大江山の大悪鬼、鬼の頭領とはオレサマの事!
「ゲプッ・・・飽きた。」
そう一言、零したのは酒呑童子。
「お前の持ってきた酒だろ?」
大嶽丸は未だ酒を飲み続けつつ、そう酒呑に尋ねる。
「カワヤに行って来るわ・・・。」
酒呑はそういって、ヌルリと立ち上がって、ポッカリと口を開けたエレベータールームの方へと歩き出す。
「・・・腹が減ったのなら、そう素直に言え・・・。」
大嶽丸が酒を飲みつつ、酒呑の行動を見て、そう言った。
「・・・今回はお前が総大将だ・・・この俺様が露払いはしてやるよ・・・感謝しろ。」
酒呑は大嶽丸に背を向けたまま、そう悪態をついて、エレベータールームの腹の中へと姿を消した。
(はてさて・・・ここに辿り着けるやつはいるのか・・・俺をちゃんと昇らせてくれよ、人間共?)
大嶽丸はクイッと酒を飲み干して、エレベータールームの闇をジッと見た。
〔ジャキンッ、ジャキジャキッ、カキンッ〕
武城と小通は二人で激しく斬り合いながらダンスを踊る。その少し外側でガカクが小通の隙をうかがっていた。
「ひゃはっ、どうしたのっ・・・お一人じゃ辛そうよ?」
小通は猛攻をイなし続ける武城をアオるように、ガカクを挑発するように言葉で揺さぶる。
「おいおい、せっかくのデュオを他の男に邪魔させるなよ・・・。」
小通の激しい攻撃をいっぱいいっぱいでシノぎながら、不敵に返す武城。
「・・・・・・。」
ガカクは武城を信じて、全く動じない。
「何考えてるか知らないけどっ、アタシャ早くても遅くても嫌なんだよっ!」
小通は全く見えない武城達の行動にシビれを切らして、動きを大きくして、いよいよ武城を取りに行った。
「ガカクッ!」
小通の動きを見るや否や、武城の眼光が鋭く光り、新たな相棒の名を口にした。
「ッ!」
ガカクは武城の言葉に反応して、その一刀に全てを込める。
「ハッ、なにしてんdっ?!」
「やぁ~~~んっ、私、あなたなんてタイプじゃないよっ。」
小通は自分の手元に愕然として、動きが止まる。その背後から小通に言葉をかけたのは武城の付喪神であるミレイだった。
武城は小通と斬り合う中で、小通の動きが大振りになるのを待っていた。それまでは小通の攻撃の癖を岩に穴が開くほど目で探り、そのチャンスに全てを賭け、トンファーを小通の刀に絡ませて、素早く回転させ、瞬時にお互いの武器を交換したのだった。
「・・・・・・。」
武城はニヤニヤしながら、小通ご自慢の刀を手で振り回して弄ぶ。
もちろん、小通の手元には何も無い。トンファーは小通に渡るや否や、姿を変えて、小通の手元からスルリと抜け、チョコンとミレイがその姿をあらわにした。
「ヒヒッ。」
ガカクの渾身の一閃が自分を捉える瞬間、小通連は笑った。
フロア350に残る鬼は1。
顕明は気付くと賢太と睨み合っている様で、6人の猛者とその外に控える人に取り囲まれていた。
「賢太っ、今度もわがまま言うなよっ!」
武城が賢太の隣にスッと移動して、賢太に釘を刺した。
「・・・かまへんよ。」
「ッ?!」
賢太の言葉に武城を含む、他の者達も驚きを隠せない。
賢太の言葉の真相は早々遅くない答えとして、全員の前に露にする。
「チッ・・・。」
顕明が不意に舌打ちをする。それは賢太達に囲まれたからなのか?それとも、
「あ~あぁ~~・・・優秀な顕明ちゃんでも手に余るんでちゅか?」
「・・・ッ・・・。」
エレベータールームから重低音の男の声がフロア350に木霊す。その声に腰が抜けるものもいた。曹兵衛はまさに蛇に睨まれる蛙となった。
フロア350に残る鬼は・・・2。
「・・・お前でもないんか?」
酒呑童子がエレベータールームから姿を現して、驚きもせず、開口一番に賢太がそう酒呑に言い放つ。
「・・・・・・ほほぉ~~・・・おもろいやつがいたもんだ・・・顕明・・・こいつはもらうぞ・・・後はちゃんと仕事しろよ。」
酒呑はノソリノソリと賢太へと歩み寄り、ニタニタ笑う。
〔シュッ〕
酒呑が賢太へと狙いを定めると、顕明は酒呑の間合いから離れるようにサッと距離を大きめに取った。
「・・・・・・。」
横目で顕明の動きを追う武城だったが、その場から動けない。
「ほらっ、あいつは皆で闘うんやったやろ・・・さっさといけや・・・。」
賢太は酒呑を睨みつつ、傍にいた武城を左手で軽く押しのけた。
不思議と武城は賢太に触られると体が動くようになり、逃げるように賢太から曹兵衛達の所へと無意識に向かう。
酒呑は自分の間合いから逃げる武城の事など、気にする風も一切なく、賢太だけを見ている。
「あいつに気付くなんて・・・お前、なかなか見所あるじゃねぇ~か・・・もう死んでんだろ・・・人間やめた方がいいんじゃねぇ~の?」
酒呑は右手でアゴを触りつつ、賢太をジトジトと見回す。
賢太はギュッと両拳を握り込み、酒呑を見定める。
「お前らはそれしか言えんのか?・・・弱い者イジメして、強うなった気でおる、ぬるま湯なんて興味ないねんっ。」
賢太は酒呑に負けじと一歩前に出て、大妖怪酒呑童子にガンをつけた。
「くっくっくっくっ、ぬるま湯・・・ぬるま湯ねぇ~~・・・大きく出たじゃねぇーか・・・差し詰め、自分は熱々の五右衛門風呂にでも入ってるかのような言い方じゃねぇ~の・・・試してやるよ・・・どっちが熱々に煮えたぎってるかをよっ。」
酒呑は賢太の言葉にピクリと眉を動かすも、ダランとしたふてぶてしい状態で賢太を見据え、左手を賢太の方に出して、手招きをして見せた。
「おもろいやないけっ・・・さっさとお前倒して、後ろでアグラかいてる奴引きずり出したるわっ。」
賢太はサッと臨戦体勢を取ると酒呑に向かって、笑みを放った。
スカイツリーの外の風がまた一段と弱まる。