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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第8幕 百鬼夜行
154/171

闇の中を歩むとも、地獄の業火に焼かれようとも、共有されたこの痛みこそ、二人の真理と願わくば

 


(なんて凄まじい鬼気・・・皆無事で居て・・・。)

 印を結んだまま目を閉じて、乃華は必死に結界を維持しつつ、目を閉じていても感じる鬼の気配に賢太達の身を案じていた。


 乃華達が居るフロア340は丁度鬼達が直接床を壊して来ない限り、降りてくることが出来ない場所にあった。そのフロアに通じるエスカレータとエレベーターの前には形だけとは言え、霊界の猛者達が固めている。フロア340にも何十人も控えていた。


 乃華達は冥と美々子と三人で三角形をなすように陣を組み、知拳印で結界を維持し続けていた。

(善朗君・・・私たちは信じてる・・・きっと・・・きっと来てくれるよね?)

 乃華は疲労に少し表情をゆがめながらも、善朗の事を支えに必死に鬼たちと別の形で戦っていた。






「言っただろ・・・御仁を待たせている・・・アイツが出てきたなら、不遜ふそんが合ったことを御仁に謝罪せねばならんっ・・・さっさと片付けさせてもらうぞっ。」

 顕明は曹兵衛達と対峙するや否や、さっきとは別の臨戦体勢を取る。


「皆さん、今は切り替えましょうっ・・・一匹として鬼を通してならないのは変わらない・・・我々には我々のできることをするだけです。」

 曹兵衛は必死に言葉をシボり出して、周囲を奮い立たせようとする。


 しかし、ゴウチ達ならともかく、他の猛者達は酒呑童子の気に当てられて、完全に敗北していた。そもそも、百鬼夜行に立ち向かう事が間違いだったと思い知らせられた。それでも、


「諦めたやつは放っておけっ・・・そもそも、数合わせに過ぎなかったんだろう・・・ここまできたら、もはや数など足かせに過ぎない。」

 曹兵衛の不安を別の角度から斬るのは流だった。流も幾多の死線をくぐってきただけに、戦場の匂いをかぎ分ける嗅覚は優れていた。


 酒呑童子という一騎当千の兵が出てきた以上、数は指揮そのものを混乱させる。相手が一騎当千ならば、こちらは士気の揺るがない少数精鋭で迎え撃つしかない。流なりの状況判断だった。



「しかし、相手は相手で、我々だけ狙ってくれるわけでもないのかもしれませんね。」

 ニコニコと苦笑いをしながらゴウチが顕明の動きを見て、そう言葉を零した。



 その言葉がどういう意味かはすぐに分かる。

 顕明が印を胸の前で結ぶと、顕明の両袖から三鈷杵(さんこしょ)と言われる棒状の仏具が無限ともいえるほど、あふれ出した。顕明の袖から現れた三鈷杵達はフワフワと宙を自在に舞い、顕明を護るように飛んでいる。


「皆さん、注意して下さい・・・あの鬼は気功法の使い手でもあります。」

 ゴウチが顕明の派手な臨戦態勢からは見えない情報をしっかりと仲間へ伝える。


「飛び道具が奴の得意ではないってことか・・・。」

 盾に身を隠しつつ、流が顕明をジッと観察する。



「流さん・・・大丈夫・・・私が側にいます・・・。」

 流が相手を定める中で、流のすぐ背後の耳の側でネヤがそう(ささや)いた。



「・・・・・・頼りにしているぞ、ネヤ。」

「はいっ。」

 流は優しいネヤの声に答えるように声をかけ、ネヤはその言葉に即座に笑みを零すように返事をした。


 〔ダッ〕

 観察を終えて、意を決した流が先陣を切る。

「曹兵衛ッ、ゴウチッ、たのんだぞっ!」

 流は後ろを振り返らずに、言葉だけを曹兵衛達に残す。


「おいっ!」

 声すらかけてもらえなかった武城が飛び出した流に大きな声を上げる。が、


 〔ビュビュッ、ビュビュビュッ!〕

 顕明の出した三鈷杵達がいよいよ動き出し、周囲の敵に襲い掛かって行く。まずは前進してきた流に対して厚めに迫った。


 〔ガガガッ、ガキンッ、ガキンキンッ、ジャキキキンッ〕

 流は襲い掛かってくる三鈷杵の猛攻を剣と盾を巧みに使ってイなしていく。


 〔ボッ、ジャガガガガガガッ、ガラガラガラッ!〕

 〔シュババババッ!〕

 流の背後に回った三鈷杵達はまずはゴウチの大槌が大きくなぎ払い、それを(かい)(くぐ)った三鈷杵を曹兵衛の糸が狙う。



「甘いっ!」

 〔ボォーーーーンッ!〕

 顕明は自分に迫った流を待ち構えたように右掌底を構え、流の大きな盾に向かって放つ。顕明は分厚い盾で防ごうとも、内気功の衝撃で相手を仕留めると自信があった。が、


 そんな顕明の考えも歴戦を闘い抜いた流にとってはお見通しだった。

「甘いのはどっちかな?」

 流は盾を顕明に預ける形で、盾を飛び越えて、スルリと顕明の懐に滑り込む。


「はっ、その長物がこの間合いで振れると?」

 顕明は流のロングソードを見て、圧倒的にお互いが近い、小回りさえも利きそうも無い間合いと不釣合いだと笑った。




「それがお前の敗因だな・・・不遜だと謝るんじゃなかったのか?」

「ッ?!」

 〔ヒュンッ、ザシュッ〕




 顕明が気付くと自身の左胸に深々と流のロングソードが刺さっていた。

「なっ・・・なぜ?」

 顕明はとてもあの近すぎる間合いの狭さからは想像も付かないロングソードの突きに驚きを隠せなかった。


 流は盾を飛び越えて、顕明の懐に入るや否や、ロングソードを左手に持ち、切っ先を後ろに向けた・・・そして、着地と同時に左手を背中に回し、ロングソードを右手に運び、地を這う蛇のようにスルリと背後を抜けさせて、右手に持ち替えてから切っ先を前に向け、0距離から突きを放った。まさにそれは達人の機転、あらゆる状況からも敵を仕留めんとする戦士の閃きの一撃。


「くっ・・・なかなかやるじゃないか・・・だが、これだけでっ。」

「一撃で終わりですよ・・・後は焼かれるだけ・・・。」

「なっ?!」

 顕明が鬼のしぶとさで自身に刺さった剣を素手で引き抜こうとした時、ヌルリと流の背後から現れたおぞましい女の笑みに顕明は飲み込まれる。




「ぐわああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 〔ゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーッ〕

 ネヤがスッと流の剣に触れるとそこから小さな火の蛇がチョロチョロとハい出て、剣を伝って顕明の中へと入り込む。すると、瞬く間に顕明は中から炎を噴き出して、全身が業火に包まれる。鬼を焼くのはまさに煉獄(れんごく)の業火・・・鬼さえ逃げ出す地獄の(ほむら)




(あぁっ、なんてすばらしい光り・・・共同作業・・・。)

 ネヤは鬼が生きたまま焼かれる身の毛もよだつ現象をウットリと眺めながら、流とのチームワークに酔いしれる。


「・・・ネヤ、よくやったな。」

 流はネヤの頭をなでて、行為を素直にほめる。


「ふふふっ、はいっ。」

 子供は最愛の人に褒められて、満面の笑みを向ける。


 今まで、誰にも見せた事がない飾り気の無い少女の笑顔。

 それがさらに流を真綿で締め上げていく。




 生命維持など必要無いのだから身体が苦しむことは無いだろう。









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