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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第9幕 虹を越えて、神を凌ぐ
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死闘の前の友との語らい、緊張と緩和の一瞬の暇が反発となり、力となる

 

 スカイツリー天望デッキフロア350。

 賢太は静かに身体を休ませて、少しでも体が動くように務めていた。



「賢太。」

 目を閉じていた賢太の耳に聞き覚えのある少年の声が届く。

「・・・なんや、善朗か・・・ざまぁないで・・・こないな姿・・・。」

 賢太は目を閉じたまま、苦笑いを善朗に向けた。


 善朗は酒呑童子との戦いを終えて、フロア350の様子を見に来ていた。そこで、意識を保っていた賢太の傍に駆け寄り、その肩に優しく触れ、名を呼んだのだった。賢太は自分の無様な姿を一番見られたくない人物に見られて、恥ずかしくなるも自分自身はその場からどう足掻いても動けないのだから観念した。


 善朗は賢太に向けて微笑む。

「すごいよ、賢太・・・他のみんなは気を失っているのに・・・賢太だけだよ、意識があるの・・・大丈夫?」

 善朗は霊界の友に優しくそう語りかけた。


「はははっ・・・この姿見て、どないして、そう思えんねん・・・嫌味か、アホ・・・幽霊やから痛みなんてないけどな・・・指一本動かせんわ・・・。」

 賢太は必死に悪態をついて、善朗に対しておどけてみせいた。


「はははっ、そうだよね・・・ごめん・・・俺にはどうする事も出来ないから、ここにおいていくけど・・・安心して、美々子ちゃんは無事だから・・・・・全部終わらしてくるよ・・・。」

 善朗は賢太のおふざけに微かに笑い、美々子の無事を賢太に伝えた。


「・・・そうか・・・世話かけたな・・・・・・大丈夫なんか?」

 賢太は素直に善朗に美々子のことを感謝し、そして、今後の事を心配した。


「・・・・・・大丈夫・・・全部、ちゃんと終わらせてくるから・・・。」

 善朗は少し間を取って、賢太を安心させるようにそう言葉をツヅる。


 善朗の取り繕うようなその言葉に賢太は

「はっ・・・しけた言葉並べくさって・・・そんなんで他の奴が安心できるわけあらへんやろ・・・全く世話のかかる奴やで・・・。」

 賢太は強がる善朗に緊張をほぐすようにそう強い言葉で責める。


「ごっ、ごめん。」

 賢太の言葉に素直に謝る善朗。


 賢太は謝る善朗とシッカリと視線を合わせる。

「ええか、善朗・・・そう言うときはこうゆうや・・・。」









 スカイツリー天望回廊(てんぼうかいろう)

 善朗の乗ったエレベーターが静かに着くと、その扉を開いて、両者がごく自然に視線を合わせる。



「善湖善朗・・・良くここまで来たな・・・。」

 最初にこの場で口を開いたのは大嶽丸だった。



「・・・あんたがボスでいいんだよね?」

 善朗は大嶽丸との視線をシッカリと合わせて、そう尋ねる。


「如何にも・・・この百鬼夜行の頭目は、この大嶽丸だ・・・ここにくるのはお前以外には居ないと思っていたぞ。」

 大嶽丸は笑みを浮かべて、善朗を大嶽丸なりに褒めた。


「・・・よかった。これで、やっと全部終わる・・・。」

 善朗は大嶽丸から答を聞くと、静かに腰を落として、大前に手を添える。


「善朗よ・・・百鬼夜行のことは?」

「全部聞いたよ、酒呑童子から。」

「なら・・・よしっ!」

 大嶽丸は善朗と言葉を交した後、合図するかのように言葉を締めて、鬼気を開放する。



 〔ドンッ!〕

 ソニックウェーブが起こるように空気が打ち鳴らされる。

 〔バリンッ!〕

 空気が音を立てて放たれた鬼気は天望回廊の窓ガラスという窓ガラスを一気に全て割り砕いた。



 大嶽丸からあふれ出る鬼気は、最早鬼という器では測れるものではなく、善朗と同等に人智ならぬ鬼智をはるかに越えていた。

「・・・崇徳(すとく)天皇が越えたように・・・われもまた、阿修羅(あしゅら)に達す・・・。」

 大嶽丸は過去の大王を讃えるようにそう口にして、自分の本来の目的を言葉に出した。


「お前が何を望んでいようと、これ以上は進ませない・・・鬼や神なんて、もうウンザリだ。」

 善朗は大嶽丸を見据えて大前を構えて、そう話す。


 大嶽丸は善朗の言葉にフッと鼻で笑い、背後から黒く長い金棒を担ぎ出した。

「フッ、俺が何を望み、お前が何を望むのか・・・その先を決めるのが、まさにここだ・・・お前の望みか、俺の望みか・・・もはや、神のみぞ知る世界を越え、神すらもこの先は分からん・・・高天原の不安がここにも伝わってくるぞっ。」

 大嶽丸は大嶽丸らしい臨戦体勢をとり、ゆっくりと語りながら、ゆっくりと善朗との間合いを縮めていく。


「俺は俺の大事な人を全力で守るっ・・・天秤なんて俺の中にはないっ。」

 善朗は善朗なりにここに立っている意志を言葉で示す。


「天秤か・・・高天原のクソ共が並べそうな言葉だ・・・酒呑との闘い見ていたぞ・・・俺にもぶつけてこいっ・・・お前はあの程度ではないはずだっ・・・俺を、俺達を揺さぶり、ここまで高めたお前は神をも越えられるはずだっ!そして、そんなお前を俺が喰らって、俺こそが神を越えるっ!」

 大嶽丸と善朗の間合いがいよいよ交差する。大嶽丸はそのヒリついた空気をも飲み込むように大きく構えて、善朗を飲み込まんとする。




「黒刀 七天抜刀ッ!」




 互いの間合いが交差する。刹那の速度に善朗は全力で大嶽丸を攻め立てる。

「いいぞっ、善朗ッ!全力でこいッ!」

 大嶽丸は善朗の行動を読むように言葉を口にして、黒刀を迎え撃つ。



 神速を凌駕する七色の連撃。

 酒呑童子が為す術なく敗れ去った善朗の最大最強の技が、諸悪の根源に放たれた。







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