頂上の空気は澄み切って、深呼吸をすると何かが変わる気さえする。雲を越えたそこでさらに上を見上げるのか、下を見下ろすのか
(七色の性質変換からの七連撃を黒とするならば、当然、黒と対を成す『白』があるのは必然)
大嶽丸は咄嗟の善朗の技でもある『白刀 星河一刀』を読み切り、その未知の攻撃に対して、万全を備える。
(黒刀は七色の連撃・・・ならば、白も神速を越える速度でくるっ・・・まずは?)
大嶽丸は善朗の一挙手一投足を見逃さない。
そして、善朗の白刀から放たれたのは、黄刀!
大嶽丸は黄刀を水の性質で相殺、次に蒼刀を火の性質で・・・。
(・・・黒刀と変わりないのか?)
大嶽丸は善朗の繰り出す白刀を黒刀攻略のように性質変換で相殺していく。
黄刀から始まり、最後の七刀目は緑刀。
(・・・おわっ・・・たッ?!)
大嶽丸は黒刀を凌ぎきる・・・しかし、
8刀目、蒼刀
「バッ・・・カナッ!?」
大嶽丸は善朗の白刀に思わず、声を上げる。
黄刀から始まる8刀目、蒼刀・・・9刀目赤刀、10刀目藍刀
(ぐぅっ!?・・・潰れるッ?!)
74刀目紫刀を持って、大嶽丸は瓦解する。
「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
大嶽丸の金棒は善朗の紫刀により弾かれて、その瞬間、大嶽丸の全身が無防備となった。
それでも、善朗は止まらない。
藍刀赤刀橙刀黄刀緑刀赤刀藍刀紫刀蒼刀紫刀藍刀赤刀蒼刀橙刀黄刀緑刀赤刀藍刀紫刀蒼刀紫刀藍刀赤刀橙刀蒼刀紫刀黄刀緑刀赤刀緑刀藍刀紫刀蒼刀紫刀黄刀藍刀赤刀橙刀黄刀緑刀赤刀藍刀紫刀蒼刀紫刀藍刀赤刀紫刀橙刀蒼刀黄刀緑刀赤刀藍刀紫刀蒼刀紫刀藍刀赤刀橙刀黄刀緑刀赤刀藍刀紫刀蒼刀紫刀藍刀赤刀橙刀黄刀緑刀蒼刀藍刀赤刀藍刀紫刀蒼刀紫刀藍刀赤刀橙刀黄刀緑刀赤刀藍刀紫刀蒼刀紫刀藍刀赤刀橙刀黄刀緑刀赤刀藍刀紫刀蒼刀・・・・・・
〔ドゴオオオオオオオオオンッ!〕
善朗の繰り出す連撃が3桁を越え、4桁の連撃に迫る頃、大嶽丸は善朗によって外壁に叩きつけられて、反対側へ突き破るほど、壁にめり込まされた。
「・・・・・・。」
さすがの大嶽丸も白刀の何百という連撃を浴びて、ピクリとも動かなくなる。
七色は三色に集合し、原色は収束して、黒となり、
黒となった色は圧縮し、全てを解き放ち、白となる
それはまさに宇宙の始原に由来するビックバンを連想させる。
宇宙の圧縮された闇がその質量を持って弾け飛び、万とも言える星が発生する。
一刀から星の数ほど放たれる連撃は、まさに星の河の流れを形成した。
これでは、さすがの大妖怪大嶽丸とて、無事では済むはずがなかった。
「・・・・・・ギリギリだった・・・流石だ、善朗・・・ここまで、俺を高めてくれたのはお前以外には在り得ない・・・。」
大嶽丸がめり込んだ壁の穴の闇の中から、大嶽丸のその低い重い声が響き渡り、善朗の耳に届く。
「すぅ~~~・・・はぁ~~~・・・。」
善朗は相も変わらず、呼吸を整える。どんな状況になろうとも、躊躇なく、落ち度なく、瞬時に行動できるように備える。
「・・・・・・俺は成り得た・・・ついに届いた・・・。」
大嶽丸の姿が穴の闇から再度姿を現す。
大嶽丸の体は善朗の白刀の餌食となり、ズタボロの血塗れではあったが、その目からギラギラと煉獄の炎が揺らめくのが見える。
終わってはいない。
百鬼夜行は残す鬼が大嶽丸だけとなっても、尚、膨れ上がっていく。
それを示すように、大嶽丸の全身から湯気が立ち上り、体中の傷という傷が姿を消して行った。
「お前でなければ、俺はこの攻撃に耐え切れなかった・・・いや、酒呑が居なければ・・・下の階のゴミ共が居なければ、届かなかっただろう・・・縁とは誠不可思議なものよ・・・。」
大嶽丸の体は変わらずとも、その威圧は膨らみ、善朗を善朗の何倍もの大きさと高さから見下ろしていた。
心成しか、大嶽丸が金色の光を帯びているようにも思える。
鬼としての限界を等に越えているはずの大嶽丸が何になったのか・・・。
「白刀 星河一刀」
善朗には大嶽丸が何者であろうとも関係はなかった。
「・・・・・・。」
大嶽丸は金棒を肩に担いだまま、先ほど自分を打ちのめした善朗の白刀を待っている。
藍刀赤刀橙刀黄刀緑刀蒼刀藍刀赤刀藍刀紫刀蒼刀・・・・・・
またしても、何百を越える連撃が大嶽丸に放たれる。
赤刀橙刀黄刀緑刀赤刀藍刀・・・・・・
そして、いよいよ、その連撃は千を越えた。
「・・・・・・。」
互いの間合いの丁度交わった距離を開けて、善朗と大嶽丸が睨み合う。
白刀は何千もの連撃を繰り出して尚、大嶽丸の金棒を突破することはなかった。
高天原のツクヨミを持って、善朗は神の領域に入ったと言わしめ、酒呑を倒して、完全に神へとなったことを示した善朗という存在。
神に到達したとされる善朗の攻撃を無傷で凌ぎきった鬼。
大嶽丸という鬼は最早、鬼という枠を越えていた。
ここに来て、現世に大嶽丸は示した。
大嶽丸は神へと上り詰め、鬼神となる。
そして、いよいよ神をも越えようとしていた。
「・・・・・・善湖善朗よ、この令和の時代の百鬼夜行で・・・・・・今日を持って何千年もの歴史が積み重ねて来た百鬼夜行という愚行が終わりを告げる・・・最初の白刀により、イザナギの敗北は確定し、2撃目の白刀により、我らが母イザナミの勝利が確定した・・・ならば、お前を退ければ、高天原の消滅が確定するっ・・・。」
大嶽丸は尚も威を膨らませて、善朗へと歩み寄っていく。
そして、善朗の大前の切っ先まで迫るとピタリと止まる。
「・・・虹を越え、お前は神となって・・・間違いなく、百鬼夜行をとめることの出来る唯一の存在となった・・・・・・だが、相手が悪かったな・・・。」
大嶽丸は悠然と自分の胸元に大前を突き立てさせて、雄大に語る。
「白刀ッ!」
善朗は諦めない。
「無駄だっ・・・。」
大嶽丸は白刀を最早、ものともしない。
白刀を放った善朗はその攻撃の余波で大嶽丸との間合いを取り直す。
しかし、今となってはもう、大嶽丸の歩みを止めることは出来なかった。
「・・・ッ?・・・」
善朗はふと、両手に握りこんでいた大前に目線が奪われる。
善朗の異変に敏感に気付く大嶽丸。
「どうした?」
大嶽丸は余裕を持って、善朗に接して、善朗の異変をこの期に及んで素直に尋ねた。
〔・・・キンッ・・・〕
「ッ?!」
(ッ?!)
大嶽丸は驚く。大前自身も驚きを隠せない。
よもや、善朗はここに来て、大前を鞘に収めたのだった。
善朗は大きく息を吸い込んで、吐き出す。
「・・・もう大前は必要ない・・・。」
善朗の口から思いもよらない言葉が息と共に飛び出した。




