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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
幕間6 高天原の面々
134/171

神にナリたいということと、ナレるということの違い

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「なぜですかっ?」

 善朗はそう聞かざるを得なかった。そう聞かずにはいられなかった。



(あなたにはここでずっと過ごしてもらいます。)

 善朗の頭の中には、先ほどのツクヨミの言葉が何度も頭の中身を打ち付けてくる感覚に囚われる。



 善朗が困惑をした表情でツクヨミに迫る中、ツクヨミはしっかりと善朗から目を離さない。

「本当は順序立てて、貴方を高天原に招こうと思っていたのですが・・・どうにも、そうさせてはくれない意志があるようで・・・後手後手に回ってしまった事が、貴方をさらに混乱させたようです。」

 ツクヨミは淀みない湖面のような言動で、困惑する善朗にしっかりと言い聞かせる。


 そんな冷静なツクヨミの姿勢が善朗をさらに困惑させる。

「どっ・・・どうして・・・ここは神様達が暮らす世界ですよね?・・・僕なんかが居ていい場所では・・・。」

 善朗は少し身を乗り出して、さらにツクヨミに迫る。


 そして、善朗がツクヨミに更に迫ろうとした時だった。

「よすのだっ、主っ。」

 今まで善朗にまったく関心を示さなかった大前がツクヨミに対して、護る様に善朗を後ろから善朗の肩を掴んで、それ以上前に進めないように制止する。


「・・・大前、構いません・・・手を離しておあげなさい・・・。」

 ツクヨミは善朗を制止した大前に向かって、淡々と言葉を投げる。


「御意ッ。」

 大前はツクヨミの言葉が届くと透かさず善朗から手を離し、元の位置に戻って、深々と土下座をした。


「・・・・・・。」

 善朗にとってはその大前の行動が冷や水となり、混乱していた頭の中が、整理されたのではなく真っ白になった。


 大前を見て完全に動きを止めた善朗をツクヨミはジッと見ている。

「・・・確かにここは神々の住まう世界であり、霊である貴方が本来、来ていい場所ではありません・・・しかし、今の貴方はここにいる素質があるのです。」

 ツクヨミは自分を見ていない善朗なれど、その事を気にせずに、優しく説明する。


「・・・どういう・・・。」

 善朗はツクヨミの声に導かれるように視線を大前からツクヨミに流していく。


「・・・・・・神とはなんなのか?神の定義とは人によって様々ではありますが、高天原にいたっては、淀みない魂の形であります・・・貴方は和御魂ににぎみたま荒御魂あらみたまの事は知っていますか?」

 ツクヨミはジッと善朗と見つめあう中で、淡々と川がセセラぐようにそう善朗に尋ねる。


「・・・・・・。」

 善朗はツクヨミの言葉が頭の中にスッと入っては来るものの、その意味をまったく理解できない。



「和御魂とは、陰陽でいう陽という光の魂。荒御魂とはそれとは反対の陰という影の魂のことです。この二つの魂は人に課せられた試練の形・・・陰陽がバランスを保つ事が人の一つの魂の不偏なものであり、人としての理なのです。ここまではよろしいですか?」

 ツクヨミが淡々と丁寧に魂について、善朗に説明して最後に尋ねる。

「はっ・・・はい・・・。」

 善朗はツクヨミの魂についての説明が始まると姿勢と正して、正座して聞き入る。



「よろしい・・・ならば、淀みない魂とはなにか・・・それはもちろん、和御魂しか存在しない光の魂の事です・・・それこそが、ここでいう神としての資格。人という理の先にある魂の形・・・。」

 ツクヨミがそこまで言って、善朗をジッと見る。

 善朗はツクヨミの言葉に息を呑み黙り込んだ。


「陰という影のない、まっさらな淀みない魂にするには、どうしても荒御魂という汚れを取り去る必要があります・・・しかし、二つの陰陽という魂が形成する理を破れば、魂としては形を保てなくなる・・・そこで必要なのが、もう一つの魂・・・付喪神つくもがみとの同化なのです。」

 ツクヨミは冷静に言葉を連ねて、善朗に魂の概念と神への道を説いていく。

「っ?!」

 ツクヨミの淀みない言葉の中に、驚愕する事実が善朗に刺さった。


 善朗は思わず、ツクヨミの話を遮るように、視線を大前へと移す。

「・・・・・・。」

 大前は一切善朗の方を見ずに、ツクヨミだけを視界に入れて、押し黙っていた。


 そして、善朗の反応に一切乱されることなく、ツクヨミの話が続いていく。

「それこそがまさに神としての素養・・・それは、霊界を含めた現世にて、徳を積み、付喪神に認められ、荒御魂をその身から分離して尚、魂の形を保つ為に付喪神と同化出来うる存在に至ると言う事。」

 ツクヨミはそこまで話すと、一旦口を閉じて、善朗の姿を澄み切った瞳の中に入れて、一旦口を閉じた。




 善朗はツクヨミの言葉を頭の中に入れた瞬間に二度目の殴られる感覚を持つ。

(善朗君、君の魂は実に綺麗だ・・・その魂をもっと磨きなさい・・・私も影ながら君を見ているよ・・・子供達も同じだ)

(ナナシさんは・・・こうなることを望んでた?)


(善朗・・・自分の中で、折り合いがつかない感情はあるかい?)

(殿は何処まで知って・・・。)


(何も貴方が向き合っているのは荒御魂だけではありません)

(ゴウチさんも知ってた・・・いや、もしかしたら、みんな・・・。)

 これまで、善朗が接してきた人物達の含みをもった言葉が次々とその意味が露わになるかのように善朗の頭の中を何度も何度も駆け巡っていく。


 ツクヨミは混沌の海の中で、焦点の合わなくなった善朗をそれでも、ジッとみつつ、その海から引き上げるように言葉で導く。

「大体、君も飲み込めてきたみたいですね・・・貴方は神としての素質を持ち、資格を得られるかをここで君が選ぶのです・・・そのためにここに君は居る・・・そして、もう二度と霊界や現世へは帰ることは出来ません。」

 ツクヨミの声は善朗がどんな状況だろうとも、それを阻むものが何もないかのように、不可避に脳へと進入してくる。




「・・・帰れない?」

 ツクヨミの言葉が脳に届くと、海の中でモガク善朗はその中で漂う板に必死にしがみ付くようにツクヨミの言葉を掴んだ。







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