後は海が割れる様に道が開く。軍を二手に分け、一手は北の広陵を占領し、残る一手は寿春を守備する。仮に戦力が分散した隙を突いてエンジュツやリュウヨウ、トウケンに攻められても、奴等は隣り合う寿春と広陵が連携して当たれば難なく撃退できる程度の敵であり、義理堅いソンケンに援軍を頼めば彼は助けてくれるだろう。そして機を見計らい、寿春と広陵の二都市からリュウヨウが治める秣陵を攻めとる。この時点でソンケン軍に先を越されない様に気を付ける事が重要であり、秣陵攻略の真の狙いはソンケン軍の東部拡大を阻む事にある」
秣陵は別名、建業とも言う。ソンケン(息子の方)が呉国の本拠地と定めた大都市だ。
分かりやすく言えば、北京と対をなす南京である。現在の一大都市は1800年も前から一大都市として栄えていた。
「秣陵の次はこの呉を攻め、その次は南隣の会稽を攻める。会稽は呉からしか、呉は秣陵からしか攻められぬ立地故に、後方補給都市として、これほど優れた場所はない」
秣陵より南東は、一直線上に呉と会稽に続いている。
秣陵の周囲は5都市と隣接しているが、呉は秣陵と会稽にしか隣接しておらず、会稽に至っては呉としか境をなしていない。
つまり秣陵を制圧して同地の守りを固めたら、呉と会稽は真の安全地帯となる。
無論、そこに兵を割く必要はなく、秣陵が敵に落とされない限り、二都市は物資生産に専念できるスーパー優良都市へと変貌するのだ!
そんな事を言ってると普通に正規勢力としてプレイしたくなるが、俺がそうできない事情を語る暇もなく、シュカンの戦略論は続く。
「秣陵、呉、会稽には野に埋もれた逸材(未発見在野武将)が多い。彼等を残さず登用して軍備を整えた後、同盟が切れた頃を見計らってソンケン軍を攻め滅ぼす。さすれば揚州・淮南の支配も果たされ、揚州を制すれば楼船(水上用決戦軍艦)を編成する事が可能となる」
揚州とは大陸南東部一帯の総称。淮南は揚州の北隣一帯を示す総称であり、該当都市は東から順に見て広陵、寿春、盧江だ。
「揚州と淮南の制覇後は西のリュウヒョウと和を成し、彼を中央や西の諸勢力への抑止力として利用するのだ」
「おや、荊州を制覇しないのですか?」
ここにきて聞き役だったゼンソウが尋ねる。
彼は揚州より西に広がる荊州制覇を急務と捉えている様だ。
「リュウヒョウが治める荊州は無駄に広く守りにくい。それに国土に反して良将が少なく、野に埋もれた逸材も然り。彼の軍には同族を攻める事を良しとしないにも拘わらず、豪傑・賢人を星の如く抱えるリュウビ軍の勢力拡大を妨害してもらう役目がある。仮にリュウヒョウを滅ぼして荊州を制覇したならば、リュウビは同族の仇を大義名分にして侵攻してくるだろう。それまでに蓄えた物資をふんだんに使った、お得意の漁夫の利戦法を以て、凄まじい陣容を備えて……な」
荊州に関してはシュカンの言う通り。強いて補足するなら「攻め易く、守りにくい」。
そしてリュウビに関してもシュカンの言う通りの動きをする。
「リュウビは東にリュウヒョウ、西にリュウエンと同族に固められ、二勢力が健在のうちは動きらしい動きはするまい。それを利用して、殿路殿は主軍を広陵より北上させる。中原のソウソウや河北のエンショウが大陣営を整える前に、北部進出を果たすのだ。そして、ソウソウかエンショウのどちらかを討つ事ができたなら、後は流れ作業と言えよう」
以上、シュカンによる長い軍略解説終わり! 聞いている内に全勢力滅亡エンディングではなく、本当に正規勢力でプレイしたくなったぞ。
だが、ここまで真摯になって答えてくれたシュカンには本当に悪いのだが、漸く俺の発言ができる状態になったところで、俺は事情を説明した。
「すまんシュカン殿! 貴殿の話は真に為になったのだが……実は………………」
放浪軍を率いた全勢力滅亡以外に道はない。そう伝えたら彼はきっと嫌な顔をするだろうか。
ところが俺の心配を余所に、彼は逆に豪快な笑いを見せた。
「はっはっは!! 何だそれは放浪軍進撃策だと! そんなものは常に臨機応変に攻めまくるしかないではないか! 今ここでどうこう論議しても始まらん! 何せ情勢は直ぐに変わり、録な外交交渉を行う事もできんのだからな! ……ふふっ! 兎に角兵を集めて近場の弱小勢力を攻め、人材を片っ端から登用し、ソウソウやエンショウの限られた戦力を空白地に分散させてこれを叩き、徐々に弱らせる。それか奴等が大勢力となる前に片をつけるしかあるまい?」
シュカンはえらく楽しそうに、俺達と同じ考えを提案してくれた。
俺とシュカンとゼンソウは真に意気投合し、この後も長らく語り合った。
「お初にお目にかかる。わしはウキツと申し、いささか仙術を心得ておる。以後、お見知り置きくだされぃ」
(……………………ん? いま何か混ざったぞ)
然しその最中、気が付けば見知らぬ爺さんが会話の中に入っており、俺もシュカンもゼンソウも、近くの席で談笑を聞いていた怜華ですら曖昧な記憶となった。
そして、話し終えた俺がターンを終了しようとした時、改めて気付く。
本来は残りの行動力が42となる筈が、32となっている事に……。




