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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第8幕 百鬼夜行
152/171

三明、クロートー、ラケシス、アトロポスみたいなモイラ

 


 顕明を中心とする大通小通を合わせた3匹の鬼を通称『三明衆(さんみょうしゅう)』という。


 元を正せば、大六天魔王である『阿修羅王』が大嶽丸に授けた3振りの剣が鬼に姿を変えたもので、仏教の三明六通に通じるものがあるとされている。その能力はまさに神がかり的なもので、その剣を一振りすれば、1000の敵の首が飛ぶとされていた。




 〔ビュオオオォオォォォォォーーーーッ〕

 スカイツリーの外側の世界は今も尚、台風の強風が人々の生活を分断していた。

 少し風が弱くなったかと思っていても、外を出歩くのは自殺行為に等しいだろう。それは風だけのせいではないのは確かだった。




「・・・・・・なかなか小賢しいですね。」

 顕明は静かに笑みを零して、賢太達に笑ってはいない瞳を向ける。


「ゴチャゴチャうるさいわっ・・・お前、急いでるんとちゃうんかったんかっ?」

 賢太が澄ました顔の顕明をしかめっ面で睨みつけて、言葉で殴る。


「そうだったな。」

「ッ?!」

 顕明が賢太の言葉に表情を戻すと、あっという間にその場から姿を消した。そのあまりの速さに賢太達は一瞬、顕明の姿を見失う。すると、次の瞬間、顕明はスルリと賢太の懐に滑り込み、右掌底を構える。


 〔ドンッ!〕

「なっ?!」

 賢太を襲おうとした顕明の動きをけん制しようとゴウチが透かさず大槌を振り下ろす。が、顕明の右掌底がその大槌を軽々と弾いた。その現象に驚いたのはほかでもないゴウチだった。さらに、


 〔バスンッ〕

「っ?」

 ゴウチの大槌を吹き飛ばした後、透かさず顕明は今度は確実に左掌底を賢太の胸部へときれいに打ち込んだ。打ち込まれた賢太は目を丸々とさせるも、その手応えの無さに驚きを隠せない。が、


「ガハッ!?」

 賢太は内部から銅鑼(どら)を叩かれたように衝撃が全身を襲い、膝から崩れ落ちる。


 顕明は気功法の使い手。気を相手の体内に打ち込み、そこで炸裂させて、内部から敵を壊す。相手がどんなに頑丈な甲冑(かっちゅう)で身を包んでいようが関係はない。


 賢太の状況を瞬時に判断して、ゴウチは大槌を顕明に素早く畳み掛ける。

「ヌンッ!」

 〔ボッ、ボボッ、ボッ!〕

 さすがの顕明もゴウチの大槌の猛攻には準備が足りずに再び距離を取っていく。



「大丈夫ですか?」

 ゴウチは顕明をけん制したまま、(ひざまず)く賢太に言葉をかけた。



「あぁっ・・・すまん・・・油断したで・・・。」

 賢太は右手でバンバンと胸部を軽く叩くと歯を食いしばりながら立ち上がる。


「なかなか頑丈ですね・・・素直にお褒めしますよ。」

 顕明は自分の放った一撃からスッと立ち上がった賢太を素直に褒めた。それほど、自分の一撃に自信があったことの裏づけだろう。


「なんや不思議な技やのぉ~~・・・内側からグラグラ揺さぶられるような感じやったわっ。」

 賢太はニヤニヤしながら顕明にそう技の感想を話す。


 顕明は賢太の言葉に少し口角を上げる。

「気功というものですよ・・・内側から破壊する極意です・・・イカに頑丈に(きた)えた肉体とて、私にとっては豆腐も同じ・・・諦めますか?」

 顕明はスッと臨戦体勢を取ると、獅子ハク兎を体現した。


 賢太は顕明の対応に拳を鳴らして、笑みを膨らませる。

「ええやんええやん・・・おもろいわ・・・どんな技だろうと俺にも関係あらへんっ・・・一発ぶち込むだけやっ。」

 賢太はそう言うと、自慢の右拳を顕明に向かって突き出した。






 〔ガキガキガキキンッ、ガキャンッ!〕

 女は舞を舞うとは思えぬほど激しく踊り、武城とガカクを翻弄(ほんろう)する。


 両手に持ったシミターのような刀を振り回して、踊るように身体を流し、手元で刀を踊らせて、相手に襲い掛かってくる。


「へヒヒヒッ、あたしゃね・・・きれいな顔を細かく切り刻みながら、血に染めていくのが大好きなんだ・・・今は時間が無くて遊べないのが悔しいさね・・・。」

 小通連(しょうつうれん)は口を大きく裂けるように口角を上げて、舌を左右に遊ばせる。


「どうにも調子が狂うぜ・・・女相手にするのってのはよ・・・。」

 切り刻まれながらもフに落ちない表情でそういうのは武城。


「お主いいかげんにしろ・・・相手は鬼ぞ・・・。」

 呆れた表情で小通を見ながらも武城に苦言をテイすガカク。


(そうだよそうだよっ、私がいるのにっ!)

 武城の頭の中で、付喪神(つくもがみ)ミレイが嫉妬(しっと)していた。


「それよりガカクっ・・・あいつを倒す算段はあるんだろうな?」

 武城がまだまだぎこちない表情のまま、小通を見ながら、そうガカクに尋ねる。


「ムッ・・・拙者はただ斬るのみッ。」

 ガカクは武城の問いに左眉をピクリと上げて、そう一言返した。


「・・・すぅ~~~・・・それを聞けてっ、安心したっ!」

 武城はガカクの言葉に笑みを思わずコボし、スッと気を引き締めて、身体を沈ませ、その反動と共に地を蹴り、小通へと突進した。






「ブルルッ」

 勢い良く顔を小刻みに震わせる大通。それと共鳴するかのように筋肉が盛り上がる。


 流は静かに盾に身体を隠しつつ、相手を観察している。

「・・・まったく損な役回りだ・・・。」

 流はそう言葉を零す。


「そうごねないで下さい・・・これが最善ですから。」

 曹兵衛も糸を構えつつ、流にそう答える。


「ぐへへっ・・・握りつぶして、ひき肉にして・・・あれっ・・・お前ら、霊体だからだめか・・・なら、下の女どもでもいいか?」

 大通は筋肉を(うごめ)かせながら、流達など眼中にないかのように今夜のご飯の事を考えていた。



 余裕を見せる大通を見ながら、流は相変わらず冷めた表情を崩さない。

「全く面白みが無い・・・作業だ。」

 流はスッと盾の影からソードを出すとスタスタと大通の方へと歩み寄っていく。



「・・・パワー系というのが私達以外だと必然的に運任せになる可能性がありましたから。」

 曹兵衛はそう言うと、流の動きに合わせるように糸を大通の周囲へと展開させていく。


 曹兵衛の操る糸に興味を惹かれる大通。

「へへへっ・・・お前らなんて一瞬だぞ。」

 大通が向かってくる流とその背後にへばりつくようにいるネヤを見て、そう言い放つ。



「あぁっ、分かった分かった・・・なるべく時間はかけんさ・・・。」

 流は大通の間合いに入ったと感じた瞬間から少し身体を沈める。



「ぶるわああああああああっ!」

 大通は脊髄(せきずい)で反射するかのように間合いに入ってきた流に対して、豪腕を最上段から落とす。



 〔ビィーーンッ!〕

「ッ?!」

 大通は上段からの振り下ろしを流へと放とうとするも右手首に糸が巻き付いて思うように振るえなかった。


 〔ビシュシュッ、ビシュシュシュッ〕

 動きを止めた大通に流が細かく剣撃を放っていく。


「ぬおおおおおおっ!」

 〔ブチブチブチッ、ドゴオオオオオンッ!〕

 大通は絡みつく糸をそのまま力付くで引きちぎり、強烈な一撃を放つ。が、もちろんその場に流はすでにいない。


 〔ビシュシュッ、ビシュシュシュッ〕

 流は大通の攻撃をイなすと、またも大通の死角から細かく剣撃を放っていく。





「はひっ?・・・なっ・・・にゃぜ?・・・。」

 大通が次に我に返ったとき、自分のその状況が理解できなかった。





 大通の自慢の五体はきれいに左足一本を残して、全て失い。もはや、立つ事さえも許されなかった。


 大通は気付かなかった。

 流の「作業」と言う言葉の意味をくみ取れなかった。

 大通の豪腕を掻い潜りながら、流は隙の出来た大通の身体の結合部分を細かく一点に絞って痛めつけていく。鬼の回復力も考慮に入れたまさに作業。ラッキーパンチともいえる大通の豪腕も一瞬の誤差を生むだけに曹兵衛は糸で逸らし、流の作業をさらに加速させた。それを腕二本から右足に掛けて順々にこなしていった。




「ふふふっ。」

 大通のそんな無様な姿を見るのはネヤ。




「ヒッ?!」

 大通はそのネヤの瞳に絶句する。


「逝きなさい・・・業火と共にあるべき場所へ・・・。」

 ネヤはそう言うと大通へと手をかざす。



 〔ゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーーッ!〕

 ネヤの能力にはもはやタガが無い。無理に能力を引き出しても、ダメージを受ける肉体もない。魂は洗礼され、足手まといの肉体は捨て去った。


「ぎゃああああああああああああああっ!」

 ネヤの放った地獄の業火に焼かれて大通は灰へと変わる。



「・・・・・・。」

 流は大通の最後にも興味は無く。ネヤを褒める事も無く、何を思うか静かに眉をひそめた。










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