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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
幕間7 九尾の狐
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6面のサイコロに運命が詰まっていると狭いように思うけど、1コマ1コマずつ振っているとしたら?

 

『ちきしょーーーっ、あんな澄ました顔で人のこと平然と騙しやがってっ!』

 猫となった玉藻たまもは大雨に撃たれながら、それでも尚、収まらない怒りを天のナナシに向かって叫び続けている。もちろん、猫の鳴き声で。



(くそ~~~っ・・・こんな調子で転生を繰り返して、自分の業と向き合えって事かよ・・・あのクソ神っ・・・ちきしょう・・・。)

 玉藻は力をなくした情けない両手を見て、段ボール箱の中へうな垂れる。



「アッ、何あれっ!」


(・・んっ?・・・何かしら、誰か来た?)


「なんだろうッ!」

「おいっ、善文っ、危ないってっ!」


(誰か来たっ!天の助けだわっ!)

 玉藻は何処からともなく聞こえてくる人間の声に導かれるように段ボール箱から顔出す。



「お兄ちゃん、猫だよっ!」


(でかした、子供だわっ!)

 玉藻は声をする方向を的確に聞き分けて、その方向を見る。そこには3人の子供らしき人影が見え、

『ちょっと、人間の子供っ。私を助けなさいっ!』

 玉藻は子供達の姿を確認すると必死に大きな声で鳴き、子供達に助けを求めた。




「お兄ちゃんっ、ガンバレッ!」

 一人の男の子がそう叫ぶ声が聞こえる。


(いいわよっ、助けなさい・・・この私を助けられるなんて、これ以上の徳はないわよっ)

 玉藻はダンボール箱から顔を出して、子供達の姿をジッと見ている。


 二人の小さな子供を置いて、一人の少年が川の中に入ってきていた。


(何グズグズしてるのよっ!ちょっとそこの部外者は邪魔しないでっ!)

 玉藻はさっきから川に入ろうとする少年を邪魔しようとしている女性の霊を睨みつける。

『ちょっとあんたいいかげんにしなさいっ!私を助けるのを邪魔しないでっ!』

 玉藻は今までの怒りを全部ぶつけるようにその女性の霊を怒鳴り上げた。


 女性の霊は玉藻の内なる力に当てられたのか、怯んて(すく)んでしまう。



 すると、一人の少年が丁度玉藻が入った段ボール箱の流れる延長線上に入ってきた。

『良いわよっ!そのまま私を助けなさいっ!《《狐の恩返し》》は最高なのよっ!』

 (今は猫だけど・・・。)

 玉藻は自分を助ける為に川に入り、段ボール箱をつかめる位置に少年が来たのを見て、興奮して叫んだ。


「よ~~し、よしよし心配するなよ・・・そのままそのまま・・・。」

 少年は流れてくる玉藻入りのダンボール箱を逃がさないように大きく手を広げる。


「ヨシッ!」

 少年は見事に段ボール箱を掴み、持ち上げた。


(よくやったわ、何処の誰だか知らないけど・・・あんた相当《《徳を積んだ》》わよっ!)

 玉藻は段ボール箱の中から安堵と共に少年を見上げて、そう心の中で少年を讃える。


「お兄ちゃん、やったっ!!!」

「お兄ちゃん、すごいっ!」

 河川敷に残してきた二人の子供がそう少年を讃える。


『そうよそうよ、讃えなさいっ・・・この子は将来、大物になるわっ、私が保証してあげる。』

 玉藻は段ボール箱の中から少年と子供達を見返しながら、ウンウンと頷く。


「お兄ちゃん、気をつけてっ!」

「大丈夫大丈夫・・・まかせとけってっ・・・おととっ。」

『ちょっとっ、私をちゃんと助けるまでしっかりしないさいっ!』

 玉藻は川から河川敷に戻る少年の足取りを心配する。


「善文っ、ちょっと猫投げるから逃がさないようになっ!」

(えっ?!)

「うんっ、わかったっ!」

(ちょっとっ、なにしようとしてんのよっ!)

 玉藻は少年達の行動に慌てふためくが、ただの猫にはどうする事もできない。



「・・・ごめんよ、猫ちゃん・・・なんなら逃げても助かるならいいから・・・。」

(えっ、えっ、ちょっと待って・・・私まだ・・・。)

 自分の入った箱を投げようとする少年を凝視する玉藻。しかし、何も出来ない流されるだけの猫はその事象に逆らう事は出来なかった。が、



「・・・それっ・・・っ?!」

(危ないじゃないのよっ!)

 玉藻は河川敷上に箱が到達するや否や、箱から飛び出して、猫らしく見事に地面に着地した。


「善文君っ!」

「アッ!」


 玉藻が自分の入っていた箱の結末を見ると、箱は雨と川で水に濡れていた影響と地面に叩きつけられた事でグシャグシャになっていた。


「ごめん、おにいちゃ・・・・・・。」

(ほら、見なさいよっ!何考えてるの・・・・・・よ?)

 玉藻は自分を河川敷に投げた少年の方を呆れた顔で見る。


 玉藻が視線を流した先に居るはずの少年の姿はそこにはなかった。




(・・・えっ・・・どういう・・・こと・・・私のせいなの?)

 玉藻は大妖だった頃、おもむくままワガママに命を軽んじてきた。そんな玉藻の心にその時初めてとも言える《《罪悪感》》が芽生えた。






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