いよいよ高みへと・・・空が白け出した。朝が来る
「黒刀 七天抜刀っ!」
善朗が最大戦力を惜しみなく出す。
瞬きも許されない速度の中で、大嶽丸は善朗を正々堂々と迎え撃った。
「ッ?!」
善朗は切り捨てたと思った瞬間、自身の眼に映った光景に驚いた。
肉塊と化したかに思えた大嶽丸はその場に平然と立っている。
「善朗よ・・・お前は神の域に足を踏み入れた・・・結果、俺もお前に引き上げられる形でここに居る・・・今までこんなに力がみなぎることはなかった・・・だからこそ、お前はまだまだ強くなれねばならない・・・俺の望みはこんなものではないっ!」
大嶽丸は自慢の黒い金棒を肩に担いで、悠然と善朗に歩み寄る。
絶大な技を手にした善朗だったが、百鬼夜行という蠱毒は善朗と酒呑、今までの賢太達と鬼共の闘いを経て、想像を絶する怪物を生み出そうとしていた。
「黒刀とは神速をも越える速度で繰り出される性質変換の連撃・・・だが、それは連撃であって同時ではない・・・如何に速度があれど、技と技との間に僅かなスキがある。」
大嶽丸は善朗に黒刀の技の有り様を語り出す。
いよいよ大嶽丸と善朗の間合いが再び交わる。
「まず一刀を見切る事が重要だ・・・一刀目が何色か・・・その先が何色か・・・見極めて、酒呑のように往なしていけば、造作もないこと・・・。」
大嶽丸が口にする黒刀。しかし、言葉にすれば、簡単に見えど、その瞬時の判断を一度でも見誤れば、肉塊と化すのは必至。それでも、大嶽丸は自信を持って、黒刀を受け切れると豪語するように話していく。
その言葉通り、善朗の黒刀は看破された。
そして、その度に大嶽丸の鬼気は膨れ上がる。
皮肉にも、善朗が百鬼夜行を止める為に大嶽丸と闘えば闘うほど、より一層大嶽丸はその闘いの闘気を喰らって強くなっていく。
「強くあれ、善朗・・・。」
いよいよ大嶽丸の表情に善朗を哀れむような色が現れる。
「・・・くっ。」
流石の善朗も表情が歪んだ。
善朗の歪んだ表情に大嶽丸の眉がピクリと動く。
「善朗よ・・・お前が殻を破らねば、俺も更なる高みには行けぬ・・・手伝ってやろう・・・。」
大嶽丸が大きく金棒を構える。
〔ドドドドドドドドッ!〕
〔ギャギャギャギャキンッ、ギャギャギャギャッ!〕
大嶽丸から放たれる一撃は黒刀の領域。凄まじい速さの金棒は目にすら、脳ですら認識できない速度で放たれていく。ただ金棒を振り下ろす。その単純な一撃がおぞましいほど迫り来る。
〔ギャリンッ!〕
「ッ?!」
一瞬の落ち度。
僅かな刀の揺らぎが二人の中に決定的な立場を分からせる。
〔ドゴゴゴゴゴゴッ、ドガンッ!!〕
「カッ?!」
一撃が掻い潜って善朗の身体にめり込むと、そこから無限とも言える大嶽丸の連撃が浴びせられた。
霊体から学んだ意志を持つ攻撃。
その攻撃が慣性の法則をも覆し、その場に善朗の身体を留めて、運動の連続性を断ち切っていく。最後に、吹っ飛べと意志を持たせれば、善朗の体は外壁に叩きつけられて壁を流れていく。
「・・・・・・ここまでか、善湖善朗・・・。」
どす黒い闇が大嶽丸の表情を隠し、間合いから離れた善朗を再度飲み込もうと歩み寄って来る。
「今のお前を喰らえば、どれほどになれるのか・・・満足できねば、下の者も喰らうまで・・・今ならば、如何なる者も平らげよう・・・。」
大嶽丸の口調は実に静かに腹をえぐるように響く。
「すぅ~~・・・はぁ~~~・・・。」
善朗は焦らない。焦る気持ちを呼吸でさざ波の中に誘っていく。
菊ノ助から桃源郷で稽古をつけてもらい、虹の七色の技を会得してから闘々丸を倒して以降、久しぶりに敵からの攻撃を受けた善朗。それまでは、あの酒呑童子の攻撃ですら、見切り、紙一重で交わしてみせた。しかし、大嶽丸は違う。蠱毒の中で、濃密に混ぜ合わさった毒を飲み干して、壷の底の底からも猛毒を舐めるような怪物。
「すぅ~~~・・・はぁ~~~~~~っ。」
善朗は気持ちを落ち着かせて、ゆっくりと立ち上がり、向かってくる大嶽丸をシッカリと見据え、腰を深く落として、大前を収めて構える。
大嶽丸は善朗の周辺の空気が変わった事を察知する。
「・・・お前は荒御魂も和御魂も包み込み、付喪神すら従えた・・・高天原の顔が曇るのも分かる・・・だが、それだけではだめだ・・・高天原の畜生共のあの顔を・・・自分達の手の中で踊る人形を眺めるその顔をグチャグチャにせずには収まらんッ。」
大嶽丸は表情の闇をより濃くして、再度善朗との間合いを交差させる。
「黒刀 七天抜刀」
「違うッ!!!!」
善朗が再び、黒刀で大嶽丸に挑む。だが、大嶽丸はその攻撃を怒声を浴びせて、掻き消した・・・かに見えた。
「七色は三色に集合し、原色は収束して・・・黒となる。」
「ッ?!」
黒刀を掻き消した大嶽丸の耳にそれを切り裂くような言葉が届く。
「黒となった色は圧縮し、全てを放ち・・・白となる。」
『白刀 星河一刀』
善朗の手から『《《白》》』が放たれた。