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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第9幕 虹を越えて、神を凌ぐ
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第158話 ~エピローグ~ 神を凌ぐ

 

「善湖善朗・・・どうかしたのか?」

 大嶽丸が好敵手の異変にいち早く気付いて、声をかける。


 ここまで互いに上り詰めた存在ならば、大嶽丸は無粋なことはせず、正々堂々と雌雄を決する事を第一に望んだ。だからこそ、善朗が不意に意識を外した事に大嶽丸は誰よりも納得する必要があった。


「・・・・・・。」

 善朗は大嶽丸に尋ねられるも、黙って両手の中にある大前の刀身をイチベツする。


 そして、

 〔・・・キンッ・・・〕

 善朗は大前を静かに鞘に戻して、優しく自分の脇の床に置いた。




「・・・・・・どういうことだ?」

 誰もよりも、その善朗の行動に困惑したのは大嶽丸だった。




 突然、戦闘を放棄するような行為を目の前でやられたのだから、誰よりも善朗という存在を認めた大嶽丸にとって、その行動は目に余るものがあった。


「・・・いや、闘いをやめるわけじゃないよ・・・。」

 善朗は困惑する大嶽丸に対して、スッと姿勢を正面に直して立ち、強敵であろうはずの大嶽丸に向かって、柔らかな笑顔を見せた。



(どういうことなのだっ、主っ!?)

 善朗の言葉に驚愕したのは他でもない大前だった。



「・・・・・・。」

 善朗は大嶽丸をジッと見て、大前には何も返さない。


 大嶽丸は行き成りの仲違いを見せられて、少し戸惑う。

「・・・闘いを捨てたわけではないと?」

 大嶽丸は少し毒気を抜かれたが、善朗の目を見て、姿勢を改める。




「・・・・・・俺にはもう、《《大前は必要ない》》・・・。」

 善朗は余りにも晴れ晴れとした清々しいまでの表情でそう言い切った。




「ッ?!」

 大嶽丸は善朗のその言葉に目を丸くした。だが、好敵手の世迷言にも思われる言葉を聞き流したりはしない。それよりも、

(次はどう動くのだっ・・・善湖善朗ッ!)

 大嶽丸は善湖善朗のそのあまりにも真直ぐな瞳に心を躍らせる。



 善朗自身を神の領域まで連れてきた盟友とも言える付喪神『大前森永』。

 それを放棄してまで、この好敵手は何を見せようというのか?



 大嶽丸の金棒を持つ手に力が溢れる。

 四肢の筋肉が盛り上がる。

 奥歯に力が入り、目がギラつく。


 それに対し、善朗は実に穏やかだった。

 大前を床に置き、素手となった手を力なく開き、

 相手との前に自然と出す。

 その姿は陽炎(かげろう)で揺れるように軽く、しなやかだった。


(打って出るっ!)

 大嶽丸に恐れはない。


 好敵手との最後の交わり、そう捉えた大嶽丸は全身全霊を持って、善湖善朗に《《挑む》》。


「・・・・・・。」

 善朗は迫る巨人をただただ静かに迎え撃つ。


 そして、互いの間合いが交じり合い、大嶽丸の必殺の金棒が振り下ろされた。






無刀(むとう) 一刀四海(いっとうしかい)

 七色は三色に集合し、原色は収束して、黒となり、

 黒となった色は圧縮し、全てを解き放ち、白となる

 黒陰(こくいん)白陽(はくよう)が混ざり合い、『無』限の宇宙(そら)へと辿り着く






 大嶽丸は気付く。

 善朗に未だ到達できない自身の金棒。

 それどころか、周りの世界が静寂に包まれた事に驚く。

(・・・どういうことだ?・・・振り下ろした腕が重い・・・目の前の善朗に届くまで何時間かかるのだ?・・・どうなっている・・・。)

 大嶽丸は自分の鉛のように重い身体をどうにか動かそうとするも、ビクともしない。


 全く動かないというわけではない。

 1秒に、1フレームに少しずつ、大嶽丸の金棒は善朗に迫っていく。

 しかし、それはコマ送りよりも遅く、到達する頃には日が変わっているようにも思えるような時間の流れを感じた。その時だった。


(・・・なっ?!)

 大嶽丸の目に映る善朗は自然と不自然なく動き出す。


 さらに、その手にはしっかりと《《大前ではない刀》》が握られていた。

 大前は確かに床に置かれている。だがしかし、善朗の手にはしっかりと別の刀が存在していた。



 善朗は自分の望んだ、自分が持つべき、あるべき刀を《《創造》》したのだ。



 そして、世界を、時間軸を支配した。

(・・・神を・・・お前は・・・《《神を越えた》》のか?)

 大嶽丸は自分の想像をはるかに超越した善朗に初めて絶望する。


 相も変わらず、大嶽丸の体はコマ送りで進んでいく。

 しかし、大嶽丸の思考と視界はわざわざ絶望を直視させるように善朗に支配された次元の中で動いていく。


 善朗が動くたびに増えていく。

 善朗が一人増えて、二人になり、二人がそれぞれ増えて、4人になり、

(ッ?!)

 大嶽丸が目を見張るとそこには何十とも何百とも言える善朗が刀をシッカリと構えて、大嶽丸に狙いを定めていた。


 大嶽丸の視界がコマ送りになる。

 死を決した大嶽丸の頭の中に走馬灯が流れた。

(・・・失念していた・・・俺が成長するならば、お前もまた成長しているのだと・・・神の領域に到達した事で・・・俺は止まってしまった・・・侮った・・・お前は神になったとしても・・・《《止まる事はない》》のだなっ。)

 大嶽丸は最後に笑う。


 最高の好敵手と満足いく闘いを終え、静かに目を閉じた。





 1が2となり、2が4となり、千を越え、

 万を越える善朗が、その一刀から・・・

 無限となった刃が大嶽丸を包み込んだ。







 〔未明に発生しました季節外れの大型台風32号は突然熱帯低気圧となり、その姿を忽然と消しました・・・気象庁が発動していた警報は全て解除されましたが、雨により緩んだ地盤がありますので、くれぐれも・・・。〕

 TVから日本の関東を襲っていた大型台風が突然消え去った事を男性アナウンサーが戸惑いながらもシッカリとした口調でお茶の間に伝えていた。


 窓から見える空は台風一過といわんばかりの晴天が広がり、太陽が燦々(さんさん)と人々や街を《《分け隔てなく》》照らしていた。









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