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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第5幕 霊界武術大会編
108/171

さぁ、年に一度のお祭り有馬記念!集え、年度の優駿達・・・当たっても外れても泣いても笑っても・・・いや、当てて笑いたい

お手数でなければ、創作の励みになりますので

ブックマーク登録、いいね、評価等よろしくお願いします。

 



 ここはネオ大江戸庁の建物の一室。

 大きな会議室に、40名強の人々が集められていた。部屋には長机とパイプ椅子がセットでそこかしこに綺麗に置かれており、集められた人は事前に決められたその長机の席にきちんと座り、何かを待っているようだった。そんな人達の中に、見知った顔もある。秦右衛門と乃華もその中の二人だった。




「ごめんね、乃華ちゃん・・・つき合わせちゃって・・・。」

 乃華の隣に座っている秦右衛門が本当に申し訳なさそうに静かな笑顔で乃華に謝罪する。




「・・・あの現状を見たら、仕方ないですよ・・・むしろ、秦右衛門さんにはほんの少し同情しています。」

 乃華は机に事前に用意されていたプリントを読みながら秦右衛門にそう素っ気無く答える。


「あははっ・・・ありがたい言葉だね・・・今の僕には何よりもしみるよ・・・。」

 秦右衛門もいつもの軽い絡みは一切なく、元気なく苦笑いで返す。



「あれ~~?乃華ちゃん、いないと思ったら、なんでそこにいるの?」

 乃華が秦右衛門と話をしていると、そこに伊予がひょっこり現れて、当然のように乃華に話しかけた。



 乃華はプリントに向けていた目を伊予に移して、伊予の顔をにらみ込む。

「伊予ちゃんっ・・・あなたには、この前ちゃんと話したじゃないっ・・・辰区は今大変だから、代表代理になって管理官の仕事が出来なくなるから、伊代ちゃんに仕事任せるけどお願いねってっ!」

 乃華の口調は地の底よりも深く重々しく、伊予の胴内に重く響くような音を言葉に乗せて口から発した。


「えええええええっ・・・そっ、そうだったっけ?」

 伊予は当然のようにとぼけている。顔には大量の汗が突然流れ出す。どうやら、何かを思い出したようだった。


「貴方の大・好・き・な・デザートお腹一杯食べさせてあげたでしょっ・・・うんうんって頷いて、あなた、元気一杯『まかせてっ!』って、胸張ってたわよねっ?」

「あははははっ・・・乃華ちゃんこわ~~い・・・。」

 乃華は事前に厄介事を伊予に押し付けた代わりにデザートをご馳走した事を伊予に思い出させるようにゆっくりと強い口調で話し、ワナワナと身体を震わせ、怒りを抑えつつも、ゆら~っと立ち上がりながら伊予を更に睨む。すると、伊予は接待を受けた事を今の今まで完全に忘れていたことにバツを悪くして、汗を掻きながら目線を上の空の方に外していく。


 そんな焦る伊予に助け舟を出したのは秦右衛門だった。

「ごめんね、伊予ちゃん・・・君にも迷惑かけて・・・この埋め合わせはちゃんとするから。」

 怒りに身を震わせている乃華を抑えつつ、乃華と伊予の間に入り、秦右衛門が伊予に謝罪する。


「わっ、わぁ~~い、やった~~~・・・楽しみだなぁ~~・・・それじゃ、乃華ちゃん、こっちの仕事は私に任せてっ!乃華ちゃんは代理の仕事頑張ってねぇ~~・・・。」

 秦右衛門の助け舟に全力で乗った伊予は、そう言いながら素早く乃華から距離を取り、汗ダラダラの苦笑いを残して、颯爽さっそうと去って行った。


「もうっ・・・ホントに逃げ足だけは速いんだからっ。」

 乃華はドカッとパイプ椅子に座りなおして、腕組みをしながら、伊予の消えた方向を目線で追う。


「まぁまぁ・・・実際、負担を増やしても、ああやって仕事してもらってるんだから・・・お怒りは僕が全部引き受けるよっ。」

 秦右衛門は伊予をしっかりとフォローして、乃華の怒りをどうにか鎮めようとなだめる。



 そうこうしていると、伊予という嵐が去った後、機を計ったかのように曹兵衛が二人に近付いてきた。

「秦右衛門さん・・・お二人はその後どうですか?」

 曹兵衛は少し不安そうな顔をしながら、近付くなり秦右衛門に誰かの事を尋ねる。



「・・・・・・善朗君は相変わらず心ここにあらずです・・・大会には出てもらいますが、正直どうなるかは・・・。殿も同じで、あれから部屋から一切出てきておりません・・・入ることも禁じられておりますので・・・それ以上はなんとも・・・。」

 秦右衛門は曹兵衛に尋ねられた事を素直にそう話す。その顔は無理やり作った悲しい笑顔で覆われており、それが今の秦右衛門の精一杯だった。


 秦右衛門のその表情を見て、曹兵衛の不安の色は更に色濃くなる。

「そうですか・・・私にも大いに責任はあるのですが・・・菊の助さんがその状態だと、私までふさぎ込んではいられませんね・・・秦右衛門さんもずっと傍にいるのでしょう?貴方まで根を詰めて、潰れてしまっては一族を引っ張っていく事が出来ませんよ・・・辛いでしょうが、月並みに、頑張って下さいと言わせて下さい。」

 曹兵衛は素直に秦右衛門の現状を捉えて、自分の出来る限りの労いを言葉にした。実際、曹兵衛にはそれ以上は出来ず、何度も菊の助の元を尋ねたが、曹兵衛すら会う事は今日まで叶わなかった。




「・・・皆が皆、責任を感じているのはいい事ですが・・・私は貴方達の事を未だ許していません・・・大の大人が揃いも揃って、子供に全部背負わせるなんて・・・・・・。」

 乃華はプリントに再び目を落としていたが、そのプリントを持つ手は物凄い力で握りこまれて、手で掴んでいたプリントの端がクシャクシャになっていた。




「・・・・・・。」

 乃華の言葉に曹兵衛も秦右衛門も何も言えない。言える筈もなく、曹兵衛はバツが悪くなり、乃華と秦右衛門に深めに頭を下げて、その場から逃げるように姿を消した。


 そうこうしていると、会議室の丁度最奥に設置された特別に設けられた席に座っていたゴウチがおもむろに席を立ち、部屋全体に響き渡るように用意されていたマイクを使って、会場に集まった全員に向けて、挨拶をしだす。


「皆さん、大変お待たせしました。お忙しい中、武闘大会実行委員からの説明会に各区の代表者2名にご足労頂き、誠にありがとうございます・・・大会が滞りなく開催できますようにご協力を今年もお願いいたします。」

 ゴウチは手に持ったプリントの内容を丁寧に読みあげながら、会議の進行をしていく。


「・・・・・・。」

 先ほどまで、各々話していた各区の代表者達はゴウチの挨拶にサッと黙り、皆がゴウチの顔に注目を集めた。その慎ましい全体行動は、ここに集まっている関係者達が、いかに各区の代表者として相応しい人物達がちゃんと選ばれて、ここに集められていることを容易に表していた。



(ふぅ~・・・いつも思いますが、12人衆会合もこのぐらいスムーズだと助かるんですがね。)

 会場をぐるりと眺めながら、ゴウチが思わず過去を走馬灯のように思い出しながら愚痴を心の中で零した。


 ゴウチは続いて、大事な事項を淡々と用意されたプリントに沿って話し、会場を再度見合しながら、反応を見つつ話を続けていく。

「えぇっ・・・今回も日程は2日に分けて行われます。2日目は大神の御観覧も例年通り行われますので、一日目で敗退した区も閉会式まで気を抜くことのないようにご協力をお願いいたします。続きまして・・・。」

 ゴウチの言葉はマイクを通されて会場に響くものの、マイクが必要ないくらいに会場は静まり返っていた。






 ゴウチの説明が粛々と終わると、その後に曹兵衛の大会に対しての宣言が行われたのだが、心ここにあらずという淡々とした曹兵衛に会場が少しざわつきつつも、説明会は滞りなく終わった。


「乃華ちゃん、お疲れ様でした・・・この後は寄っていくかい?」

 秦右衛門はそそくさと帰り支度をしつつ、乃華の反応を見る。


「・・・はい、善朗さんのことも心配ですので・・・。」

 乃華は静かに秦右衛門にそう答えて、一切視線を合わせずに帰り支度を済ませている。



「乃華ちゃん、大丈夫?」

 元気の無い乃華の様子を見て、そう声を掛けたのは元看護師のサユミだった。



「あっ、サユミさん・・・ご無沙汰してます。」

 乃華は親切に声をかけてくれたサユミに丁寧に頭を下げて、にこりと笑って対応した。


「辰区は優勝候補の割りに元気が一番ないねっ。」

 サユミに続いて、輪に入ってきたのは生前クノイチだった天凪ユウ。


「はははっ・・・色々あったからね・・・。」

 ユウの無邪気な絡みに苦笑いで秦右衛門が答える。


「例の少年は大丈夫なんですか?・・・見かけた人たちは今にも消え入りそうだって、噂しておりますよ。」

 ユウの次に続くのは、生前花魁だったユウキ。


 気がつけば、秦右衛門達の周りには、続々と各区の代表者達が優勝候補の辰区の様子を一目見ようと集まってきていた。それもそのはず、善朗を始め、辰区から出てくる参加者達は、例年にはないほど強豪が集まっており、い組の蛇虻を倒した賢太の事も注目されていた。


「あららっ、随分と買いかぶられてますね・・・。」

 秦右衛門が周りの様子を見ながら頭をかく。


「・・・・・・。」

 秦右衛門の隣で、乃華がその周りの様子に何かを思って、静かに下唇を噛み、俯いている。


 乃華は本当に悔しかった。

 本当なら、善朗は大会初の最年少優勝を飾るほどの逸材。大会後には、善朗の事で、霊界に知らない人がいないぐらい盛り上がるはずだった。しかし、悪霊連合の件が片付くや否や、善朗には次から次へと災いが降りかかり、現在に至る。その中でも特に善朗を打ちのめしたのはもちろん冥の容態だ。今も、病室のベッドの上で昏睡状態のままであり、乃華を始め、多くの関係者がお見舞いに訪れていた。だが、善朗に関しては、一度きりの面会以降、空柾あきまさが善朗だけを出禁にしており、会えていない。そのかわりに、毎日、暇を見つけて乃華と佐乃が代わる代わるに冥の様子を見に行っていた。そこから、全てが始まり、責任を感じた菊の助は屋敷の部屋から一切姿を見せなくなり、大前も刀になったまま、人の姿としては最近大前を目にした者はいなかった。


(・・・あれだけ皆を助ける為に頑張ったのに・・・どうして、善朗さんがこんな目に・・・。)

 塞ぎ込む乃華は悔しくて悔しくて、ワナワナと身体を震わせて、我慢していた涙も堪えきれなくなっていた。


「乃華ちゃんっ?!」

 乃華の変化に猪の一番に反応したのはさすがのサユミ。


「すっ、すいません・・・目にゴミが・・・。」

「・・・・・・。」

 乃華は慌てて涙を流した事を誤魔化すが、その場にいた誰もが暗にそれを受け入れて、あえて触れなかった。


 乃華の変化で静寂が支配した会場。その場を切り抜けたのは秦右衛門。

「・・・・・・申し訳ない・・・我々は帰りますので・・・。」

 秦右衛門が乃華を守るように包み込み、集まっていた人ごみを掻き分けていく。


 周囲の人達はまだまだ辰区の事を探り足りないように、秦右衛門達を物欲しそうな目で見送るが、それ以上は流石に誰も追う事は出来なかった。










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