暗きモノが地の底で不敵に笑う。今宵、不敵に笑うモノは高き反り立つ塔で微笑む
裏霊界のとある場所。
枯れた木々がウッソウと周囲を取り囲む草花もない広場。
一人の鬼が少し大きめの岩に腰掛けて、目の前の大きな大きな男をニヤニヤと見ている。鬼に見られているその大きな大きな男は下から上まで、白い布で作られた着物を着て、この場には似つかわしくない雰囲気をかもし出していた。
岩に座る男は大嶽丸。
長身のスラリとした体型を黒い着物に全身を包みこみ、目の前の白い着物の大男に引けず劣らない存在感を持っていた。
そんな大嶽丸がいよいよ口を開く。
「スサノオさん・・・わざわざ貴方様が顔を出さなくても、よろしかったのに・・・。」
大嶽丸は言葉だけの誠意を持って、目の前の大男にそう話しかける。
スサノオと言われたその大男がギロリと周囲を目だけで見回した後に大嶽丸に答えるために口を開いた。
「・・・毎度の事とはいえ、国津神の代表として、省く事は出来ぬゆえな・・・。」
スサノオはそう言いながら、口角を上げるが、その目は決して一時も笑ってはいない。
スサノオの凄みに対して、大嶽丸は腕組みをして胸を張り、大いにスサノオを見下ろす。
「国津神の代表?・・・毎度毎度、大国主大神様はどうされたので??」
大嶽丸はそう言いながら、ニヤニヤと口が裂けるように笑う。
「あやつはこういう場所には似つかわしくはない。こういう汚れ仕事は儂に限るゆえな。」
「ッ?!」
スサノオの言葉にハッと周囲がざわめき出し、大嶽丸の傍に控えていた3匹の鬼もピクリと動く。その動きに対して、大嶽丸がスッと右手を上げると、再び周囲は静寂が支配した。
「スサノオ様もお戯れになる・・・さすが歴戦の戦神様だ。」
大嶽丸は岩から腰を上げて、スサノオに近付き、スサノオの目の前にわざわざ座り込んでニヤリと笑みをスサノオに向けた。
スサノオは目の前に来た大嶽丸にも、ピクリとも眉すら動かさずにジッと見返す。
「大嶽丸よ・・・我が父と母の約束とも言える呪行の一部故に、口は挟まぬが、毎度ながら良く飽きぬな・・・。」
スサノオは自らその大きな顔を大嶽丸に近付けて、重低音の声を地の底から響かせる。
スサノオの凄みに対して、大嶽丸も一歩も引かずにその顔を近付けて、額をスサノオとガッチリと合わせる。
「戦神様よぉ・・・ふんぞり返ってられるのも今のうちだぜ・・・今回ばかりはあんたらも分かってるんだろう?あの時のように・・・。」
大嶽丸は大きな口を裂けてさせて、大いに笑みを浮かべて、スサノオに迫る。
「・・・・・・。」
スサノオは今まで、怯まずに大嶽丸と向き合っていたが、大嶽丸の言葉に身を強張らせて、無言になった。
「楽しいなぁ~~、スサノオ様・・・貴方様の母であり、我々の母でもあるイザナミ様も大層喜んで居られますぞっ・・・聞かれよ聞かれよっ。」
大嶽丸はそう言うとスッと立ち上がって、天に向かって両手を広げ、自身を大きく大きく見せる。
〔ザザザザザザザーーーーーーーーーーッ〕
大嶽丸の言葉が合図かのように、スサノオを取り囲む枯れ木という枯れ木が折れんばかりにざわめき、踊り狂うかのように音を立てる。
〔ギャヒャヒャヒャヒャヒャッ!〕
木々の狂音と共鳴するかのように、何者かの笑い猛る声も響き渡った。
「・・・・・・。」
スサノオは口を真一文字にして、ジッと黙り込み、地面をただただ凝視するしかなかった。そうこうしていると、
〔アヒャヒャヒャヒャヒャッ〕
〔ザザザザザザザーーーーーッ!〕
〔ギャハハハハハハッ〕
木々が揺れ踊る脇から次々と鬼達が姿を現す。
その数は十を越え、百に迫り、大嶽丸を讃え、スサノオを取り囲む。
〔ピシャアアアアアアアアアーーーーーンッ!〕
とある古寺の一室。
外では雷が鳴り響く暗いくらい中、
「・・・引く気はないのだな?」
「もちろんじゃ・・・。」
二人の大妖怪が顔を突き合わせて座り、深刻な顔を向き合わせていた。
その周りには、暗くて良くは見えないが、ウゴメく多数の影がモゾモゾと存在感を隠しきれずに露わにしていた。
部屋の中央で向き合うのは、大妖怪である大天狗とぬらりひょん。
その周りを取り囲むのはそれぞれに従う妖怪達だった。
大天狗が眉間に更に深い彫りを浮かべて、ぬらりひょんを見る。
「言うたはずだぞ・・・善朗に関して、これ以上動くのであれば、誰であれ、容赦はせんと・・・。」
大天狗は腕組みをして、胸を張り、ぬらりひょんにそう迫る。
「・・・ワシとて、言うたはずじゃ・・・あやつを放置すれば、大変な事になるとな。」
ぬらりひょんは少し腰を引けてはいるものの、妖怪の代表として、大天狗と真正面から向き合う。
「ワシの後ろには大嶽丸も居るのじゃぞ・・・これがどういう意味を持っておるのかも、ソチなら分かるはずじゃ・・・我らの母に背く気か?」
ぬらりひょんは大天狗の舌戦を押さえ込むように連続で口撃を繰り出す。
ぬらりひょんの言葉に眉をピクリと動かす大天狗。
「母に従ってばかりの子では母も親離れできまいて・・・。」
大天狗はそういうと目を細めて、笑みを零した。
〔ピシャーーーンッ!ゴロゴロゴロッ・・・〕
大天狗とぬらりひょんがにらみ合う中で、二人の交じり合う火花を具現させるように厚い雲の奥底でぶつかり合ったエネルギーが爆発して、空に轟いていた。