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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第7幕 妖怪共の宴
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鬼の居ぬ間に、忍び込み

 スカイツリー天望デッキ、フロア350。

 天望デッキの最上階フロア350と中2階フロア345、ここが人と鬼との天下分け目の《《関が原》》となる。

 賢太達率いる実動部隊はここで鬼を向かい討つ。結界を張る乃華と鼓條姉妹はフロア340の最下層フロアのエレベータールーム前の通路の中央で瞑想に入り、スカイツリー全体を円柱に包む結界を発現させ、それを維持する事に努める形をとった。妖幕がスカイツリーから周囲を取り囲み、鬼達が現世に姿を現そうとする時、鬼達は結界によりスカイツリーの天望回廊の最上階へと現れる事になる。そこからスカイツリーの外に出るためには、スカイツリーの構造を理解し、エレベーターの空間を使い階層に下りて、外に出るしかないのだが、乃華達の結界を突破しない限り、現世へはアクセスできない。



「いよいよやな。」

 賢太が手の指の関節を鳴らしながら、鬼の登場を今か今かとワクワクしながら待ち侘びている。


「・・・この状況で、そこまで楽しめるなら対したもんだぜ。」

 賢太の手前、大人ぶってみたものの、賢太と同様、身体を小刻みに身震いさせているのは武城。


「・・・曹兵衛よ、下の部屋に少女達と数名だけを残すのは危なくはないのか?」

 ガカクが口数多く、曹兵衛にそう尋ねた。


 曹兵衛はジッと一点を見ながら、口を開く。

「・・・このフロアの下に続く道は厚めに人を配置しています。もし、鬼達が我々の包囲網を突破したならば、どの道その時点で終わりです。乃華さん達を下層に逃がした所で、百鬼夜行を止めれる者はもう誰も居りません・・・乃華さん達もその覚悟を持って、結界を張ってくれています。下のフロアに残した数名は万が一の時、《《美々子》》さんだけを逃がすためだけに配置した者達です。」

 曹兵衛は鋭い眼光を一時も緩める事無く、今は何もない空間を凝視して、そう丁寧にガカクに答えた。


「《《美々子》》殿を逃がすためだけに?」

 ガカクは下のフロアに居る美々子のためだけに用意された人員に対して、不思議そうにその事を口にする。



 曹兵衛は尚も視線を外さない。

「・・・美々子さんは確かに見た目は子供です・・・が、我々が感じた通り、この中でも最強といえる部類に入る実力者・・・ただ、年端も行かぬ故、霊との闘い方すらままならない・・・鬼共にあの子だけは食べさせるわけにはいかない・・・ですが、結界の維持にはどうしても、美々子さんの存在が必要不可欠・・・もしもの時は、乃華さんと冥さんは美々子さんの盾となり、美々子さんだけを逃がす事になっています・・・下のフロアにいる人員は確実にそれを実行するために用意した者です・・・それが二人の覚悟なのです。」

 曹兵衛は更に詳しく、下のフロアにいる者達の立場をガカクに教えて、拳を握りこんだ。


「・・・背水の陣・・・ですな。」

 曹兵衛の表情を垣間見て、無二の友であるゴウチがニコニコとそう言葉を呟く。




「・・・菊の助達はどうしたのだ?」

 曹兵衛達が鬼を待つ中で、同じように臨戦態勢を取っていた流が曹兵衛に姿の見えない菊の助達の事を尋ねる。




 流の言葉についに曹兵衛は視線を移して、少し柔らかくした眼光で流を見る。

「・・・・・・あの方達には、最後の《《悪足掻き》》をしてもらっています・・・か細い糸だろうとも、それをつかめるかは行動しなければいけませんので・・・。」

 曹兵衛がどこか含みがある言葉でそう流に答えた。


「足掻き?」

 流はどこかハッキリしない曹兵衛の言葉を復唱する。


 曹兵衛は視線を元に戻して、流から目線を外す。

「・・・高天原への直談判ですっ。」

 曹兵衛はそう短い言葉で流に言い切る。


「・・・・・・なるほどな・・・善朗を開放してもらおうという事か・・・ほぼほぼ不可能だろう・・・上がいまさらやっと掴まえた善朗を逃がすとは思えない・・・。」

 流が深刻な表情で曹兵衛の考えを読み取り、そう話す。




「へっへっへっへっ、善朗なんて要らんでっ・・・鬼なんてパパッと片付けて、その後迎えに行けばええんや・・・楽しみやのう・・・高天原っ。」

 深刻な曹兵衛達とは裏腹に、賢太が余裕満々でニヤケながら、流達に近付いて、言葉を投げる。




 流は賢太の能天気な態度に目を細めるが、

「・・・目の前の敵の前に、次の敵の話をするとは・・・確かに俺達は強くなった・・・あの裏霊界の善朗と並ぶほどに・・・だからといって、油断大敵は、それこそ本当に鬼が笑うぞ。」

 流は若気の至りをたしなめる様に、賢太に心のあり方を説く。


「堅いのぉ~~、おっさん・・・」

 賢太は流の真面目な説教に顔をしかめて、露骨に嫌がった。


 流は自分の言葉に顔をしかめる賢太を見て、若い頃の自分を思い出して、鼻を鳴らす。

「フッ・・・お前のひた向きさは嫌いではない・・・お前の自信も分かる・・・桃源郷でもお前の伸びだけは俺達の誰よりもあった・・・お前はもっと強くなりたいのだろう?・・・だからこそ、若いお前に経験を伝えてるんだ。」

 流は腕組みをしたまま、軽い微笑みを浮かべて、そう賢太に向けて言葉を続ける。


「・・・・・・。」

 流のその姿にネヤはどこか今は無い筈の胸の高鳴りを確かに感じた。


 〔ピシャーーーーーーンッ・・・・ゴロゴロゴロゴロゴロ・・・〕

 他愛のない会話が少しずつ緊張を(ほだ)し、方々で咲く中、その場にいる全員を引き締めるかのように今日一番の大きな稲妻が天をかける。




「・・・・・・くるっ。」

 曹兵衛は前を凝視していた視線を天に向けて、待ち侘びた者共に備えた。




 曹兵衛達が控えるのは天望デッキフロア350の天望回廊から降りて来るエレベータールーム前、エレベーターを正面に見て、主力が陣取る。その周りには、数十人の猛者達が取り囲み、天望デッキ内専用エレベーターとエスカレーターの前に数十人が陣形を張っていた。その下のフロア345には、2箇所あるエスカレーターの前にそれぞれ数十人が陣形を張って、下のフロア340に行かせない配置をしていた。フロア345の布陣は予備兵として、もしも鬼共がエレベータールームを通って、下層に下りた場合に賢太達が来るまでの時間稼ぎとしての人員だった。




 〔テケテンテンテンッ、ドンドンッ、チチチンチンッ、テケテンテンテンッ、ドドンドンッ、プップクプープッ、テケテンテンッ、チチチンチンッ、トンットンットトトンドンッ〕




 スカイツリーの外では、雨と風に加え、稲妻が走り、人の出す音という音を掻き消さんばりに鳴り響く中、スカイツリーの中では『ちんどん屋』が定番として打ち鳴らす『竹に雀』が何処からともなく、賢太達の耳に届いてきた。




 スカイツリー天望回廊フロア450。

 通路の北側に位置するその場所にフロアの天井まで届く黒い黒い仰々しい門が突如として現れた。





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