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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第5幕 霊界武術大会編
113/171

私が馬券を買うのはなんのためか・・・私がレース予想をするのは何のためか・・・もちろん、おかn・・・ではなく、その費やした時間の達成感を得るためである。山登り云々

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 〔勝者っ、猪区ムカイーーーーーーーーーーーっ!!!!〕

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

「金太っ!!」

「金ちゃんっ!!」

「金太さんっ!」

 リングアナが猪区のムカイの勝利宣言を叫ぶと、大観衆がうねる中、秦右衛門と賢太、そして乃華がリング上で気を失っている金太の元へとかけよる。


「待ってくださいっ・・・すぐに回復させますから。」

 乃華は駆け寄ると金太の身体に触れて、何かをしようとする。


「・・・たっ、助かるよ乃華ちゃん・・・回復も出来るんだね・・・。」

 秦右衛門は乃華の隠された能力に驚いて、それと同時に感謝も告げる。


「・・・最近、色々考える事があったので・・・念のために学びました。」

 乃華は金太の治療をしながら秦右衛門にそう答える。


「姉ちゃん、美々子みたいやな・・・。」

 賢太は乃華の能力に素直に美々子の名を出す。


「・・・・・・正直言って、比較になりませんよ・・・あの子は天才です・・・でも、私でも出来る事はたくさんありますから。」

 乃華は賢太に美々子と比べられて、正直に客観的に自分を見て話す。



「・・・うぅっ・・・秦にぃ・・・。」

「金太っ!」

 乃華の治療が効いたのか、金太は意識を取り戻し、秦右衛門の名を口にする。秦右衛門はしっかりと金太の手を握って、涙を溜めた目で金太を見る。


「秦にぃ・・・すまん・・・善朗を・・・。」

「もういい・・・大丈夫だ・・・。」

 乃華がある程度治療をすると、秦右衛門は金太を肩に担ぎ、リングを降りようと歩く。その中で金太は涙を一筋流しながら謝罪する。




 〔えぇっ、只今、猪区の代表者から副将が棄権すると通達を受けましたっ・・・残念ではありますが、我々にはまだ試合が残されていますっ!よって、次の試合はいよいよ、みなさんお待ちかねの大将戦となりますっ!!!〕

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

「うわあああああああああああああああああああああっ!!!!!」

「・・・・・・。」

 リングアナが試合の行く末を何も知らずに気軽に告げる。会場の大観衆も自分達の娯楽を追い求めるだけで熱狂にうなされる。そんな中で、秦右衛門が青ざめた表情をリングの反対方向にいるゴウチに向けていた。乃華も賢太さえ、驚きを隠せず、呆然と猪区側の方を見て立ち尽くす。




「すまねぇ・・・すまねぇ・・・。」

 秦右衛門達が呆然と立ち尽くす中、金太はもう止められない涙を流しながら、何度何度も周りに対して謝る。


 金太の戦いは賢太とは別の意味で壮絶だった。

 明らかに両者の力量には差があった。

 それでも、金太は喰らいついて、その牙を相手に食い込ませて離そうとはしなかった。金太は冥のことをもちろん知っている。そのことで、どれほど善朗が打ちのめされているかも十分身にしみている。だからこそ、どんな相手だろうと負けるわけにはいかなかった。闘々丸のトラウマを払ってくれた自慢の弟分をこれ以上悲しませたくなかった。苦しめたくなかった。その思いで自分の限界以上の力を振り絞って、強者に立ち向かった。しかし、現実はいつも非情であり、無情。冷酷なまでに金太を叩きのめす。滅消しても構わないとまで思って戦ったが、圧倒的な差は覆せず、最後はムカイの一撃により、意識を刈り取られた。



「・・・・・・行って来ます。」

 リング脇で立ち止まっている秦右衛門達をすり抜けて、声を掛けたのは他でもない善朗だった。



「善朗君っ!・・・きっ、棄権しよう・・・無理して闘う必要はないよっ。大丈夫だっ、私達は負けたって構わないっ。」

 リング中央へ力なく向かう善朗に秦右衛門が空元気な声を上げて、善朗にそう提案する。


「・・・・・・大丈夫です。」

 善朗は乾いた微笑みだけを秦右衛門達に残して、歩みを更に進めた。






 〔さぁっ・・・皆様、大変長らくお待たせしましたっ・・・ここにいる少年善朗君はなんと、い組の悪霊をも滅消してしまうほどの実力の持ち主っ・・・対してまして、こちらに控えますは、ネオ大江戸12人衆を束ねる参謀、猪区にその人あり、ゴウチッ!!!〕

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」

 リングアナはこれでもかと、大会の見所である善朗を持ち上げて、会場を盛り上げる。踊らされる大観衆は熱に茹でられながら、それでもその熱を自ら高めていく。


「・・・・・・。」

 会場の異常な熱にも善朗は全く何も感じない。ただ、事が過ぎ去ることだけ受け入れていた。


 まったく気のない善朗を対面で見ているのはゴウチ。ゴウチは善朗から視線をリングアナに移す。

「・・・すまないが、早速始めてくれないか?」

 ゴウチは会場を盛り上げようと頑張っているリングアナに冷や水を掛けて、試合を始めるように促す。


 〔えっ?・・・あっ・・・はい・・・そっ、それではっ・・・。〕

 リングアナは自分の仕事を全うしようとしたが、ゴウチの視線に一刀両断にされて、観念する。



 〔みっ、皆さんっ!それでは、さっそく大将戦を始めたいと思いますっ!辰区善朗VS猪区ゴウチッ・・・始めッ!!!!〕

 〔うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!〕

 リングアナはゴウチに促されるままに、早速試合を開始する合図を叫び、ゴウチの視線から逃げるようにリングの中央から離れた。




 ゴウチはリングアナが自分達から十分距離を取った事を確認してから口を開く。

「・・・君は私に打ちのめして欲しくて、そこに立っているんだろ?」

「ッ?!」

 ゴウチは涼風の如き、穏やかに流れる口調で善朗にそう尋ねた。ゴウチの自分の心を見透かしたような言動に善朗はハッと正気に戻り、ゴウチを視界に捉える。




「・・・皆、私の事を侍だ、武士だというがね・・・私は侍や武士とは逝き方だと捉えている・・・私は自分を敢えて、武芸者といい、そう思っている・・・私の生きた時代はそう言う時代だ・・・何が言いたいか分かるかい?」

 ゴウチは自分と同じような大きさの木槌を担ぎ上げて、ジッと善朗を見る。


「・・・・・・。」

 善朗は泳ぐ目中でもゴウチを視界に捉える。最早、自分だけの世界には居られなかった。ゴウチから見られていると閉じこもっては居られない。ドアを閉じていたとしても、ゴウチは後ろからえぐる様に善朗の魂を掴みに来る事がその視線だけで理解できたからだった。


 善朗の戸惑いを感じながらもゴウチは話を続ける。

「武芸者といのは、武の求道者だ・・・私は家臣として、主に真に仕えた事はない・・・私はただただ戦場で強者を求め・・・そして、死に・・・ここにいる。」

 ゴウチはゆっくりとした口調だが、地の底からうねるマグマのような熱い熱を言葉に載せて善朗に迫る。


「悪霊連合の一件・・・私は事務処理を中心として、現場には行けなかったが、人伝でも君の事を耳にして、興奮を抑えられなかった・・・曹兵衛殿の元で、自分の立ち回りを疑問に思ったことはない・・・しかし、そんな冷めた現実を打ち壊す君の物語は実に心地よかった。」

 ゴウチはゆっくりと歩を進めて、善朗との距離を詰めていく。


「君の事情も良く知っている・・・冥という少女の安否が心配なんだろう?」

「っ?!」

 ゴウチの近付いてくる存在感よりも、善朗は冥という名に胸を抉られる。


「・・・私もそこまで愚鈍ではない・・・君を無理に戦わそうというほど、悪人でもない・・・ただ、私から提案がある。」

 ゴウチはいよいよ善朗との距離を息が掛かるほどの距離まで詰めて、善朗にそう話す。


「・・・・・・提案・・・ですか?」

 多少とはいえ、正気を取り戻した善朗がゆっくりな口調ではあるがゴウチにそう尋ね返す。


「私はこれから全力で君を狩りにいく・・・君は別に攻撃をしなくても構わない・・・ただ、逃げ回れば良い・・・それだけでいい・・・交わすだけなら、現世の冥という少女にも毛ほども影響はないよ・・・どうだい?」

 ゴウチは冷たい目を善朗に向けながらも、その柔らかな口調で善朗にそう提案した。




「ざわざわ・・・。」

 試合の開始の合図以降、一向に戦い合わないリング上の二人に会場がその異変に気付き、戸惑い出した。




 〔・・・あっ・・・あのぉ~~・・・お二人とも・・・・・・ヒッ?!〕

 会場のどよめきに圧されるようにリングアナが二人を促そうと声を掛けるが、ゴウチの視線一閃で黙るしかなかった。


「・・・どっ・・・どうなってるんですか?」

 静まり返る会場とリングを見回して乃華が秦右衛門に尋ねる。


「・・・さっ、さぁねぇ・・・ゴウチ殿は曹兵衛殿と並ぶ、知将だからね・・・僕もさっぱり・・・。」

 秦右衛門は乃華に尋ねられるも誤魔化さずに、そうはっきりと言いきった。


「・・・・・・。」

 秦右衛門と乃華が戸惑う中、賢太だけは善朗の中で高まる何かを感じていた。




「・・・準備は良いかい?・・・抑えられなかったら、全然攻撃してきても良いからね。」

「っ?!」

 空気は一瞬で変わった。ゴウチは最後にニコリと笑顔を善朗に送ると、次には猛獣が獲物を定めたように冷徹で、残忍な眼光でまず善朗を打ち抜いた。空気が変わった事を敏感に捉えた善朗は自然と体が動く。




 〔ドゴオオオオオンッ!!〕

 善朗の目鼻数cm傍まで迫るゴウチの大木槌。その巨体とその大きな殺戮兵器からは想像もつかない凄まじいスピードで振り下ろされる雷光。あまりのそのスピードに会場の99%は何が起こったのかを理解できなかった。


「・・・ワクワクするね。」

 大木槌を確かに善朗を一撃で潰す思いで振り下ろしたゴウチだったが、全く手応えのないその結果に舌なめずりをする。その猛獣の眼光は横目で善朗を捕らえて離さない。


 善朗は一瞬で、大木槌の落下点から数m離れた位置に移動して立っている。




 〔・・・うぅぅっ・・・うわああああああああああああああああああっ!!!!〕

 大地震の後に訪れる大津波のように会場から熱狂が吹き上がる。




 〔ダッ!〕

 ゴウチは善朗を視界に入れて、凄まじい速度でまた襲い掛かる。


「・・・・・・。」

 善朗はゴウチをジッと見て、左手を大前のツバに添えて、その時を待っていた。









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