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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
終幕
166/171

台風一過のその後に、日の本を日の光が照らし出す。分け隔てなく照らし出す。

 

「大嶽丸様・・・不甲斐無き我ら・・・申し訳ございませんでした・・・。」

 暗闇の中の大嶽丸の耳に顕明(けいみょう)の声が響く。


 大嶽丸が目を開けると、そこは慣れ親しんだ地獄の先の煉獄の更に底。大嶽丸を囲むように三明と酒呑童子が座って、大嶽丸の顔を覗きこんでいた。酒呑の後ろには、茨木童子など、酒呑の配下の鬼が控えている。

「ケッケッケッケッ、大嶽丸とあろう者が、盛大にやられたなっ!」

「ギャギャギャギャッ!」

 茨木童子が大嶽丸に悪態をつくと、酒呑の配下の鬼達も大笑いしている。


「・・・・・・。」

 顕明たちはジッと自分達を押さえ込み、身体を震わせていた。


 茨木達が笑う中、酒呑だけは微笑んで大嶽丸を見ていた。

「どうだったい?・・・久々に胸の中がスッとしなかったか?」

 酒呑は周りが驚くような言葉を口にする。


 酒呑の言葉に大嶽丸も微笑んだ。

「あぁ・・・こんなに満足したのは何百年ぶりか・・・負け戦でこうも晴れやかになるのは初めてかもしれん・・・。」

 大嶽丸は見慣れた地獄の底の焼け付く空を見て、笑う。


「・・・・・・。」

 大妖怪の二人の語らいに周囲の感情は一切合切吹き飛んだ。




「酒呑・・・時代が変わるぞ・・・。」

 大嶽丸は視線を酒呑に合わせて、真剣な目を向けた。




「・・・・・あぁっ・・・百鬼夜行も最後かも知れんな・・・。」

 酒呑は大嶽丸と視線を合わせて、苦笑いをする。


 酒呑は大嶽丸と視線をしばし合わせた後、勢い良く立ち上がって、その場から背を向けた。

「あぁあぁっ・・・今回の百鬼夜行は意地でも俺が頭目になるべきだった・・・口惜しや、口惜しや・・・。」

 酒呑は肩をすぼめて、何処かへと歩いていく。


「カシラッ!待ってくだせいっ!」

 茨木を先頭に酒呑の配下の鬼達は誰一人納得していない表情で大嶽丸と酒呑を見返しつつ、頭目である酒呑の後に付き従っていった。



「・・・殿・・・。」

 顕明が目に涙を溜めながら大嶽丸を見ている。



 大嶽丸は上体をゆっくりと起こすと、顕明の頭を優しく撫でた。

「俺は満足した・・・それだけでは不服か?」

 大嶽丸は満面の笑みを顕明達に向けて、そう話す。


 3匹の鬼は子供のように大嶽丸に抱きついて、主の帰還を受け入れた。






 スカイツリーの頭の更に上にはためいていた紫色の不気味な幕が霧散する。

「・・・・・・。」

 その様子を見ていたのは大天狗。


 丁度、台風の目の中にあるこの場所の上空で、大天狗は全てを見守っていた。

「・・・・・・なんともはや・・・年端も行かぬ小僧も小僧が、あの百鬼夜行を止めるかよ・・・万の軍勢を止め、神を越えて・・・お前は何を望む?」

 大天狗は腕を組んでいた手を解き、自慢の羽団扇(はねうちわ)を軽く一振りした。


 すると、空を埋め尽くしていた黒雲が次第に薄くなり、雨が止み、弱弱しく吹いていた風も止み、次第に晴れ間が雲間から差し始めた。




「礼を言うぞ善湖善朗っ・・・天晴れであったっ!」

 大天狗は羽団扇で自身の顔を仰ぎ、笑いながらそう言うと地平線の空へと鴉天狗達を連れて消えて行った。








「ついにやっちまったか・・・。」

 スカイツリーを見上げながら、そう話すのは菊ノ助。


「何言ってんだいっ・・・散々問題ごと子孫に背負わせて・・・あんた、良く地獄に落ちないね?」

 のん気な菊ノ助を言葉で刺すのは佐乃。


「・・・私の目に狂いはなかった・・・とは、恥ずかしくて言えませんな・・・。」

 苦笑いをしながら、恥ずかしそうに頭を掻く秦右衛門。


「・・・大した男だぜ、善坊は・・・自分が小さ過ぎて、泣いちまいそうだ・・・。」

 大きな大きな身体を縮ませているのは金太だった。


 相変わらずの4人はそれぞれの思いを胸に善朗の帰還を待ち望んでいた。


 妖幕が晴れ、晴れ間が差し出した空に全てが終わった事を理解し、後は主役を待つだけだった。



「・・・それにしても、乃華殿達も出てくるのが遅いな?」

 スカイツリーの出入り口に視線を移して、菊ノ助がアゴを触る。



 確かに、全てが終わる前に、善朗が乗り込んで、無事であろう乃華達も出てくる様子がなかった。もしかしたら、闘いに傷付いた仲間達の手当てをしているのだろうと思っていたが、それにしても誰一人出てこないことに違和感を持ち始める。


「・・・もしかして?」

 いつもの心配性で顔を曇らせる金太。


 秦右衛門がそんな金太の肩を軽く叩く。

「何心配してんのっ?・・・あんただって、気配探れるでしょ?・・・気配を探れ・・・ば・・・。」

 秦右衛門がスカイツリーの内部の様子を気配を探ることで把握しようとする。




「菊ノ助さんっ!!」

 乃華が菊ノ助の名前を叫びながら、慌てるようにスカイツリーの中から飛び出してきた。




「・・・・・・。」

 乃華の叫び声に答えず、菊ノ助達はジッとスカイツリーを凝視して動かない。


「・・・はぁっ、はぁーっ・・・大変なんですっ・・・善朗さんが・・・善朗さんが・・・。」

 乃華は必死にここまで走ってきたのか、菊ノ助の元に来るなり、肩で息をして、塞ぎ込む。



「・・・いねぇ・・・どこにもいねぇよ、秦兄ィ・・・。」

 金太はスカイツリーを見上げながら、顔を真っ青にする。



 秦右衛門もスカイツリーを凝視したまま、固まっている。

「・・・・・・そんな・・・まさか・・・。」

 秦右衛門の口から力なく言葉が零れる。





「・・・善朗が・・・善朗が何処にも・・・いねぇ・・・。」

 菊ノ助が目を丸々とさせ、顔面蒼白で気配を探った後の結果を口にする。





 菊の助達が善朗に気を取られているそんな中、別の視点を持っていた人物が一人いた。

(・・・賢太・・・あんた・・・さっきまでいたはず・・・あんた達、何を考えてんだいっ?)

 佐乃は善朗と共に賢太の気配もずっと探っていた。


 その甲斐あって、菊の助達とは別の視点で佐乃は事態を把握できた。賢太は先ほどまで、霊力の回復に専念していた・・・しかし、善朗の気配と共にいつの間にか消えていたのだ。それは、二人が何か一緒に行動したと言う可能性を佐乃に提示させた。だが、確証のないこの可能性をこの場で口にするほど、佐乃は軽率でもなかった。


「・・・・・・善朗さんっ・・・善朗さんは何処に行ったんですか?・・・誰か教えて・・・。」

 乃華は目から大粒の涙を流しながら崩れ落ち、今は姿無き善朗の名を口にした。


 妖幕は消え去り、台風も霧散し、空は雲ひとつ無い晴天。

 惨劇をもたらした百鬼夜行は終わりを告げた。




 しかし、最も祝福されるべきモノである善朗もまた、忽然と姿を消していた。








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