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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第9幕 虹を越えて、神を凌ぐ
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いよいよ高みへと・・・空が白け出した。朝が来る

 


「黒刀 七天抜刀っ!」

 善朗が最大戦力を惜しみなく出す。


 瞬きも許されない速度の中で、大嶽丸は善朗を正々堂々と迎え撃った。

「ッ?!」

 善朗は切り捨てたと思った瞬間、自身の眼に映った光景に驚いた。


 肉塊と化したかに思えた大嶽丸はその場に平然と立っている。

「善朗よ・・・お前は神の域に足を踏み入れた・・・結果、俺もお前に引き上げられる形でここに居る・・・今までこんなに力がみなぎることはなかった・・・だからこそ、お前はまだまだ強くなれねばならない・・・俺の望みはこんなものではないっ!」

 大嶽丸は自慢の黒い金棒を肩に担いで、悠然と善朗に歩み寄る。


 絶大な技を手にした善朗だったが、百鬼夜行という蠱毒は善朗と酒呑、今までの賢太達と鬼共の闘いを経て、想像を絶する怪物を生み出そうとしていた。



「黒刀とは神速をも越える速度で繰り出される性質変換の連撃・・・だが、それは連撃であって同時ではない・・・如何に速度があれど、技と技との間に僅かなスキがある。」

 大嶽丸は善朗に黒刀の技の有り様を語り出す。


 いよいよ大嶽丸と善朗の間合いが再び交わる。

「まず一刀を見切る事が重要だ・・・一刀目が何色か・・・その先が何色か・・・見極めて、酒呑のように往なしていけば、造作もないこと・・・。」

 大嶽丸が口にする黒刀。しかし、言葉にすれば、簡単に見えど、その瞬時の判断を一度でも見誤れば、肉塊と化すのは必至。それでも、大嶽丸は自信を持って、黒刀を受け切れると豪語するように話していく。



 その言葉通り、善朗の黒刀は看破された。



 そして、その度に大嶽丸の鬼気は膨れ上がる。

 皮肉にも、善朗が百鬼夜行を止める為に大嶽丸と闘えば闘うほど、より一層大嶽丸はその闘いの闘気を喰らって強くなっていく。




「強くあれ、善朗・・・。」

 いよいよ大嶽丸の表情に善朗を哀れむような色が現れる。




「・・・くっ。」

 流石の善朗も表情が歪んだ。


 善朗の歪んだ表情に大嶽丸の眉がピクリと動く。

「善朗よ・・・お前が殻を破らねば、俺も更なる高みには行けぬ・・・手伝ってやろう・・・。」

 大嶽丸が大きく金棒を構える。



 〔ドドドドドドドドッ!〕

 〔ギャギャギャギャキンッ、ギャギャギャギャッ!〕

 大嶽丸から放たれる一撃は黒刀の領域。凄まじい速さの金棒は目にすら、脳ですら認識できない速度で放たれていく。ただ金棒を振り下ろす。その単純な一撃がおぞましいほど迫り来る。



 〔ギャリンッ!〕

「ッ?!」

 一瞬の落ち度。

 僅かな刀の揺らぎが二人の中に決定的な立場を分からせる。



 〔ドゴゴゴゴゴゴッ、ドガンッ!!〕

「カッ?!」

 一撃が()(くぐ)って善朗の身体にめり込むと、そこから無限とも言える大嶽丸の連撃が浴びせられた。


 霊体から学んだ意志を持つ攻撃。

 その攻撃が慣性の法則をも(くつがえ)し、その場に善朗の身体を留めて、運動の連続性を断ち切っていく。最後に、吹っ飛べと意志を持たせれば、善朗の体は外壁に叩きつけられて壁を流れていく。




「・・・・・・ここまでか、善湖善朗・・・。」

 どす黒い闇が大嶽丸の表情を隠し、間合いから離れた善朗を再度飲み込もうと歩み寄って来る。




「今のお前を喰らえば、どれほどになれるのか・・・満足できねば、下の者も喰らうまで・・・今ならば、如何なる者も平らげよう・・・。」

 大嶽丸の口調は実に静かに腹をえぐるように響く。


「すぅ~~・・・はぁ~~~・・・。」

 善朗は焦らない。焦る気持ちを呼吸でさざ波の中に(いざ)っていく。


 菊ノ助から桃源郷で稽古をつけてもらい、虹の七色の技を会得してから闘々丸を倒して以降、久しぶりに敵からの攻撃を受けた善朗。それまでは、あの酒呑童子の攻撃ですら、見切り、紙一重で交わしてみせた。しかし、大嶽丸は違う。蠱毒の中で、濃密に混ぜ合わさった毒を飲み干して、壷の底の底からも猛毒を舐めるような怪物。



「すぅ~~~・・・はぁ~~~~~~っ。」

 善朗は気持ちを落ち着かせて、ゆっくりと立ち上がり、向かってくる大嶽丸をシッカリと見据え、腰を深く落として、大前を収めて構える。



 大嶽丸は善朗の周辺の空気が変わった事を察知する。

「・・・お前は荒御魂(あらみたま)和御魂(ににぎみたま)も包み込み、付喪神(つくもがみ)すら従えた・・・高天原の顔が曇るのも分かる・・・だが、それだけではだめだ・・・高天原の畜生共のあの顔を・・・自分達の手の中で踊る人形を眺めるその(ツラ)をグチャグチャにせずには収まらんッ。」

 大嶽丸は表情の闇をより濃くして、再度善朗との間合いを交差させる。


「黒刀 七天抜刀」

「違うッ!!!!」

 善朗が再び、黒刀で大嶽丸に挑む。だが、大嶽丸はその攻撃を怒声を浴びせて、掻き消した・・・かに見えた。





「七色は三色に集合し、原色は収束して・・・黒となる。」

「ッ?!」

 黒刀を掻き消した大嶽丸の耳にそれを切り裂くような言葉が届く。

「黒となった色は圧縮し、全てを放ち・・・白となる。」






白刀(びゃくとう) 星河一刀(せいがいっとう)





 善朗の手から『《《白》》』が放たれた。







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