秩序と言う平穏のために伴う犠牲と天秤
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「帰れないって・・・どういう・・・。」
善朗が焦点の合わない視線をツクヨミに必死に合わせて、言葉を投げる。
ツクヨミはそんな善朗のたどたどしい言葉でもしっかりと正面から受け止める。
「神にもルールはあります・・・『人の世に無闇に手を出してはいけない』・・・君は神の領域、『神域』へと足を踏み入れようとしているのです・・・君は力を持ちすぎた・・・神になる前であったとしても、君は現世にこれ以上干渉すべきではないという判断を下したのです。」
ツクヨミは冷静に素直に包み隠さず、善朗の処遇についてを淡々と話した。
「そっ・・・そうなんですか・・・。」
善朗はツクヨミの言葉に撃ち抜かれるように全身の力が抜け、その場に座り込んでうな垂れる。
「君は現世に関わってはいけない・・・これまで、貴方が力を行使した事で、犠牲になった者達がどれほど居たかご存知ですか?」
「えっ?」
ツクヨミが善朗に止めを撃つように不意な問いを投げかえる。その思わぬ問いに善朗は固まってしまった。
それでも、ツクヨミは口を動かす事を止めない。
「・・・貴方が弟君を助けた事により、悪霊連合を動かし、それが暴れ回ったことで、万に迫る人や霊の犠牲者が出ました・・・その後、霊界に現れた妖怪達により、数百・・・お望みならば、人の世ですら把握しきれていない犠牲者の数を一桁まで正確にお教えしましょうか?」
ツクヨミは常に淀みなく冷静だった。もはや、丁寧に作られた透明な氷のように。
「・・・俺のせい?」
善朗は今まで良かれと思ってしてきた全てをツクヨミに否定されたような気持ちにされ、全身の汗腺の穴という穴から水分がブワッと流れ出す。
「・・・・・・。」
いつもなら全力で否定する大前が口を真一文字にして黙っている。
「・・・人の世でどう判断したのかは、私には関係ないことです・・・これは紛れもなく、貴方が力を行使した事による作用です・・・蝶がはためく事によって、風が大きくなり、嵐になるように・・・。」
ツクヨミはしっかりと善朗を見据えた上で、これでもかと突き刺してくる。
ツクヨミの執拗な責め苦に善朗は苦悶の表情をツクヨミに向ける。
「・・・・・・僕はどうすればよかったって言うですか?」
善朗がそう精一杯声を搾り出して、ツクヨミに問う。
ツクヨミは善朗をただただジッと見て、暫し時を置き、口を開いた。
「君は弟君を見捨てるべきだった。」
「そんな事できません。」
「ならば、それ以上、事に悪霊に関わるべきではなかった。」
「そんな・・・それは・・・。」
「結果論ではありません・・・幾重にも分かれた先の真実です・・・神は投げられるはずだった賽のその後を全て知っている。」
「俺は・・・。」
「君はあの会場から逃げるべきだった。」
〔ドンッ!〕「俺はそんなこと、出来ないっ!」
善朗は両拳を力強く握り締めて、きれいな畳を殴りつけるように叩きつけ、畳をにらみつけた。
「貴方の出来る出来ないをここで問答している意味などありません。投げられた賽を戻す事が出来ない以上、あなたがここでの判断を誤らないように私がその道を正しく指し示すだけです。」
ツクヨミの心には水滴ですら、波は打たない。善朗の感情の起伏など想定内、予測通りと言わんばかりに冷酷に口は動いていく。
そのツクヨミの口を塞ぐように善朗が重い重い圧迫感を跳ね除けるように言葉を外に吐き出す。
「俺がもしも神になんてならないって言ったら?」
「そんなことはあり得ない。」
二人の視線が初めてしっかりバチバチと交じり合う。
さすがにツクヨミも善朗の言葉にピクリと眉を小さく動かした。
「羽ばたく蝶に罪の意識などない・・・だが、君は違うだろう?君は考えるべき頭を持ち、善悪を判断できる意志を持っている。私をこれ以上失望させないでくれ。」
ツクヨミは眉を少し動かしただけで、それ以上は常に変わらず、善朗を諭すように話した。
「俺がこのままここを出て、霊界に戻ったらどうなるんですか?」
善朗は叩きつけた拳を畳につけたまま、力を更に込めて握り込み、それと同じように眉間に力を入れて、ツクヨミをジッと見る。
「間違いなく犠牲者は増える・・・神になれる者というのは光そのものなのだ・・・陰陽が常に二つで一つであるように光と影は相互に関わりが深い・・・光が強くなれば強くなるほど、闇はその深さを増していく・・・君が羽ばたく事を自由と履き違えれば、履き違えるほど、その風は強くなり、はるか遠くの人々を傷つけるのです・・・神は好きで人の世から離れているわけではない・・・それが正しいからこそ、神はその距離を保つのです。」
ツクヨミは善朗の怒りを逃げる事無く、真正面から受け、それに怯む事無く、言葉を一直線に善朗に向ける。
常に淀みないツクヨミの姿勢がここに来て、その効果を善朗に発揮していく。
「止めはしないんですか?」
善朗はフツフツと湧き上がってきた怒りが炭酸の気が抜けるように抜けていき、いつしか冷静な感情でツクヨミにそう尋ねていた。
「止めはしない・・・君は正確には、まだ神ではない。」
ツクヨミはそう淡々と答える。
「ならっ・・・。」
「だが、その選択は君自身にも代償を払ってもらうことになる。誰もが望む神になる権利を捨てるのだ・・・それ相応の覚悟はいりますよ。」
善朗が意を決して、その場から立ち上がろうとした時、ツクヨミはその善朗の足の甲に鋭いナイフを突き刺すように言葉を叩きつけた。
大前はその瞬間まで、ジッとツクヨミをただ見ているだけだったが、その言葉に反応するように正座の太ももに乗せていた両拳を少し握り締めるように人知れず動かした。
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