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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
幕間6 高天原の面々
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挑戦するために旅立つ友を見送る自分を省みた時、その場に立ちすくむのではなく、反対方向へと歩き出すにはいい機会をもらったんじゃないだろうか?と己を奮い立たせる

 

「私の後任には卯区筆頭サユミ殿を推薦いたします。」

「ッ?!」

 ゴウチが会議の終盤に突然そう話したことに、その場にいた全員が目を丸々とさせて驚き、驚きの余り微動だに出来なかった。


 その日、ゴウチは会議に亥区の実力者であるムカイを何故か同伴させていた。

 その答えは、簡単である。

「私が12人衆を退いた後には、このムカイを推挙いたします。」

「なっ?!」

 ゴウチは淡々といつものようにニコニコと話を進めて、今度は自分の後任を勝手に名指ししていく。その余りにも、強引な言動に曹兵衛も思わず口を開く。






 裏霊界の事件が一段落して、霊界で連日の会議が続く中の数日後の出来事だった。


 大体の新12人衆の目処がついて、やっと落ち着いて今後の霊界の方針についての議題に移ろうとした時に、ゴウチがしばしの時間をもらって、発言したのが始まりとなった。


 そこからはゴウチの独壇場となる。曹兵衛達が意見を言うものなら、それを黙らせるようにゴウチは事前に用意した文言でねじ伏せていく。それは用意周到され、張り巡らされた罠のように次々とその場の人間を黙らせていった。最後まで粘ったのは、他でもない曹兵衛だったが、次から次に起きた余りのも大きな出来事を処理する事で、手一杯となっていて曹兵衛は、やっと開放された合間の虚をゴウチに見事に突かれ、最後にはしてやられる形となった。






「本気なんですか?」

 五重塔から面々が散り散りに返っていく中で、曹兵衛がゴウチを呼び止めるように言葉を搾り出す。


 ゴウチは長年の戦友である曹兵衛の言葉に答えるようにゆっくりと振り返る。

「・・・・・・。」

 ゴウチは何も言わずに、ニコリと笑うだけだった。


 曹兵衛は両手を握りこんで、その親しき旧友を睨み付けずにはいられなかった。

「・・・私達は、同じ時代を生きた友というには余りにも深いつながりが合ったと思ったのですが・・・。」

 曹兵衛はゴウチを諦めきれずに、縁というもっとも霊界に住まうゴウチ達が大事にするもので最後の抵抗を見せる。


 ゴウチは曹兵衛のその言葉に体ごと曹兵衛の方に向きなおし、まっすぐとその目を見た。

「・・・・・・私は会津(あいづ)から離れた集落で生まれた農民の三男でした。あの頃の日ノ本は大いに揺れ動き、侍達がどう世界と向き合うかで、騒がしかったですね。」

 ゴウチが身の上話を交えながら自分達の生きた時代を振り返る。


 曹兵衛がそれに共鳴するように口を開いた。

「・・・私は瀬戸内海の問屋の息子でした・・・蘭学に興味があり、本の虫のように学び・・・医者として、その時代と向き合いました。」

 曹兵衛がゴウチをジッと見て、自分の生い立ちを話す。


 ゴウチは自分をまっすぐ見る曹兵衛から逃げることなく、その場にジッと立ち、誠実に曹兵衛に向き合う。

「・・・医者と立身出世を夢見た男です。貴方は他人の命を救う事で時代と向き合い、私は自身の命をかけて時代と向き合いました・・・戦った地は違えど、あの激動の時代を生きた友として、貴方の事は血縁以上のモノを私も持っておりました。」

 ゴウチは揺らぐ事のない真っ直ぐとした眼光で曹兵衛に真っ直ぐな言葉を放つ。


「・・・ならばっ。」

「ならばっ、分かるはずです・・・私がこの道を選ぶ事も・・・。」

「・・・・・・。」

 それ以上、曹兵衛は口を開けなかった。

 ゴウチは袖を最後まで引っ張っていた友の手を振り切り、背を向けて歩いていく。




 そんな男達の友情ゴッコを(いぶか)しげに睨み付ける者が一人いる。

 ゴウチの策略により、行き成り12人衆の副長に任命されたサユミだった。

「・・・・・・。」

 サユミはゴウチの進む先に陣取り、ぬりかべのように仁王立ちして、ゴウチを待ち構えていた。


「・・・・・・。」

 ゴウチは流石にサユミに対しては苦笑いしか返せない。


 サユミはゴウチの苦笑いにドッと力が抜けたのか、強張っていた肩を下ろして、ため息をつく。

「・・・あんたがどうしようが勝手だけどさ・・・とんでもないモノを押し付けて行ったわね。」

 サユミは当然のようにゴウチに食って掛かる。


 会議の場では、あまりの出来事にサユミは処理が追いつかずに何もいえなかった。だからこそ、ゴウチを待ち伏せして、思いっきり言ってやろうと思っていたのだが、曹兵衛とのやり取りを見た後では、世界大戦の戦場で多くの男達を見送ってきた看護士としてのサユミには何も言えなくなっていた。ゴウチの決意の目には、あの時の男達と同じものが宿っていたからだった。


 サユミはそんなゴウチに性分として、こう聞かざるを得なかった。

「・・・他に私ができることはない?」

 サユミは直前まではゴウチに何もかもぶちまけて、副長という肩書きも突き返してやろうと思っていたが、生前、戦場に向かう男達に出来る限りの事をしてあげたサユミらしい言葉だった。




「・・・特に何もありません・・・友をよろしくお願いいたします。」

 ゴウチはニコリと笑い、そう後ろで塞ぎこんでいる友のことをサユミに頼むだけだった。




「・・・あいよ。」

 サユミは腕組みをして、クスリと笑い、ゴウチにそう返事した。


 サユミは生前を思い出す。

 殆どの男達もまた、特に何も求めずに笑って、ただ家族を思い、戦場に向かって行った。

 そんな男達にとって、優しい言葉など意味はない。

 サユミは静かに遠くなっていくゴウチの大きな背中を微笑みと共に送り出していく。



 そう、戦場の空に舞い上がって行く男達を見送った、あの時と同じように・・・。






 〔ドゴオオオオオオオンッ!〕

 〔ズガアアアアアアアアンッ!〕

「ヌオオオオオオオオオッ!」

 桃源郷のとある洞窟内部。


 ゴウチは流達と合流してから数日後には菊の助とサシで闘い、奮闘していた。


「あいつ・・・あんなに強かったのか?」

 ゴウチの戦いぶりを見て、武城が脇で座りながら、その様子に驚く。


「・・・・・・。」

 武城の横で腕組みしながらも両手に力を入れて、着物を握りこむガカク。


「ヨッシャッ、復活っ!俺も混ぜろやっ!!」

 武城の隣で、マン桃を食べていた賢太が元気いっぱいに立ち上がり、両手を高々と上げて、ゴウチ達の方へと駆け出していく。


「・・・・・・。」

 武城とは少し離れた所で、眠るネヤの隣で、その寝顔を見る流がいる。


「・・・流さん・・・本当にこのまま続けられるのですか?」

 ネヤのサポートをしている乃華がネヤの状態を加味した上で、そう流に尋ねた。


「・・・ネヤなら、きっと乗り越えられる・・・それが俺たちの絆と信頼だ。」

 流はそう言いながら、ネヤの寝顔に手を近づけていく。


「・・・ん・・・。」

「ッ?!」

 深い眠りの中にいるネヤが流の手に反応するように言葉を発した。

 流はその事象に、サッと手を引っ込めて、その手を見詰める。


 それこそが流達が稽古を続けて、菊の助が強くなっているという言葉が、形となった瞬間だった。


「乃華、俺は瞑想する・・・ネヤを頼むぞ・・・。」

 流は自分の手をグッと握り込み、爆発しそうな己の感情を押さえ込むように、乃華にそういって、座禅を組んで目を閉じた。


「えっ・・・あっ、はい・・・。」

 乃華は流の顔見て驚き、タドタドしい返事を返す。


 乃華は少し怖くなった。

 乃華がみた流のその顔は、とても無邪気で


 とても純粋だったからだ。








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