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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第6幕 裏霊界編
127/171

私は決意を持ってこの場にいる・・・今日も今日とて、スーパーの惣菜コーナーに立ち尽くす。後5分、恥も外聞など、今の私には関係ない・・・私には覚悟がある!

お手数でなければ、創作の励みになりますので

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 乃華は一心に思う。

(皆を助けたい!)

 乃華はその場で座禅を組んで、大日如来だいにちにょらいの印である『知拳印ちけんいん』を自身の胸の前で組む。


 知拳印とは、金剛界の大日如来の特有の印であり、

金剛石ダイヤモンドのように何があっても壊れない』という

 大日如来の智慧ちけいを表すもの。


 乃華はその大日如来の力を借りて、この場に決して壊れない皆を守るための結界を作り出したのだった。そして、見事にその思いは、極楽浄土の大日如来に届き、その叡智えいちを持って、魔を退け、清き者を鼓舞する結界をその場に顕現させた。






「私にみんなの役に立てるような力を教えてはくれませんかっ?」

 乃華は自身の目の前に居る人物に深く頭を下げて、そう懇願する。


「・・・そんな力を求める必要があるんですか?」

 乃華に頭を下げられた相手はそう優しい声で、乃華に尋ね返す。


「ありますっ!」

 乃華は頭を下げたまま、力強くその人物にそう即答する。


「・・・・・・。」

 乃華の目の前に居る人物はなにやら言葉に困っているようで黙り込んだ。



「パパッ、私は管理官として、善朗君を傍で見てきて、自分の非力さが悔しくてしょうがないのっ・・・私も皆と・・・いいえ、善朗君と一緒に戦いたいっ・・・パパなら・・・この霊界を守る神様なら、管理官でも何か善朗君と一緒に戦うための役に立つような方法を知ってるんじゃないのっ?!」

 乃華は頭をスッと上げて、目の前に居る死神である父ナナシに向かって、切実な顔を向けて、そう強い口調で迫った。


 そんな娘である乃華の必死さに対して、死神は冷静にそれを受け止める。

「・・・あなた達、魂の案内人や区の管理官は霊とは違いますし、神とも分類できません・・・ですから、そんな貴方が善朗君達の手助けをする事を私は止める事は出来ませんし、しません。しかし、本来戦う力の乏しい貴方にできることなど、余りありませんよ?」

 死神ナナシは自身の娘の切実な願いを何か歯切れの悪い口調ではあるが、そういさめる。


「・・・『余り』と言う事は、方法はあるんですよね?」

 乃華は死神の歯切れの悪い言葉の中にあった僅かな光明を見つけて、それを必死に掴む。


「・・・・・・。」

 死神は沈黙をする。それこそ、まさに答えだった。




 乃華は黙り込んだ死神の両腕をガッシリと掴んで、ここぞとばかりに畳み掛ける。

「戦う力がなくてもいいんですっ・・・私はあの人の力になりたいっ、誰よりもなってあげたいっ・・・少しでも、あの人が背負う思いを一緒に分かち合いたいのっ!!その方法があるなら、どんなことでもします・・・だからっ!」

 乃華はここが最大のチャンスとばかりに、思いを乗せた素直な言葉を父親にぶつけた。




 そんな必死な娘を父親は優しい瞳でしっかりと見る。

「・・・・・・。」

 父親は娘の必死で純粋な優しい思いを、黙ったまま深い愛情がこもった微笑みを持って包み込んだ。そして、ゆっくりと口を開く。




「・・・もしかしたら、霊界に居られなくなるかもしれませんよ?」

 父親は瞳に涙をいっぱい溜めた娘の視線を優しく受け止めて、娘の進む道が険しいことを正直に告げる。




 死神の娘である乃華はその死神の忠告に一切揺るぐ事無く、ただただ優しい父の目を見続けた。

 父親である死神ナナシはこの日が来る事を神でなくとも知っていた。

 大神と交した大事な娘の今後についてのたわいない話の結末。

 それでも、それがきっと間違いなく訪れる事をすでに受け入れていた。

 娘の投げた賽の出目は確実に自分との関係を変える事だと知っていても、死神は全てを悟り、娘の覚悟を確認して、己の思いも、この瞬間に固めたのだった。






(私ができるのは、相手の力を削いで、皆を守り、力を最大限出せるようにすることだけっ・・・それでもっ!)

 乃華は知拳印を結んで、目を閉じたまま必死に結界を保つように思いを込める。


 その場に居た誰もが困惑する中、ただ一人、全体を俯瞰してみていた曹兵衛だけが導かれるように乃華のほうに視線を送っていた。

「乃華さんっ・・・これは?!」

 曹兵衛は自分達を守っているのは間違いなく乃華だと確信して、乃華を見るも、突然起こったこの光景の説明を驚きのあまり、思わず求めてしまった。


 そんな曹兵衛に対して、乃華は必死に結界を保つために目を瞑ったまま口を開く。

「これは死神が霊界を守るために施した魔を退ける結界の縮小版ですっ・・・今の私にはこれぐらいしか出来ませんが、この中なら霊界と同じように魔の力を抑えたまま、皆さんは全力で戦えますっ!」

 乃華はそう定かではない近くに居るはずの曹兵衛に丁寧に説明した。


 曹兵衛は事の全てを乃華に聞いて、目を丸くする。そして、

(なんてことだ・・・この四面楚歌の状況で、神は私達をしっかりと見守って下さっている。)

 神の使いである乃華の思ってもない最上の援護に、心の中で神に歓喜せざるを得なかった。


 この事実を待ち望んでいるのは曹兵衛自身だけではないことを曹兵衛は誰よりも理解している。

「皆さんっ、これは乃華さんが神からもたらしてくれた好機ですっ!この結界の中なら、悪霊とも対等以上に戦えますっ・・・結界の外に出ないように注意し、お互いの背を守りつつ、確実に対処していきましょうっ・・・必ず、霊界に帰れますっ!」

 少し大げさな物言いではあるが、戦場を統べる参謀として、曹兵衛は最大限の鼓舞を味方に施した。



 〔うおおおおおおおおおおおおっ!!!!〕

 参謀曹兵衛の計略通り、その場に居た霊界の猛者達は、神に感謝して、己の全てをこの一戦に賭ける覚悟を叫ぶ。




 それと対照的に悪霊達は焦りに焦っていた。

「なっ・・・どうなってんだっ・・・誰か説明しろっ!」

「やばいやばいぞっ!」

「ここは俺達のホームじゃねぇのかっ!」

 結界の内側に居る悪霊達は事態の全容が掴めず、それを鎮める主軸も居らず、ただただ思い通りに動かない身体に困惑する。


「なにしてやがるっ!こっちにはゴマンと仲間がいるんだぞっ!!」

「邪魔だっ、俺がやるからどきやがれっ!」

「俺が先だっ!俺が皆殺しにしてやるっ!」

 結界の外に居る者は外にいる者で、乃華の結界の威力が分からずに、我先にと、ご馳走を目の前に猛り狂っていた。もはや、その場を統率できるモノなどいない・・・。



 結界の内では自分達に起こった事態から逃げ出そうとする者がおり、

 結界の外では自分達の欲望を吐き出そうと前に強引に進もうとする者がいる。



 濁流と濁流がぶつかり合うだけの制御の利かない群衆が、やがて烏合の衆へと成り果てていた。そんな烏合の衆など、猛者達の前では赤子も同然、結界の中で悪霊達を迎え撃ち、丁寧に撃退して行った。そして、悪霊達は気付けば、曹兵衛の糸の結界と乃華の結界の二重の結界から距離を置かざるを得ず、圧倒的物量にもかかわらず、こう着状態へと陥れられていた。


 そうなった要因は、もちろん乃華の結界にもあるが、自分達がいくら優位に立とうとも、決して結界の外には出ずに、自分達の持ち場をしっかりと守り抜く姿勢を崩さなかった霊界の猛者達にあった。猛者達は結界に無謀に入って来る者をどんなに相手が弱かろうが、集団で確実に対処して、ちゃんと持ち場に戻り、疲れた者と随時交代して、陣形を常に保った。結界の外に、い組が居ようが、ろ組が居ようが、そんな番付など、集と集との戦いには無意味だという事を結果的に体現したのだった。


 だが、いくら霊界側が優勢になったからといって、ここが裏霊界である事実は覆らない。悪霊側も底なしのバカではない。次第にこの事態が一人の人物が原因だと悪霊側も気付き、物量戦を避け、このこう着状態はまさに乃華がどれだけ結界を保てるかという問題に変わっていた。



 そうこうしていると、

 〔ドオオオオオオーーーーーーンッ!〕

 霊界側の不安と、悪霊側の苛立ちを激変させる爆音が、霊界側を囲む悪霊達の更に後方から曹兵衛達の元へと届いた。



「・・・なっ、何?」

 陣形の最奥、乃華のところまで引いていた看護師のサユミが突然鳴り響いた大きな音に表情を曇らせる。


 サユミが不安でいっぱいのか細い声を出すと、それに乃華が反応する。

「・・・・・・大丈夫です・・・もう、大丈夫です・・・。」

 乃華は印を結んだまま、目を閉じているが、その音の原因が分かるかのようにフッと微笑んだ。


「えっ?」

 サユミにはそんな乃華の微笑みの真意が全く分からなかったが、なぜか、その微笑みで、心の中の不安が消え去っていたことだけは感じ取れた。






「おっ・・・おい・・・あれって・・・まっ・・・まさか・・・。」

 一人の悪霊が音の鳴った方へ視線を向けて、その原因を指差す。




 そこにはたった一人の少年が一本の刀を携えて、こちらに近付いてくる姿があった。








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