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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第8幕 百鬼夜行
151/171

鬼の姿に目を閉じて、闇の中へと隠れるは・・・人か鬼か馬の糞

 

「ウラアアアアアアアアアアッ!!」

「ギャギャギャギャッ!」

「ぐわあああああああああっ!」

「ひゃはああああああああっ!」

「うおおおおおおおおおおおおっ!」


 スカイツリー天望(てんぼう)デッキフロア350。

 95匹の鬼共と賢太達は壮絶な戦いを未だ繰り広げていた。

 数的には圧倒的だった賢太達だったが、鬼の数が減る以上に賢太側はその数を減らし、予備兵と言われる待機していた人間はほぼ居なくなっていた。しかし、



 残りの鬼、7。



 尊い犠牲の末に、賢太達に光明の光が差していた。


「・・・・・・。」

 人々の世の光明に周囲の人間の表情が緩む中、賢太だけは眉間のシワを緩めることは無かった。


 賢太は自分の周囲に居た鬼の最後の一匹の顔だった箇所から拳をゆっくりと引き抜くとそのままの体勢で、エレベータールームの闇を凝視していた。




「なかなかできる肴が居るようですね・・・活きが良いのはいいですが、あの方の胸焼けになるのは困ります。」

 エレベータールームの闇の中から、透き通る男の声が賢太の耳に届く。




 その者達は、エレベータールームの闇から静かに姿を現す。

 一人は袈裟をまとった角有りの優男。

 一人は大きな体の筋肉隆々の角有りの大男。

 最後の一人は鋭い眼光と紅い髪が目立つ角有りの女だった。



 残りの鬼が10に増えた瞬間だった。



「・・・くっ。」

 曹兵衛はエレベーターホールから新たな鬼が姿を現したのを見て、そこに視線をやり、苦虫を噛んだ。


 今まで、気付かなかった事を恥じるほどのその者達が放つ鬼気。

 今思えば、配置とはいえ、賢太があの場所から思った以上に前のめりだったのに曹兵衛の中で合点がいく。


(貴方はこれがみえていたのですが?)

 曹兵衛は生唾を飲み込んで、賢太の立ち振る舞いを見て、背筋が凍った。


 新たに姿を現した3匹の鬼に表情を曇らす曹兵衛に

「落ち込む事はありませんよ・・・まだまだ私達がいますから・・・。」

 そうニコニコと言葉をかけるのはゴウチ。



 霊界側の思惑など知った事ではない顕明(けんみょう)。ギョロリと目だけで周囲をみる。

「我々には待たせている御仁がいる・・・さっさとかかってくるか、散れっ。」

 顕明は自分達を品定めする曹兵衛達をギロリと睨んで、見下すように言葉をそう吐き捨てた。




 〔ギュッ〕

 賢太は拳を力一杯握り込み、顕明に狙いを定めた。

「おいっ、待てっ!」

 先走ろうとする賢太を寸での所で止めたのは武城。


「お前もあいつらの事に気付いていたなら無闇に動くことの愚かさぐらいわかるだろ?」

 武城の背後からそう苦言を呈したのは流。


「あぁっ?・・・こいつらなんて・・・まぁええわ・・・俺は真ん中の奴をっ。」

「馬鹿をいうな・・・ここは男を張る場所ではないぞ・・・。」

 賢太が武城や流に止められながらも前に進もうとする勢いをガカクが言葉で(くじ)く。


 賢太がまた皆の意見を突っぱねそうな雰囲気を出すや否や、ゴウチがニコニコとその場に近付き、

「そうですね・・・賢太さんの男気を認めたいところですが、ここは一つ我々の顔を立てて頂きたい・・・美々子さん達をより安全にする為にどうか・・・。」

 ゴウチは円滑にその場を乗り切る対応を透かさず取る。ここは今まで、霊界で中間管理職を巧みにこなしてきたゴウチらしい言葉使いと言葉回し。



「・・・チィッ・・・仕方ないのぉ・・・好きにせいや・・・。」

 賢太はゴウチにコロコロと丸め込まれると観念して、ゴウチの指示に従う事を納得した。


「・・・やれやれ、ここがまさに正念場・・・賢太さんはゴウチと前の細身の鬼を、私と流さんは大鬼を、武城さんとガカクさんは鬼女をお願いします。」

 ゴウチからのスムーズな主導権の譲渡から曹兵衛が巧みに周囲を巻き込んで、今後の戦術を施していく。


「ん?・・・おっ、おっ・・・おぅっ・・・。」

 賢太はゴウチから転がされると瞬く間に曹兵衛に主導権を握られて、それに従うしかなくなっていた。




「顕明様っ!・・・・もうしわけございませっ?!」

 〔パンッ!〕

「ッ?!」




 さっきまで95匹の鬼が暴れまわってたフロア350。

 そして、つい今しがた、顕明に軽く叩かれただけで頭が吹き飛んだ鬼を最後にこの場に居る鬼は、



 残り3匹となった。



 そんな中でも、顕明の表情はまったく変化せず、口だけが機械的に動く。

「さっきも言ったが、待たせている御仁がいるのだ・・・早々に引くか死ぬかどっちかにしろ・・・お前達よりも甘美な匂いが下から匂う・・・2か・・・いや、3だな・・・そっちから先にしても良いんだぞ?」

 〔ブチッ〕

「マッ!?」

「オラアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 顕明がモタモタしている賢太達を見かねて、ナジって来るとまんまとはまった賢太が怒りに任せて飛び出した。武城が慌てて、再度止めに入ろうとしたが間に合わず・・・賢太は猪のように顕明へと突進していった。しかし、そこは歴戦の猛者、霊界の最上位。


 賢太が顕明に飛び掛ると、顕明がスッと戦闘体制に入る。その事を見越して、ゴウチが透かさず賢太の背後から顕明をけん制。すると、大通(だいつう)小通(しょうつう)がゴウチを迎え撃とうと構えた。それを止める様に流とガカクがそれぞれ動く。それをサポートするように曹兵衛が糸を展開した。



「パンッ!!!!」



 フロア350に激しい炸裂音が鳴り響く。

 賢太の怒りの一撃を右の手の平だけで平然と受け止める顕明。だったが、

 賢太の背後からスッと飛び出して、ゴウチが大槌を振り下ろした。


 〔ドゴオオオオオオンッ!〕

 ゴウチの大槌が地面にめり込むと顕明はスッと身体を横にズラしてゴウチに狙いを定めて、右掌底(しょうてい)を右腰の辺りに深く構える。


 〔ブオンッ!〕

 顕明の動きを先読みした賢太の右フックが空を切る。


 顕明は木の葉のように賢太の豪腕を空に流すと、ゴウチに対して構えていた右掌底を浅く構えた形で賢太に向けた。


 〔ボッ!〕

 先に動いたのはゴウチ。地面にめり込んだ大槌がその巨体からは考えられない恐ろしいスピードで顕明の頭蓋目掛けて瞬間移動した。しかし、これも空を切る。


 顕明は袈裟をはためかせながら、賢太達から距離を少し取らざるを得なくなった。そして、それと同じようにガカク武城の連携と、流と曹兵衛の連携により、大通小通の戦場も大きく顕明から離れる形となった。




 ここからいよいよ百鬼夜行の第二ラウンドの開始のゴングが鳴り響く事になる。









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