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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第5幕 霊界武術大会編
110/171

私はいつも金曜日の昼ごろにそわそわしている。仕事も手につかず、君達の事ばかり考えている・・・そう、重賞の枠順発表があるから。

お手数でなければ、創作の励みになりますので

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(この重い空気・・・なんとかならないかなぁ~~・・・。)

 辰区区長であるタロさんは自分のデスクで身を出来る限り小さく小さくして、自分の仕事部屋のはずなのに、誰よりも存在感を隠すようにしていた。タロさんのその手には武闘大会実行委員会から配られた資料が開かれており、それでさらに身を隠している。


 ここは辰区区役所の区長室。

 そこには、もちろん区長のタロさんを始め、乃華とこの重苦しい雰囲気の中でもニコニコしている伊予、さらに秦右衛門と金太、賢太と太郎、そして善朗もいた。このメンツで異様な空気になっていたのは、その中に異物が紛れ込んでいるからだろう。その異物が口を開く。



「まぁまぁなメンバーですね・・・知ってます?ダントツの一番人気らしいですよ、私達・・・。」

 部屋の隅の壁に身体を預けて、もたれ掛っているその男がそう笑う。



「・・・・・・僕としては、君は辞退してくれるものばかり思っていたよ、ササツキさん。」

 秦右衛門はまったく別の虚空を見ながら、素っ気なくその男に言葉を投げ捨てる。


「・・・さん付けなんて、他人行事ですね・・・大会が終わるまでは死闘を一緒に潜り抜ける戦友ですよ?」

 ササツキが部屋の隅から移動して、秦右衛門達が座るソファに近付く。


「お前と戦友だと?ふざけるなよ・・・。」

 ソファに近付こうとしたササツキを遮るように道を塞いだのは金太。


 金太がササツキをせき止める後で、秦右衛門がササツキに視線を移す。

「・・・我々がお前に手を出さないのは、一番資格がある賢太君が何もしないからだと言う事をご理解頂きたい・・・ササツキさんっ。」

 秦右衛門はそういうとササツキに見せ付けるように笑顔を見せる。


「・・・心外だ・・・私が賢太君に何かしたみたいな言い草ですね。」

「ッ?!」

「待てや・・・。」

 ササツキの刺すようなその言葉に部屋の空気が一瞬に張りつめた。動こうとした金太達の事を察した賢太がいち早く一石を投じて、その場を濁す。



 賢太はササツキに静かに近付いていく。

「・・・俺は別にこいつの事なんて、もう気にしてへんよ・・・いや、嘘やな・・・めちゃくちゃドツキまわしたいっ・・・ただ、俺は今は佐乃道場の門下生や・・・そんな恥ずかしいことはでけへん・・・よろしゅうな・・・ササツキさんっ。」

 賢太は鋭く重い眼光でササツキを見て、ソッと右手を出す。



「いやはや、これはこれは大人な対応だね・・・ありがとう。」

 ササツキは道を塞ぐ金太を軽くどかして、賢太に近付き、差し出された賢太の右手に自分の右手を持っていく。しかし、


 ササツキが賢太の右手を握ろうとした瞬間、

「っ?!」

 ササツキの右手を掴む賢太の左手があった。その行動に思わず、驚くササツキ。


「すまんすまん・・・画鋲でも仕込んどるんかと思ったわ・・・握手握手。」

 賢太はササツキの掴んだ右手の手のひらを確認してから右手で改めて握手して、ササツキに笑顔を送る。


「・・・・・・。」

 ササツキは思うことはあれど、それを口にせず、堅い笑顔で賢太に応えた。



「・・・・・・。」

 周囲のそんな雰囲気など全く気にしていたい善朗。どこを見るわけでもなく、目線を下に向けてジッとしていた。


 善朗のそんな様子を見て、下唇をかみしている乃華。

「・・・・・・。」

 役所の職員として、場を取り持ちたい思いもあるも、それすら意識できないほど、善朗の存在が乃華の心をかき乱していた。


「あっ・・・お茶冷めてますよねぇ~~・・・乃華ちゃん、煎れ直さないとっ。」

 伊予はそう言うと、立ちすくんでいる乃華の腕を掴んで少々強引にその場から連れ出す。


「ちょっ、ちょっと伊予ちゃんっ。」

 突然の伊予の行動に目を丸くする乃華だったが、乃華の身体から重い何かが取り払われたように軽く動き、伊予に簡単に引っ張られていった。


(・・・善朗さん・・・。)

 部屋から出る際にさえ、乃華の目は善朗を追っていた。その間際ですら、善朗は一切動く事無く、石像のように部屋を彩っていた。






「・・・まったく、生きた心地がしませんでした・・・。」

 タロさんがネクタイとシャツの首もとのボタンを外して、開放感を享受きょうじゅしている。


「あははっ、なんでみんなあんなにしかめっ面だったんですかねぇ?」

 伊予は先ほどまで秦右衛門達が座っていたソファの前に置かれたテーブルの上に置いてある湯飲みを片付けながら、タロさんに笑顔を振りまく。


 秦右衛門達は大会に向けての方針を足早に話して、その場を早々に後にしていた。ササツキも特に何も口を挟む事もなく、足早な話し合いは早々に終わり、タロさんの区長室にはすでに乃華達しかいない。


「・・・・・・。」

 乃華は善朗に配られた全く手をつけられていない湯飲みを持って、ジッとしている。


「もうっ、乃華ちゃんっ!また、ボ~ッとして、善朗君に引っ張られてばっかりっ、伊予もちゃんといるのにっ。」

 伊予は片付けていた手を止めて、ボ~ッとしている乃華を怒鳴る。


「・・・ごっ、ごめんなさい・・・私、片付けてくるから・・・。」

 そういうと乃華は伊予が持ってきてたお盆に湯飲みをサッと集めて、部屋をそそくさと出て行こうとする。


「乃華ちゃんっ・・・何か善朗君の助けにならないか色々してるみたいだけど・・・気に病んでたら、肝心な時に身体が動かないよ?」

 乃華が部屋から姿を消そうとするその瞬間に、伊予は乃華にそう言葉を伝える。


「・・・うん・・・ありがとう、伊予ちゃん。」

 乃華は部屋を出る間際に伊予にそう言葉を残して姿を消した。




「・・・・・・えっ、乃華ちゃん・・・代表代理の仕事もあるのに?!」

 タロさんが乃華達のやりとりの中の言葉にハッとなり、気になったことを思わず口走る。


 タロさんのその何気ない一言にピリつく伊予。

「そうですよぉ~~・・・どこのどなたかが、怖がって乃華ちゃんに丸投げした仕事をきっちりこなしながら、何か出来ないかぁって、してるんですぅ~~。」

 伊予はタロさんの言葉に少し眉をひそめて、ゆっくりとタロさんの顔に自身の顔を近づけていく。


「・・・・・・あっ・・・あぁ~~・・・」

 タロさんは伊予の近付いてくる顔から遠ざかるように目線を外して、上体を伊予からゆっくりと遠ざけて、伊予という存在を視界から消そうと試みた。



 そんなタロさんと伊予のやりとりから目線をタロさんのデスクの上の紙に送ると、そこには大会のメンバー表があり、こう書かれている。


 決定事項


 先鋒 ササツキ

 次鋒 金太

 中堅 賢太

 副将 秦右衛門

 大将 善朗







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