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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第5幕 霊界武術大会編
116/171

私の目の前に絶対的王が現れる。どんな状況も、どんな相手も捻じ伏せていくその王・・・私はもちろん王につき従い、王を称える紙を買う・・・しかし、気がつけば財布の中身がなくなっていた

お手数でなければ、創作の励みになりますので

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 〔ガンッ!〕

 丁度ナルキがリング上に上がった時、エンコウに得意のトンファーの一撃を打ち込む武城の姿がナルキの視界に入る。


 エンコウはニヤニヤしながら、武城の渾身のその一撃を左手一本で軽々と防ぎ、舌なめずりをする。

「ふへへへっ・・・むっ?!」

 エンコウが武城に手を伸ばそうとしたその時、エンコウは頭上から自分に対して降り注ぐ気配に目を奪われる。


 〔バッ〕

 〔ヒョファファファファファファッ〕

 エンコウは素早くその場から離れるように後方に跳ねる。すると、エンコウがいたその場所にはるか上空から無数の閃光が降り注いだ。


 〔ガガガガガガガガガガッ!〕

 上空から降り注いだ閃光がリングに突き刺さり、光に反射して、その存在をエンコウ達に示した。それは、見た目は細い糸ではあるものの、突き刺さったその硬度はワイヤーよりも硬質に見えた。


 エンコウが離れたその場所に居り立つ者あり。

「ナルキ・・・いったい貴方は何がしたいんですか?」

 エンコウが離れたその硬質な糸の森に颯爽と舞い降りたのは曹兵衛。曹兵衛がナルキを眼光で射抜き、そう尋ねる。



 ナルキはリング上に上るや否や、曹兵衛に詰められて、困った顔をしながら頭を掻く。

「・・・いやはや、申し訳ない・・・ウチの者が粗相をしてしまって・・・本当はもっと大々的に暴れようと思っておったのですが。」

 ナルキは自分の頭をぺチンと一叩きした後、ニヤニヤしながら曹兵衛に弁明して、最後に口を大きく割くように笑う。


「おい、大将ッ!あのデカブツは俺がやるっ!」

 曹兵衛に助けられる形なった武城はその事にもイライラしながらも、自分を如何にも下に見ているエンコウの存在と、親友を倒された恨みで怒りが爆発していた。


 曹兵衛は一切武城の方を見ずにナルキ達だけを視界に入れている。

「・・・武城さん、貴方の事ですから戦闘に関しては、いつもは心配などしませんが、今回に限っては一人では行動する事を避けて下さいっ・・・相手の得体が掴めなさ過ぎます。」

 曹兵衛はそう言いながら、リングに突き刺さった糸を素早く回収する。糸は曹兵衛に導かれるようにスルスルと流れるように引かれて、曹兵衛の袖の中へと消えていく。




 曹兵衛達がナルキ達とにらみ合っていると、会場の控え室からリングのある広場に繋がっている2箇所の出入り口から続々と霊界の猛者達が雪崩れ込んできた。

「曹兵衛ッ!」

 猛者達を先導してきたように最初に声を上げたのは天凪あまなぎ




 気がつけば、ナルキ達、未区の5人は100を優に超える霊界の猛者達に取り囲まれていた。

「これはこれは・・・なんとも手厚い歓迎っ。」

 ナルキは圧倒的な人数の差など、毛ほども気にしていないようにニコニコしながら、リング上から両手を大きく広げて、周りをグルリと一回り見て、不敵に笑う。


「ナルキさんっ!これはいったいどういうことなんですかっ?!」

 ナルキと普段から懇意にしていたへび区のユウキ太夫が困惑した表情でナルキにそう尋ねる。


「ユウキ太夫・・・そなたは特にお気に入りだ・・・皆さん、さらってめかけにしますのでくれぐれも滅消せぬようにっ。」

 ナルキは自身の事を心底心配するユウキの事を性の捌け口としてしか認識しないような冷たい笑みでユウキにそう言い放った。


「ッ?!」

 ユウキはナルキのそのおぞましい笑みに身震いを禁じえなく、無意識に後退する。


「くちゃくちゃくちゃ・・・案外、女が多いな・・・これはいい・・・あっちじゃ、湿っぽい奴ばかりだからな・・・犯しがいがあるぜ・・・女はつれて帰ろうや。」

 短髪の男がガムをかみつつ、ユウキや天凪の姿を見ながら舌なめずりをして、笑う。


(・・・この人数に囲まれながら、こいつら全然余裕じゃない・・・。)

 2丁拳銃を構えながらナルキ達を見て、頬に一筋の冷汗を流すうさぎ区の看護士サユミ。



 12人衆がそれぞれ得体の知れないナルキ達とにらみ合う中、もちろん善朗も駆けつけていた。

(・・・どうして、こんな時に限って・・・。)

 善朗は駆けつけたは良いものの、ナルキ達を見た瞬間に嫌な予感めいたモノを否定できなかった。ゴウチから導かれ諭された大会の乗り越え方など、もはや無意味な事だと善朗の深層が明確にそれを告げていたのだ。




 そんな切実な想いに悩まされていた善朗の後方から善朗の肩を触りながら、秦右衛門が現れる。

「善朗君っ!なにをしてるんだっ・・・君はここはいいから逃げなさいっ!」

 秦右衛門は善朗の姿を見るなり、そう荒々しく善朗を急かす様に声をかける。




 善朗は秦右衛門のその言葉で一瞬善朗の魂を縛る鎖が少しほだされるのを感じた。が、

「・・・でっ・・・出来ません・・・そんな・・・逃げるなんて・・・。」

 秦右衛門の優しさに甘えられないと言う善朗の心がそれを拒む。

 だが、そんな善朗をこのままに出来ないのも秦右衛門。


 拒む善朗の両肩をしっかり掴んで秦右衛門がジッと善朗の目を見る。

「闘えない君がここにいた所で、邪魔になるだけだろっ?乃華さんもいるじゃないか・・・君は乃華さんとここから離れなさいっ!」

 秦右衛門は優しい善朗にこの期に及んで甘えるべきではないと、善朗を思い、善朗を突き放す。しかし、



「勝てるんですか?」

「・・・・・・。」

 善朗のその一言に秦右衛門も、傍にいた乃華さえも言葉を失った。



 冥を思う心と葛藤する中でも、善朗には分かってしまう。

(こいつらの強さは尋常じゃない。)

 善朗は一目見て、未区の5人の強さを的確にそう判断した。

「俺は残ります・・・。」

 善朗はそう言いながら、秦右衛門を振りほどいて、前へと進む。


「善朗君ッ!・・・・・・わかった・・・わかったけど、君をミスミスこのまま戦わせることは出来ないっ・・・君が闘うのは最後の最後だ・・・それまでは、乃華ちゃんと一緒に後ろで見ていてくれ。」

 秦右衛門は逃げる事を拒んだ善朗に対して、最大限の強がりを善朗に示す。が、その秦右衛門の悲痛な表情からは隠せない秦右衛門の思いが善朗にも伝わってくる。秦右衛門自体も、ナルキ達を一目見て、得体は知れないが、確実に霊界を揺るがすほどの強者だと感じていたのだ。だからこそ、秦右衛門は最後の最後で善朗の助け舟を拒否することが出来なかった。この期に及んでも、冥を天秤にかけてしまった自分に秦右衛門は遣る瀬無かった。


「よっ、善朗さん・・・秦右衛門さんもああ言ってますし、後ろの方に下がっていましょう?」

 乃華が善朗のすぐ傍に控えていて、善朗を導くように善朗の腕を引く。


「・・・・・・はっ、はい・・・。」

 善朗は乃華に引かれるままにリング広場に集まる猛者達を掻き分けて後方に下がっていく。秦右衛門が堅い笑みを浮かべながら手を振って、それを見送った。



 秦右衛門が善朗達を見送った後、猛者達を掻き分けて秦右衛門に金太が近付いてくる。

「秦兄ぃっ、ササツキの姿が見えねぇぞっ!」

 金太は今まで、いつのまに姿を消したササツキの行方を探っていたようだった。


「・・・いつものように逃げ足だけは速いね・・・ほっとこう・・・今はね。」

 秦右衛門は金太の報告に苦虫を噛むが、今はそれどころではないことを金太に告げる。






 リング上の中央。ナルキ達、未区の5人が追い詰められるように曹兵衛達とにらみ合う。リングは完全に霊界の猛者達に囲まれて、リング上にも12人衆を筆頭に腕自慢の猛者達がズラズラと上ってきていた。


「随分余裕ですね・・・今日という日を選んだのは悪手では?」

 曹兵衛は余りにも余裕なナルキを探るようにそう尋ねる。


「悪手?・・・まさか・・・最初からこの日しかないと思っておりましたよ?」

 ナルキはニコニコしながら、つるつるの自身の頭を撫でつつ、そう曹兵衛に答える。


「・・・勿体ぶんじゃねぇ~よっ・・・さっさとかかってこいっ!」

 鼻息荒い武城が今にも飛び掛らん勢いでナルキを挑発する。もちろん、曹兵衛が武城の前に手を出して、その暴走を制止している。


 ナルキは武城の挑発なぞ、意にも介さず、笑顔を崩さず、ただスッと懐から一つのグレープフルーツ代の一つの紫色に光る球を取り出した。

「・・・これはね・・・ある方から貰い受けた『集獄魂しゅうごくこん』という球でしてね・・・便利なもので、いくつもの魂を収納できるんですよ・・・この中には、何百という魂が詰め込まれている。」

 ナルキは集獄魂といったその球をニヤニヤ見ながら、曹兵衛達にその存在を示す。


 ナルキは集獄魂から困惑している曹兵衛たちに視線を移し、顔をネットリと見たまま話を続けた。

「・・・最近、あなた方ご自慢の12人衆であるイワクサ殿の姿は見ましたかな?・・・なんでも、霊界では神隠しも多発しているそうで・・・。」

 ナルキは集獄魂で自分の表情を隠して、最後に球の影から顔をヌルリと出しながら、笑う。


「・・・・・・お前っ・・・神隠しってっ・・・未区で・・・。」

 武城はナルキの答え合わせの問答にこみ上げてくる怒りを両拳に溜めに溜める。


「その中に、イワクサさんと未区の方々がいると?」

 曹兵衛も冷静な顔をしているが、内心怒りで震えている。だが、怒りに飲まれないように感情をコントロールしながらナルキにそう尋ねた。


「えぇえぇ~、あのくそじじい・・・あなた達と同じ様に私を怪しんで居りましてね・・・ほとほと邪魔でしたので、一人になったときにねぇ~。」

 ナルキは球を眺めながら、そう曹兵衛達にイワクサとの経緯を語る。


 ナルキのその話を聞かされて、1番琴線に触れたのは他でもないいぬ区の筆頭、12人衆の二刀流の侍ガカクだった。

「クッ!?」〔キィンッ〕

 ナルキが親友であったイワクサを手に掛けたと知ったガカクは刀を抜いて、ナルキに襲いかかろうと一歩前に出て構える。すると、




 〔ゴクンッ〕

「ッ?!」

 ナルキは突然、その集獄魂を口に含んで、あっさりと一飲みにした。その光景に曹兵衛達は驚愕する。




「・・・この日をどれだけ待ち望んだか・・・死神の目に怯えて、死んで尚、好きな事も出来ない縛られるこの滑稽でくだらない世界・・・今日、霊界という枠組が終わりを告げるんですよ・・・。」

 ナルキは集獄魂を飲み込むと身体をワナワナと振るわせていく。




 しかし、そこにいる者達にはそんなナルキの変貌が恐怖でしかなかった。霊体同士では、その霊力の強さを外見では測れない。が、そのナルキという人間の変貌が、その者が如何に自分達の人知を超える存在かを無情にも知らしめた。ナルキの身体は大きく膨張して、スッと元の形に収まるが、その肌は土色に変わり、口は大きく裂け、犬歯が異様に口から飛び出している。


「・・・ナルキという存在は今、滅消した・・・俺はヨルノ・・・妖怪ヨルノ。」

 ナルキだったその存在は、自身の事をヨルノと名乗り、自分が妖怪だと付け加える。



「ぐおおおおおおおおおおっ!」

 ナルキが変貌を遂げた後、それを合図とするように未区の他の面々も変貌していく。最早、姿を隠す必要がないからだった。



 さすがの曹兵衛も目の前のその光景に自然と後退せざるを得なかった。

「・・・・・・。」

 曹兵衛は無意識に口を開き、先ほどまで抱えた怒りなどは姿を消して、余りにも手に余るその存在に霊界トップの力を持つ曹兵衛ですら恐怖を感じてしまった。


「おいおい、さっきまでの威勢はどうした?」

 現状に完全に困惑してしまった曹兵衛達を見ながら、エンコウだった者が、その異様に裂けた口で笑い、そう尋ねる。


 その姿は最早人間とは言えない。真っ赤な肌に全身所々角が生え、その爪は真っ白に伸びて、容易に人を切り裂くとばかりに主張する。


 ガムを噛んでいた短髪の男も、姿が変貌して、水そのものが人間の形をしているようだった。ポニーテールの男は両腕が翼のようになって広がり、口が異様に伸びて、鳥のくちばしの様になり、両足も猛禽類の足のように変貌し、両脇からさらに左右合わせて4本の腕が伸びる。最後の一人は肌が木の肌のように変化し、足から伸びた数本の根がリングに食い込み、背中からは蛇のように根とも取れるようなものが無数に伸び出して、獲物を物色しているようにうねっている。




 霊界は、何者も排除する事無く受け入れる。悪霊ですら、霊界には入る事が出来る。しかし、悪しき者はその力を死神の結界により制限され、霊界ではその力を思う存分使う事はできない。だからこそ、悪霊や怨霊、悪しき妖怪は霊界に近付く事はなかった。だが、ナルキ達は平然とその存在を曹兵衛達に指し示し、揺るがぬ自信をその場に居た全ての人間に見せ付ける。それは、曹兵衛達にこの場には死神の加護はないという現実を突き付けるものでもあった。




 善朗はリングから離れた後方でそのナルキ達と曹兵衛達の様子をじっと見ていた。そして、その結果を垣間見て、大前を持つ左手に力を入れて、左手の親指でツバを触り、鞘からその刀身を抜こうとする。しかし、その表情は苦悶で曇り、下唇をかみ締めて、ワナワナと身体を震わせる。


 そんな善朗の左手をスッと両手で包み込む乃華。

「・・・善朗さん・・・。」

 乃華は涙を一杯溜めたその瞳でジッと善朗を見て、善朗のその思いを必死に共有しようとしていた。




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