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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第5幕 霊界武術大会編
115/171

私の目前で狂おしいほど、紙吹雪に包まれる馬がいる。私はその馬の走りに驚愕し、自分の紙を確認する・・・取れてるはずもない。

お手数でなければ、創作の励みになりますので

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 〔それでは、皆さん・・・お待たせしましたっ!これより、(うし)区VS(ひつじ)区の中堅戦を始めたいと思いますっ!〕

 リングアナが試合の開始を高らかに宣言する。


 〔ざわざわざわざわ〕

 会場は試合の進行と共に再び困惑の海に飲まれて、目の前に広がる光景を直視できないようだった。


「・・・どうなっているんだ・・・。」

 未区の筆頭である12人衆ノムラも、もれなくその一人だった。


 丑区は武城むじょうとら区と並ぶ戦闘集団で、たつ区の善朗のおかげで影は薄くなってしまったが、例年優勝候補として名を連ねるほどの区だった。かたや、ナルキ率いる未区は穏健な人間が多く、とても優勝争いに加わるほどの区ではなかった。しかし、先鋒、次鋒と立て続けに丑区は未区にあっさりと負けていた。あまりにもあっさり過ぎて、まるで大人と子供ぐらいの差があるように思えるほどだった。



 あり得ない。



 会場に居る未区の5人以外は全員そう思っていた。


 そして、試合をしているノムラ達、未区よりも現実を受け入れられなかったのは武城だった。

(どうなってやがんだ・・・番狂わせにも程があるぜっ。)

 武城は会場でもアリーナの最前席から寅区の仲間達と一緒に観戦していたのだが、余りにも受け入れられない目の前の光景に身を乗り出して、試合の現状を食い入るように見ていた。


 度々、お互いのウップン晴らしをかねて、寅区は丑区と交流試合を開くほどの仲。だからこそ、よりこの現実が受け入れられなかった。とても、最弱とも言われる未区にここまで圧倒される丑区の面々ではなかったからだ。


「・・・かっ、カシラ・・・これはいったい・・・。」

 武城の後ろで一緒に試合を見ていた部下が武城に目の前で起きている惨状の説明を求める。


「こっちが聞きてぇーよっ・・・あの連中はなんなんだっ・・・データはあるのかっ?!」

 武城が試合から目を離さずに周りにいた部下達に怒鳴る。


「・・・そっ、それが・・・俺たちも急いで調べたんですが・・・何処に隠れていたのか・・・全然わからねぇんですよ・・・。」

 一人の有能な部下が武城にそう現状を伝える。


(ナルキッ、てめぇ~~~・・・いったい何を企んでんだっ!)

 武城は掴んでいる会場の手すりを握りつぶさんばかりに握り締めて、リング挟んで反対側、丁度奥目に控えて、今もニヤニヤとしているナルキをにらみつけていた。




(くっくっくっくっ、全員呆然としてるじゃないか・・・いいねぇ~・・・最弱とバカにしてきた連中が口を開けて、バカ面並べてるのは気持ちがいいね。)

 ナルキはリングサイドで腕組みをしながら、こみ上げてくる笑いをかみ殺すのが精一杯で身体を震わせていた。


「くちゃくちゃくちゃ・・・つまんねぇ~連中だな・・・。」

 ナルキの隣に居る短髪の男がガムをかみながら、試合を見つつ不貞腐れている。


「・・・こんなもんかね・・・そろそろいいんじゃないの?」

 ガムを噛んでいる男の隣で、ナルキを見ながらそう言い放つのはポニーテールの男。



「まぁまぁ、待ってください・・・エンコウさんも楽しんでますし・・・皆さんにはこれから盛大に思う存分、暴れてもらいますので・・・これは余興と言う事で。」

 ナルキがニコニコし、そうポニーテールの男に身を低くしながら答える。



 ナルキは未区の筆頭という割には、他の4人に対して、異様に姿勢が低かった。どうみても、リーダーという立場にはないように思える。






「どうしたどうした・・・じゃんじゃんかかってこいよっ・・・優勝候補なんだろ?」

 リング中央で丑区の選手を相手に仁王立ちで向かい合っているベンパツで筋肉隆々の男がニヤニヤしながら、目の前の相手に向かって、そう挑発する。


「くそっ・・・調子に乗りやがってっ。」

 丑区の中堅の選手は片膝をつきながら、相手をにらみつける。


 さきほどから試合は先鋒次鋒戦と同じように一方的だった。ただ、未区の中堅の男は試合をじっくり楽しんでいるようで、諦めずに向かってくる丑区の選手を左手だけで払っては挑発するの繰り返しで、中央から一切動かずに相手をしていた。


「おいっ、エンコウッ!何してんだッ、さっさと終わらせろっ!」

 リング下のリングサイドからポニーテールの男が我慢出来ずにベンパツの男に名を叫んでそう言い放つ。


「あぁ~?・・・さっさと終わらせたのはお前たちだろ・・・俺も大概我慢してんだぜっ。」

 エンコウは横目でポニーテールの男の方を向いて、少しイライラする。


「よそ見をするとはッ!」

 〔ドガアアアアアアアンッ!〕

 丑区の中堅の選手が完全に試合から気をそらしたエンコウに腹を立てて、怒鳴りながらエンコウに殴りかかる。しかし、次の瞬間、エンコウにその攻撃をあっさりと交されて、頭を無造作につかまれて、そのままリングへと勢い良く叩きつけられた。丑区の中堅の選手はその攻撃で完全に意識が飛んでおり、ピクリとも動かなくなった。


「やかましいんだよ、雑魚がっ。」

 エンコウはリングにめり込ませた相手に吐き捨てるようにそう言葉を投げ、グリグリとさらにリングへと相手の頭を押し込めていく。


 〔・・・・・・あっ・・・あの・・・。〕

 リングアナが余りにも凄惨せいさんな現状に勇気を持って、対応をしようと声を出す。


「あぁ~~あっ・・・イレトッ!おめぇがグダグダ言うからやっちまったじゃねぇーかっ!」

 エンコウはそう言いながら、リングアナを完全に無視して、丑区の中堅の選手の頭を掴んだまま引きずりつつ、未区のリングサイドに返っていく。


 〔えっ?ええっ??〕

 エンコウのあまりの常軌を逸した行動に目を丸くするリングアナ。


「うあっ?・・・あぁっ・・・もう我慢できねぇ・・・ナルキ・・・おりゃ~、腹減ってんだよ・・・。」

 エンコウはそう言いながら、丑区の中堅の選手の頭を掴んだまま、その頭を自分の口へと近づけていく。




 〔ッ?!〕

 会場に居る未区5人以外の全ての人間がその光景に度肝を抜かれて、制止した。




 エンコウは丑区の中堅の選手の頭を口元に近づけると、煙のように吸い込み、人一人をあっという間に飲み込んでしまったのだった。


「あぁ~~あぁ~~・・・あのバカっ、やっちまいやがった・・・。」

 イレトと言われたポニーテールの男が唖然として、その光景を見ている。


「いいじゃねぇ~か・・・これで我慢しなくて良いんだよな?」

 ガムを噛んでいた男がニヤニヤして、リング上に上がっていく。


「・・・仕方ありませんね・・・早すぎますが、あなた方をこれ以上縛るのは私にはできそうもない・・・。」

 ナルキがつるつるの頭を掻きながら、苦笑いを浮かべ、短髪の男の後ろについていく。




「きさまああああああああああああああああっ!!!」

 会場全体を金縛りにした光景からいち早く怒りで解き放たれたのは他でもないノムラだった。ノムラは目の前で大事な仲間を奪ったエンコウに向かって突進していく。




「やめろっ、ノムラっ!!早まるなっ!」

「あっ、カシラっ!!」

 ノムラの暴走で居ても立っても居られなくなった武城が会場のアリーナ席からリングがある広場に飛び降りる。その光景に驚く部下達。


「俺を侮るな武城っ!お前は手を出すなっ・・・くらえっ!!」

 ノムラはエンコウと距離を適度に詰めると、自慢の弓矢を速射して2連撃放つ。


 しかし、結果は余りにも呆気なかった。

 〔ペシペシッ!〕

 エンコウはノムラの渾身の攻撃を虫を払うかのように容易に左手一本で振り払う。


「ッ?!」

 あまりに歴然としたノムラとエンコウの力の差に会場に居たつわもの達が目を丸くする。


「いいぜいいぜ、憎め憎め・・・ほらほらかかってこいよ・・・だが、気を引き締めろよ・・・捕まえたら、ノータイムで食ってやる。」

 エンコウは口を大きく割いて、白い歯を光らし、舌を左から右にゆっくりと動かし、ノムラを挑発する。



「山嵐ッ!」〔シュバババババババババババババッ〕



 ノムラは一切怯まずに次の攻撃をエンコウに放つ。ノムラから天に向かって速射された三本の矢が空中で無数の矢へと変化して、重力を無視して、高速でエンコウ目掛けて襲いかかる。が、


 〔ドガンッ!〕

「がっ、はっ。」

 〔ヒューーーーーーーーンッ、ドゴオオオオンンッ!〕

 無数の矢の雨を素早くノムラの方へと交したエンコウが大きな右ストレートをノムラのミゾオチ目掛けて打ち込む。ノムラは余りにも早く鋭い、そして、重いその一撃に意識を持っていかれつつ、物凄い速さでリングを囲む会場の壁へと叩きつけられた。


「てめええええええええええええええっ!!」

 ノムラがやられた事で、完全にプッツンしてしまった武城が猪のようにエンコウへと突っ込んでいく。


 リング上。否、未区の5人の周りには、最早秩序という概念そのものが崩壊していた。


 〔うわああああああああああああああああああああっ!〕

 〔キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!〕

 ノムラの惨状と武城の突撃に固まっていた会場の感情が爆発する。その武城とエンコウがこれから繰り広げる死合に熱狂する者共、同じ人間とは思えないエンコウの存在に恐怖して、我先に逃げようとする者達。まさに阿鼻叫喚が会場に溢れ返り、混沌がスタジアム全体を飲み込む。






「想定していた事態以上ですっ!・・・係員全員に会場にいる一般人の避難の先導をっ!12人衆には今すぐリングに集まるようにっ!」

 曹兵衛は混乱する会場を納めるべく、最善最速の行動をまず率先して取る。怪しんでいたナルキの動きに焦る事無く、まずは会場の秩序の回復。そして、リング上にいる得体の知れない化け物の対処。


 〔バリンッ!〕

「曹兵衛様ッ!」

 曹兵衛は最も早い現場への道筋に迷いなく飛び込む。曹兵衛の後方からは指示を受けた係員達が曹兵衛の余りにも驚くべき行動に思わず悲鳴のような叫び声を上げる。


 曹兵衛は会場の最上階に位置していたVIPルームのガラスを迷わず割り、そこからリング上へと飛び降りた。そして、


「ナルキイイイイイイイイッ!」

 大きな声で、首謀者であろう未区の同じ12人衆の仲間であった男の名を叫ぶ。


「・・・・・・。」

 曹兵衛から名を呼ばれたナルキは曹兵衛の方をニヤニヤした笑みを浮かべてただただ見ている。




(さぁ、来い12人衆っ・・・霊界の秩序の象徴・・・自由への人柱達よっ。)

 ナルキは曹兵衛に向ける笑みを大きな口を開いて、歯をむき出しにする。

 今まで、我慢していた全てを解き放つように。




 ナルキは自分が抑え切れなかった笑い声を大声で上げている事に気付きもしなかった。










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